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Tactics ONE short story



後日譚


〜七瀬 留美〜

by keita



『1ページ』
 
今日は一日最悪の日だった。
まったく…転校を期に、今までの自分は置いといて心機一転
乙女心を理解するように…と思い買ってきた日記の一ページ目に
こんな事を書かなくちゃならないなんて…それもこれもみんなあいつのせいよっ!
 
1日の始まり、すがすがしい朝。 今までのあたしとは違う、新しいあたしが始まるのねっ♪
そんな期待に胸をふくらませ、ふと前を見ると、女のあたしから見てもかわいいと素直に思える女の子と
割とかっこいい男の子が連れ立って走ってる。
あぁ、あたしもいつかこんなかわいい女の子になったら王子様が迎えに来てくれるのかな…?
ボーっとそんな事を考えてると…
いきなりその彼の方がぶつかってきた。 すぐに謝ったならまだどうにかなったんだろうけど…
まったく謝る様子はない。思わず地のあたしで怒ってしまった。
結局男の方はろくに謝りもせず…代わりに女の子が謝って、走って行ってしまった。
まったく…なによ、なによ、なんなのよあの男はっ!
…いけない、いけない。 乙女なあたしがこんな言葉使っちゃ…あ、でもさっき地のままで…
まぁ、いいか。どうせもう会う事はない。今日からのあたしは今までのあたしとは違うんだからっ♪
 
学校に着いて、クラスに行って、自己紹介もなんなく終わり、後は自分の席の周りの友達に挨拶を…
そこに…あいつがいた。 なんでよりによってあたしの後ろの席…?
なにか話し掛けてきたがとりあえず無視。
そしたらいきなり後ろから髪の毛を引っ張られた。
あまりの痛さにまた地のあたしで返答してしまった。
そしたら朝の奴と同じかどうか確認のためだって…
…そんなの見ればわかるでしょっ!
 
そんなことがあって、今日は最悪の日だった。
それにしてもなんで同じクラスの近くの席にあんな奴が…
いやいや、これは試練なんだ。
これを乗り越えてこそ真の乙女に…なれる…のかなぁ…
そう言えばもう友達が出来た。今朝あいつといっしょにいた女の子…長森瑞佳さんだ。
あいつとは全然正反対のいい人だ。 いつか、あいつとは友達の縁を切った方がいい、と忠告してあげよう。
今日はこれで終わる。
日記なんて初めてだけど…こんな風でいいのかな?
まぁ、誰が見る訳じゃ無し。 これでいいや。 終わりっ♪
 
 
『2ページ』
 
慣れない事をすると疲れちゃうので…こんなことじゃだめだけど、
日記を毎日付ける事はできない…でも今日も少しだけ…
放課後あたしに似合う部活は無いかと探してると…教室から後ろについて来るのが1人…
あいつだった。 どうせじゃまするんだろうなぁ と思って追い払おうとしたらいきなり
可愛い…だって。 制服が。 …なかなか見る目あるじゃな〜い♪ あんがいいい奴かも〜♪
 
 
『3ページ』
 
クラスの人気投票が男子の間で秘密に執り行われている。なぜあたしがそんなことを知ってるかと言うと
あいつに教えてもらった。 なぜか共同戦線を張る事になった。あたしはどーしても1位になりたかったから
手を組む事にした。…やっぱりいい奴なのかなぁ…?
 
 
『4ページ』
 
あいつがわからない。普通女の子のお腹に衝突寸前、肘打ちをいれたりするだろうか。
それでも共同戦線の約束は守ってくれている。
苦手な英語の和訳や、漢字の抜打ちテストでも助けてもらった。
結果だけを見れば別に問題ないんだけど…なにかが違うような…
思うに彼はあたしのことを女の子と見ていないような気がする。
それはそれであたしも普段の自分でいられるからいいんだけど…ってだめだよ。
乙女なあたしが普通にならなくちゃ。
あたしが考えてもどうしようも無いのでやーめたっ。
 
 
『5ページ』
 
ついについに人気投票の結果発表だ。
結果は…1位。 やった〜♪ うれし〜♪ これであたしも乙女の仲間入りだ〜♪
折原もいっしょに喜んでくれた。 まぁ、彼は彼でなにか目的があったんだろうけど…
でもでも、やっぱりいっしょに喜んでくれる人がいるって事はうれしい。
折原は、(ちょっと乱暴だけど)いい人だ。
 
