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Tactics ONE Short Side Story



土曜日


〜椎名繭〜

by T.横島



 1週間の締めくくりとなる土曜日。科目数も少ないため授業も午前中で終わる。
 HRが終わり、担任が教室を出ていったあとも椎名繭は椅子に座ったまま、ただ周りを眺めていた。机には先ほどの授業で使ったらしいノートがそのまま残っていた。
 「どうしたんだ、椎名。今日の授業はもう終わりだぞ」
 「うん」
 浩平の呼びかけに焦点の定まっていないような眼でとりあえずうなずく。だがそれでも次の行動に出ることはなかった。
 「あれ、どうしたの繭。今日はもう終わりだよ」
 反対側から瑞佳の声、そちらを振り向き、再びうなずく。
 「今日は部活のほうなんとかなりそうだから、家まで一緒に帰れるね」
 瑞佳の言葉に浩平が反論らしき言葉をつける。
 「あれ、大会とか近かったんじゃ・・・」
 「うん、でも合わせとかもほとんど出来ているし。ちょっと無理言ってお願いしてきたの」
 「ふ〜ん。じゃあ今日は長森に任せるか。俺、用事あるから」
 ここで繭が「えっ」という驚きの表情を見せた。そのまま浩平の方を見る。
 「住井たちと別教室に集まって、ちょっとな」
 右手をあげて謝罪をする浩平。そして後ろから声。
 「折原、準備はいいか?行くぞ」
 すでに住井は瑞佳の後ろへと移動していた。
 「おう。・・・そういうわけだ、わるいな長森。あとは任せた」
 いうやいなや、浩平は住井と連れだって教室を出ていった。
 そして教室には繭と瑞佳が残された。居心地が悪くなったのか、瑞佳は繭を促す。
 「帰ろっか、繭」
 瑞佳の声に軽くうなずき、繭は無言で席を立った。

 まだ太陽が高い位置にある午後の商店街。繭と瑞佳は交わす会話もないまま歩いていた。繭の手には瑞佳が買ってやったハンバーガーの包みが握られていた。学校を出てから落ち込んでいた様子の繭を元気づけるために買ったもの。それでも繭の表情に普段見られる笑顔はなかった。
 不意に繭が立ち止まる。少し遅れて瑞佳が気づき、来た道を戻る。
 「どうしたの、繭?」
 うつむいたままの顔を瑞佳がしゃがんでのぞき込む。今にも泣きそうな眼と小さなしゃくり声が聞こえた。
 その表情を見た瑞佳が元気のない繭に答えを出させた。
 「・・・やっぱり、浩平がいたほうがいい?」
 涙を浮かべた眼で小さくうなずく。時計の針は「13:10」。瑞佳はひとつの結論を出して再び繭に問う。
 「学校・・・、もどろっか」
 繭が顔を上げる。
 「浩平、まだいるかも知れないし。遅くなるかも知れないけど、一緒に帰れると思うよ」
 大きく頭を振る。眼に残った涙がわずかばかりだが飛ぶ。その顔にさっきほどまでの陰りはなかった。
 「さ、もどろっ。走るよ、繭」
 「みゅー♪」
 先に走りだした瑞佳を繭が追いかける。商店街を行き交う人々の中を、2人は授業の終わった学校へ戻っていった。


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