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Original Novel Pochikun Presents



ハルカ


『死臭の界隈』

by ポチくん





「…え、つきましては、何らかの対処法を講じたくて皆様にお集まりいただきました訳であります」
都内某所。
「我々としては、穏便に事を進めたいこともありまして…」
誰かを殺すことに、穏便もクソもあるか…
何かの利益をもたらす為に、不利益を乞わない…そんな事がある訳がない。
(何のための治安なんだか…)
「そこで、我々はある人物を推したい」
私たちにある資料が手渡される。
何やら文字を陳列した一枚の資料。
そこに書いてあった内容は、単純明快なものであった。
暗殺者リスト。
通称そう呼ばれ人物達の名前が、そこには記してあった。
名前…通称…国籍…成功率…
そこに、気になる一人の人物を見つけた。

名前 不明
通称 haruka
国籍 不明
成功率 100%

「我々は、この人物を推したい」
そうやって長官が指差した先には、この人物がいた。
haruka
ハルカとは…
「この人物は、コードネーム『ハルカ』。それ以外の事は一切知られていません」
「しかし、その成功率は実に100%。我々としてはこの人物が適任といえるでしょう」

(しかし、何故私がこのような任を受けねば…)
今日の都内は、梅雨の割には暑く乾燥しきっていた。
強い日差しは私の肌を照らし、そして眩しいほどに視界に入ってくる。
『先ず、我々はこの人物にコンタクトを取らなければならない』
ビルの反射光は、嫌味なほどに温度を上昇させている。
『杉山君。君にこの事を任せよう…』
臭くなった上着を脱ぎ、そして肩に掛ける。
左手で扇ぎながら、風にならない風を自分自身に当てていた。
『場所は…』
街角には、コンビにやらファミレスが立ち並んでいる。
超高層ビル街には、相応しい。

「いらっしゃいませー!」
クーラーが涼しい。
私の汗は一瞬にして蒸気に変わり、冷気となって上昇しすぎた体温を奪っていった。
「ご注文は何にいたしましょう?」
窓際奥の椅子に、私は腰を掛けた。
先ほど挨拶をした女性が、私の席に近づいてきては注文を取り始めた。
私は疲れた体を休めるように、おもむろに口を開いた。
「えーっ、コーヒーとレアチーズケーキを…」
彼女は、金髪の長い髪を後ろで束ねていた。
すらりとした長身だが、まだあどけなさが残る顔はまだ幼い雰囲気を醸し出していた。
「お客様、コーヒーのご種類は何にいたしましょう?」
(…あっ!)
まさか…
ということは、マニュアルどおりにいけば…
「お勧めは…何でしょうか?」
「当店のお勧めは、オリジナルのブルーマウンテンブレンドにございます」
「あ…いや、今日はエスプレッソを頂きたい気分だった…かな」
「かしこまりました、少々お待ちください」
………
…ふぅ、まさか…な。
長官が指定した取引場所が、こんな所とは…
「申し訳ありません…お客様は、その席をお立ちにならずにお待ちください」
「えっ!」
「それでは、失礼致します」
やはり…あの女性だったか。
(いや…しかし、まさか女性とは…しかも、まだかなり若い)
店内は、たくさんの客で賑わっていた。
(なるほど…このような場所の方が、隠れるよりは目立たないもんだ)
私の中では、信じられない部分と疑心暗鬼との部分が回っていた。
もしかして私達は、とんでもない間違いを犯しているのではないか…
情報なんて、宛にはならないものだ。
この『haruka』という人物も疑ってかかるべきだったのかもしれない。
「お待たせしました。レアチーズケーキと、エスプレッソでございます」
「ど、どうもありが…とう」
「他にご用件は、ございますでしょうか?」
ご用件…か。
私は、おもむろに手提げかばんの中に入っていた資料を取り出した。
普通のファミリーレストランの店員…私にはそうにしか思えない。
しかし、我々の探している人物はこの人物なのだ。
「我々の用件は、これだ」
そうやって、指差した。
「我々は、この人物の殺害を依頼したい」
「この人物は白木組の会長、白木宗光。我々は、この人物の重要性を見失った」
「過去までは、我々の裏を支えていた人物であった。しかし、銃規制が厳しくなった今の世の中では奴のやり方は危険すぎる」
「しかし、奴の周りには多くの障害があった」
「我々は、その障壁を越えてまで立件を出来ないのだ…」
「少々手荒かもしれないが…できるか?」
簡単に、用件を話した。
辺りでは、普通のカップル、昼休みのサラリーマン、親子連れの昼食…そんな日常が広がっていた。
そしてこの界隈だけが、死の臭いがした。
「かしこまりました」
………
「しかし、奴の警備は厳重だ。本当に大丈夫なんだろうな」
これが失敗すれば、我々の今まで積み上げてきたことは崩れ去る。
我々は…この女と心中するつもりなのか?
「これから先、わたしとあなたは他人です。今からわたしはレストランの店員に戻ります」
「よろしいですね」
………
こいつ…一体。
私は、コーヒーに口をつけた。
夏場のコーヒーは熱すぎて、私には飲めない。

本当に大丈夫なのだろうか。
国家機密の重要性を…あの女に。
(いや…若すぎる)
私にはなにが真実で、なにが重要なのか分からなくなってきた。
(長官は…どこまで知っているんですか?)
(この国は…本当に大丈夫なのですか?)
私は、何気なくテレビをつけた。
テレビの中では、あのレストランのように日常が繰り広げられていた。
そこには、このような場所など存在しないかのように…
時間だけが、悠々と過ぎていく。
辺りは、暗闇が支配していた。
全てが混沌に帰すような…深い暗闇に。

『九時のニュースです』
『先ほど飛び込んできたニュースを初めにお伝えします』
『暴力団白木組の組長、白木宗光氏が先ほど何者かに銃で狙撃され、即死しました』
っ!
『事件は六時三十分頃、中野区三丁目の…』
まさ…か
『犯人は既に逃亡しているらしく、未だに捕まっていません…』
ふぅ…
死の臭いがする…
『現場は見通しの良い路上で、白木氏は大勢の人に囲まれていたにも関わらずに狙撃…』
『検察側はこれを内部犯と断定し…』
………
(…終わったか)
私は、自分の書斎の椅子にどっかりと腰を落とした。
大きな間違いをしているのは、私だけだったか。
私が今まで知らな過ぎただけなのか…
それとも…
もう、どうでもいい。
私は、もうこの事件にはかかわりを持たないだろう。
そして、あの女にも…

…ハルカ
死神…か。


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