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Original Novel Pochikun Presents



Bye〜rain〜


5.寒すぎる日

by ポチくん





Jan 26 FRI





ジジジジジジジジーーーーーーーー

ジジジジーーーー

ジジーー

・・・

ジジジー

・・・

ジジジー

聡人
 「俺の眠りを妨げるのは・・・」

ジジジー

聡人
 「こいつかー!!!」

ジジジー

俺は眠りを妨げた張本人をわっしと掴み

聡人
 「墳!」

天高く舞い上げた。

ジジジ〜

その張本人はドップラー効果で音の波長が伸びていく。

ガショッ!ンンン・・・・

張本人は激しく壁と地面に叩きつけられ、そして永遠の眠りについた。

聡人
 「ご愁傷様です」

合掌。

麗奈
 「なに〜?朝っぱらから騒がしいわね〜」

どうやら起こしてしまったようだ。

眠い目を堪えながら、麗奈は俺の部屋の戸を開けた。

聡人
 「そろそろ起きる時間だと思ってな」

麗奈
 「そお?」

そう言うと、麗奈はとてとてと、自分の部屋に戻っていく。

麗奈
 「ぬ〜ホントだよ」

麗奈
 「兄さんも早く御飯食べないと遅れるよ」

そう言うと、麗奈は階段をゆっくり下りていった。

それにしても家の中が暗すぎないか?

そう不審に思いながらも俺はリビングへと下りた。






杏は朝が早いのか、既にテーブルについてテレビを見ているところだった。

すっきりした顔を見ると、寝起きはいいらしい。


 「おはよう!麗奈ちゃん、聡人!」

麗奈
 「ん?おはよ〜」

麗奈はまだ眠そうだ。

聡人
 「ふあぁ〜麗奈も見習えあぁ〜・・・」

麗奈
 「それはこっちのセリフでしょ」

聡人
 「こらこら、スでカエすんじゃない」


 「こらこら、棒読みで返すんじゃな〜い☆」

そう言っているうちに真由美さんがキッチンの奥から小龍包を持ってきた。

真由美
 「そんなところで漫才やってると冷めてしまいますよ」

俺たちは食卓に付くと、いつものように朝食を取り始めた。


 「わ、このショウロンポーおいしい☆」

真由美
 「そう?ありがとう。うれしいわ」

杏は皿の上に置かれた小龍包を口いっぱいに放り込んでいた。

・・・小龍包?