 
『6ページ』
 
テストの始まり…そんなことはどうでもいいや。
朝、クラスに行くとあたしのイスの上に画びょうが置いてあった。 落ちてたんじゃない。 置いてあった。
…いじめ? あぁ〜 なんかドラマのヒロインみたい。 …ヒロインついでに折原にヒーロー役をお願いしてみた。
守る探偵。 守られる女子高生。 すごい、ドラマのシチュエーションみたいだ。
彼がヒーローとヒロインは結ばれる…とかなんとか言ってたけど黙殺する。
 
 
『7ページ』
 
前のページにはあんな事書いてるけど…手口がどんどんエスカレートしていく。
今日なんてイスにびっしり画びょうが貼り付けられていた。
…ちょっと…泣きそうになった。
でも、折原がいたから大丈夫だった。 1人だったらどうしてただろう…
…その彼が突然話してくれなくなった。 あたしが話しかけてもまともに返事をしてくれない…
あたし、なにかしたの? そう聞きたいけど、もう彼が話してくれない事を再確認するのが恐くて聞けなかった。
護衛みたいにいっしょに帰ってたのもおしまいみたいだ…寂しい…かな。
 
 
『8ページ』
 
テストの途中だけど、もう我慢できなくなった。折原を屋上に呼び出して聞いてみる事にした。
…でも彼は、来てくれなかった…
帰ってきたあたしの机の上に小さなメモ用紙…
『瑞佳のチェックポイントだよ。 これさえやっておけば大丈夫だもんっ』
どう見ても…折原の書いた字…後ろの彼の席を見てみると寝てる。 寝たふり…?
なんだかわからないけれど、彼は変わらないみたいだ。 不器用な優しさ…っていうのかな?
夜、瑞佳から電話があった。 全部事情を聞いた。 そうか、だから彼はあんな態度を…
瑞佳はやる事が極端だよね、って笑ってた。
彼に電話を掛けて聞いた事を全部話した。それで今まで通りに戻った。
あたしは折原の事をバカだ、と思った。 ほんとにかっこいいバカだ、と思った…
 
 
『9ページ』
 
犯人がわかった。 広瀬という子だ。別にあたしは好きでも嫌いでも無いけれど…
あっちの方があたしのことを嫌ってるらしい。 せっかくだから仲良くなろう、と思ってクッキーを焼いてきた。
これで、お友達になれればいいな、と思った。 でも…食べてもらうどころか受け取ってさえくれなかった。
頭に血が登って、熱くなっていった。思わず大声で怒鳴ろうとした時…あたしよりも早くに折原が怒鳴っていた。
言うなり、払いのけられ散らばったクッキーを拾い集めあたしの手を引っ張ってそのまま帰る事になった。
彼は落ちたクッキーを食べてくれた。 おいしいって言ってくれた。もうあたしは広瀬なんて子とのことなんて
忘れた。 今は彼のことだけだった。せっかくだから落ちたクッキーなんてものじゃなくてちゃんとしたクッキー
を食べてもらおうと思った。 そう言ったら楽しみにしてるだって。 頑張っておいしーのを作ろっと♪
 
 
『10ページ』
 
放課後…探偵物語も終わっちゃって、あなたと帰る理由も無くなっちゃったけど…あなたといっしょにいたい。
あなたはもう、あたしの王子様になっちゃった。 だってこんなにドキドキする。
今日だって放課後いっしょに帰ろうって誘うだけですごい勇気が必要だった。
断られたらどうしようとか、へんなやつとか思われたら…とかいろいろ考えてしまった。
それでもいっしょに帰りたい、と思ったから聞いてみた。 …いっしょに帰ってくれるんだって。
商店街にも寄ってお店とかも廻った。いいのかな…? こんなに、今まで思っても見なかった事がたくさん
実現しちゃって。夢みたいだよ… 今までは無理して可愛い女の子になろうと思ってたけど…
あなたの前では心から思う。
…あなたの好きなような女の子になりたいなぁ…
 
