Back/Index/Next
Tactics ONE short story



夕焼けのそら


〜思い出にみえる未来〜

by まろびー



「何故だろう?」 
奴が口をひらいた。 

「あれから、一年がたったんだよ。もう僕は消えていて当たり前なのに。」
「回りは、みんな忘れてしまって・・・、自分も、昨日の自分が何をしたか」
そこで口を閉じる。

忘却。
虚無。

そんな流れが伝わってくる。
俺は、『戻ってきた』俺には、何を言っていいのかわからない。
あの、消える前の寂寥とした感覚は、二度と思い出したくないものだ。
人、の恋しさを知ればなおさらだ。
人、を否定して、自分だけの世界を求めていたはずなのに、だ。

「あなたは、消えます。」
突然、茜が口を開いた。驚いた俺は茜の顔をみた。
ちら、とこちらをみると、茜は軽く頷く。

「一度、人や現実を否定して、あらぬ世界をのぞんだ以上・・・
 あなたは、消えるしかないんです。
 ただ、『消える』あなたが、『消えていた』この人を望んだから、あなたは、踏みとどまっていたのではないでしょうか。」

「そんな、事が、あるのか?執行猶予みたいな・・・。」俺が言う。

悲壮な顔であろう『俺』。
必死で語る『茜』。
ただ、笑みを浮かべる『氷上』。
夕日が俺達をてらす。
何故、夕日は見上げると、心がせつなくなるんだろうか。
何故、幸せな時間は永遠に『続かなかった』のだろうか。
俺、はその答えがわかったはずだ。
わかったから、今、此処にいるんじゃないか。だから・・・


「すると、僕は、彼が戻ってきたから、消えるのかい?」と奴が言う。
「えっ」茜が返す。
「茜、さんだったね。君が言う理論だと、僕は、そこの彼を望んだ。そして、彼は、まあ僕よりも、君たち二人の思いで戻ってきた。そうなると、用無しになった僕は、入れ替わりみたいに、消えてしまう、そういう事なのかい?・・・だとしたら、あまり面白くないね、僕の立場は・・・。」

奴が歩み寄ってくる。

「違いますっ!!!」茜が叫んだ。
「あなたは、この人を望んだ。それはあなたが、今、この世界に残りたいと言う事なんです!!何もかも忘れた筈なのに『思い出す』と言う事はあなた自身がここに残る事を心の何処かで望んでいると言う事なんですっ!!」

「・・・で?」氷上が呟く。もう、笑みは、消えている。

「私は、昔、好きな人がいました。でも、その人は消えてしまった。その人は二度と、帰ってきませんでした。でも、私は忘れなかった。そして、一人心が取り残されたんです。そんな時に私は、この人に出会いました。」

茜が俺の腕にしがみついた。日頃はこんな事、めったにしないのに。
そして、瞳から涙があふれている。

「この人は、私の心を救ってくれた。そしてお互い好きになりました。でも・・・この人も現実に絶望していた。今にも消えるという、現実をつきつけられた。私も、どうしていいか、わからなかった。だけど、この人は消える最後まで私の事を思ってくれた。私も精一杯この人のことを思いました。そして、この人は、帰ってきてくれた。一度、消えたのに。だから、きっと・・・」

毅然として茜が言う。

「奇跡は、起こります。戻ってこれます。あなたが、消えても、その気持ちがあれば。」

「だれが、消える、僕の事を考えてくれるのかな?皆、忘れているのに?」
氷上の気持ちが伝わってくる。
誰かに見て欲しい気持ち。
誰かに『自分』の存在を受け止めて欲しい気持ち。

「今、話をしている俺達では駄目なのかい?」俺は、口を開いた。
「俺達では、お前をささえられないのか?氷上?」

俺は、帰って来れた。お前が帰れないって事はないはずだ。
お互いの『今からの未来』への思いがつよくなれば。

「昔の、思い出だけじゃ駄目なんだ。俺達でこれからを創ろうぜ。氷上。きっと未来にも楽しい事はあるはずだ。」
茜を後ろから、強く抱きしめる。茜が俺のうでに、手をそえた。

「茜は、俺のささえになってくれた。氷上、俺がお前の支えになってやる。だから・・・・言葉は悪いが、安心して消えろ。そして、俺達は忘れない。おまえも必ず戻ってくる事を考えろ。」

言葉を区切る。一息入れる。そして、奴を見つめて、言う。

「いいな。俺達は忘れない。約束だ。だから戻ってこいよ。」

氷上は背中を向けて夕日を見つめた。そして、奴の声が聞こえてくる。

「君達に会えたのは、僕にとって、どういう結果になるか、わからないけど・・・とりあえず、うれしかったよ。・・・また・・・・・・・」

・・・・・・・・氷上は、消えた。

俺達は、そのまま、夕日をみつめている。



                         (つづく・・・)
  次回〜「〜未来にみえるもの〜」です。 次でおわりです。m(__)mです。


Back/Top/Next