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Original Novel Pochikun Presents



Bye〜rain〜


3. また、出会った日

by ポチくん





2001 Jan 24 WED







ジジジジジジジジーーーーーーーー

ジジジジーーーー

ジジーー

聡人
 「ん?」

俺はパチッと目覚し時計の上を叩く。

・・・まだ6:30だふぁ〜

何でこんなに早くにセットされてるんだぁ〜

いや、たまには早起きもいいものかもしれない・・・

俺は、いつものように玄関へと新聞を取りに行く。

・・・朝焼けは綺麗だなぁ〜

全身を劈くような寒さは、俺の五臓六腑に染み渡る。

・・・使い方間違ってないか?

それに五臓六腑ってどこのことだ?

まぁ、いい。

ガチャリ・・・

・・・それにしてもいい朝焼・・・

・・・・・・

・・・・

・・

け?

・・・朝焼けじゃ、なかった。

新聞紙が・・・燃えていた。

???

こんな日もあるさ。

・・・・・・

・・・・

・・

・・・あってたまるか!

聡人
 「何で新聞紙が燃えてるんだ〜」

さっぱり訳が分からない。

分かってたまるか!

・・・まてよ?

朝っぱらから玄関を掃除している青少年・・・

俺の株も一頻り上がるだろう。

近所では、青少年!こんな時代にもこんな素晴らしい少年が!噂は噂を呼び、最後には週刊誌、テレビまで・・・

・・・

・・・んな訳ね〜か。

妄想は働かせるとどんどん膨らむものだ。

そんな俺の妄想力には感服するものがある。

・・・天才?

麗奈
 「またバカな事言ってる・・・」

聡人
 「い、いつからそこにいたんだ!」

麗奈
 「さっきからよ」

麗奈
 「もう、兄さん遅いから来てみたらまたバカな事してるって・・・」

麗奈
 「???」

麗奈は、俺の塵取りを見つめて固まっている。

ま、まずい

麗奈
 「焦げ臭い」

聡人
 「これはだな、俺が来たときにはもう燃えててんだ」

麗奈
 「こんな事するの兄さんしかいないんじゃない」

聡人
 「いくら俺でもここまではしない」

俺はアッサリと否定した。すると麗奈はきょとんとした目を見せた。

さっきとは全く違った目を見せる麗奈に、俺は緊張の糸をほぐすことができた。

麗奈
 「ぬ〜訳わかんないよ〜」

聡人
 「俺もだ」

俺たち二人は同時に「?」マークを頭上に落としながら家の中に入った。







リビングでは既に朝食の準備がされていた。

朝食のある食卓は、心地よい鼻への刺激で気分を無性に落ち着かせてくれる。

聡人「今日は和食か」

卵焼きがよりいっそう食欲を醸し出してくれる。

麗奈はいつものように箸と格闘している。まだ左手で扱うのに慣れていないのだろう。

そして杏はおかわりをせがんでいる。

真由美
 「お姉ちゃんは食欲旺盛ね」


 「あんまり真由美さんのご飯が美味しいんで」

真由美
 「そお、お世辞でも嬉しいわ」


 「お世辞なんかじゃないですよ、ほんとに美味しいんです」

テレビでは、恒例朝の占いをしている。

聡人
 「お、ふたご座は今日、運気最高だ」


「あ、みずがめ座、最悪・・・」

聡人
 「でも、ラッキーカラーは黄色だってよ」

そういえば麗奈はてんびん座だったかな?

麗奈のほうを振り向くと、箸と格闘でそれどころではないようだ。

しかし、てんびん座は普通だったのでそっとしておく。

聡人
 「杏は3年だから、もう黄色ゲットか・・・」


 「てんびん座はラッキーカラーが青・・・」

聡人
 「げ、俺のアンラッキカラーは緑・・・」

麗奈
 「え、やった!」

格闘しながら呟く。

その一言が、妙に無粋な言葉に聞こえたのは俺だけか?

聡人
 「せっかく一番の星回りなのに・・・って!何でここにいるんだ!」

麗奈
 「この人誰?」

麗奈が首を傾げた。

全く違和感がなかった。

・・・というか、昨日の少女だった。

真由美
 「紹介が遅れたわね」

あらあら、と言うように真由美さんが答える。

真由美
 「今日から麗奈と聡人さんのお姉ちゃんとなった、岩崎杏ちゃんよ」


 「よろしくね☆」

マジで?

ま、真由美さん・・・そんなんでいいんですか?

