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Tactics ONE short story



後日譚


〜上月 澪〜

by keita



今日は日曜日だ…
 
…ジリリリリリリリリ…
 
なぜ目覚し時計が鳴っているのだろう…?
休みだぞ、休み。平日でも時間通りに起きない俺が
なぜ休日に目覚しなんてかけて時間通りに起きなきゃならんのだ?
寝ぼけた頭のまま手探りで目覚し時計を止める。
ふう、静かになった。
これでまたゆっくりと眠れる…
今日は学校休みなんだよな…
学校休みなんだ…
休み…?
 
…ガバッ…
 
布団が音を立てて跳ね落ちる。俺が飛び起きたからだ。
なんか忘れてる気がする。…なんだっけ?
普通目覚しなんて役に立たないからかけてない。けれどわざわざ休日にそんな事をしている訳だから
それなりに重要な用事だったような…なんだろう…?
まだはっきりしない頭のままで、とりあえず部屋のカーテンを開ける。
 
…シャッ…
 
カーテンを開く音と共に眩しい光が差し込んでくる。
あぁ、今日もいい天気だ。
そんなことを考えながらふと部屋の中を見渡すと、壁に掛かったカレンダーが目に止まる・・・
今日の日付に赤丸付いてる…?
『澪と遊びに行く日』と書いてある。
…そうか、今日は澪と約束してたんだ。
なるほど、だから目覚し時計かけてちゃんと時間通り起きようとしてた訳だ。
偉いぞ、俺。
 
…ん…?
 
…ちょっと待てっ! むちゃくちゃ大事な用事じゃないかっ! えーっと、うん目覚し止めてからまだ
そんなに時間立ってないぞ。これなら急げば間に合う。 さっさと準備して行くぞっ。
 
待ち合わせの場所はいつもの公園。
いつもの道を行きながら俺は、昨日の学校での事を思い出していた…
 
それは放課後の事。
俺はいっしょに帰るために澪を待っていた。
さすがに下の学年のクラスで待っているのはちょっと…と思った俺はとりあえず靴箱の前で待っていた。
待ってる時間って長く感じられるんだよな、早く来ないかな…?と思っていたら、
 
…ぎゅっ…
 
後ろからいきなり抱き付かれた。
しがみついてくる小さな手。そのまま連れて行けそうなちっこい体。
まぁ、それ以前にこんなことするのは1人しかいない…か。
俺は振り返りながら話し掛ける。
 
「なぁ澪、背中好きか?」
うんうん、ってうなずいてる。
「そうか、とりあえず帰るぞ。」
パッと手を離して、トテトテッ、て感じに歩きながら隣りに並んでくる。
学校を出て帰り道を歩いていると、今度は俺の腕を掴んでこっちをニコニコ笑いながら見てる。
「…そうだな、背中よりは腕の方がいいぞ。」
うんうん、ってうなずいた後ほんとに楽しそうに笑ってる。
そういえばいつも澪は楽しそうに笑ってるな。 なにがそんなに楽しいんだろ…?
「なぁ、澪?」
うんっ? とこっちを覗き込んでくる。
「なにがそんなに楽しいんだ?」
ちょっと立ち止まって、いつものスケッチブックを開いて何か書いてる。
んっ、て感じで書き終えたのを俺に見せる。
『いっしょにいるからなの』
「…俺とか?」
うんうんっ。
「そうか、そりゃ良かった。」
澪の頭をポンポンと撫でてやる。
お、なんだか、ふにゃぁ〜、って感じになってるぞ。 喜んでるみたいだな。
良かった良かった。 ん? またなんか書いてるぞ…
『明日学校休みなの。いつも何してるの?』
「そうだなぁ…うーん、休日はまぁ、だいたい昼過ぎまで寝てて…」
うんうんっ。
「だらだらテレビ見たりとかCDを聞いてて疲れたら寝る。」
 
