Back/Index/Next
Original Novel Pochikun Presents



Bye〜rain〜


1.雪の降る街

by ポチくん





泣いていた。

ただ泣いている俺がいた。

訳も無く、俺は泣いていた。

いや、訳はあったのかも知れない。

しかしそれは今となってはどうでも良かった。

訳なんて、既に今の俺には意味をなさないものだった。

俺は、ただ泣くことしかできなかった。

周りの喧騒は、そんな俺をかき消していた。

みんなは、俺に構おうとしなかった。

そんな俺を哀れむことさえもしなかった。

そんな俺に孤独と、焦燥が苛む。

『誰か・・・俺を助けてくれ・・・』

『俺と一緒にいてくれよ・・・』

『俺を一人にしないでくれ・・・』

俺には、この言葉を出すことができなかった。

いや、出す必要がなかった。

「どうして・・・」

俺は、そう呟いた。

みんなは知っていた。

俺の行き着くところを。

そしてそれを理解していたみんなは

俺に手を差し伸べなくても、みんなのところにいくと分かっていたんだ。






ピーンポーン・・・

ピーンポーン・・・

眠い目を虚ろにして、俺は見知らぬ家のチャイムを押している。

ピーンポーン・・・

聡人
「ばかか?俺は」

ピーンポーン・・・

聡人
「それに、だれん家だ?ここは」


「兄さんの家よ」

聡人
「ぬおぁっ!」

背後から、見知らぬ声が聞こえてきた。しかも、気安く兄さんなどと・・・

もしや?

しまった!見つかった!


「しまった!見つかった!じゃ、ないわよ」

こんなときは・・・

聡人
「ダーッシュ!」


「どこにいくの?『ダーッシュ!』なんて・・・」

既に、見知らぬ声に襟元をむんずと捕まれていた。


「むんずって・・・」

聡人
「これをむんずと言わずに何をむんずと言うのだ?」

俺は、その声の持ち主に左手で鷲掴みにされていた。


「あら、ごめんなさい?」

その声の持ち主の形相が、恐ろしげな表情にみるみる変わっていった。


「恐ろしいって、誰のことかな?」

聡人
「麗奈」

麗奈
「朝御飯抜き」

既に声が笑っていない。

聡人
「いやだ」

はっきりと俺は言い放った。

麗奈
「ぬ〜兄さんがこんな人だったとは思ってもみなかったよ・・・」

聡人
「俺も麗奈がこんな奴だったとは思ってもみなかったぞ!」

麗奈
「どう思っていたの?」

声がさっきよりもおぞましいものに変わっていた。

聡人
「おしとやか」

麗奈
「じゃ、今は?」

聡人
「超おしとやか」

麗奈
「わざとらしい」

速攻で返された。

聡人
「ふっ、本気で今のは言ったのに」

麗奈
「そ、それは良かったね」

もはや声は呆れていた。

麗奈
「ぬ〜結局私が新聞取りに行くんだもん.兄さんなんかに頼まなけりゃ良かった」

疲れた声で麗奈は言った。

聡人
「それは悪かったな」

くるりとこっちを向いて首を上げた。

冬だというのに肩で息をして、本当に疲れているような顔だった。

麗奈
「謝らなくていいよ・・・でも私、新聞取りにいくのも大変なんだからね」

踵を返すように麗奈は俺に背を向け、家の中に入っていく。

俺は、俺の家をじっと見つめた。

こんなに家全体を眺めてみたのは初めてかもしれない。

初めての感情に、俺は明らかに驚いていた。

聡人
「そっか・・・俺はこの家に住んでいたんだっけな・・・」

麗奈は、既にいつものぎこちない歩きでリビングへと向かっている。

なんかな・・・

ふと、俺は空を見上げた。

いつの間にか、黒い雲が空を覆っていた。

聡人
「降るな・・・今日は」

空には、雨の降る雲とは違った、異質の重い雲が漂っていた。

俺は・・・雨の方が好きなのに

白鳥の群れが飛んでいる。

それは一糸乱れなく「へ」の字を描いていた。

訳もなく、俺はそれを眺めてみた。

縁取られた空は、その場にあることを全く感じさせない、そんな雰囲気を際立たせていた。

もっと・・・暖かいところまで飛んでいけばいいのに・・・そうしたら

気がついたら、既に雪が降り始めていた。




Back/Top/Next