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Tactics ONE short story



後日譚


〜氷上 シュン〜

by keita



…放課後。
特にすることがなく、なんとなく向かった部室。
幽霊部員の溜まり場にすらならない教室。
行っても何も無いのに。
行っても何かがある筈無いのに。
なぜ俺はそこへ足を運んでしまったのだろう。
…なぜだろう。
……なぜだろう?
考えても答えは出ない。
答えが出る筈がない。
それは理由なんてないからだ。
はじめから答えがない事に理由を付けられる筈がない。
ただ『俺とあいつが出会った』という事実があるだけだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
ただそれだけだ。
ただそれだけの筈だ。
それだけの筈なのに…
 
…………
 
あいつははじめから訳が解からない事ばかり言った。
初対面なのに、
 
『最初にこういうべきだったかな? や、久しぶりって』
 
まるで昨日どこかで会った友達のように。
 
『君と話したいな…』
 
俺と話したいと言う。
それに応じる俺も俺だが…
 
『ふたりで試してみるかい。どこまで相手を愛せるかをさ』
 
…その割には、とらえどころのない話ばかりしやがって。
 
『よろしく。 同じ目を持った友達』
 
同じ目を持った友達…
氷上と同じ目…
…俺が氷上と同じ…?
 
『ずっと前から死人みたいなもんだよ、僕は』
 
あいつは自分のことをそう言った。
…寂しいことを言う奴だ。
死人みたいなもの。
自分は死人みたいなものだと。
…同じ目を持つこの俺は…?
 
『あはっ…少し幸せだよ、僕は。絆というものを感じてる気がするから』
 
クリスマスの日。
特別な日だと氷上は言った。
俺はなぜそんな日に氷上を探そうと思ったのだろう…
…絆というものを感じている気がするから少し幸せだと、氷上は言った。
絆を感じてる気がすると…
絆を感じてる気がするだけだったのか…?
それよりも俺は…?
俺は氷上に絆を感じていたのか…?
 
『僕は絆を求められるほど、人が好きじゃないんだ』
 
そうおまえは言ったな。
そんな奴があの寒空の中どうして屋上にいたんだ。
屋上で誰が来るのを待っていたんだ。
ほんとは見つけて欲しかったんじゃないのか。
だから待っていたんじゃないのか…
……そんなおまえを、探して見つける俺も俺…か。
 
『僕に残された時間は、キミのために、キミのことを思って過ごすよ。
想いが届くといいけどね。僕が求めた最初で最後の絆だから』
 
残された時間を俺のために使う。
想いが届くといいね、僕が求めた最初で最後の絆だから。
そう氷上は言った。
そう氷上は言ってくれた…
最初で最後の絆…
俺が、おまえの絆に…?
それなら俺は…?
俺の絆に、おまえが…?
 
『さようなら』
 
氷上とはそう言って別れた。
そう言って…消えた…
最後か…
最後…
…ばかやろう。ばかやろう。
ばかやろう。ばかやろう。
氷上の大ばかやろう…
言いたいことだけ言ってさっさといきやがって。
俺とおまえの絆はどうなるんだ。
俺とおまえの話しの続きはどうなるんだ。
俺とおまえが出逢ったことが絆じゃなかったのか…?
…ばかやろう。ばかやろう。
ばかやろう。ばかやろう。
氷上の大ばかやろう…
 
それなのに…
何で俺はこんなにおまえに逢いたいんだろう…
 
………・・・
 
「僕の想いは届いたかい」
 
…全てが現実なんだと
物語はフィクションじゃないと
おまえは言ったよな…
ならこれは…?
これも現実だと言うのか…?
目の前にいるおまえは幻想じゃないのか…?
 