 
『11ページ』
 
クリスマスイブ…1年の中で1日しか無い特別な日…
瑞佳がクリスマスパーティーに誘ってくれたけど…ごめんね。
あたし…今日はいっしょに過ごしたい人がいるんだ…だから、断った。
これで誘われなかったらどうしよう…と思ってたけど、ついに放課後になってあなたが誘ってくれたんだ。
別に制服のままでいいって言ったんだけど…
せっかくのクリスマスに制服のままなの…?
今日は特別な日なんだよ…?
それでも時間まで待ってる時はすっごいドキドキしてた。
でも、でも…それはあたしだけだったのかなぁ…
連れて行かれたのはラーメン屋さん… 目の前にはキムチラーメン…
泣きたくもなるよぉ… だって、だって、クリスマスなんだよぉ…
あたしはお店を飛び出していた。 本当にあたしだけの勘違いだったら追いかけてなんか来ないだろうなぁ…
って外に出てから気が付いた。 でも…あなたは追いかけて来てくれた。
捕まったのは夜の公園…
そこであたしは…クリスマスのことを、今日したかったことを、
あたしにとって今日は特別な日なんだってことをわかってもらおうとした。
…そしたらあなたは『今、ここで踊ろう。』って言ってくれた…
夜の公園、薄く陰った月明かり…その中で制服姿の2人が踊ってる…
知らない人が見たら何やってるんだろう、と思うかもしれない。
でも、あたしにとっては2人だけのダンスホールだった。
月明かりの下、あたしは初めてキスをした…
クリスマスの日に、特別なキス…
王子様とのキス…またひとつ夢が叶ったよ。
あなたが叶えてくれたんだ…
 
 
『12ページ』
 
…えっと…今日は…その…やっぱりここには書かない。
あたしの心の中だけに大切に仕舞っておく事にする。
ただ…あたし、女の子で良かった。
大好きな人にほんとに大好きって応える事が出来たから…
あなたに上手く伝わってくれたかな…?
 
 
『13ページ』
 
明日はあなたを起こしに行く日だ。
今日、学校で瑞佳に朝代わりに起こしにいかない? って聞かれた。
あたしもいつかはそうしたいなぁ、と思っていたので丁度良かった。
とりあえずお試し期間ということで明日からの3日間、あなたを起こしに行く。
絶対に起こして見せるんだからっ。
 
 
『14ページ』
 
今日で2日連続あなたと遅刻せずに学校に行く事が出来なかった。
…なんでだろう。 なんで瑞佳に出来てあたしに出来ないんだろう…
いやだな、あたし。 瑞佳に怒ってもしょうがないのにね。
…本当はそうじゃないんだ。
本当は瑞佳があなたと…いっしょにいた時間に嫉妬してるんだ。
好きになるのに時間なんて関係無いって思うけど、解ってるけど…
長い時間がからないと出来ない事…お互いのことが解る事。
なんだかあなたと瑞佳にはそんな雰囲気が感じられる…
…だから瑞佳に出来る事はあたしもできるようになりたいんだ。
過ぎちゃった時間は想いで埋めるんだ。
もっと早く出会っていれば…なんてこと言いたくないもん。
時間は想いで埋められる…よね?
 
 
『15ページ』
 
やった〜♪ 今日は遅刻しなかったよ。ちゃんと起こす事ができたんだよっ♪
あなたの事だからこんなに頑張れたんだよっ♪
あなたの事だから…
不思議だね。 誰かのためにこんなに頑張れる。
…誰かの為じゃないや。 あなたの為だからだよね…
 
 
『16ページ』
 
さっきいきなりあなたが電話をくれた。 今からダンスパーティーするんだって。
あたしへのドレスも送ったんだって。 いきなりの事でビックリしているうちにほんとにドレスが届いた。
なんだかわからないけれど…すぐに行かなくっちゃっ♪
続きは帰ってきてから書こうねっ♪ 何があるのかなぁ…?
 