麗奈
 「よろしく〜お姉ちゃん♪」

さっきまで格闘していたものを茶碗に置き、笑顔で答える。

既にお姉ちゃん扱いだ。

麗奈が持っていたさっきまでの違和感は、もう見られなかった。

・・・いや、俺のときもそうだったのかもな。

聡人
 「御住聡人だ。昨日会っているからもういいだろ」

俺の言葉に杏は「?」マークを一瞬浮かべたあと、「!」マークをあげた。


 「あ、昨日の変態面白くんだ〜」

変態は余計だ。

しかも語呂が悪い。

麗奈
 「ヘンタイ?」

聡人
 「気にするな。杏の戯言だ」


 「まさか、キミが弟くんだったとはね〜」

聡人
「俺だって驚きだ」

真由美さんはすでにお見通しといった顔である。

もしかしたら、昨日の俺の話から分かっていたのかもしれない。昨日の俺の話からとても楽しそうだったからだ。

俺は真由美さん、杏、麗奈の顔を順番に眺めた。

真由美さんはとても楽しそうだ。

杏はすでに慣れたように漬物や卵焼きをつまんでは『おいし〜ね〜』と騒いでいる。

真由美さんも杏の話を聞いては『ありがとう』とか『嬉しいわ』とか返事をしている。

聡人
 「杏、よろしくな」

俺は改めて挨拶をした。


 「ん?よろしくネ♪」

不思議な気分だった。

姉・・・俺は・・・

麗奈はまだ箸と格闘しながら「ぬ〜」と繰り返していた。







「さて、今日のニュースです」

朝のニュースが始まった。

このニュースで、スポーツコーナーが終わる頃に学校に行く準備をすればちょうどいい。

登校に杏も付き合うのだろうか。

杏と麗奈と俺。

学校の誰かにでも見られたらどうなるだろうか・・・

俺は嬉しい不安に襲われた。

綺麗・・・というよりも可愛いいだろうな、これは。

「さて、昨日は・・・」

そうニュースで言った時


 「うううああああぁぁぁぁぅぅぅぅ♪♪♪♪☆☆☆☆〜〜〜〜」


 「☆☆☆☆〜〜〜〜!!!!はははは!!!!」

麗奈
 「な、何?」

聡人
 「ど、どうしたんだぁ!」

サッパリ訳がわからない。

突然杏が騒ぎ出したのだ。

麗奈と俺はただただうろたえるしかなかった。

杏はそのままテレビのコードに引っかかり、『ぷぅふぅ〜ん』という音と共にテレビ画面が消えた。

真由美さんだけは「どうしたの?」と冷静である。

いや、もともとそういう性格なのかもしれない。


 「あはははは〜〜〜〜〜〜♪」

何事もなかったかのように杏はそのままテーブルに着く。

聡人        麗奈          真由美
 「なんだったんだ?」 「お姉ちゃんどうしたの?」 「どうかしたの?」


 「ん?なんでもないお〜突然騒ぎたくなっただけ!」

そうか?

麗奈
 「お姉ちゃんおもしろい人だね」

聡人
 「ただの変人だと思うぞ」

杏は俺の言葉に返すように頬を膨らませた。


 「変人は聡人だけ!」

麗奈
 「それもそうね」


 「あったりまえお〜」

考えてみると、男一人に女が三人。

分が悪い戦いは避けるべきだな。







時計を見ると7:15分になっていた。

聡人
 「そろそろ準備しないと遅れるぞ」


 「学校まではそんなに遠くないのに、早過ぎない?」

麗奈のことを、杏は何も聞いていようだ。

聡人
 「麗奈を見て何も気付かなかったのか?」


 「何も聞いていないもん.真由美さんからも、麗奈ちゃんからも」

聡人
 「麗奈が階段上がるの見たろ.どう思った?」


 「うん、ぎこちなかったよ。怪我でもしてるの?」

聡人
 「違うよ。朝食の時も箸の使い方、ぎこちなかったろ」


 「うん」

聡人
 「麗奈には片手片足がないんだ」

そうだったの、と杏は俯いた。

聡人
 「早く準備しないとな」

麗奈はすでに準備ができたらしい。

いつも以上、豪快に部屋から飛び出してきた。

麗奈
 「ぬ〜にいさ〜ん、おねえちゃ〜ん、おそいよ〜早くしてよ〜」


 「うん!」

杏に部屋なんてあったのか?

