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Tactics ONE Short Story



最高の予感




by 村人。



女の子にとってそれはとても大切な日。クリスマス・イヴ。
何よりあたしには…今年のあたしには、好きな人がいる。
何度も彼にあたしをクリスマスに誘わせようと思わせぶりな言葉で誘いをかけてみても、全く気づく素振りのない鈍い彼。
あたしが何のために瑞佳たちのパーティを断ったのか、考えもしない。
…そんなヤツだと、分かってはいるんだけどね…
だから今日は、最後のチャンスである今日は絶対に、勇気を出して、あたしのほうから誘ってもいいと思っていた。
今日がまさにそのクリスマス・イヴだったから。


1.”起”

「七瀬さん」
「え?」
あたしが知らない男の子から声をかけられたのは、終業式前の体育館の入り口でのことだった。
初めて彼を見た印象は、「キレイな男の子」。
美男子っていうのはこんな人のことを言うのかな、と思った。
少なくとも会ったことがある相手じゃない。会っていたら絶対に覚えている自信があった。
「あ、ごめんね。怪しい者じゃないんだ。折原君に用事があってね」
あたしが訝しげに見ていると、彼はにこりと微笑んで言った。
折原の友達?
それとも何かの委員会の業務連絡とか?
「あ…折原なら、呼ぼうか?」
「いや、いいんだ。ただ、折原君にこれを渡して欲しくて」
そう言ってあたしに差し出したのは白い封筒。
表にはキレイな字で「折原君へ」とだけ書いてある。
「う、うん。わかった。渡しとく」
何だろう。妙な胸騒ぎがする。
「ありがとう。それじゃ、お願いするよ」
男の子はもう一度穏やかに微笑むと、廊下を向こうに歩いていった。

改めて手渡された封筒を見てみる。
これって…
「…まさか、ラブレター…?」
まさか、まさかよね。だいたいさっきの子、男の子だったし。
…でも、女の子から頼まれたって可能性もあるよね。
クリスマスに告白なんて、よくあること…なんだよね…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・見ちゃおっか?
どきどき。
光に透かして…見えない…
そうだ。確か何かの番組でやってたっけ。透かす時に何か筒状の物を押し当てると…ってヤツ。
周りからの光が遮断できればいいんだよね。うん。
手でこうやって―――

「…何してんだ、七瀬?」
ぎくうぅっ!
背後から聞こえたその彼…折原の声に思わずそのポーズのまま固まってしまう。
「あ、あのね…こ、こうやってね、今日の運勢を占ってたんだ…えへ」
身振りを加えながら話しつつあくまで「さりげなぁ〜く」手紙を腰の裏のスカートに引っかけて隠す。
よし、完璧。
「ほお…で、結果は?」
「あ、うん、えっとね…”がんばれ”って」
ああ、もう、あたしったらもうちょっとそれっぽい言葉は出ないのっ。
「そっか。まあ、がんばれよ。誰と果たし合いするか知らんが」
「するかっ!」
ともかくいつものやりとりに戻って一安心。
なんとか誤魔化しに成功したみたいね…ふう。
「とゆーわけで今隠した手紙を渡してもらおうか」
…ばれてるし。
「あ、これはね、あの―――」
その時、チャイムが鳴った。もう点呼の始まる時間だ。
「オレへの手紙なんだろ。式中に読むから渡してくれ」
「…はい…」
あああ気になるうっ!


2.”承”

「前略 折原君へ

 もう君も勘付いている頃かも知れないけれど、
 僕たちに残された時間は残り少ない。
 僕は、君と出会えた事を、この巡り合わせに感謝している。
 最後に君を想いながら行けることを幸せに思うよ。
 忘れないで欲しい。
 今日は「特別」なんだ。君の絆にとってもね。
 だから―――」

「…ふぅ」
退屈な校長の話の間に読んだその手紙は、つい最近知り合ったばかりの―――少なくとも浩平にとっては―――、彼からのものだった。
氷上シュン。
一度も名前で呼ぶ機会は無かったが、彼はそう名乗った。
そして今、その機会は2度と来ない事を知った。
(特別な日)
今までそんな意識を持ったことは無かった。ただ街はいつもより華やかで、俺たちは男同士で騒いで…ただそれだけの日だった。
「家族がいれば、少しは違ったかも知れないけどな…」

浩平も、実際のところ、七瀬が自分とクリスマスを過ごそうと暗に誘っている事くらい、とっくに気づいていた。
ただ、気づかないフリをして、自分の、七瀬に対して芽生えつつある特別な感情から、目を逸らそうとしていた。
七瀬も、女の子なんだ。
知っている。会った時から、知っている。
だけど気づいていなかった。
浩平はもう一度手紙の最後の文を読み返して―――