…はふぅ…
 
澪が、ため息と共に肩を落とした。
…あまりにもだらけすぎだったか…?
「ま、まぁ、いつもこんなんじゃないぞ。たまには外へ出たり…」
『なにかするの』
「…なにかするって? どこか行くってことか?」
うんうんっ。
「…要するに澪は俺とどっか行きたい、と。」
うんうんっ♪
「…それってデートか?」
…澪は下を向いてうつむいてしまった。
「デート?」
…少しだけ俺を見て、またすぐ恥ずかしそうにうつむいてしまう。
ちょっとだけ見えた顔は真っ赤になってる。そのままスケッチブックに何か書いてる。
『もういいの』
…これ以上やったら泣きそうだな。可哀相だからもうやめよう。
「冗談だよ、澪。 じゃ明日はどっか行くとするか。」
今泣きそうになってたのが嘘みたいにパァッ、って感じで澪の顔に笑顔が広がる。
そして、うんうんっ、とうなずきながらうれしそうに俺の腕にしがみついてくる…
「ほんとに楽しそうだな、澪。 そんなにうれしいか?」
うんうんっ。
「そっか、良かったな。じゃ明日を楽しみにしてろな。」
うんっ♪
「じゃ、明日あの公園でな。」
分かれ道で手を振る澪。どんどん小さくなって、見えなくなるまで手を振ってた。
…それを見送って俺も家に帰った。
 
…って昨日約束したんだよな。
さて、ここで待ち合わせの筈なんだが…時間はギリギリ間に合ったな。
まだ澪来てないのか…?
そんなこと考えてボーっと空なんて眺めてると…
 
「ぐわぁ。」
いきなりしがみつかれた。
「なんだよ、澪。来てたのか?」
背中にいきなり澪が抱き着いてきた。
「そのわりには姿が見えなかったが…」
澪は、ぱっ、と手を離して、チョコチョコ後ろの草むらに歩いていく。
「…なるほど。」
見れば澪の頭や肩なんかに葉っぱや木の枝とかがくっついてる。
「ふーん、そこに隠れてた訳ね。」
うんうんっ。 うなずいた後…じーっとこっち見てる…
…やっぱり感想ぐらい言ってやらなきゃな。
「ちょっと、びっくりしたかな。」
うんっ♪
「ちょっと澪。 こっち来て。」
なぁに? という感じでちょっとこっちを見た後言われた通りに俺の前に来る。
「隠れてるのはいいが…葉っぱとかがつきっぱなしだぞ。」
そう言って頭なんかを払ってやる。
 
…むぎゅ…
 
「…なんだよ澪。」
今度は前から抱き着いて来た。
『やさしいの』
「そ、そうか?」
うんうんっ。
…澪は感情をストレートに伝えて来てくれるからな…こっちが照れちゃうぞ。
「さ、取れた。」
うんっ♪
…まだなにか言う事があるらしくスケッチブックを開きかけた澪。
「みお、澪。もういいぞ。まぁ気にするな。そんなに書いてばっかりだと疲れるだろ?」
…書きかけた手を止めて、俺をじっと見る澪。 ちょっと考えて…また、手を動かした。
『つかれないの。たくさん話す事あるの。でも…後にとっとくの』
「そうそう、まだ今日は始まったばかりなんだからな…じゃそろそろどこか行くとするか。」
 
俺と澪はとりあえず商店街へ出る事にした。
ここならいろいろ見て廻れるからだ。
でも、特に目的も無く歩いてるのもな…少しはなにか考えてくれば良かったかな。
そんな事を考えながら、2人でしばらく歩いていると、
澪が袖をクイクイッと引っ張って来た。
「ん? なんだ?」
立ち止まったのは…本屋の前。
本屋を指差しながらまだ俺の袖を引っ張ってる。
「なんか欲しい本でもあるのか?」
ふるふるっ、と首を振る。 …違うのか。
『たくさん話したから、もうスケッチブックがないの』
そう言って澪が見せたページは、確かにもう無くなりそうだ。
…さっきはあんな事言ったけど、やっぱりいっしょにいると話したい事がたくさんある。
学年が違えば学校ではそんなに逢えないからな…昼休みの昼食時間くらいか…?
だから、逢える時にたくさん話してしまう。
もっと澪のことを知りたいから…もっと俺の事も知って欲しいから…
…電話じゃ話せない。 澪が口をきけないから電話で話さないんじゃない。
澪は身振りや仕草や…とにかく小さな体全部を使って俺に話し掛けて来てくれる。
もっともっと自分を知って欲しい、って一生懸命に話し掛けてきてくれる…
だから俺もそれに応えたい。 もっともっと澪のことが知りたい。
もっともっと澪に俺の事を知って欲しい。
だから、話す。 澪と、いっしょに逢って話すって事が大切なんだ。
 
