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Tactics ONE short story



後日譚


〜みさお〜

by keita



…目をあけると、そこははじめて来たところだった。
みさおひとりで…
手にはお兄ちゃんからもらったあのカメレオンをもって…
家でもないし、いつものびょういんでもない。
ほんとにはじめての所だった。

…ふしぎな所だなぁ…
なーんにも音がしないんだよ。
だーれもいないんだよ。
…そうだ、お兄ちゃん…お兄ちゃんは…?
だれもいないの…?

「おにいちゃーーんっ! おにいちゃーーーーんっ!」

大きな声でよんでみたけど、へんじはないや…

「おにいちゃーーんっ!おにいちゃーーーーんっ!」

さがしながらあるいてみることにした。
だって、ひさしぶりのベッドじゃない所…
だから、たくさんたくさんあるいた。
おおきな声でおにいちゃーーんってさがしてみた。
けど、やっぱりだれもいない…
あれ…?
そういえば、お腹いたくない…
お腹いたくないよ…?
みさおのお腹なおったの…?
お兄ちゃん…どこにいるの…?
みさおのお腹なおったんだよ?
お兄ちゃんにみせなくちゃ…
お兄ちゃんにみせて、もうしんぱいしなくていいよって言わなくちゃ…

「おにいちゃーーんっ! どこいるのーーっ?」

やっぱりへんじがない…
ぐすっ…みさおほんとにひとりぼっちなのかなぁ…
これじゃお腹がなおってもうれしくないよぉ…
お兄ちゃんにお腹みせて、『なおってよかったな、みさお』って言ってもらうんだ。

「おにいちゃーーんっ!おにいちゃーーんっ!」

やっぱり…いないのかなぁ…
ぐすっ…うぅぅ…
みさおが下を向いて泣きそうになってると、
だれかがうしろからあるいてくる音がする…

『ねぇ…』
「…っ!?」

みさおびっくりしちゃった。だってだれもいないと思ってたんだもん。
うしろをむくと女の子がいた。
みさおよりもちょっとおねえさんかなぁ…?

『…あなたのお名前教えてくれる?』

みさおのなまえきいてきた。
しらないひとにこえかけられてもへんじしちゃダメだぞ、ってお兄ちゃんに言われたけど…
おねえちゃんだからいいかなぁ…へんじしても。

「…みさお…」
『そう…じゃ、みさお。今から話すことをよく聞いてね』
「うん…」
『ここは永遠の世界。いつまでもいつまでもなにも変わらない世界。
いつまでもいつまでもこのままの世界…』
「えいえんのせかい…なにそれ…?」
『あっちの世界を見せてあげるよ』

おねえちゃんがそんなこと言ったら、みさお、きゅうにねむくなっちゃった……

…………

びょういんのベッドでみさおがねてる…
お兄ちゃんがみさおの手をにぎってる…
あれ? みさおはここにいるのに…
お兄ちゃんはじっとみさおの手をにぎってうごかない…
お兄ちゃんっ、お兄ちゃんってみさおがよんでるのに聞こえないみたいだ…

…………

あれ…?
こんどはちがうばしょ…
おそうしき…だれの…?
たくさんの人がならんでるその先頭に、お兄ちゃんがいた。
お兄ちゃんがもってるの…
みさおのしゃしんだ…
みさおのおそうしきなの…?
みさお、ここにいるよっ、ねえっ、お兄ちゃんっ!お兄ちゃんっ!
やっぱり聞こえないみたい…
どうして…?
お兄ちゃん…

