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Tactics ONE short story



輝く世紀へ




by laughcat




僕は余りにも多くの物を残してきてしまった。
(あちら側にという事だね)
そう、そしてそれは僕が残してきてしまった人達を苦しめている。
(…残すべきではなかったと思うのかい?)
うん。残される側にとってはとても辛い事なんだ。彼らにとって僕の思い出というのは重荷以外の何物でもないんじゃないか?僕はここにいて、そう思わずにはいられないんだ。
(思いは…残したくなかった?)
そう、残したくなかった。…残したくなかったんだ。

≪5月12日≫
「ここまで来れたのも、俺の作戦勝ちと言うものだろう?」
決勝戦で草野は俺にそう言った。
実際は作戦なんてものじゃない。くじ運が良くて、シードを引いただけのことなのだ。
我が校の体育祭は、各クラス約10名の実行委員と、残りの生徒による参加選手とで催される。
競技種目は男子サッカー、女子バレーボール。
テニスは男子と女子に分かれており、それぞれダブルスとシングルスがある。
男子10キロ、女子5キロのマラソン。それぞれ各クラス5名程度選出。
そして男女混成によるリレー。
それぞれの競技毎の順位で点数がつけられ、合計点の高いクラスが優勝となる。
ここまでに結果が出ている物だけで、バレーが一回戦敗退。テニスは6位と健闘。マラソンはあの椎名がトップでゴールしたと聞いている。つまり、我らがサッカーもここで1位をとっておけば、うちのクラスの総合優勝は確実なものとなる。
ボンッ
俺達の後方10m程のところにボールが落ちた。すかさず草野が拾いに行こうとする。
「待て、あれは御嶽(みたけ)が処理する」
丁度、上がってきた御嶽がボールを確保し、トップの大石(おおいし)が更にフロントラインを上げる。
しかし御嶽が放ったパスは相手にカットされ、防戦に転じる。
相手の2年生は、元サッカー部員もいるらしく、なかなか手強い。
「新島弾けっ!」
俺が叫ぶと新島(にいじま)が走り出して、相手のシュートラインに割り込む。向こうが蹴ったボールが上手く新島の脚に当たり、大きく弧を描いてキーパーの細川(ほそかわ)の手元に落ちた。
俺は細川の方を向いて御嶽を指差すと、細川は頷いて、きっちり御嶽の位置にボールを投げた。
フィールドに立つと、次の展開が手に取るように判る。何故だろう?
昔、駆と戦術を練り合った事があるが、それとは似ているようでいて違う。違うようでいて似てる。
フィールドそのものに対する既知感がある。ベッドの中で、想像の中だけでやったサッカーを、今、俺は現実にやっている。
「草野っ」
今、自分がフリーである事に気付いた俺は、草野呼びかけてパスを送らせる。
いけるっ。
確信があった。パスを受ける前に、ボールを蹴る前に、ボールを蹴った瞬間に、
このシュートが決まるという確信があった。
ピーッ
ボールはゴール右隅のネットを直撃していた。

本当に大変だったのはその後だった。草野達は祝勝会をやろうと盛り上がり、俺と椎名はMVPだともてはやされ、田槙はサッカー部の主将を連れてきて、更に本格的な勧誘を始めた。
俺と渡辺は、椎名がへとへとになっている事を理由に、祝勝会を見送るように説得し、渡辺は椎名を送っていくと言って、今日の帰りは別行動にした。
いつもの交差点には、梢ちゃんが待っていた。最近はいつもここで落ち合うようにしていた。
「体育祭だったんだよね。どうだった?」
今日が体育祭だった事は、既に渡辺が話していた。もちろん、それぞれの出場種目も
「椎名が1位だった」
「えー、すごぉい。それってすごいよー」
「それで、へとへとになってな、今日は来ないんだ。渡辺も椎名を送ってくって」
「あ、そうかー、翔君も疲れてるんだよねー」
「俺は構わないよ。真っ直ぐ帰るのって好きじゃないからな」
「そう?翔君がそういうのなら…でも、どこに行く?」
「どこにしよう?どっか行きたいところって無い?」
「無い事も無いけど…」
「どこ?場所が判っているのなら、そこにしよう。」

20分後
俺は彼女に案内されて、とある住宅街を歩いていた。
「この辺だと思ったんだけどなー」
彼女が探しているのはたいやき屋。彼女がこっちに住んでいた頃に、行った事のあるたいやき屋だそうだ。
「たいやき屋をやるには似つかわしくない所だな」
住宅街は住宅街でも、ここは高級住宅街。門構え一つ取ってもレベルの違いがはっきりしている。
「つぶれたんじゃないかな?この家なんか結構新しそうだし」
と言うより、ここに建っている家で、古そうな物が見られない。どう見てもここいら辺が、ここ数年のうちに高級住宅街に変貌した感じだ。
「はあ、5年の月日って大きいのねぇ」
「それはしかたが無いよ。むしろ羨ましいくらいだよ。俺なんかは昔の様子なんて全然知らないからね」
「え?あ、そう言えば体が弱くて小学校行ってなかったんだよね?」
「そう。こうやって街を歩けるようになったのも、極最近なんだ。」
「そっかー。ごめんねー、付き合わせちゃって」
「そうだ。梢ちゃん、明日用事とかある?」
「え?特には無いけど」
「もし良かったら、こっちに出てこられないかな?梢ちゃんの思い出の場所で、残っている所を探してみないか?」


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