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Tactics ONE short story



X’mas


〜待つ時〜

by 五穀豊穣



 「分かった。すぐに戻ってくるから」浩平君はそう言い残し、慌ただしく教室を出ていった。
 扉の閉まる音が少しのあいだ耳に残り、そしてまた静かになった・・・。
 私は再び、窓際へと歩み寄った。少しだけ、窓を開ける。とたんに冷たい空気が顔をたたく。
 ゆっくり、ゆっくりと息を吸い込む。冷たい空気がなぜか熱くて、でも怖くはなかった。おかしいね、と自分で思う。
 ・・・さっきまでは怖かったのに、窓を開けることが。街中が賑やかな中、私は一人で。もし窓を開けると、冷たい風にさらわれるんじゃないかって、そんな気がしてとても怖かった。
 でも、今は・・・。
 もう一度ゆっくりと、外の風を私は吸った。

 ちょっと、遅いね。でも浩平君、頑張ってくれてるんだろうな、と楽しみに待つ。
 クリスマス・・・毎年来るのに、ちょっぴり懐かしくて、どこか新鮮な気がした。
 子供の頃は、お父さんとお母さん、それに雪ちゃんが混じって賑やかだった。
 お父さんがケーキを切ると、ちょっといびつな形になって、雪ちゃんと二人で大きいケーキの取り合いをする。そしてお母さんが、軽く私をたしなめる。少しして、どこかすまなそうな雪ちゃんが、「メリークリスマス」と描かれたチョコレートを半分譲ってくれる。そして私は、チェリーをひとつ雪ちゃんに渡す・・・。
 その雪ちゃんは、演劇部のみんなと商店街へと遊びに行っている。私も誘われたけど、どうしても頷けなかっ
た・・・。
 外にはたくさんの物がある。大きな本屋さんに行けば、学校には無い本があり、おいしい食べ物が売られた店もある。だけど良いことばかりじゃなくて、車が走っていれば、よそ見をして歩く人もいると思う。だから、私は外へ未だ踏み出せずにいて、クリスマスの日は寂しいだけだった。
 今は、寂しくない。家ではお母さんがごちそうを作って、私とお父さんの帰りを待っている。このまま遅くなると、きっと心配するだろう。だけど今家に帰れば、浩平君と入れ違いになるかもしれなくて・・・。
 「ごめんね、お母さん」どうしてもこのクリスマスをすごしたくて、私は小さくつぶやいた。
 きっと、私は・・・

 こうして待っていると、子供の頃好きだったドラマを思い出す・・・。
 主役の男の人はよく恋人を待たせ、けれど女の人は笑ってお決まりの台詞を言っていた。
 あの女の人は少し手間のかかる髪型をしていて、私はそれに憧れていた。
 確か、こうだったと自分の髪をつかんだ。
 両肩の一房ずつを後ろで束ね、リボンでとめていたと思う。
 いつか、してみたいなと思っていると足音が聞こえた。
 急いでいるとすぐ分かる、けんめいな足音。
 ガラリと扉が開く。その勢いに驚きつつ確認する。
 「・・・浩平・・・君?」
 「わるい、遅くなった」ハァハァと息を切らす声が、なぜか嬉しくて思わず口にした。

 「いいよ、私も今来たところだから」


 ・・・今夜はクリスマス。一緒にすごせるその人は、とても、とても暖かかった。





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