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Tactics ONE short story



輝きを求めて


第3話

by 佐倉 砂緒



俺の中で、次第に大きくなっていく《里村茜》という存在。
それは、あの日の行動にも現れていた。
そう、茜と、昼飯を一緒に食おうと思ったあの日の事だ。

その日、俺は、茜と昼飯を一緒に食おうと思い、南の席に座り、後ろを向いた。
その後ろには、茜が座っている。
「一緒に食わないか?」
との俺の問いかけに、茜はさっさと席を立ってしまった。…失敗。
あまりの悔しさに、後ろを向いた態勢のまま、菓子パンをかじってたっけ。
今にして思えば、馬鹿な事、やってたよなぁ…。

その後は、真冬の中庭で、一緒に(と言えるのかどうか)昼飯を食う日々が続いた。
あれは、正直寒かったが、でも、茜と一緒にいられる時間でもあった。

何度かそんな事を繰り返しているうち、俺は茜の弁当を食うチャンスに巡りあえた。
なんでも、調理実習で作ったものを食べたとかで、お腹が空いてないのだとか…。
菓子パンだけで、全然食い足りない俺にしてみれば、ラッキーな話である。
…で、茜の手作り弁当を食った感想だが、「美味い」この一言に尽きる。
流石は、「料理、好きなんです」と言うだけのことはあるよ。

そうこうしているうち、俺は南から不思議な話を聞かされた。曰く
「あんな楽しそうな里村、初めて見た」と。
(楽しそう…?)
俺には、いつもと同じで、ちょっと無愛想な風にしか見えないけど…。
でも、もしかしたらそうなのか…。

それから、茜とは、お互いを名前で呼び合うようになった。
茜が、俺の名前を覚えていてくれた事に、ささやかではあるがうれしさを感じた。

こうして、俺の中の《里村茜》という存在は、次第に大きくなっていった。
もしかしたら、茜の中では、「俺」の存在が大きくなっているかも知れない、
そんな事を思ったりもしながら…

…そして、俺はこの頃から、自分の心に迷いが生じていた。



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