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Tactics ONE Short Side Story



一週間後


〜氷上シュン〜

by T.横島



 灰色に染まった空に薄暗い雲が流れていた。風は少し強めで肌寒い日。いつしか窓に水の点が映り、やがてそれは数を増していった。静かだった校舎の中に激しい雨の音が響いた。
 いつもと変わらぬ授業の終わった放課後。今日は傘を持たぬ生徒たちが教室内で友人たちと談話を広げている。時々窓を見ては、外の様子に溜息を吐くものもいた。
 そんな教室内とは離れた別校舎の3階、軽音楽部部室。外の様子を窓をとおして眺めながら氷上シュンは壁によりかかっていた。
 部室のドアが横に開く音がしてそちらを振り向く。この場所に来るのはよほどの変わり者しかいない。案の定の顔がそこに現れた。
 「なんだ、またここにいたのか」
 つい最近、再び出会った同学年の生徒、折原浩平。
 「どうしたんだい、キミから来るとは珍しいね。何かあったのかい」
 部室に入ってきた浩平に声を返す。浩平は手近な椅子に座って窓の外を見上げた。
 「天気予報で午後から晴れって言っていたから、傘持ってこなかったんだよ。そしたらこのざまだ。教室じゃうるさいやつがいるからな。仕方がないから雨がやむまでここで寝ていようかと思ったら・・・」
 「・・・僕がいた。そういうことだね」
 浩平の言葉を付け加える。小さな肯定の声が聞こえた。
 「それで、どうするんだい」
 促すと浩平がゆっくりと氷上のほうを向く。明らかに不振な顔だった。
 「どうするって・・・」
 「眠っていてもかまわないって事だよ。僕が邪魔でなければ、だけど」
 「俺は男が側にいて眠りにつくような趣味や性格は持ち合わせていない」
 浩平はきっぱりと否定する。
 「じゃあどうする。ここでただ待っていても無意味に時間を労するだけだ。こんな時にしかできないことだってある。幸い、ここにはそれを持て余せる物がいくつかあるからね」
 そう言って部室を眺める。いくら人の出入りが無くなったとはいえ、部としての道具はある程度そろっていた。浩平もつられて部室内を見回していたが、一通り見たところで溜息をつく。
 「だめだな。どれもこれも俺に向きそうな物はない」
 そう言ってから、浩平は机に肘をついて、手に顎を乗せる。ぼうっとした目で雨の街並みを眺めていた。
 「話でもするかい」
 「そうだな、俺が飽きない程度に」
 その言葉を聞いて氷上は笑う。
 「大丈夫さ。キミにも興味深い話だよ」

 小1時間ほどの会話が続いた。やがて雨の音が徐々に小さくなってきた。雲が流れ、その切れ間から陽の光が射す。水を浴びた街並みがその光を幾重にも反射させる。
 「やんだみたいだな。さて、行くか」
 椅子を引いて、浩平が立ち上がり廊下へと向かう。その途中で、行動にでない氷上を見て声をかける。
 「帰らないのか?」
 不思議そうな目で浩平が氷上を見る。
 「そうだね、もう少ししたら帰ることにするよ」
 「そうか。じゃあ、またな」
 とくに追求するでもなく、浩平は手を振って部室を出ていった。最後にドアを閉めた音が響く。
 浩平が出ていったドアをしばらく見つめてから、再び窓の外に目を向けた。少し悲しい目をして。
 「また会えるよ。僕が存在する限り・・・ね」
 言葉は雨上がりの空へと吸い込まれていった。


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