俺は疑問に思いながらも、パタパタとスリッパを鳴らしながら俺の隣の部屋に入っていった。

・・・







麗奈
 「なんか嬉しいな〜」

雪の道をキュッキュッと鳴らしながら、3人並んで歩いていた。

初めて三人で歩いた通学路。

今まではこんなことを想像してもいなかっただけに、この不自然さをより一層醸し出している。


 「これからはいつもいてあげるお〜」

麗奈
 「ホント?うれし〜♪」

杏につかまりながら、麗奈はじたばたとしている。

聡人
 「そんなことをしてい・・・」

杏   麗奈
 「わ!」 「わ!」

ばふっ!

いっている間から転んでいた。

しかも、杏まで巻き込んでいた。

麗奈
 「ぬ〜失敗・・・」


 「つめた〜い」

ふたりはぽんぽんと膝についている雪をほろっていた。

あまりにもその仕草が重なっていて、まるで、もっと昔からの知り合いのように思えた。

そんな中にいる俺・・・

は、はずかしい・・・

青と緑と黄色の色とりどりの校章を並べて歩いている姿はあまりにも不思議な光景だ。

聡人
 「ダーッシュ!」

麗奈
 「どこ行くの〜!」


 「聡人〜」

二人の声が遠ざかっていく・・・

走っていた。

風を切っていた。

気持ちが良かった。

過ぎ去っていく景色が、俺にはまたひとしお明るく見えた。

そしてこのままずっとはし・・・

ばふっ!

・・・

目の前が真っ白になった。

麗奈
 「これだから兄さんは・・・」

杏はつんつんと、そんな俺の首筋をつついていた。

・・・

遅刻決定







キ〜ン・・・コ〜ン・・・カ〜ン・・・コ〜ン・・・

聡人
 「終わった・・・」

俺は開放感からか、安堵の溜息をつく。

関口
 「まだ昼休みだぞ」

聡人
 「嘘つくな」

関口
 「嘘ではない」

・・・

聡人
 「・・・ところで、マジでまだ昼休みか?」

瑞穂
 「大マジよ」

聡人
 「ぬおあっ!」

驚いた拍子に俺は絶叫と共に一瞬引きつった。

瑞穂
 「な、なに!いきなり大声出して!びっくりするでしょ!」

聡人
 「そ、それはこっちのセリフだ!」

耳元に息がかかるくらいの距離で言われたのだから、大声を出して驚かないほうが不思議である。

瑞穂は、こういう登場の仕方しかできないのだろうか。

瑞穂
 「聞いたわよ」

いきなり脈略も無く突拍子も無いことを言う。

???

まだ、心臓がドキドキいっていた。

聡人
 「な、なんだ?」

まったく訳が分からない。

関口
 「俺も聞いたぞ」

さらに訳が分からない。

聡人
 「何のことだ?」

関口
 「とぼけても無駄だ」

聡人
 「ホントに俺には全く耳覚えの無いことだ」

瑞穂
 「まだ何も言ってないわよ。耳覚えが無いなんて」

高度なツッコミだった。

関口
 「美人ふたり組みに囲まれ新学期早々ウハウハハネムーン!御住聡人両手に花!」

関口が踊りながら話している。

聡人
 「なんじゃそりゃ」

瑞穂
 「そのままよ」

そのままって・・・

関口
 「今日も遅刻だったからな。詳しくは本人に聞かなきゃわかんないからな」

瑞穂
 「ホントなの?」

・・・

聡人
 「ちがう!でもほんとだ!」

瑞穂
 「訳がわらないわよ」

確かに

聡人
 「捉えようによってはどっちにもとれるということだ」

瑞穂
 「どういうことよ」

まあ、この二人になら話してもいいか。

というか、話さないともっと質の悪い噂になりそうだ。

・・・







関口
 「なるほどな」

瑞穂
 「でも杏さんって3年のでしょ」

聡人
 「知っているのか?」

瑞穂も関口も当たり前といった表情で頷いていた。

聡人
 「そうだが・・・見た目は年上に見えない」

瑞穂
 「あの人、年上なのにかわいいわよね」

関口
 「俺もそう思うぞ」

聡人
 「有名人か?」

瑞穂
 「有名も有名よ。かわいい上に成績は学年でトップ。男子からも女子からも憧れの的よ」

・・・

聡人
 「マジか?」

瑞穂
 「マジよ」

聡人
 「あいつが学年でトップ・・・」

瑞穂
 「しかもダントツよ」

聡人
 「ダントツ・・・」

やっぱり飛び級?

