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Original Novel Pochikun Presents



Bye〜rain〜


8.Let'sWinter!

by ポチくん





Jan 29 MON




リリリリリリーーー

リリリリーー

リリー

ん?

ふああぁぁ・・・

リリリーー

うにゅ?

リリリーー

ポチっ

・・・6:30

うにゅ〜

考えてみると、まだ4時間しか寝てないぞ

・・・まあいいか。

そういえば、今日はスキー授業だったな。

スキー授業といえば、移動のバスの中は暇なんだ。

その間に寝ればいいか・・・

俺は、ぐううぅっ・・・と背伸びをした。

ふと横を見てみると、まだ関口が呑気に寝ていた。

聡人
 「おい、惇!起きろ!」

関口
 「ん・・・んんん・・・はえ?」

はえ?って・・・

関口
 「ん〜・・・まだ六時半じゃないか・・・」

聡人
 「俺んちでは、これが朝なんだ」

俺は関口の蒲団を無理矢理ひっぺがした。

関口
 「ウヒェッ!さび〜」

・・・

う〜・・・すっきりする〜

いつも麗奈はこんないい気分になっているのか〜

被害者は俺のはずなのに、なぜか羨ましい・・・

・・・







真由美
 「聡人さん、関口さん、おはようございます」

聡人         関口
 「おはようございます」 「おはようございます」

俺たちがリビングへ降りると、既に朝食の用意ができていた。

真由美
 「早く食べないと遅刻しますよ」


 「は〜い☆」

瑞穂
 「杏さんって、元気ねぇ〜」

聡人
 「あいつは元気すぎるんだ」

真由美
 「スペシャルメニューもありますから」

ま、まさか・・・

俺と麗奈は目を合わせて、肩を落とした。

そして真由美さんが持ってきたものは・・・

・・・

麻婆豆腐!

・・・やっぱり

瑞穂
 「マジで」

聡人
 「マジだ」

食後、俺たちは(杏と真由美さん以外)見るも無残に胸焼けをしていた。







聡人
 「ところで、麗奈もスキーするのか?」

麗奈
 「うん、するよ」

聡人
 「できるのか?」

麗奈
 「ぬ〜頑張ってみるよ・・・」

そう言っておきながら、麗奈はかなり不安そうな顔を見せていた。

・・・







そろそろ準備でもするか・・・

そう思いながら、俺は部屋の前の廊下を歩いていた。


 「聡人っ!」

そう聞こえると、何者かが後ろから飛びついてきた。

聡人
 「の、のわっ!」

ゴン!


 「・・・いった〜い!いきなり転ばないでお〜」

聡人
 「それはこっちのセリフだ!いきなり飛びつくな」


 「だって、だって〜」

聡人
 「だって、なんだよ」


 「今日ね、聡人と一緒に学校行こうかと思って」

聡人
 「いつも一緒に行ってるだろ」


 「今日はね、大変だから二人で行こうと思って」

大変だから?


 「おねがい〜」

聡人
 「仕方ねーな。瑞穂や、関口もいるから今日は大丈夫か」


 「うん!大丈夫!」

・・・







って、結局こうなるのか・・・


 「ファイト!」

聡人
 「あとで、なんか奢ってくれるか?」


 「もっちろん!」

・・・








 「そういえば、聡人とこうやって二人で登校するのって、初めてだね」

聡人
 「そういえばそうだな」

麗奈や瑞穂はもうとっくに家を出ていた。

結局、俺や杏は準備をしている間に随分と遅れをとっていたようだった。

通常ならばとっくに遅刻なのだが、今日はバスが出発するまでに着けばいい。

俺は、杏のスキーを持っていつもの道を歩いていた。


 「ところで聡人は、私のこと、どう思ってるの?」

聡人
 「ど、ど、どうっぅって?」


 「あはは、そういう意味じゃなくてさ」


 「わたし、ちゃんとお姉ちゃん、やってるかなぁ・・・って」

突拍子も無くなにを言い出すかと思ったが・・・

聡人
 「どうしてそういうことを聞くんだ?」

そう言うと、杏は俯きながら


 「だってさ、聡人は今まで一度も私のことをお姉ちゃんとか、姉さんって呼んでくれないでしょ」


 「わたしね、だからちゃんとお姉ちゃんやってるのかなぁ・・・って、そう思うんだ・・・」

杏は哀しそうな声にだんだんと変わっていった。

俺はその杏の言葉に吸い込まれそうになった。

聡人
 「杏には、姉さんになってもらわなくてもいいんだよ。杏は杏なんだからさ。それ以上でも、それ以下でもないんだ」


 「そっか・・・」

本当に、そうなのか?


