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Tactics ONE short story



輝く世紀へ




by laughcat




僕が最も好きだった事。それはサッカーだった。
より、多くの人たちにこの楽しさを知ってもらいたいと思った。
人を魅了する技を身につけ、更にそれを人に教えた。
(そして、彼にも教えた。)
そう、そしてそれは残酷な行為だった。
(今の彼は、かつての彼ではない。)
…でも、苦しんでいる。
僕が…苦しめたんだ。

≪5月2日≫
俺は友達が多い方ではない。人付き合いが下手で疲れてしまう性質なので、そのほうが都合が良い。もちろん人間嫌いと言うわけではないから渡辺や椎名の様に付き合いやすい奴なら歓迎である。
「おーい、小林ぃ」
この草野 直次(くさの なおつぐ)の様な奴は歓迎できないタイプだ。
「いい話がある」
こいつの言う良い話が、本当に良い話だった例が無い。
「無視するなっての」
草野は俺の肩を掴んで揺さぶる。
俺はたまらず、草野の手を払いのけた。
「いいかげんにしろっ」
「まあ聞け」
草野はマイペースな奴である。
「広島のチケットが5枚確保できたんだ…」
「サッカー観戦に興味は無い。俺に話を持ってくるな」
草野は自他共に認めるサッカーフリークだ。Jリーグ、天皇杯、W杯、親善試合、etc…あらゆるコネを利用してチケットを手に入れて来るが、大抵余してしまう。そんな時にクラスメートなどに売って歩くのだ。
「おまえが興味無くても、渡辺さんあたりが興味あれば問題無いだろう」
「どういう意味だ?」
「とにかく3枚買え」
「どちらにしても買うつもりなど無いが、なぜ3枚なんだ?」
「おまえと渡辺さんと椎名」
「さっさと行かないと殴る」
「ちっ、…興味が湧いたら何時でもいらしてぇ」
後半はしなを作りながら言う。まったく芸達者なやつだ。

困った事はもう一つある。再来週の金曜日は体育祭なのだが、俺の出場種目がサッカーになってしまった。
しかも草野はチームメイト。こいつはサッカーフリークのくせにサッカー部員ではないと言うのだから困り者。
昨日の体育の授業で俺はこいつに見込まれてしまった。
紅白戦形式で練習試合のような事をしたのだが結果は6―0、俺の3アシストと言う形になった。
「なんで俺にばっかパスを出すんだよ?」
「あそこまでフリーの奴に回さないで、何処に蹴れってんだ?」
「できるだけ邪魔にならんようにしてただけだ」
「その上、ものすごく良いところに上げて来るし…とにかく。おまえレフティで決まりな」
と言った具合に

「小林君」
放課後、いつもの様に渡辺が俺の席までやってきた。しかし、今日はいつもとは違った。
「私ん家、今夜から出かけるの。だから今日は一緒に帰れないから」
「あ、そうか、じゃあおみやげよろしくな」
「うん、じゃあ、先に帰るから」
「ああ」

今日は珍しく一人で帰る事になった。椎名は先に事情を聞いていたらしく、俺が帰る時には既に教室にはいなかった。
一人だからと言って真っ直ぐ帰るつもりはない。俺は学校を出ると商店街の方に足を向けた。

タコ焼きの『前田屋』はいわゆる一坪店。
屋台っぽい店の造りと一品しかないメニュー。いかにも通の店と言った雰囲気だ。
親父さんとその息子らしいのが二人、交代で店に入っている。
特徴としてよその店より一回り小さい事が挙げられる。
普通なら1パック8個入りのところが、『前田屋』は1パック12個入りだ。
中身はタコと天カスだけなのだが生地に秘密があるらしく、この味は他では出せない。その上タレも特製ときている。
席に着いて食えるような店じゃないので、店の前ではガードレールに腰を掛けて食う奴の姿が多い。もちろん俺もその一人である。まあ、これだけ同罪がいれば人目も気にならないと言う物だ。
「ひょっとして…小林君?」
さっきから女の子がジロジロ見ていると思ったら、俺の事を知り合いだと思ったらしい。
「いや、俺は小林だけど」
「だから、小林君でしょ?」
あれ?
彼女は俺の事を小林だと勘違いして、俺は小林だから違…わないのか?
「君は誰?」
「私?宮前 梢(みやさき こずえ)。思い出した?」
宮前、みやさき、ミヤサキ…
だめだ、思い出せない。
「うーん、5年も経つと忘れちゃうか…」
なんだか失望させてしまっているようだ。
5年前、5年前…ん、5年前?
「あの、もしかして弟と間違えてらっしゃる?」
「え?弟?」
「小林 駆(こばやし かける)と言いませんでした?」
「えー!じゃあ」
「双子でね」
「ごめんなさい。つい勘違いして、双子のお兄さんがいるなんて全然知らなかったし」
「無理もないよ。俺、生まれつき体が弱かったから、小学校にはまともに行ってないんだ。双子の兄弟がいるなんて知らなくて当然だよ」
「ホントにごめんなさい。でも、こういうのもすごい巡り逢わせですね?」
「そうだね」
「あの、お兄さんの名前は?」
「ああ、俺?俺の名前は翔(しょう)」
「ショウ?どんな字を書くんですか?」
「飛翔の翔だよ」
「へー、駆君に翔君か。二人とも良い名前ですね」
「そうだね」
「じゃあ、私はこれで、駆君によろしく言っておいてくださいね。それじゃあ、さよなら」
そう言って彼女は通りの向こうに消えていった。


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