聡人
 「よく朝っぱらからそんなの食えるな」


 「でもおいしいよ〜」

なんかこのやり取りは昨日もしていたような気が・・・

麗奈
 「・・・わたし無理」

麗奈は既に胸焼けでダウン寸前だ。

聡人
 「真由美さん」

真由美
 「なに?」

何も悪気の微塵も見せない真由美さんの顔が真正面に来ると、俺は言い出したいことも言えなくなってくる。

しかし、ここは敢えて心を鬼にせねば。

聡人
 「・・・朝食に中華料理を出さないでください」

麗奈
 「わたしからも・・・」

そりゃ、さすがの麗奈でも無理らしい。

真由美
 「朝食で、和食や洋食ばかりじゃつまらないかと思ってたんですけど」

しかし、中華はないだろう。

このままだと、いずれ朝食に餃子が出てきそうで怖かった。







テレビを見ると、既にスポーツタイムが始まっていた。

真由美
 「あ、わたし明日お仕事が休みですから、みんなで出かけませんか」

真由美さんがそう切り出した。

確かにそれもいいかもしれない。

杏が来てから、まだ三日目。

それに、ここ最近は三人で出かけることもなかった。

真由美さんは作家活動をしているため、休日が不確定だったこともあったからだ。

聡人
 「目処がついたんですか」

真由美
 「ええ、最近は筆の走りがよくて、お姉ちゃんのおかげかしら」

杏は何の事を話しているのか分からない様子だった。

ホントに何も聞いていないのだろうか。


 「真由美さんって、もしかして作家さん?」

真由美
 「あら、言ってなかったかしら?」


 「初耳ですー」

とはいっても、俺たちは真由美さんの作品を一度も見たときがない。

本屋に言っても、どうやら本名と執筆名とを分けているらしく、俺には見つけられず仕舞いだった。真由美さん、執筆名教えてくれないしなぁ・・・

とか何とか言っているうちに、テレビではスポーツの時間は終わっていた。

聡人
 「急がないと遅刻するぞ」

麗奈
 「あ、ほんとだ。急いで準備するね」

そう言うと、俺たちは急いで準備に入った。







いち早く靴を履いた俺は、玄関で二人を待っていた。

聡人
 「早くしろ」


 「急いでいるお〜」

麗奈
 「うん、もちょっと待って」

んしょ、んしょ、と靴を履いている。

麗奈
 「よし行こ!」

三人靴を履き終わると、俺はドアのノブに手をかけた。

真由美
 「行ってらっしゃい」

聡人       杏        麗奈
 「行ってきます」 「行ってきま〜す☆」 「行ってくるね」

ゆっくりとノブを開けた。

ガコン・・・

ドアの隙間から冷たい風と、雪が入ってくる。

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

・・・

バタン


 「どうかしたの?」

聡人
 「今日は学校中止だ」


 「何で?」

聡人
 「見れば分かる」

そう言うと、杏は?マークを浮かべながら重いドアを開く。

ガコン・・・

・・・

バタン


 「今日は学校お休み」

麗奈はいまだに状況を把握していないようだった。

聡人
 「お前も見るか」

麗奈は何かにおびえるようにしながらも、おそるおそる首を縦に振った。

そして麗奈のゴーサインを合図にもう一度ドアを開けた。

ガコン・・・

雪の静寂に響く風の音・・・

大自然の猛威・・・

景色など無い、ただ『白』という名の単色の世界・・・

ゴゴゴゴゴゴ・・・・・

バタン

麗奈
 「死ぬかもしれないね」

こういう吹雪は年に数回起こる。

聡人
 「さあ、お茶でも飲むか」

真由美
 「あら、コーヒーの方がいいんじゃない?」

真由美さんがそう揶揄する。

麗奈
 「でも行かないとやばいよ」

真由美
 「自動車でもあったらよかったのにね」

こんな日に自動車なんかに乗ったら余計に危険である。


 「でも、こんな日ならみんな遅刻するよ。だって、電車とかも止まるだろうし・・・」

それも一理ある。

とにかく、ここでいつまでもまごまごしている訳にはいかなかった。

聡人
 「まずは気合の一歩だ!」

もう一度ドアのノブに手を当てる。

ガコン・・・

轟音とともに冷気と雪が入ってくる。

聡人
 「だああああぁぁぁぁ!!!!」

気合だ!気合!

