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Tactics ONE short story



輝く季節へ


清水なつき編

第7章

by 荒竹


演奏

2月14日。
「悪い、遅刻した?」
「ううん、私も今来たとこ」
おきまりの待ち合わせの言葉。浩平は、何故自分がこんなありきりのせりふを言わなければならなくなったか、思いだいていた。

(ねえ、浩平さん。明日、デートしない?)
(でえと?)
(うん、駅前の木馬像前に1時でどう?)
(どおって・・・)
(あ、でも、時間通りに来ちゃ駄目よ。ちゃんと遅れてきてね。じゃ!)
(お、おいなつき・・・。いっちまった)

遅れようと思っても出来るものではない。結局浩平は、「わざと」時間を遅らせて待ち合わせ場所に到着した。
「さて、これからどこ行く?なつき。お兄ちゃんは・・・」
浩平の言葉をなつきがさえぎる。
「浩平さん、最初のデートは、映画って昔から決まってるのよ」
「昔からって・・お、おい!」
まだ納得のいかない浩平の手を取って、なつきはすたすたと歩いていく。
(そういや、いつからこいつ、オレのこと「お兄ちゃん」って呼ばなくなったんだ?)

「なあ、なつき。オレはこういうのより、どっちかというとミニシアター系の方が好きなんだが」
「高校生2枚お願いしまーす!」
「聞いちゃいねえ・・・」
なつきが選んだのは、「アルマゲニック」。隕石の衝突で沈没(?)の危機にある豪華宇宙客船の中で生まれた、画家志望の青年とお金持ちのお嬢様の「愛の物語」だ。12週連続興行収入1位という超話題作だという。
とにかく長い。浩平は、いい加減退屈してきた。
ふととなりに目をやると、なつきはぼろぼろと涙をこぼしながら、真剣に画面に見入っていた。
(女の子って、こう言うのに弱いもんなのかねえ・・・)
映画の内容よりも、コロコロ変わるなつきの表情が面白くて、浩平はじっとなつきを見つめていた。

「よかったねー、あのラストシーン」
喫茶「kanon」で、カフェオレを待つ間、なつきはまだ潤んだ目を輝かせて、感動を言葉にしていた。
「ブルース・ウィリスが青年役というのは、今のメイク技術でも、強引だったと思うぞ」
「そんなことないわ!あれがいいんじゃない」
とりとめのない会話を続けながら、それにしても、なんて典型的な「デート」だ、と浩平は思う。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「あ、ちょっと待ってね」
なつきは自分の鞄から、ごそごそと何かを取り出す。
「はい、これ」
それは可愛い紙に包装された、10センチ角ほどの立方体であった。
「?オレの誕生日は3月だけど」
「もう、浩平さん!今日はバレンタインなのよ。だから、これは・・・。これは・・・・」
数秒間、有線のクラシックの音だけが二人の耳に認識された。
今日は、一日浩平が話す隙を与えないほど間断なくしゃべっていた、なつきの口が、初めて沈黙していた。
「バレンタインか・・・サンキュ、なつき」
(恐らく)チョコレートを受け取って、浩平は席を立ったため、なつきは先を続けるタイミングを失ってしまった。
「あ、浩平さん・・・」
そっと呟いて、なつきは浩平の後に続いた。

演奏
「澪が今度やる舞台を、なつきにも見に来て欲しいって言ってたぜ」
「ふ、ふーん・・・、澪、どんな役なの?」
帰り道。浩平と学校であった出来事を話しながらも、なつきの心は先ほどの話の続きにあった。
いつの間にか、なつきの家が目前に迫っていた。
(言わなきゃ)
「あ、あのね、こうへいさ・・」
「よう、七瀬、今日もストリートファイトか?」
浩平は偶然見つけたクラスメートに声を掛ける。なつきの2度目の挑戦もまた、空振りに終わった。
「誰がするか!そんなこと・・・って、何であんたみたいな見ず知らずの人に言われなきゃなんないのよ!」
言い捨てて、留美はすてすたと早足で去っていった。
なつきは、留美と直接の面識はない。
しかし、浩平の話から、「七瀬さん」と言う面白い転校生がいることは聞いていたし、何より浩平の呆然とした表情から、彼女が七瀬であり、何故か浩平を「知らない人」と言ったことは認識できた。
「そうか・・・」
浩平は、誰に語るともなく、何かを悟ったような表情で、呟いて、
「じゃあな、なつき」
小さく手を振って今来た道を戻っていった。ややうつむき加減で。
振り返ることのないその後ろ姿を、なつきはずっと見つめていた。



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