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Tactics ONE short story



後日譚


〜川名みさき〜

by keita



今日は日曜日、めずらしく早く目が覚めた。
叔母さんもまだ起きてないようだ。 日曜日だもんな…
おや? いつものテーブルの上に…回覧板。
ふーん、こんなのあったんだ。どれどれ…
 
〜町内の催し物〜
『食欲の秋杯 町内大食い大会!!』
 
へー、こんなのやるんだ。まぁ、特に関係ないな、と思った。
ちなみに優勝商品は…?
…それを見た俺は俄然やる気が出てきた。 関係大ありだ。
これをみさき先輩にプレゼントすれば…いい。 絶対喜んでくれる筈だ。
よし、場所は…商店街のイベント会場? ただの広場だろ。
時間は…2時から。 よし、朝・昼メシ抜きだな。
 
空きっ腹を抱えて、1時半頃会場に行ってみると見知った人影がある…
「あれ? みさきせんぱ…」
呼びかけようとしてマズイことに気がついた。
みさき先輩がこれに出場したら…俺の優勝は無理だ。
あの食堂での見事な食べっぷりを胸やけとともに思い出す…
あぁ〜呼ぶ前に気づけよ。自分。
先輩がこっちに向かってくる。
 
「あれ? 浩平君だよね?」
「こんにちは、みさき先輩。」
「もう学校卒業して先輩じゃないけどね。」
「うん、でも呼びやすいから。」
「うん、こんにちは浩平君。」
「で、みさき先輩ここへは何しに?」
「え? えっと、おさんぽしてたら人がたくさんいるから声がするから何かな〜、と思って。
ねぇ、浩平君? ここで何かあるの?」
やっぱり聞かれるよな。どうしよう…って教えるしかないか。
「あのね、今からここで大食い大会があるんだ。」
「え? もしかして、食べ放題?」
「うん…やっぱり先輩も出たい?」
「うんっ! 食べるの好きだから…浩平君も出るの?」
「うん、そのつもりだけど…」
「久しぶりに勝負だねっ!」
「…受付してきてあげるよ。」
「うんっ!」
あぁ、やっぱりこうなるか…俺が先輩に勝てるのか…?
こっちが有利な点…朝・昼メシ抜いてるって事だけか…
 
「先輩、朝ご飯何食べた?」
「え? え〜と、昨日の残りのカレーライスを4回おかわりして…」
「うんうん。(…4回おかわりってことは5杯は食べてるよな。)」
「あと、パンとかいろいろ。」
「うん、じゃお昼は?」
「お昼は…やっぱり残ってたカレーライスを食べて…」
「…カレー好きなんだね。」
「うん、でもお昼はカツをのっけてカツカレーだよ。 とってもおいしかったから5回もおかわりして…」
「(…カツカレー6杯…)」
「あと、さんぽ行くからって、菓子パン持ってきたんだけど来る途中で全部食べちゃったっ。」
もしかして勝てるかも…? しかしそれだけの量がどこに入るのやら…
「浩平君? いるよね?」
「あ、うん、いるいる。 ごめん、ちょっと考え事してた。」
 
〜大食い大会のエントリーの方々は会場中央のテーブルまで御集まりください。
〜くりかえします…
 
「あ、準備できたみたいだ。行こうか。」
「うん、行こ。」
 
さて、テーブルについて何が出てくるかと思えば…カレー…か。
まぁ、たしかに町内規模の大会じゃこれぐらいが妥当なとこだろう。
しかし、さっきの先輩の話しを思い出すと…ウッ…ダメだ、ダメだ。思い出さないようにしよう。
ん、でも考えようによっては良いかもしれない。先輩昨日からカレーばっかり食べ続けてる筈だ。
もういいかげん飽きてるだろう。 いや、そう願う。
隣りの先輩を見てみると…全然いやそうじゃない。
うーん、いや、でももう今日はカレーばっかり11杯に菓子パンも食べてるんだ。
いくらなんでも…な。
 
〜それではこれから『食欲の秋杯 町内大食い大会』を初めま〜す。
カレーを食べた枚数で勝敗を決めます。では、スタート!!
 