「やぁ、久しぶり」
「これは現実なのか…?」
「その問い掛けに答える前にキミに聞きたいことがある」
「…なんだよ」
「どうだい、僕の想いは届いたかい?」
「…………」
「どうだい、僕はキミの絆と成り得たかい?」
「…………」
「もっと端的に言おうか…キミは僕のことを少しでも覚えていてくれたかい?」
「…あたりまえだろ」
「それはなぜだい?」
「なぜ…なぜだろう。わからないが…とりあえずおまえに言いたいことがあったんだ…」
「うん。それじゃ聞こうか。キミの言葉を、キミの心を、キミの想いを…」
「……俺の想い…」
「違うのかい?」
「いや…まだわからない」
「そう、今はまだ…か」
「…とりあえず言うぞ。
…氷上。おまえは…最短記録で俺と親友に成れた奴だよ…」
「本気でそう言ってくれるのかい?」
「…冗談でこんな事言えるか」
「そうだね…キミは覚えてるかい? クリスマスの日、特別な日。あの時僕はキミに言った。キミが来てくれて少し幸せだって…絆というものを感じてる気がするから、って」
「あぁ…」
「けれどあの時と今は違う。キミが僕に伝えてくれた言葉は、心は、想いは…
僕の心に届いたよ。だから僕は今、とても幸せだ。だから僕は今、確かにキミとの絆を感じるよ…」
「そうか…」
「いつかも言ったけれど…僕たちはもっと早く友達になっておくべきだったね。そうすれば本当に僕たちはお互いを救うことが出来た筈…
いや、お互いを救うことが出来る結果を導き出せた」
「…おまえは間違っている」
「僕が…?」
「…これだけはおまえが間違っている。もっと早くに出逢っていれば、なんて詰まらないことを言うな。そんなくだらない話しをするために俺とおまえは出会ったのか…?」
「…………」
「絆を…それを求めるのに本当に時間が必要なのか…?」
「…………」
「それなら俺たちはなんだ? おまえが感じてる絆はなんだ? 俺がおまえがいなくなった後でも『氷上シュン』を忘れられないでいるのはなぜだ?これが絆じゃないのかっ…?」
「…キミ、今日はたくさんしゃべってくれるね」
「時間はたっぷりとあったからな。とっとと先に行ったんだからこれぐらいのグチ聞いとけっ」
「あはは…僕とキミはやっぱり出逢ってよかったね。ほら、こんなに有意義な時間が過ごせる。少なくとも僕にとっては本当に有意義だ」
「ふん…俺もだよ」
「それはよかった。さて、そろそろ質問に答えようか… 確かに僕は間違っていたね。そうだね…僕とキミとの間には、確かに絆が感じられるよ…ただ惜しむらくは、やっぱり僕たちは
もっと早く出逢っていればよかったんだよ。そうすればもっともっと楽しかっただろう。そうすればこの誰にだって訪れる世界を知らずに僕たちは過ごせたかも知れない。
……こんな例え話を知ってるかい。誰も居ない森の中で、一本の巨木が倒れた時そこに音は存在するか……つまりはそういう事だよ。在る事を知らなければそれは無い事と同じだ。少なくとも僕たちにはそれが真実になっただろう。ただ、それだけが悔やまれるね…」
「そう…かもな。おまえと同じ状況になった今だから…よくわかるよ」
「うん、それでも僕はキミに会えてよかったと思うよ。僕の生きてた意味が出来た。キミと会うこと。それが僕の存在意義だった。…だからキミはこんなところに居てはいけない」
「こんなところ…?」
「そう、ここは幻想と現実の狭間。フィクションとノンフィクションの境目。永遠の世界の入り口…と言った方がキミにはわかりやすいかな…?」
「…そうか、結局俺も来てしまったんだ…」
「まだ決断を下すのは気が早い。キミにはあっちの世界に戻ってもらう」
「…なぜ」
「…僕がキミに戻って欲しいから。僕が居たことをキミにあっちの世界で覚えていて欲しいから…っと、これだけじゃ理由にならないかな?」
「おまえは…?」
「僕は器となる肉体はもう失われてしまったからね…あくまでも僕があの世界にいれなくなった原因は病気だから。キミは存在が消されているだけだ」
「…そうか。それじゃ理由はともかく、方法があるのか…?」
「…キミと僕の間には確かな絆が存在する。奇跡は人との絆が起こすもの…奇跡は起こらないかもしれない。けれど…絆が無ければ奇跡は起こり得ない。
……さて、どうだい? キミは僕との絆に賭けてみる気は無いかい?」
「……やっぱりおまえとはもっと早くに逢っとけばよかったな。絶対に親友に成れたと思うぞ」
「あはっ…ありがとう。さ、それじゃ準備はいいかい…?」
「うん…これが最後か…」
「そうだね…キミが僕のことを覚えていてくれればそれで充分だよ。さ、目を閉じて」
「あぁ、それじゃな、氷上」
「最後までありがとう。僕もキミのことを親友と呼ばせてもらうよ。最後に握手でもしようか?」
「あぁ、そうだな…」
 