ゴゴゴゴゴゴ・・・・・







手を伸ばすと、指先のほうは地吹雪で見えないくらいに雪と風が強くなっていた。

辺り一面白だけの世界は、それだけで恐怖を感じるものがある。

麗奈は杏とぴったりくっつき、はあはあと言いながら歩いている。

まるでこれは地獄絵図だ。

麗奈
 「ぬ〜!い、息が吸えないよ〜!」


 「あ〜ん!何にも見えないお〜!」

麗奈
 「なにか休むところないの〜!」

風の音にかき消されないように、必死に叫んでいる。

聡人
 「そこの軒下に行こう!」

俺たちは、逆風になっている軒下に退避した。

麗奈
 「ぬ〜・・・怖かったよ〜」

既に麗奈は半ば泣き始めている。

杏はそんな麗奈の頭を撫でて慰めていた。

やっぱり、杏は麗奈の姉なんだな。と、そのとき感じた。


 「ほら、もう少しだから」


 「ね、がんばろう」

優しい杏の声に、麗奈の声も和らぐ。

麗奈
 「・・・うん」

気がついたら、俺たちは学校のすぐそこまで来ていた。







学校に到着したら、既に一時間目は終わっていた。

教室に入ると、案の定生徒は半分くらいしか来ていなかった。

関口
 「大変だったな」

聡人
 「ああ、まったくだ」

俺に触発されてか、生徒たちは少しずつ顔を見せ始めてくる。

どうやら電車は今日一日動かないらしく、電車通学の生徒は休暇となったらしい。

くっそー羨ましー

二時間目の教師もどうやらこの吹雪にやられたらしく、めでたく自習となった。

ジゴクにもホトケだ。

聡人
 「あれ、淳?まだ瑞穂来てないのか?」

隣の席を見ると、そこの所有者の姿は見えなかった。

学校を遅刻することも無い瑞穂がそこにいないだけでそれは物静かに、また、がらんどうのように感じた。

関口
 「ああ、瑞穂の家遠いからな。まだ吹雪、こんな感じだからな」

外を見ると、吹雪は一向にやむ気配は無かった。それどころか、ますます強くなっているようだった。

聡人
 「そのうち来るさ」

関口
 「そうだな」

そう言っているとき、廊下からぱたぱたと足音が聞こえてきた。

申し訳なさそうに、後ろの戸が開く。

瑞穂
 「なんだ。自習?急いで損した」

コートをハンガーにかけながら瑞穂が呟いた。

関口
 「だろ」

聡人
 「だな」

俺たちは手で瑞穂を呼び寄せた。

瑞穂
 「全く、ひどい雪だわね」

聡人
 「そうだよな」

瑞穂は自分の席を立ち、俺の机に腰をかけた。

ちょうど俺の目の前に瑞穂の体があるのがわかる。

そんな瑞穂を見て、俺は思わず目をそらしてしまう。

瑞穂
 「ところで、昨日の約束はまだ覚えているでしょうね」

聡人
 「きのうのやくそく?」

瑞穂
 「めちゃくちゃ棒読みよ」

聡人
 「もちろん覚えているぞ。俺は約束を守る性質なんだ」

関口
 「なんかおもしろそうだな」

そこに関口も加わる。

瑞穂
 「昨日色々考えてきたんだけど、やっぱあれにするわ」

聡人
 「俺に叶えられるやつだけだぞ」

瑞穂のことだから、とんでもないことを言い出しそうで恐ろしかった。

瑞穂
 「明日、聡人くん家にお邪魔するってのは、どうかしら」

明日?

確か明日は第四土曜日で休みだったはずだ。

そして、真由美さんの休日・・・

聡人
 「いや、明日はまずいぞ」

瑞穂
 「そう?残念・・・」

ちょっと上を向き、残念がっていた。

聡人
 「明後日はどうなんだ?」

瑞穂
 「明後日?う〜ん・・・ええ、明後日でもいいわ」

瑞穂は俺のほうをもう一度振り向き返した。

関口
 「あ、俺も行っていいか」

聡人
 「ああ、構わないぞ」

瑞穂
 「じゃ、せっかくだから明後日は聡人くん家に泊まって、そこから学校に行きましょう」

聡人
 「そのせっかく、ってのが意味がわからんぞ。それに、真由美さんに聞いていないしな」

瑞穂
 「真由美さんならすぐにオーケーを出すわよ」

聡人
 「それもそうだが」

聡人
 「淳はどうなんだ?」

俺は関口のほうを振り向いた。

関口
 「☆☆☆☆☆☆♪♪♪♪♪♪」

すでに妄想モードが入っている。

聡人
 「決定だな」

瑞穂
 「そのようね」







キーン・・・コーン・・・カーン・・・コーン・・・

聡人
 「おーい、惇。飯でも食うか」

遠くで関口は鞄を漁っていた。

関口
 「ああ、でもまず購買行かないとな」

聡人
 「じゃ俺も行くよ」

確かに俺も弁当だけでは足りないかもしれない。

ジュースでも買ってくるか。

ところでなんで弁当の飯って喉につっかかるんだ?