 
『17ページ』
 
待ち合わせの場所に、あなたは来なかった。
その日の夜まで待ってても来なかった。
次の日の学校にも来なかった。
それよりも、みんな変だよ…だれもあなたのことを知らないんだよ…
忘れてる…なんて問題じゃないんだ。
まるで始めからそんな人はいなかったみたいに…
あたしの夢だったの…?
ううん、そんな筈無いよね… いっしょに過ごした時間が全部ウソだったなんて。
…そんな筈無いよ…
 
 
『18ページ』
 
もう、残ってるのはこのドレスと…あたしのあなたへの想いだけだ…
あなたとの最後の約束…違うよ、最後じゃないよ。
最後じゃ、ないよね…
…とにかく約束を守る事にする。
あの公園で、ドレスを着て待つ事にする。
いつあなたが迎えに来てくれても良いように…
 
 
『19ページ』
 
今日も来ない…
今日はプレゼント持ってきてたのになぁ…
手作りチョコのプレゼント。 食べてもらいたかったなぁ…
帰ってきたらうーんといっぱい食べてもらおっ♪
…帰ってくるよね…?
 
 
『20ページ』
 
いつにまにかあなたとの時間があたしの中でどんどん大きくなっていて…
そのあなたがいないと日記に書く事なんて何も無い。
…早く迎えに来てよ…
 
 
『21ページ』
 
ただ、待ち続けるだけ…
寂しいよ…
 
 
『22ページ』
 
今日友達に、いない人を待ち続けてるなんてやめろ、と言われた。
…いない人…じゃ無いんだよ。 ちゃんとあたしが覚えているんだもん…
覚えている限りちゃんとそこに、いる人なんだよ…
だからあたしはあなたを待ち続けてるんだ。
あたしがもしあなたの事を忘れちゃったら…
あなたはほんとにいない人になっちゃうよね…
 
 
『23ページ』
 
…久しぶりにこの日記を手に取る。
明日で、あなたと約束した日から一年が経つ。
一年は長すぎるよ…
あたしは御伽噺のお姫様じゃないんだよ…?
御伽噺の中だったらお姫様は眠り続けて、王子様が起こしてもらうのを待つだけだけど…
…あたしはあなたのお姫様にはなれなかったのかな…
一年も待つのは長すぎるよ…
あたしは変わりたくないんだけど… まわりはどんどん変わっていく。
やっぱり…夢だったのかな…?
そんなことない。
そんなことないと思いたいけど…
…とにかく全ては明日だ。
なにか、きっかけがなくちゃ、あなたの事を忘れる、何てことは出来そうも無いよ。
だから…明日が最後だ。
 
 
…パタン…
 
俺は日記を閉じた。
ページはここで終わっていた。
ここは七瀬の部屋。
…そう、俺は帰ってきた。
七瀬のおかげで帰ってこれた。
日記…なんて付けてたんだ。
七瀬らしいかな。女の子を演じようとしていた頃の七瀬らしい…
今は、演じてる訳じゃ無いみたいだけどな。
そんな事を考えてると…
 
「あーっ! な、なにしてるのよっ!」
「ん? おう七瀬。」
「おう、じゃないでしょっ! 人の日記持って何してるのよっ!」
「あ、これか。 七瀬、日記なんて付けてたんだ。 知らなかった。」
「…もしかして…中見たの…?」
「え? さ、さあ〜?」
「み、見たのねっ!」
 
七瀬は顔を赤くしてうつむいてしまう。
 
「なんだよ、そんなに恥ずかしい事書いてたのか?」
「そ、そんな事無いけど…」
「よし、俺がこの日記にいいタイトルをつけてやろう。 …『七瀬留美の爆裂乙女日記』というのはどうだ?」
「ば、爆裂ってなんなのよっ!」
「冗談だよ。 そうか、七瀬はこんな事を思っていたんだな…」
「な、なによ…」
「…ありがとな。」
「え…?」
「一度しか言わないぞ。」
「う、うん。」
「ありがとう、七瀬。七瀬の想いの何分の一かわからないけど…
少しでも伝わってくれたか…?」
「…うんっ♪」
「そうか。 良かった。ところで、どうだ? 俺、お前の王子様になれてるか…?」
「うんうんっ♪ いっちばんかっこいい王子様だよっ♪ 時間は守ってくれないけどねっ♪」
「一言余計だぞ。 口の悪いお姫様だな…」
「…でも、待ってれば絶対に来てくれるって事が解ったから。
絶対に迎えに来てくれるって解ったから…大好きだよ。」
「そうだな…うん。俺もだ。」
 
…あの時の煤けたドレスが壁に掛かっている。
2人でちょっとそれを見た後、
お互いに顔を見合って微笑んだ。
2人の時間はあの時から動き出したんだ……



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