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Tactics ONE short story



輝く季節へ


清水なつき編

第5章

by 荒竹


演奏

1月のよく晴れた昼下がり、授業が終わるやいなや、浩平は学校を飛び出そうとしていた。
あわてて瑞佳がそれを阻止しようとする。
「浩平、掃除さぼったら駄目だよっ!」
「すまん、長森、今日はオレは掃除できないんだ」
「?どうして?」
「今日までお前には黙っていたが、オレは美男子星の王子だったんだ。もうすぐ星から俺を迎えに宇宙船・・」
「ふう、また馬鹿な話・・。分かってる。なつきちゃんの学校でしょ?」
瑞佳が「しょうがないな」という顔をする。
浩平も、一瞬「何故分かった?」と戸惑った表情をしたが、そのまま鞄を持って駆け出していった。

なつきの通っている女子校は、県内でも厳格な校風で有名である。そんな学校の校門に、決して上品とは言えない少年が誰かを待っている。
浩平は、少女達の好奇の目にさらされながら、なつきを待っていた。
待つこと15分、友達と3人で歩いて出てきたなつきが浩平を見つけた。
「浩平お兄ちゃん、今日も来てくれたんだ」
「ああ、帰るぞ、なつき」
(ええ!?なつきのカレシ?)(ちがうよ。お兄ちゃんて言ってた!)
なつきの友人達の興味本位な憶測を後目に、2人は早足で駅へ向かった。

演奏
駅前のレストランで昼食を採り、商店街を歩き回り、足が棒のようになったと感じたとき、あたりはすっかり赤く染まっていた。
「また本買ったのか。よくそんな難しい奴読む気になるよ」
「浩平お兄ちゃんは本読まないの?」
「漫画ならな・・。あ、今の漫画をなめるなよ、ストーリー、テーマも、下手な小説なんかよりずっと面白いんだ」
「ふーん・・。お部屋にある、Hな漫画も?」
「ぐあっ。どうしてそれを?長森の奴がちくったのか?」
浩平は、いつも散らかった自分の部屋をあきれてみている幼なじみのの顔を思い出した。 「くすっ。ひっかかった」
なつきはいたずらな笑みを浮かべていた。
「げ・・・。オレにかまかけたな!な・つ・き〜。こうしてやる!」
言うなり浩平はなつきにヘッドロックをかける。
「い、痛いよ、おにいちゃん!」
「何言ってるんだ、こんなヘッドロック、本物に比べたら大したことないって」
「でも痛いよぅ」
なつきが涙目で訴える。
「なったく、お前は前から泣き虫なんだから・・」
「前から?」
なつきはちょっと意外な顔をする。自分は浩平に泣き顔を見せた記憶はない。それに、浩平の声は、知り合った去年の12月よりもずっと遠くへ向けられているような気がした。
そして、一瞬。なつきは感じてしまった。浩平の眼が、夕焼けの空のもっと先へ向けられていたことに。
「もう帰ろう、みさお」
「!?・・」
初めて聞く名前。(誰?)なつきは思わす立ち止まる。
「・・?どうした、なつき」
名前を間違えたことに、浩平自身も全く気づいていないようだった。軽くかぶりを振って、なつきは慌てて浩平の後を追う。
「ああん、待ってよ!浩平お兄ちゃん!」



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