…パクパクパクパク…
うん、やっぱり朝・昼抜いたおかげでうまい。
味わってる場合じゃないな先輩すごいぞ…
あれだけ食べてまだ入るの…?
ご飯抜いてきてよかった。まだ余裕だ。
 
…パクパクパクパク…
うーん、量はともかくとして、さすがに同じカレー4杯目にもなるとさすがに飽きてくるなぁ…
それにしても、さっきからペース変わんないね。 先輩…
 
…パクパクパクパク…
6杯目か。もう当分カレー関係の物は見たくも無いな…
 
…パクパクパクパク…
お、いつのまにか俺と先輩の勝負になってる。
けど…もうそろそろ限界だ…
 
…パクパクパクパク…
8杯目…もうダメ…ギブアップ。
 
〜ついに決着がつきました。 えーと? お名前は? はいはい。優勝は『川名みさき』さんでーす!
拍手をどーぞー
…パチパチパチパチ…
〜はい、ありがとうございました〜 それでは優勝者の川名さん? コメントをどうぞー!
 
「え、あ、えっと、もう終わりなの…?」
〜はーい、カレー10杯以上食べてこの余裕。 さすがですねー というわけで優勝者のコメントでしたー
それではこれから賞品授与でーす…
 
「先輩すごすぎ…どこにそんなに入るんだよ…」
先輩のコメントを聞いて、心の底からそう思った…
 
すべてが終わって先輩と家までいっしょに帰ることにした。
「浩平君。大丈夫?」
「いや…もう喉までカレーが詰まってる感じ…」
「そうなの? 私、もうちょっと食べたかったかなぁ〜。」
「…そう…」
「あ、それで、浩平君。 これなんなの?」
そう言って先輩は貰った賞品を差し出した。
「うん、それ図書券。」
「図書券? 浩平君、図書券が欲しかったの?」
「…えっと、みさき先輩にさプレゼントしたかったんだよね。」
「図書券を?」
「ううん、点字の本をさプレゼントしたかったんだけど、あーゆうのって結構するんだね。
それで、その図書券で買おっかなと思ってさ…」
「…私に…?」
「うん、でも先輩がその図書券で自分で買っても同じ事だからまぁ、いいんだけどね…」
「…浩平君、全然違うよ。自分で買うのと、浩平君がプレゼントしてくれるのとじゃ全然違うよっ。」
「そう…かな。」
「うん。あ、そうだ。 さっきの勝負は私が勝ったんだよね。」
「え? あ、大食いのことね。」
「うん、じゃ、一つお願い聞いてくれる?」
「うん、いいよ。」
「じゃあね、はいっ、この図書券、浩平君にあげるっ。」
「え? なにそれ…?」
「うん、それで、こんどの休みの日にね、いっしょに本を探しに行こうよ。」
「いっしょに…?」
「そう、いっしょに。それで買った本を、浩平君が私にプレゼントしてねっ。」
「えっと、それでいいの?」
「うんっ。 自分で買うより浩平君がプレゼントしてくれた方がもっともっと、うれしいよっ。」
 
 
いつもの時間、いつもの通学路、いつもは学校に行く道なんだけど今日は違う。
そう、今日は前に約束した日、先輩と本を探しに行く日。
あ、先輩が家の前にもう出てる。
「おーい、みさきせんぱーい。」
「あ、浩平くーん…」
 
何でもない時、何でもない時間、いつもと変わらない日々…
失ってみて初めて解る変わらない日々のありがたさ。
それでも気分の持ち方だけで、いつもと同じと思っていた場所がちょっと違って見える。
いつも同じ、なんて事は無いのかな。
先輩といるだけで、もういつもの日々とは違うからな…
そんな事を考えた俺は? 先輩は?
いつもと変わらないよな…別に。
いつまでも、いつまでも、このままで…だよな…?
また前のように俺の居場所が無くなる…なんてことは…
そこまで考えたとき、突然先輩が俺の服を掴んできた。
 
「みさき先輩…? どうしたの…?」
「…うん。浩平君は、ここにいるよね…」
…俺は何を考えていたのだろう。今はただ、自分の出来ることをしよう…
「ねぇ、みさき先輩。 手、繋いでいいかな。」
「うんっ。」
少なくとも先輩の隣りには俺の居場所がある。
いや、あって欲しい。なによりそれを望んでいる自分が居るのだから…
そう思ったとき、もうあの『永遠の世界』が僕に訪れる事は無いと確信できた…



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