…………

こんどはへやの中…
もうおそとはまっくらになってる…
…お兄ちゃんがひとりですわってる。
お兄ちゃんっ、お兄ちゃんっ!
なんどもよんでるのに…
ほんとに聞こえないんだ…
お兄ちゃんは、みさおにくれたあのおもちゃ…
カメレオンのおもちゃを見てた。
じーっと、見てた。
…じーっと…
……いきなりお兄ちゃんが泣き出した。
…お兄ちゃんがこんなに泣いてるの、みさおはじめて見た。
ときどき、お兄ちゃんは泣きながら、みさおっ、みさおっ…って言ってた。
…みさおのために泣いてるんだ、お兄ちゃん。
…そう思ったらみさおもなみだがでてきた。
ぽろぽろぽろぽろこぼれてきた。
ぽろぽろぽろぽろなみだがでてきた。
ぜんぜんとまってくれないよぉ…
…お兄ちゃん。
お兄ちゃんがみさおのために泣いてるのに…
お兄ちゃんがみさおのせいで泣いてるのに…
みさおには、なんにもできないの…?
もう、さわることもはなすこともできないの…?
お兄ちゃんに、なんにもできないのがいちばんかなしいよぉ…
お兄ちゃんはみさおになんでもしてくれたのに…
みさおにはお兄ちゃんのなみだをとめられないの…?
また…ぽろぽろぽろぽろなみだがこぼれた。
お兄ちゃんもずっとずっと泣いてた。
こんなにかなしいことがあるなんて知らなかったよ……お兄ちゃん。
あの、さいごのときもかなしかったけど…
泣いてるお兄ちゃんを見てる方が、もっとずっとずっとずっとずーっとかなしいよ…
みさおは泣いてるだけしかできないなんて…
お兄ちゃんにみさおのことで泣かないでって言いたいのに…
みさおのことで泣かないで、お兄ちゃん…って、ひとことだけでいいのに。
みさおには泣くことしかできないんだね…
…ずっとずっとずっといっしょにいられたらよかったのに…
そしたらこんなにかなしいことを知らないですんだのに…
…お兄ちゃん。みさおのことでずっと泣きつづけるの……?

…………

そう思ったとき、またちがうところに来た。
あ、お兄ちゃんと、さっきのおねえちゃん…何かおはなししてる。
お兄ちゃんが泣きながらなにか言ってる……とおくて聞こえないよ。
おねえちゃんがなにか言ってる……こっちは聞こえた。

『えいえんは、あるよ…』

お兄ちゃんが泣くのをやめちゃった……?

……

きゅうにめのまえが明るくなって…
みさおがめをあけるとさっきのおねえちゃんが立っていた…

『どうだった、あっちの世界は?』
「…………」
『あっちの世界にはいいことないでしょ?』
「……泣きたくなることがたくさんあったよ…」
『うん。だから、ずっとずっとここに居ようよ』
「…………」
『ずっとずっといっしょに遊んでようよ』
「…………」
『こっちの世界で…永遠の世界にはそれがあるんだよ。
ここなら、ずっと一緒に…永遠に一緒にいられるんだよ』
「…………」
『私といっしょに遊んでようよ。…それとも、いやなことが、辛いことが、泣きたくなることが哀しいことが…
たくさん待ってるあっちの世界に戻る?』
「…………」
『もし戻っても、もう前のようにはいかないんだよ。みさおと、みさおの大好きなお兄ちゃんは知らない人なんだよ。
それどころか、もう一度逢えるかどうかも解からないんだよ』
「…………」
『それにここで待ってればお兄ちゃんもくるよ。さっき、やくそくしたんだ』
「……お兄ちゃんも来るのっ?」
『うん、来るよ。いつかは解からないけど必ずね。やくそくしたから…」
「…さっき、おねえちゃんがお兄ちゃんの泣くのをとめてくれたの…?」
『うん、そうだよ。そのときにやくそくしたんだ…」

お兄ちゃんもここに来る…
だったら、みさおもここでまっとくほうがいいのかなぁ…
おねえちゃんが言うように、
ずっとずっとこのままで…
ずっとずっとかわらないで…
お兄ちゃんが泣くのをとめてくれた、このおねえちゃんといっしょに…

でも……
ここにいたらみさおはこのおねえちゃんがいるからひとりぼっちじゃないかもしれないけど…
お兄ちゃんはあっちのほうでひとりぼっち…
みさおはひとりぼっちじゃないけど、お兄ちゃんはひとりぼっち…
ひとりぼっち…なんだよね。

「それでも、みさおは…お兄ちゃんのところに行くよ」

おねえちゃんに、みさおは言った。
やっぱりみさおはお兄ちゃんの所に行くよ。
お兄ちゃんをひとりぼっちにしないように。
みさおとお兄ちゃん、ひとりぼっちがふたりでいればもうひとりぼっちじゃないよ。
それに…お兄ちゃんとやくそくしたことがまだおわってないよ。