聡人
 「超飛び級星人第一号か?」

瑞穂
 「そんなのうちの学校に無いわよ」

・・・

そのとき丁度

キ〜ン・・・コ〜ン・・・カ〜ン・・・コ〜ン・・・

関口
 「・・・お前のせいで昼休み何も食えなかったぞ」

聡人
 「俺のせいか?」

瑞穂
 「私はもう食べたわよ」

聡人
 「俺は授業中に食べる」

関口
 「いいなー俺なんか一番前だからなー」

瑞穂
 「来たわよ」

女子からも人気があるのか・・・

なんとなく分かる気がした。

・・・







あと5分

・・・

あと1分

・・・

あと10秒











キ〜ン・・・コ〜ン・・・カ〜ン・・・コ〜ン・・・

だあぁぁぁぁ!!!!

聡人
 「今度こそ終わったぞー!」

電話で時計の時間を合わせておいてよかった。

こんなときにこそ本領発揮できる。

聡人
 「さあ!帰るぞ〜!」

俺は声高らかと宣言した。

俺をとめるな・・・とめる奴は不粋だ。

瑞穂
 「まだHRと掃除、残っているわよ」

聡人
 「マジか」

瑞穂
 「マジよ」

なんかいつも同じ会話をしているような気がするのだが。

・・・







今日は6時間授業といえ、この季節では日が沈むのも早かった。

橋に差し掛かる頃には鱗雲のかかった西日が赤く輝いていた。

この時間になると、暖かく氷解をそそる日溜りは、すっかり冷たくなってしまい、俺の体温に容赦なく襲いかかった。

明日は降るかもな・・・

そう思いつつ、橋を渡りきろうとしたとき、

聡人
 「何してるんだ?」

橋の下に杏がぼーっと佇んでいた。


 「あ、聡人だ。一緒にやろうお〜」

両手を上げて嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねている。

まあ、その姿が可愛いようにも見える。

しかし・・・

聡人
 「マジか?」


 「???」


 「いきなり『マジか』なんて言われても何のことだかさっぱり訳が分かんないお〜」

『マジか』の部分だけ声を太くして言う。

その仕草がまた可愛いのかもしれない。

聡人
 「お前学年トップなんだってな」


 「私そんなに背、高くないお〜」

やはり、瑞穂の勘違いだったのだ。もしくは、同姓同名の人が同じ学年にいるのかもしれない。


 「成績はトップだけど?」

それがどうかしたの?というような目で俺を見つめるな〜!