「よし、じゃ買いにいくか。」
うんうんっ。
さて、売り場へ来てみると澪はすぐさまスケッチブックを取って来た。
いつもとおんなじやつ…
「それでいいのか?」
うんうんっ。
「たまには他のやつ買ってみようとか…」
ふるふるっ。
「…そう、じゃ買ってくるから、貸して。」
…澪はちょっと不思議そうな顔をした後に、ふるふるっ、と首を振る。
『自分のだから自分で買うの』
そうやってスケッチブックから手を離さない。
「…なぁ澪。今日はまだまだずっといっしょにいるんだろ?」
うんうんっ♪
とっても嬉しそうにうなずく。
「俺も今日は澪ともっともっと話していたい。だからそのスケッチブック。俺にプレゼントさせてくれ。」
…澪は困った顔のままでちょっとうつむいてしまった。そのまま考え込んでいるようだ。
けれど、ふいに顔を上げて…ニッコリ笑ってスケッチブックを渡してくれた。
「おぅ、まかせとけ。」
うんうんっ♪
とりあえず、まだ前のが残ってたので買って来た新しいのは俺が持ったままで…また歩く事にした。
そうして、さっきとは違う公園にやって来た。
 
澪がまた袖を引っ張る。
『もう無くなっちゃったの』
そうやって、スケッチブックの最後のページを見せる。
「ん? そうかそうか、ずっとしゃべりっぱなしだったもんな。」
うんうんっ。
「はい、澪。」
うんっ♪
新しいスケッチブックを澪に手渡す。
…さっそく今、渡したスケッチブックになにか書き始めた。
澪は、小さな手で一生懸命スケッチブックに言葉を紡ぐ。
何ページかに渡ってるのかめずらしく長い。
…出来たみたいだ。
『スケッチブックもらうの、これで2度目なの』
「2度目…あぁ、初めて会った時の…」
うんうんっ。
澪がページをめくる。
『あの時とっても嬉しかったの。 言いたい事が言える。伝えたい事が伝えられる…って教えてくれたの』
「俺が…か?」
うんうんっ♪
『だから、まだ大切に持ってるの』
…いつかのあのスケッチブックの事だよな…
『これで2冊めなの。 大切にするの』
うん…
『だから伝えるの。 ありがとう…なの』
澪はパタンとスケッチブックを閉じ、ニコニコ笑って俺を見て、そして、ペコンとお辞儀をした。
言葉で伝えて…それでもなお、体全部を使っての『ありがとう』。
多分それは、澪にとって一番の『ありがとう』なんじゃ…?
…こういうのはやっぱりいっしょにいなくちゃわからないよな…
そう思った俺は…
「澪、ありがとな。」
…不思議そうな顔でこっちを見てる。
なんでそんな事言われたのかわかってないみたいだ…
それでも…俺は言いたかった。
「ありがとな、澪。」
 
俺がここに還ってこれたのは…
澪といっしょにいる事が出来るのは…
1冊のスケッチブックと、
1人の少女がいたからで…
……もしもあの時……?
 
…むぎゅ…
 
いきなり澪が抱き着いて来た…
俺を元気付けるように優しく抱き着いてきた。
そしてまた俺に言葉を伝えようとする…
『なんだか…とっても寂しそうなの』
そうやって心配そうに俺の顔を覗き込む。
 
俺はさっきまで考えてた事を捨て去った。
『……もしもあの時……?』 なんてものは無いんだ。
もう1度、というものがあるとしたら…それでも俺は、また澪と出会うだろう。
小さい時に偶然出会い…再会して、また別れてもこうして出会える事ができた。
それだけだ。 それだけなんだよ。
何より俺がそうしたいんだから…
 
「うん、澪。じゃ行こうかっ!」
うんうんっ♪
元気が出てきた様子がわかったのか俺を見て喜んでる澪。
「元気出たぞ。澪が、ぎゅっ、ってしてくれたからな。」
少し下を見て照れてる様子の澪。
さ、次はどこへ行くかな…?
そう思って歩き出そうとすると、
澪が俺の袖を引っ張ってきて…
『後ろ向いて欲しいの』
「ん…後ろ…? なんかついてるか…?」
 
…ぎゅっ…
 
「…本当に、背中好きだよな。澪は。」
そう言った俺に、
いつかのように無邪気に笑い、
いつかのようにスケッチブックを広げて答えた。
『やっぱり…背中あったかいの』
…澪はいつでも自分を伝えてくれる。
…だから俺もそれに応える。
「そっか…じゃもうちょっとこのままでいるか?」
うんうんっ♪
 
何でもない時間。
澪と2人でいる事の出来る時間。
背中に澪を感じながら、
お互いに同じ時間を共有できる。
そんな時間をもう少し、
2人で過ごす事にした……



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