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Tactics ONE short story



Recollection


〜みさき〜

by 五穀豊穣



 緩やかな日差しと、桜のにおいの風が私に季節を教えてくれる。
 春。あれから・・・浩平君がいなくなってから1年が過ぎた。
 あの日、私は近所のおばさんに連れられて家に帰ってきた・・・らしい。お母さんはとてもびっくりしたと言うが、ほとんど思い出せないままだ。
 何でも、溶けたアイスクリームを手にしたまま、動かない私を心配したアイスクリーム売りのおじさんが困っているところへ、おばさんは通りかかってくれたそうだ。
 溶けたアイスクリームの、その冷たささえ思い出せないのが、おじさんやおばさんに申し訳ないけれど。
 数日後、当然のように両親に公園でのことを訊かれた。
 少しためらった後、浩平君とデートしていた事を話した。
 そのときによぎった胸を締め付ける想いは、お母さんによってかき消された。
 「・・・浩平君?いったい誰のこと?」
 「え?」(冗談・・・だよね?)
 「・・・みさき。父さんもそんな子の事は知らんぞ」(冗談だよね・・・浩平君?)
 目の前が真っ暗になった。ううん、ちがう。赤、青、緑、紫、灰色・・・そのどれでもない色が、頭の中で渦巻く。
 「・・・・・!!みさき?・・・みさき!?」両親の声に我にかえり、海鳴りみたいな胸騒ぎを憶えつつ、けんめいに口にした。
 クリスマスのこと、そして2枚目の年賀状のこと・・・。
 だけど・・・・・
 「面白い子ね、今度連れてらっしゃい。」嬉しそうに笑っていたお母さんも。
 「あー悪いけどな、みさき。父さんここんとこ忙しいんだ。これから先もしばらく忙しいんだ。だからまた今度にしてくれないか」
そういってなぜか慌てていたお父さんも。
 「やっぱり、聞いたことがないよ」二人して口をそろえた・・・・・。

 結局、わかったことは、浩平君の消息ではなく、誰からも忘れ去られてしまった、寂しい事実だけだった。


 夏。耳に鳴り響くセミの声。
 もしかしたら、二人で海へ行って、手を取りあって泳いだかもしれなかった季節。(浩平君・・・)

 
 秋。道を歩くと、落ち葉がかすかな音をたて、風が少し冷たい。
 きっと公園で二人して落ち葉で焼き芋を焼いて、小食の彼の分も、お芋を頬ばっていただろう季節。(ちゃんと、いたよね・・・)


 冬。乾いた風と、冷え切った空気が到来を告げる。
 「あけまして おめでとう」届いたはずの年賀状は一枚きりで、きっと間違ってないんだろうなと、少し残念に思う。(わたしは、おぼえているよ)

 過ぎてみれば早かったけど、色んな事があったんだよ、浩平君。
 ベランダで夕暮れの風を感じながら、1年分の回想をゆっくり閉じる。風邪を引かないうちに、部屋に戻らないといけないからね。
 明日はとっても大事な日だから・・・。
 私にとっては1年ぶりの、なにより君の卒業式だからね、浩平君。




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