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Tactics ONE Short Side Story



月曜日


〜長森瑞佳〜

by T.横島



 また新しい週が始まった。斜めから陽が入ってくる穏やかな早朝。浩平の家へと続く道を長森瑞佳は歩いていた。時計を見る。「7:45」、始業までにはまだ充分時間がある。
 「今日は遅れなくてすみそうだね」
 誰にともなく声をかける。一陣の冷たい風が吹き、瑞佳の髪が空になびいた。

 街を少し離れた簡素な住宅地。その中の「小坂」と表札の入った家に浩平は住んでいる。
 「今日は起きてるかな」
 2階の窓を見上げてつぶやく。浩平の部屋の窓にはカーテンが閉まっていた。
 瑞佳は何のためらいもなく門をくぐり、とりあえず呼び鈴を押してみる。軽快なメロディーが家の中から聞こえてきた。待つこと1分、やはり誰も来る気配はない。
 解っていたように瑞佳は玄関のドアノブをまわす。ドアは難なく開いた。この家の持ち主でもある由紀子が、浩平を迎えに来る瑞佳のために、鍵はかけないで出掛けているらしい。
 玄関の戸口から入るかすかな陽の光が瑞佳を迎える。「おじゃまします」と声をかけてから靴を脱ぎ、瑞佳は家の中に入っていった。まず、玄関左手のリビングを戸口からのぞき込む。
 「こ・う・へ・い、起きてる〜?」
 中に入ってもみたがやはりいなかった。一通り1階を散策してから2階へ続く階段を上っていった。
 少し広めの踊り場、それに沿う浩平の部屋の前。シンプルな木製のドアをノックする。2回、応答はない。
 「浩平、入るよ」
 呼びかけのない主に断り、瑞佳は部屋のドアを開ける。
 毎朝学校に行くときに見る浩平の部屋。雑誌や服などが散らばっているのはいかにも男の子の部屋というのをただよわせている。そして当の部屋の主は、ベットで布団を頭からかぶり寝息を立てていた。
 通学鞄をドア口に置き、瑞佳は窓へ向かい一気にカーテンを開ける。上空に昇った太陽の光が真っ暗な部屋に入ってきた。それから窓も開けて空気の入れ換えをする。外の新鮮な空気が部屋に入ってき、代わりに暖かさを持った室内の空気が外へとぬけていった。
 「ほら。浩平っ、朝だよ!」
 ベットの上の物体を掛け布団ごと左右に揺する。だが、うねり声をあげるだけで動こうとはしなかった。
 「もう・・・、ほらっ!」
 掛け布団を思いきって引っ張る。布団が空を泳ぎ、埃が舞った。同時にそこに隠れた物体が正体を現す。パジャマ姿の浩平がそこにいた。
 「う゛っ・・・。さ、寒い・・・・・・」
 防寒具でもある布団をとられ、外から入ってきた空気の冷たさに浩平は身を縮めた。
 「浩平、起きた?」
 「・・・長森か・・・、おはよう。・・・・・・布団、返してくれないか?」
 その言葉を聞く前に、瑞佳は布団を抱いて窓へと向かい、手すりにかけて2,3度叩く。そして椅子にかけてあった制服と鞄を持って浩平の前に差し出した。
 「長森・・・、布団・・・」
 暖かさのよりどころとなる布団を求めて彷徨う浩平の手に無理矢理制服を押しつける。同時に浩平をベットから引きずりおろした。
 「ほら、時間あんまりないんだから」
 瑞佳に背中を押され、しぶしぶ部屋を出ていく浩平。仏頂面の浩平とは対象に、いつもの朝に瑞佳はうれしそうに微笑んでいた。


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