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Tactics ONE Short Side Story



火曜日


〜折原浩平〜

by T.横島



 4時限目終了のチャイムが鳴った。学校での休息時間ともなる昼休みに入る。授業中、ずっと机に伏していた折原浩平はその音で目が覚めた。
 寝起きでまだゆらいだままの目をこすり、教室を見回す。ちょうど教員が教室を出て行くところで、それを尻目にクラスの生徒は各々行動を取り始めていた。弁当を広げるもの、友人達で集まるもの、学食へと向かうもの・・・。今日の浩平はその中のひとつだった。ポケットに財布が入っているのを確認し、席を立つ。
 「住井、もう昼だぞ。学食行かないか?」
 隣の席に座る悪友、住井護に声をかける。机に向かって何かに取り組んでいるようだった。浩平の声に顔を上げる。
 「悪いな、折原。忙しいんだ。今の俺には飯を食う時間さえ与えられていない」
 レポート用紙と向き合っている住井。しかしその机には勉強道具となる教科書類は一切置いていなかった。
 「このクラスを巻き込んだ巨大プロジェクトは再び進行中だ。前にもましてこいつは人の心に残る物となる。・・・こいつは、すごいぞ」
 目の前のレポート用紙を真剣な目つきで見つめながら語る住井。机においた両腕がわざとらしく震える。半ば呆れながらも浩平は住井を促した。
 「またか・・・。今度はなにやらかす気だ?」
 過去に住井は、留美が転校してきたときに同じように銘を打って『クラスの女子人気投票』なるものを成し遂げた。そして去年のクリスマス前、浩平が犠牲者となった『クリスマスキャンペーン告白権利進呈』。相変わらず脳細胞の回転は止まるところを知らない。
 「秘密だ。近日中に公開予定、とだけ言っておこう」
 ビシッと指を突きつけて再び作業に戻る。これ以上は無用とみて他の友人を探すことにした。だが、生憎他の友人もすでに別の行動をとっていた。
 食堂に行けば誰かしらいるだろうと判断して浩平は教室を出ることにした。
 「あ、ちょっと待て折原」
 後ろから住井に呼び止められる。
 「悪いが学食ついででパンを1個買ってきてもらいたい。見てのとおり、俺は手が放せないからな」
 そう言って両手を広げてみせる。飯も食えないような巨大プロジェクトが本当に存在しているのだろうか。そんな疑問も浮かんだが、あえて追求しなかった。
 「わかったよ。残っていたらな」
 「すまん」という住井の声を背に廊下へと向かう。途中、瑞佳と目が合ったが、友人と食事中らしいのでそのまま声をかけずに教室を出た。
 教室の外でも生徒の話し声はあちこちから聞こえてきた。廊下を行き交う生徒とすれ違いながら食堂へと足を進めていく。
 ふいに廊下の窓から校庭を見る。冬に葉を散らした樹にわずかだが芽が見えた。
 「・・・もうすぐ春か。暖かくなりそうだな」
 少しの間、廊下に立ちつくして外の情景を眺めていた。それから再び歩を進める。

 幸せな日常・・・浩平は再びその世界へと身を投じていった。


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