氷上は俺に手を差し伸べた。
俺は氷上の手へ手を差し伸べ、固く手を握った……
……がいきなりその手ごと引っ張られた……
 
「……氷上、なんの真似だ…?」
「……うん。キミは僕が求めた最初で最後の絆だ。
そのキミの温かさを覚えていたいと思った。ただそれだけさ……」
「おまえ…泣いてるのか…?」
「あはっ…そうかも知れないね。今までに僕はこんなにも人が恋しいと思ったことはないよ。やっぱり僕も本当は、絆を求めていただけなのかも知れないね。キミという絆を…」
「…ふん、最後だからな。…気の済むまでやってろ…」
「…キミはこんな僕でさえも受け入れてくれるんだね…」
 
しばらくの間、俺たちはじっとしてた…
時が無い世界、永遠の世界…
今だけは…
そう今だけは俺と氷上しか居ない世界。
そう今だけは…
 
…………
 
……いつまでも、いつまでも続くと思われた時間も
…やがて終焉の時が来た…
 
「…さぁ、僕はいつまでもこうしていたいけどわがままを言っている場合じゃない。キミにはあっちの世界で僕の事を覚えていて欲しい、と言った気持ちはウソじゃない。だから、もうお別れだ。僕はキミとの思い出と、キミが最後にくれた温もりを胸にこっちの世界で生きていくことにするよ」
「氷上…俺、ここに残ろうか…?」
「…なぜ?」
「なぜって特に理由は無いさ。ただ、俺が残ってもいいか、と思っただけだ」
「…キミがそこまで言ってくれるなんてね。それなら僕も告白しよう。キミならそう言ってくれるかもと僕が思ったのは事実だ。キミが残ってくれるならこんなに喜ばしい事はない。…けれど、やはりキミには戻ってもらう」
「…………」
「さっきも言ったと思うけど…試してみたいじゃないか。僕とキミの絆が本物なのか…をね」
「……氷上。おまえは強いな…」
「…僕が?僕が強くなったとすれば、それはキミとの絆が…僕も少しは変われた、ということかな。時が止まったままのこの永遠の世界で…さあ、ふたりが変わるために笑って別れよう」
 
そう言って氷上は微笑んだ。
…俺に向かって微笑んだ。
 
……ウソの下手な奴だ……
 
自分の顔にはいつもの笑みが浮かんでるとでも持ってるのだろうか。
俺には泣き顔にしか見えないぞ…
…今、おまえと同じになった俺だから良くわかる。
ほんとは側にいて欲しいんだろう…
ほんとは1人で居たくないんだろう…
同じになった俺たちだから…答えはわかってるさ。
…俺は氷上に笑みを返した。
 
……俺はウソが上手かったかな……?
 
「…そうだな。じゃ、おまえはこっちの世界で、俺はあっちの世界で…」
「それぞれの世界でそれぞれに生きよう」
「…じゃほんとにさよならだ」
「キミのことは忘れないよ…僕の唯一の親友」
「あぁ、俺もだ、じゃあな…」
 
…視界が一面の白につつまれる…
やがて氷上の顔すらも見えなくなり…
意識までも白につつまれた…
 
…………
 
…俺は目を開ける。
いつもの部屋の、
いつもの自分のベッドの上で。
俺は…還ってこれたのか。
…記憶ははっきりと残ってる。
 
「氷上…」
 
俺はあいつの名前を口に出してみる…
 
「氷上。俺は還ってこれたぞ…俺とおまえの絆は偽物じゃなかったぞ…」
 
ただ、ただ、涙だけがこぼれてきた…
恋人が死んだ訳でもないのに。
愛する人に逢えなくなった訳でもないのに。
 
……大切なものを失った、ってことは同じか……
 
その事に気づいて、また涙がこぼれてきた…
 
「俺とおまえの絆に時間は関係無かったぞ、氷上…」
 
俺とおまえの接点は…
 
「同じ目を持った友達…また逢おうな」
 
そして時間が動き出す…
それぞれの時間が、それぞれの場所で…
ゆっくりと時を刻みはじめる……



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