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Tactics ONE Short Side Story



木曜日


〜里村茜〜

by T.横島



 久しぶりに学食でお昼を食べた。昨日は体調が悪かったため早めに寝てしまい、翌朝は時間までぐっすりと眠っていたのでいつも用意するお弁当は作れなかった。出発間際に手早く軽いものでも作ろうと考えていたが、ご無沙汰の学食でも悪くないと判断して結局何も作ってこなかった。
 5時限目まで時間に余裕があったため、教室への道を途中で折れ、遠回りをして学校内を歩く。そして昇降口に来たところで里村茜は見知った顔を見つけた。向こうもそれに気づいたらしく手を振って呼びかける。
 「あ・か・ね〜〜」
 「詩子・・・・・・」
 茜の幼なじみである柚木詩子がそこにいた。そしてさも当然のように茜の側へと来る。
 「詩子、今日はどうしたんですか?」
 「う〜ん、久しぶりに茜の顔でも見ようかと思って遠路はるばるやってきたの」
 詩子が前に来たのは2日前だった。しかも教室で授業を受けるというおまけ付きで。
 「やっぱり学校が違うと毎日茜の顔は見られないし。この前、久しぶりに会ってから茜に会うのが楽しくなっちゃったんだよね〜、ちょっと遠いけど。それにこの学校、あたしには居心地がいいし」
 「・・・それだけですか?」
 詩子の話し方からすると、茜だけに会いに来ているようには思えなかった。何となく背後の目的を知りたくてカマをかける。
 「あとね、澪ちゃん。この前来たときには会えなかったからね。今日こそはと思ってたんだけど・・・。澪ちゃんは、いないの?」
 「今日はまだ会っていません。教室に行けばいると思いますけど・・・」
 そこで言葉を止める。詩子は最初茜のクラスへとやってきて、浩平を含め周りにいた場の人間を一時的だが混乱を期させた。ここで澪のもとへと案内したらことさらに状況は悪くなる。詩子には悪いがここは穏便に断っておこう。茜の思考はここにたどり着いた。そして茜自身、驚くほど素直に言葉が出てきた。
 「・・・たぶん、いないと思います」
 「そっか、残念だな〜」
 わざとらしく残念がる詩子。ここで茜はもう1人の名前が出ていないことに気づく。
 「浩平は・・・どうします?」
 そこではじめて詩子も気づいたようだった。
 「そういえば折原君は?一緒じゃないの?」
 逆に問い返される。これも意外だった。
 「実は先に折原君と会ってて、茜探してもらうのを手伝ってもらってたの。ここに茜が来たから、てっきり呼ばれてきたのかと思ってたけど・・・。まだ探してるのかな?」
 そう言って手をかざし、周りをきょろきょろと見る。ここで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
 「あ、もう時間だ。また来るね、茜」
 そう言い残して、茜の返事も待たず詩子は昇降口から足早に出ていった。最後に茜に手を振って・・・。
 そのまま昇降口にいた茜に今度は後ろから声がかかる。少し息を切らせた浩平。
 「茜、こんなところにいたのか。柚木が探してたぞ」
 「会いました。さっき帰ったところです」
 「あれ、探させた俺には何の挨拶もお礼もないのか?・・・柚木のやつ、なんか言ってなかったか?」
 「特にないです。・・・行きましょう、授業に遅れます」
 茜に促されて、詩子への文句を呟やきながら浩平も後をついてくる。教室前の廊下に出たところで、茜は浩平のほうへ振り返った。
 「・・・詩子は、また来ますよ」
 「ん?」
 茜の言葉にとまどった浩平。それを見て茜は知らないのうちに浩平に笑顔を見せていた。


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