関口
 「今日は授業、来ないやつが多いからあまり並ばなくても買えると思うぞ」

聡人
 「そっか」

素朴な疑問を残して俺たちはそのまま購買へと向かった。







購買で、俺は見慣れた後ろ姿を見つけた。


 「エメラルドマウンテンと、スムーステイストと、ボスセブンと、ワンダのオリジナル・・・」


 「うーんと、それと・・・サンタマルタ!・・・よーするに、全種類ください☆」

・・・困ったやつだ。

俺はその人物の肩をぽんとたたいた。

聡人
 「よう、杏」

杏は、ちょっとビックリしたかのように首だけを振り向かせた。


 「わ、あ!聡人!聡人もコーヒー?」

わ、の所で杏が一歩後ずさりする。

聡人
 「いや、俺はグレープジュースだ」

後ずさりした杏が体勢を整えた。


 「そお?せっかくだから一本あげようと思ったのに」

聡人
 「いや、貰えるんならそうするけど?」


 「そお?」

んしょ、とコーヒーの大量に入った袋を持ち上げ、ハイ☆とコーヒーを一本差し出した。


 「これね、おすすめっ!おいしいんだから」

そのとき、関口が買い物を終えたらしく、俺のところまで戻ってきた。

関口
 「御住ー行こうぜ・・・あっ!」

関口が杏と目を合わせる。

関口
 「あ、あ、あ、杏さんですよね!」


 「そうだお〜」

関口は、杏に飛びつく。

関口が目を輝かせている。そんな関口に何の躊躇いもない杏もなかなかのものだ。

関口が、杏の手を取った。

関口
 「あああ、総人くんと同じクラスのせきぎつじゅん・・・じゃなかった、関口淳です!始めまして!」


 「聡人の親友?・・・うん!よろしくね♪わたしは岩崎杏☆」

すでに関口は杏の手を握りながら涙を流している。

関口
 「明後日、御住くんの家にお邪魔するんです!そのときもよろしくです!」


 「こちらこそ〜」


 「じゃ、これおすそわけだよ」

そう言うと、杏は関口にコーヒーを渡した。

何が『じゃ』なんだかさっぱりわからんが。

関口
 「あ、ありがとうございます!」

そして杏は何かに気がついたように言った。


 「あ、もうこんな時間!まりっぺ待たしたままだった!」

そう言うと杏はさっさと教室に戻っていった。


 「じゃ、またね〜」

遠くからそう聞こえた。

関口
 「お前羨ましいぞ」

関口が、そうボソッと呟く。

聡人
 「そうか?」

関口
 「そうだ」

聡人
 「そっか・・・」







午後の授業は退屈そのものだった。

生徒数が足りないので無理に進むこともなかった。

まあ、宿題が出ないだけましか。

そんなのも間もなくHRの時間になった。

担任
 「えー今日は雪で出席率が悪いが・・・」

延々と続くこの前振りは何とかならないのか?

賞状の授与でさえも以下同文で終わらせるのに・・・

担任
 「えー月曜日はスキー授業であるから各自でスキーを用意しておくように」

そうか、月曜は年一のスキー授業なのだ。

この日ばかりは学校万歳だ。

今日はHRも簡潔に終了した。







俺は特にすることもなかったので、学校には長居をせずに帰ることにした。

そして俺は昇降口で靴を履きかえていた。

後ろからパタパタと足音が聞こえてきて、近づいてくると俺の背中をぽんと押した。


 「明後日、分かってるでしょうね」

後ろを振り向くと、それは瑞穂だった。

聡人
 「分かってるよ」

瑞穂
 「麗奈ちゃんや、杏さんにもよろしくね」

聡人
 「ああ、言っておくよ」

それじゃあね、というと、瑞穂はまた校内に戻っていった。







朝の雪は既に小降りになっていて、風もやみかけていた。

俺は特にすることもなかったのでさっさと家に帰ることにした。

橋の上に来たが、今日は釣竿がなかった。

少し川の淵を探してみたが、やはりいなかった。

今日は帰ったのかな。

まあ、いつもいつも釣りばかりしているわけにもいかないしな。







いつもは商店街に寄ったり杏の釣りに付き合ったりしていたため、明るい家の中はまた、新しい新鮮なものがあった。

俺はリビングへと向かった。

麗奈
 「あれ?兄さん早いね」

リビングでは、麗奈がテレビを眺めていた。

麗奈
 「お姉ちゃんがね、さっき兄さんいない?って言ってたよ」

聡人
 「何か用でもあるのかな」

麗奈
 「そうみたいだけど、あんまり急いでなかったみたい」

聡人
 「あいつはいつも急いでいないんだ」

聡人
 「ところで杏は部屋にいるのか?」

麗奈
 「うんいるよ」

麗奈は、なんだろうね、といいながら、もう一度テレビを見直していた。







こんこん・・・

聡人
 「杏、いるか」


 「あいてるよ〜」

「おねえちゃんのお部屋☆」と書いてあるドアを押し開けて、俺は杏の部屋に入っていく。

聡人
 「なんか用か」

杏は、眼鏡を外し、読んでいた本に栞をつけると、すっと立ち上がった。


 「じゃ、いこう♪」

どこへ?