何事もなく終業式は終わった。


3.”転”

「何の手紙だったの?」
あたしは式が終わると同時に折原の所に急いで、一番重要な事を尋ねた。
校長の話なんて一文字たりとも耳に入ってない。
ずーーーーーっと、手紙のコトしか頭になかった。
「友達の手紙だよ。まあ、クリスマスメッセージみたいなもんかな」
なんだかはぐらかされたような答え。
クリスマスメッセージ?あの男の子の?
「あのさ…」
ひとつ、まず確認しておかなきゃいけないコトがあった。
とは言ってもあまりストレートに聞けるものでも無いし、なるべく婉曲的に…それとなく…
「折原ってさ、ホモ?」
直球ど真ん中。
ちょっとは頭使いなさいよあたしってばっ。
「………違う」
…って、今、なんか返事にちょっと迷ってたしっ。
微妙に思い当たる節があるって顔だったわ絶対。
あ、ちょっと頭抱えて悩んでる。…聞いちゃいけなかったかな。
「言っておくが、オレは普通だ。ノーマルだ。女の子が好きだっ!ただアイツの雰囲気が…なんだ…その…」
なんとなくわかった。なんか、なんとなく…
不思議な沈黙があたし達を支配した。

…いいや。それより、今日のこと…言わなきゃ。
精神的に優位に立っているうちに言ってしまえば意外に簡単なことかも知れない。
ちょっと茶化すような感じで「女の子がいいんだったら、あたしが今日つき合ってあげる」とか軽く行ってみるのもアリかな。
さあ覚悟を決めて―――
「…そんな事よりっ!」
そんな時突然折原があたしのほうをじっと見て、一段声を大きくして、
そして、
続けたその言葉は、
「今日…よかったらオレと一緒にクリスマス…どうだ?」
最高の予感がした。


4.”結”

「おう、待たせたな、七瀬」
「待たせすぎ」
あの後浩平は例年通りの男集団の打ち上げに参加して…浩平としては非常に珍しいことに、七瀬との待ち合わせを考えてかなり余裕を持ってパーティを抜け出していた。
今日くらいはマジメに時間を守ろうと決めていた。
のだが。
考えもしなかったところ―――服装選びに難航した。
何せ今までそんな事に気を遣ったことなどない。こんな時のための服なんて用意されているはずもなかった。
結局散々悩んだあげく、手持ちの中で一番マトモそうなものを選んだのだが。
気がつけば完璧遅刻の時間だった。
「45分ほど遅れただけだ。まあ、細かいことは気にするな」
「…他に弁明はないの?」
「実はここに来るまでに4つの難所が待ちかまえていてな。特に3番目の佐藤さんちの番犬メリーが手強かったぜ」
「あほ」 そんないつも通りのやりとり。
今日はそれさえも何か心地よかった。

ちょっとだけ無理したレストラン。
二人とも慣れてないのがばればれで、必要以上に緊張した。
いつも行き慣れたはずの映画館。
親友を助けに戦場に乗り込んだまま帰らぬ男を待ち続ける恋人の話が、
何故か心に重く響いた。
小さな喫茶店で小さなクリスマスケーキ。
たっぷりのクリームがとても甘かった。

「今日は本当に楽しかった」
帰りの公園で、七瀬は言った。
「正直言うと、びっくりしてる。折原がこんなにしてくれるなんて…まるであたしの心を読んでくれてたみたい」
浩平は軽く苦笑した。
それならアイツに感謝しないとな。
「オレだって驚いてるさ」
「?何が?」
「七瀬がまるで女の子みたいな格好して来てるからな」
「あたしは女だってば…」
今日の七瀬は…一言で言えば、可愛かった。
(きっとコイツも着る服探すのに苦労したんだろうな…)
浩平はなんとなく想像して、笑った。
「もう…やっぱりこうやって話してると雰囲気も何もあったもんじゃないわ」
「いいだろ別に。これが俺達なんだからな」
「あたしを一緒にしないで」

公園に青い光が射していた。
時計台は今10時を指そうとしていた。
「あ…あたし、もう帰らなきゃ」
七瀬は寂しそうに呟いた。
「そうだな。途中まで送るよ」
「うん…」
返事はするものの、その場から動こうとしない。
「あ…あのね、あたし…あたしね…折原…」
「七瀬」
「あ…」
浩平は自然に肩を抱き寄せた。
七瀬は自然に身を任せた。
街灯と虫よけの青い光のなか、静寂に包まれて、
二人は初めてのキスをした―――


「だから、君も今日を後悔のないように、
 可愛い彼女と最高のクリスマスを過ごして欲しい。

 僕にはもう君に何の影響力を与えることもない。
 さようなら、折原君。
 メリークリスマス。
                       草々 氷上シュン」


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