こうして、あっさり俺の仮定は覆されたのだった。

聡人
 「ところで今何してるんだ?」

そのことが先決だった。とにかくさっきの議題からは逸れたかった。


 「釣りだお〜」

川岸を見ると釣竿を雪に突き立てているのが見える。


 「聡人も一緒にやる?」

聡人
 「いや、釣りは趣味じゃないんだが・・・」

しかもこんな極寒地の中にいようとも思わない。


 「でもやってみると楽しいお〜」

聡人
 「でも、今日はまだ釣れてないじゃないか」


 「そう簡単に釣れるわけないお〜今来たばっかだしね〜」

確かに魚篭の中には一匹も入っていなかった。


 「釣りって言うのはね、格闘技なんだよ」


 「魚と人間が生死の鬩ぎ合いを楽しむ・・・」

魚は生死に関わるが、人間は違うような気がする。

そういうと釣竿に引きがきている真似をして、ぐぐっと腕に力を入れて見せる。

手袋を嵌めたその手には、力を全く感じさせない。

聡人
 「そうだな。付きやってやるか」


 「やった♪」

こういうところから人と人との絆というものを作るのもいいかもしれない。

・・・







日が沈みあたりはすっかり暗くなっていた。

聡人
 「今日の収穫はゼロか・・・」

しばらくやっていたが、手ごたえというものを掴めなかった。


 「そういつも入れ食い状態だったら釣りじゃないよ」

杏はくん、と横を向いた。


 「たまに釣れるのがいいんだよ。魚さんだって必死だからね」

そう言うといつもの笑顔に戻っていた。


 「またこようね」

聡人
 「そうだな」

俺たちは釣りの後片付けをすると家路を急いだ。







リビングでは真由美さんが皿を並べていた。

聡人
 「あ、俺手伝いましょうか」

真由美
 「いいですよ。もう終わるところですから」

なぜかテーブルには、いつもの倍以上の料理が並べられている。

聡人
 「今日、豪華ですね」

真由美
 「ええ、この料理、全部麗奈が作ったんですよ」

聡人
 「麗奈が?」

台所を覗いてみると麗奈がせっせと働いている。

しかしその姿はやはり危なっかしい。

しばらく見ていたが、キケンなシチュエーションがたびたびあった。

真由美
 「麗奈、必死なんですよ。お姉ちゃんに食べてもらうんだって、張り切っていましたから」

そうか・・・

聡人
 「なんか俺に手伝わせてくれ」

キッチンで麗奈はじっと下を向いたまま玉葱を刻んでいた。

麗奈
 「あ、それじゃその鍋が吹き零れないように見ててくれる?それに、たまに灰汁を取って・・・」

聞こえるか聞こえないか位の声で、麗奈が返事をする。

聡人「分かった」

俺はこのメインディッシュの沸騰している鍋をじっと見つめていた。

俺は無性に麗奈のことが心配になった。

麗奈はいつまでもじっと下を向き、もうこれ以上刻めないほどに玉葱を刻んでいた。

麗奈の目から、一筋の光が落ちていた。

二階から、ドタドタと階段を下りる足音が聞こえてきた。


 「わあ、すごい豪華!」

真由美
 「麗奈と、聡人さんが作ってくれたのよ」

そこで俺の名前を出されるのはさすがに恥ずかしい。

聡人
 「お、俺は最後にちょっとだけですよ。99.999982%は麗奈が作ったんだ」

いや、もうちょっとあるかな?

杏は目を丸くしている。


 「はぇ〜これ、全部麗奈ちゃんが作ったんだ〜すごいね〜」

何か引っかかる言い方ではあったが、これに関しては俺も脱帽する。

麗奈
 「そんなことしてないで、早く食べましょ」

真由美
 「それじゃいただきましょうか」

四人で『いただきます』と言うとおのおのの食べ始めた。

麗奈
 「どお?お姉ちゃん」

首を上げた杏は既に料理を口いっぱいにほおっていて喋れる状況になかった。


 「ふほふ、ほひひひほ〜」

まったく読み取れない。しかし、その状況が物語っていた。

麗奈
 「良かった・・・」


 「へははん、ほーり、ふほふほーふ」

聡人
 「まず、飲み込んでからものを言え」

もごもごと口の中のものを飲み込んでやると、ほっとしたように笑った。


 「美味しかったよ〜今度料理教えてね〜」

麗奈
 「お姉ちゃんだったらいつだって教えてあげるよ!」


 「やった〜うれし〜♪」

まるで子供のように杏は喜んでみせた。

まったく、どちらが年上なんだかこの二人を見ていると分からなくなってくる。

考えてみると、今日初めて杏と暮らすんだよな。

既に、杏はここの空気にすっかり馴染んでいた。


 「ごちそうさまでした〜」

聡人
 「お前よく食べるよな。最初に食い始めて、一番食っていたのに最後に食い終わったぞ」


 「大丈夫!食べるの好きだから」

そういう問題じゃないと思うんだが







俺は特にすることもないので、TVを見ていた。

麗奈と真由美さんは後片付けをはじめていた。


 「あ、私少しやることがあるから・・・」

そう言うと、杏は俯きながら足早に二階に駆け上がっていった。

杏のその声が震えていた。

俺にはその理由がわかっていた。

『少しやること』の内容も。

まだ片付け終わっていない食器を取りに麗奈がリビングへと入ってきた。

麗奈
 「あ、お姉ちゃんお風呂に入らないと」

そういった麗奈を、俺は止めた。

聡人
 「今は黙っておいてやれ」

麗奈にも分かっているはずだから。

聡人
 「それじゃ、俺が最初に入るか」

麗奈
 「タオルまだ干したままだからね」

・・・







ベッドの上で、俺はまだ眠れずにいた。

壁から、隣の部屋の声が聞こえてくる。

(う、うぐっ、うっ、うぐっ・・・)

(おかあさん・・・おかあさ・・・うぐっ・・・)

誰だってそうだ

俺のような人間たちは、心の中に棲みついた闇の中に自分を投影させ続けてきた。

もう得られることの無い温もり。そう思い続けてきた。

しかし、現実はそんな俺たちをそっとしておいてはくれない。

闇の中の自分は、ただ嗚咽することしかできない。

俺もそうだったから。

(え、えぐっ、えぐっ・・・うぐ・・・)

(なんでなの・・・なんで・・・えぐぅ・・・)

・・・



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