 「わたしね、弟がいたんだ」


 「ちょうど、聡人と同じ年の」


 「だから、初めて聡人を見たとき、弟に見えたんだ」


 「どうしてって、なんで・・・って、そう思った」


 「ほら、わたしって、明るくないの・・・似合わないでしょ」


 「わたしはね、本当のわたしで・・・ずっとずっと、本当のわたしでいたいんだよ」


 「だからね・・・」


 「あは・・・迷惑だよね・・・」


 「聡人には、関係ないもんね・・・」

寂しい笑顔だった。

その笑顔が、今にも崩れそうだった。

今までに見せたことの無い、寂しい杏が、そこにいた。

だが、俺には関係のない話だった。

聡人
 「俺にもな、杏と同じくらいの姉がいた」

聡人
 「俺には、両親がいない」

聡人
 「俺が覚えている頃には、もう死んじまってたからな」

俺はなにを話しているんだ・・・

聡人
 「・・・すまない」

聡人
 「・・・俺は、俺は杏を姉さんって呼べないんだ」

俺は何をしているんだ・・・

何も話したくなかった。

誰にも話したくないんだ。


 「ごめん」

俺はいったい・・・

さすがにこれ以上は何かに制せられて言葉が見つからない。

聡人
 「いや、こっちこそ悪かった・・・」

聡人
 「でもな、いつか・・・」

いつか・・・

聡人
 「いつか・・・杏のことを、姉さんって呼んでやるよ」

聡人
 「それまでは・・・」


 「うん!」

こっちを見て笑って返事をした杏はとても嬉しそうだった。

さっきの表情は、もうどこにも無かった。

俺たちが携えているものの意味。

そして、そこにいたのは、本当の岩崎杏だった。

・・・







瑞穂
 「今日は絶好のスキー日和ね」

聡人
 「ああ、そうだな」

まず俺はリフトへと向かった。

今日は、既に俺たちの学校で貸切っているような状態で、あまり並ぶ人はいなかった。

俺は他人に振り回されるのが嫌いなので、一人でコースを回っていく。

中級をしばらく滑り終わると、俺は退屈なので上級コースにチャレンジすることにした。

中級のリフトを登り、その中腹からの脇道に入ると、上級コースのお出ましだ。

凹凸や急勾配が激しい上級コース。

俺は、幾度となく挑戦しようとしては断念していた壁だった。

しかし、今年は制覇する。

それが目標だったから。







上級コースに行く途中に初級コースがある。

その初級コースをしばらく見ていると、情けなそうに滑り降りて来る、見慣れた顔があった。

真新しいスキーに、スポーツ音痴そうな(実際にそうだが)体。

聡人
 「杏!」

そう呼ぶと、その人物はゆっくりと俺のほうに近づいてくる.

だんだん近づいてくるとともに、その体がふるふると小刻みに震えているのが分かる.

おまけに、既に泣きっ面を見せている.


