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Tactics ONE short story



後日譚


〜里村 茜〜

by keita



いつもと同じつまらない授業も終わった。ほとんど寝てたから別に関係ないか。
これから放課後が始まる。さて、どうするかな…そんな事を考えて
ふと廊下側を見やると見知った人影一つ…
いつもと同じようにカバンを抱えて、いつもと同じように教室を出ようとしてる。
「おーい、茜っ。」
俺はその人影を呼び止めた。
「…………」
茜は目線だけで一瞬こちらを見るとそのまま教室を出てしまった。
あれ? 何で? 俺、なにかしたっけか? いやいや、少なくともここ最近は特に
茜の機嫌を損ねるようなことはしてない筈だ。
こころ当たりが無ければ直接聞いた方が早い。そう思った俺は茜の後を追って教室を出た。
 
「おーいっ、茜ってば。」
やっと茜に追いついたのは校門を出てからの事だった。
「…………」
返事すらしてくれない。これはマズイ…本格的に俺何かやったか…?
うーん、思い付かない…とりあえず茜の後ろを歩きながら考えたが…ほんとに思い付かないぞ…
「…………」
そんな俺をいいかげん見るに見かねたのか、茜がふと立ち止まってこちらに振り向く。
「えーと、茜? 俺、なにかしたっけか?」
「…ほんとに忘れてるんですね。」
「忘れてる…? あっ!」
「…昨日、約束しましたよね。」
思い出した…そーいえば昨日…
「恥ずかしいから学校では、名前で呼ばないでって言いましたよね。」
「あ、うん。」
「呼んでも返事しないって言いましたよね。」
「うん…」
「だから、返事しませんでした。」
「えーと、茜…じゃなくて里村、怒ってる?」
「…もう、いいです。」
「…?」
「もう、学校を出ましたから。茜でいいです。」
「えーと、じゃ茜。怒ってる?」
「いいえ、別に怒ってません。 それよりこれから何か用事はありますか?」
「え? 別に無いけど。」
「いっしょに山葉堂へ行きませんか?」
「ん、何かあるの?」
「…新作ワッフルです。」
「新作ワッフル…ちなみにどんなの?」
「前回の、砂糖がけハチミツ練乳ワッフルは覚えてますか?」
「…うん。(あの…食べ物? ってやつだよな。)」
「はい。今回はあのワッフルの改良板です。」
「…改良板?」
「今回のワッフルは生地自体を砂糖漬けにします。」
「…………」
「そのワッフルに砂糖をまぶして、ハチミツ及び練乳に…どうしました?」
「…ん、いや。(想像しただけで…虫歯になりそう…)」
「新作ワッフル食べたいです。」
「それで今から行こう、と。」
「はい。」
「よし、じゃ行こう。」
「はい。」
 
山葉堂へやって来た。
さすがに人が並んでいる。 自分も買いに来てなんだが、あの想像しただけで
虫歯が疼きそうなワッフルをこれだけの人が買いに来てるのか…解らん。
とりあえず並ばなきゃ始まるものも始まらない。…20分ほど並んでやっと買うことが出来た。
歩きながら食べるのもアレなんで、道に迷ったときに偶然発見したあの公園で食べることにした。
 
 
「それにしてもほんとにこのワッフル食べるの?」
思わず聞いてしまった。だってこれはワッフルじゃ無いもの。
俺の知ってるワッフルは少なくても表面は茶色の生地が見える。
見えないじゃん、このワッフル。 表面が砂糖&ハチミツ&練乳で…真っ白。
「おいしそうです。」
やっぱり解らん…
「食べないんですか?」
「ん、俺はこっちの方。」
自分用にあくまで普通のプレーンワッフルだ。
「…ずるいです。」
「は?」
「私もそっち食べたいです。」
「だって新作ワッフル食べたいって…」
「そっちも食べたいです。」
「一個しかないし…」
「半分こにしませんか?」
「半分…」
そのワッフル(?)を半分食べろ、と…?
「ダメですか?」
「いや、まぁいいけど…」
あきらめて覚悟を決めるか…
「食べないんですか?」
「あ、うん、食べる。」
うわぁ、甘い…なんてもんじゃない。 角砂糖を口いっぱいに食べてるみたい…
しばらくこの物体を片づけるのに専念した。
 
さて、なんとかその物体を片づけたところで、前々から気にはなってたのだが
聞きづらいことを茜に聞いてみることにした。
 
「なぁ、茜…」
「なんですか?」
「えーと、前々から聞こうかどうしようか迷ったんだが…」
「だから、なんですか?」
「その…茜が前に言ってた幼なじみってどんなやつだったんだ?」
「…………」
黙り込んでしまった。やっぱりこの話題はマズかったか…?
「気になりますか…?」
「うん…全然気にならないなんて言えば嘘になるな…」
「そうですか…」
また、黙り込んでしまった…
ただ静かに時間だけが流れていく…
 
しばしの時間が流れ、ゆっくりと茜が口を開く…
「彼は…」
「あ、茜っ。」
「はい。」
「やっぱりいい。」
「…………」
「さっきの質問は忘れてくれ。」
「…どうしたんですか?」
「いや、別に理由は無い。」
…大ウソだ。ただ俺は恐くなっただけだ。 俺がそいつに似ていたから好きになった…
解ってる、茜はそんなこと言うやつじゃ無いってことはよく解ってる。
でも…それでも聞いてしまう。最低だな、俺って…
「…私は別にかまいませんよ…」
「………・・」
「…私には、今…浩平がいるから…」
いつまでも…過去に拘ってるのは俺だけだった…かな。
 
「もう、帰りましょうか。」
「うん、帰ろう。」
そう言って立ち上がった俺のとなりに茜が来て…
「手…繋いでもいいですか…?」
「え、あ、前に恥ずかしいから嫌だって…」
「もう…恥ずかしくありません。」
そう言って俺の手を握ってくれた…
 
今は…何も考えないでいい。
ただ、俺のとなりに茜がいて。
茜のとなりに俺がいて…それで充分じゃないか。
茜と一緒に帰りながら俺はそんな簡単なことに、今やっと気がついた…
茜に教えてもらったんだ…



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