『…お兄ちゃんも後から来るんだよ?』
「うん」
『…もういちど言うけど、もうみさおはお兄ちゃんの妹にはなれないんだよ。
逢えるかどうかもわかんないんだよ』
「…うん」
『どうしてそれであっちの世界に行くの…?
お兄ちゃんが後で来るのに…
お兄ちゃんともう逢えるかどうかも解からないのに…』
「うん。ここにいると、みさおはひとりじゃないけどお兄ちゃんはあっちでひとりなんだよ。
それに…あのね、お兄ちゃんみさおとやくそくしたんだ。
お兄ちゃんがみさおのちちおや参観日に来てくれるって。
みさお、とちゅうでだめになっちゃったから…
まだやくそくがおわってないから…
お兄ちゃん、みさおのことよく泣かすけど、うそはつかないんだ。
…だからきっとやくそくまもってくれるよ。
だからみさおはあっちのほうでまつんだ。
お兄ちゃんにあえるのを。
そしたらみさおもお兄ちゃんもひとりじゃなくなるんだ。
だから…ありがとう、おねえちゃん」
『…ありがとう?』
「うん。さっき、お兄ちゃんにあわせてくれてありがとう。
みさお、お兄ちゃんがあんなに泣いてるなんて知らなかったから…
おねえちゃんが、泣いてるお兄ちゃんのなみだをとめてくれたんだよね?」
『…………』
「そして、ごめんね…おねえちゃん」
『ごめんねって…?』
「もしここにお兄ちゃんが来るのがおそくなっちゃったら、おねえちゃん
それまでひとりぼっちなんだよね…そうだ、これかしてあげる」
『なに…?』
「カメレオンのおもちゃ。お兄ちゃんがみさおにくれたんだけど…おねえちゃんにかしてあげる。
おねえちゃん、お兄ちゃんが泣くのをなぐさめてくれたから…
お兄ちゃんがここに来たら、そのときお兄ちゃんにわたしてね」
『…………』
「……おねえちゃんだからおもちゃであそばないかなぁ」
『…ううん、そんなことないよ。ありがとう…』
「うん。よかった。みさおはもう行くよ。ねぇ、おねえちゃん……みさおとお兄ちゃん
すぐにはあえないかも知れないけど、いつかあえるかも知れないよね…?」
『……うん。絶対に逢えるよ。みさおだったら…』
「ありがとう、おねえちゃん。それじゃぁ…あ、おねえちゃんのおなまえきいてなかったね」
『みずか…』
「うん、みずかおねえちゃん。それじゃぁ、さようなら…」

…みさおはめをつぶった。
みさおのからだがまっしろなひかりでいっぱいになって…
あたまのなかまでまっしろになっていく…
でも、お兄ちゃんのことはわすれないよ。
もしお兄ちゃんがみさおのことをわすれても、
みさおはお兄ちゃんのことをわすれないよ…
こんども、お兄ちゃんのいもうとになりたいから…
みさおのお兄ちゃんはひとりしかいないから…
お兄ちゃんだけしかいないから…
やさしくてちょっとらんぼうで、
でも、それでもずっとずっとやさしくて…
だから、大好きなお兄ちゃん。
またあおうね。
いつかは…
やくそくまもってくれるよね……

…………

……なんで?
なんでなんでなんでなんでなんで……?
わからないよ…
みさおとお兄ちゃんが逢えるなんてうそだよ。
そんなこと私にも解んないよ…
…ここにいたらお兄ちゃんと絶対に逢えるのに。
いつまでもいつまでもこのままじゃだめなの…?
ずっとずっと一緒にいたらだめなの…?
永遠に今のままじゃだめなの…?
私には…
わからないよ……

…手には、みさおから借りたカメレオンのおもちゃ…

『……この答えは君が教えてくれるのかなぁ…』

…コロコロ転がすと舌を出したり仕舞ったりする…

『…とりあえず私は…
君が来るのを待ってるよ……』

…………

小さな少女の唄は止み…
ひとりの少女が続きを歌う…
彼を待ちつつ歌う唄…
永い永いはじまりの唄……


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