 「う〜怖かったお〜・・・」

そう言うと、杏は地面にへたり込んだ。

聡人
 「一緒に滑っていた人たちはどうしたんだ?」

さっきリフトで登っているときに見かけたのだ。

そのときも、みんなに比べてかなり不器用そうだった。


 「知らないうちに、どんどん行っちゃって・・・追いつけなくなった・・・」

・・・やっぱりな

仕方のない奴だ

聡人
 「一緒に行くか?俺がキビシー指導をしてやる」


 「うん!」

即答。

ふっふっふ・・・

・・・








 「へ?」

聡人
 「ここを滑るんだ」


 「ここって・・・」

もちろん上級コースだ。

目には涙を浮かべている。


 「う〜・・・もどる・・・」

聡人
 「残念だな。このコースは戻れない」

ここは、リフトを登ったら最後、コースが一つしかないのだ。

一度来たら戻れない。過酷なコースなのだ。

聡人
 「どうする」


 「どうする・・・って言ったって」

コースの一番上に二人突っ立っている。

俺たちの脇をすり抜けるスキーヤーは、見事なシュプールを描いていく(そんなのはごく一部だが)。

まるで絶望的とも言うべきゲレンデを見つめる杏。

端には「最上級者コース:平均傾斜○○・最大傾斜××」と書かれている。このモザイク具合が、恐ろしさを醸し出していた。

しばらく考えて杏が出した答えは・・・


 「わたし・・・滑る」

聡人
 「よく言った」

聡人
 「これを滑れるようになれば、どんなコースでも滑れるようになるだろう」

と入ったものの、杏は身震いを隠せていない。

まずは、俺が滑って見せる。

ザシュゥーーーー・・・

とりあえずここまでと。


 「う〜・・・」

そう遠くから聞こえると、杏は意を決したらしく、少し体を傾ける。

ず、ずずずず・・・・


 「わ、あわわわぁぁぁぁ・・・・」

ボーゲンスタイルで杏がそろそろと降りてくる。

それでもこの勾配では、重力加速度に負けてしまう。

しばらくして、俺のところまで辿りつくと


 「う〜・・・怖かったお〜・・・」

聡人
 「怖かったって、まだほとんど降りてないぞ」

そう言うと、杏は更に声を震えさせた。

本当に怖いのだろう。正直いって、俺も怖いのだ。


 「どうしよう、どうしよ・・・こわいよ・・・」

とはいってもここまできたからには、もう仕方が無い。

これから、最大の難所も控えている。







俺は「う〜」とか「怖いお〜」などを連呼するのを何回も聞きながらも下まで辿りついた。


 「わたし、もうダウン・・・」

まだ足がふるふるいっている。

俺は、この壁を何年も睨みつけながらやっと成功したというのに、杏は未熟ながらも一回で成功したのだ。

聡人
 「凄いぞ」


 「う〜・・・でも怖かったお〜」

聡人
 「それでも、よく頑張った」


 「そうだね。わたし頑張った!」

聡人
 「うんうん」

杏はぐうぅっと背伸びをした。


 「あっ!」

聡人
 「どうした?」


 「お昼ご飯の時間だお〜」

・・・

こんなときでも昼飯は欠かせないらしい。

聡人
 「じゃ、戻るか」


 「うん!」

そういいながら、俺たちはロッジの方へと降りていった。

・・・







つ、疲れた・・・

家に帰って俺は、どふっ、とリビングのソファーに腰を落とすとぼぉーっとテレビを見てみた。

・・・

どうやら眠っていたらしい。

気がつくと日が傾いていた。

人間は少しくらいなら、多少睡眠をとるだけで疲れが取れるというらしいが、どうやら本当らしい。

晩飯までにはまだ時間があるな。

少し出かけるか。

俺はちょっと厚めのコートを羽織ると、商店街の方に歩いていった。

・・・







あれ?

端のところまでくると、俺は川べりに竿が立っているのを見かけた。

杏のやつ、今日もやってるのか・・・

俺は、土手の方に降りると、少し深い雪を踏みつけながら近づいていった。

聡人
 「よう、今日もやってんのか」

俺は、杏にそう声をかけたが、返事が無い。

聡人
 「どうしたんだ」

草の陰にいた杏の背中を少し押してみる。

聡人
 「おい!って」


 「すーーー・・・・すーーー・・・」

杏は、雪の上で寝息を立てていた。

どうやら疲れているらしい。

聡人
 「こんなところで寝ると風邪ひくぞ」

そう言ってもっと揺らしてみたが、一向に起きる気配は無い。

しょうがない奴だな。

さすがに道具までは持てないので、俺は橋の下のあたりに置いた。

杏の体を持ち上げると、異常なほど軽かった。

・・・







麗奈
 「あれ?お姉ちゃんは?」

麗奈が肉団子を頬張りながら言う。

杏の逆さまになったままの茶碗が、その不在感を際立たせていた。

聡人
 「杏なら部屋で寝ているよ」

真由美
 「お姉ちゃんが晩ご飯になっても起きてこないなんて珍しいわね」

聡人
 「ええ、そうですね」

確かにあの食い意地の張ったやつがいないとなると不自然に感じる。

麗奈
 「そうだね。お姉ちゃんがいないと静かだね」

とはいえ、あの不必要なほどの喧騒が懐かしく感じた。

聡人
 「まあな。でも、心配しなくてもそのうち『おなかへったよ〜』って走ってくるよ」

俺はその光景を思い浮かべて苦笑した。

真由美
 「でも、お姉ちゃんがこんなときに寝ているなんてよっぽど疲れてたのね」

聡人
 「そうらしいんですよ」

俺は、実はという出だしでさっきまでの経緯を話した。

そうすると、麗奈も真由美さんも心配そうな顔を見せた。

真由美
 「風邪、ひいてないかしら」

聡人
 「あいつに限ってそれはないでしょう」

真由美
 「ならいいんですけど」

まあ、疲れた原因は俺にもあるんだが。

俺たちは、久々に三人での他愛ない会話をした。

ほんの最近まではこれが普通だったのだ。

しかし今となって初めて、杏は俺たちに染み付いているということを知った気がする。

その事実がこの状況を示していた。

「ここどこ〜」とか「あれ〜魚は〜」「おなかへったよ〜」と聞こえてきたのはそれから間もなくのことだった。


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