 「ん〜訳わかんないって顔してる〜」

そりゃそーだろーが。

聡人
 「さっきからなに言ってるんだ?」


 「だ・か・ら、わたしの買い物に付き合えって言ってるの〜」

言ってない。

聡人
 「何を買いに行くんだ」


 「スキー。月曜にスキー授業あるでしょ」

聡人
 「あれって、全校合同だったのか?」


 「ん?そうだお〜」

杏はにっこり笑って、こっちを向いている。

というか、何でいつもこんなに楽しそうなんだ?

聡人
 「だったら早く行くぞ」

俺は、トロイ杏を速するように言った。

時計を見たら、既に日が暮れる時間だったからだ。


 「あ〜待ってお〜」







夕方が近づいてくると、寒さはまた一段と厳しくなってくる。

ただ、朝の吹雪がウソのようにやんでいたのだけは不幸中の幸いだった。

聡人
 「お前、スキーできるのか?」


 「一応できるけど、上手じゃないよ」

街の入り口の商店街には、小さいがそれなりのものが揃う店舗が揃っている。

そこで、スキーを購入して、俺たちはさっさと帰ることにした。

しかし・・・

聡人
 「むちゃくちゃ重いぞ」


 「だから、聡人を誘ったんじゃない〜」

・・・そっか


 「スキーは去年壊しちゃって・・・それで今年また新着する羽目になったんだよ」

杏のことだから、また無謀な滑りでもしたんだろう。

聡人
 「肩が外れるぞ」


 「大丈夫っ!聡人なら!」

根拠は無いだろう。


 「ふぁいと!」

悲しい応援だった。

・・・







麗奈
 「兄さーん、お姉ちゃーん、ご飯できてるよ〜」

麗奈が階段の下から叫ぶ。

聡人
 「お、今日は何だ?」

麗奈
 「今日はキムチ鍋よ。兄さん好きでしょ」

韓国に生まれてキムチが嫌いなやつは、それは不幸者である。

コートを脱いだ杏が、とてとてと階段を下りてくる。


 「わーい!キムチだキムチだ☆キムチ大好きー♪」

聡人
 「お前、何でも好きなんだな」

俺はキムチでこんなに喜ぶやつを始めて見た。

恐らく韓国人以上だろう。

リビングへ向かうと、キムチの匂いが鼻腔をついた。

・・・







目が覚めると1時だった。

聡人
 「便所にでも行ってくるか」

そう思うと、俺は凍える体に鞭打ちながら廊下へ出た。

誰もいない暗い廊下は、否応無しに心を荒げる。

それは本能的な恐怖なのだろうか。

自分がまだ踏み入れていない闇の界隈。

過去、現在、未来・・・それらを結び付けている自我領域が曖昧に映る。

そんな混沌を、この闇は象徴していた。

・・・







俺は無意味に外へ出てみた。

空は晴れて、月が顔を覗かせている。

月明かりを雪が反射して、幻想的な世界が広がっていた。

冬の星空は噂どおり美しかった。

それは当に忘れたはずの昔の光景と呼応した。

海に浮かぶ月。

嘗て最も美しいと感じていた、あの光景。

顔の無い両親。

俺が幸せだった頃の・・・記憶。

・・・おれは

俺はふと振り向いた。

杏?

ベランダでガラス越しの椅子に杏が座っていた。

じっと月を眺めている。

それは誰も触れることができなくて・・・

何もすることができなくて・・・

酷くもの悲しさを感じることしかできなくて・・・

・・・

姉さん・・・

・・・

しばらくすると、杏はすっと立ち上がり、階段を上がっていった。

・・・

もどろう。

あそこはあたたかそうだ。

ここはさむすぎる。



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