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Original Novel Pochikun Presents



Bye〜rain〜


10.崩れる日常

by ポチくん





Jan 31 WED




「・・・て!」

「・・・きてお〜!」

???

うにゅ?

「そうと!おきてお〜」

ん?・・・

誰だ?

「聡人ったら〜早く起きてお〜」

はみゅ〜?

俺はねむい目を擦りながらゆっくりと腰を起こした.

聡人
 「ん?杏か?」


 「ん?杏か、じゃないお〜」


 「もう学校に行く時間だお〜」

横を見ると、時計は7時半を指していた.

聡人
 「目覚ましは鳴らなかったのか」


 「鳴っても起きないんだもん!」

聡人
 「うぐ・・・まだ眠いぞ・・・」


 「そうもいってられないでしょ〜」

聡人
 「しかしなぁ・・・」

本当に眠いんだ・・・やはり昨日の2時半はまずかったか?

ってそりゃ今日か・・・

あ・・・

俺は、そう言いながら頭を掻き毟っている時に、あることに気がついた。

聡人
 「そういえば、麗奈は帰ってきたのか?」


 「まだ帰ってきてないお〜」

聡人
 「だったらそんなに急ぐことは無いじゃないか」

杏は、うみゅ〜と言いながら首を落とした。


 「だからって、いつもそうだらだらしていると癖になっちゃうよ」

聡人
 「わかったわかった」

俺は重たい腰をベッドから起こした。

どうやら杏がヒーターをつけてくれたらしく、俺はすんなり起きることができた。

聡人
 「なんだ?出て行かないのか」


 「どうして?」

聡人
 「着がえるぞ」


 「あ、はははーーーっ!ごめんねーーー」

そう言うと、杏はそそくさに部屋を出て行った。







リビングへ降りていくと、真由美さんが朝食の準備をしていた。

そこにいるはずの人物が、いないのに気づいた。

聡人
 「あれ?杏はどこに行ったんですか」

真由美
 「お姉ちゃんならもう出て行ったわよ」

聡人
 「学校に・・・ですか?」

真由美
 「ええ、学校にしか行くところなんて無いじゃないですか」

おかしな聡人さんというふうに、真由美さんはふふふと笑った。

真由美
 「聡人さんはどうします?」

聡人
 「朝食は簡単に済ませます」

そう言うと、真由美さんが用意していたトーストを強引に口に詰め込むと、その場をあとにした。

・・・







聡人
 「あれ?なんでこんな所にいるんだ」

玄関の脇に杏が立っていた。


 「だってこうでもしないと、聡人ったら早く学校に行こうとしないんだもん」

だからってなぁ・・・

仕方の無いやつだ・・・

聡人
 「じゃ、行こうか」


 「うん♪」

・・・








 「そういえば、麗奈ちゃん瑞穂ちゃんの家に泊まったんだったね」

聡人
 「ああ、そうだな」


 「瑞穂ちゃんの家って遠いの?」

聡人
 「結構遠い方だな」


 「大変だね、麗奈ちゃん」

聡人
 「でも、瑞穂のオヤジが車で送ってきてくれるさ」

そのあとに俺は、前に送ってもらったときあったしな、と付け加えた。


 「そっか〜」

・・・


 「今日はまっすぐ帰るの?」

聡人
 「ん?・・・まだわかんないけどな」

多分そうなるだろう。


 「そっか・・・」


 「なら仕方ないね・・・」

俺たちは学校に着くと、そこで別れた。

・・・







聡人
 「よう、瑞穂」

瑞穂
 「おはよ、聡人君」

聡人
 「昨日は麗奈がお前ん家に行ってたらしいけど・・・」

瑞穂
 「あら、心配なの?」

聡人
 「別にそういうわけじゃないが・・・」

瑞穂は俺の顔を覗き込むようにして喋っている。

瑞穂
 「お兄さんねぇ〜」

聡人
 「???」

瑞穂
 「ううん、なんでもないわよっ!」

明らかに怪しい・・・

まぁ、いっか

瑞穂
 「で、今日も麗奈ちゃん、うちで勉強していくことにしたから」

聡人
 「そうなのか?」

瑞穂
 「麗奈ちゃんったら、飲み込み早いわよ〜」

聡人
 「あいつ、そんなに早食いだったか?」

瑞穂
 「勉強のことよ〜」

聡人
 「なら良かったな」

瑞穂
 「私、麗奈ちゃんにビックリするような点数とってもらうんだから」

聡人
 「頼むよ、瑞穂先生」

瑞穂
 「おうよ!どんとまっかせなさい!」

そういえば前に俺も瑞穂に勉強を教わったときがあったっけな。

そのときは、それはそれは超スパルタ・・・

可哀想になってきたな・・・麗奈・・・

・・・







今日の授業は眠かったためか、殆ど身に入らなかった.

だが、退屈な授業は寝ることに徹していたため、今日の勉強には集中できそうだった。

今にも泣き出しそうな空を眺めながら、俺は家へと向かった。

・・・

聡人
 「ただいまー」

「おかえりなさーい」

奥から、真由美さんの声が聞こえてきた。

「そういえば、今日も椎名ちゃんの家で勉強するからって、さっき麗奈から電話がありましたよ」

聡人
 「ええ、知っていますよ。瑞穂から聞きました」

俺はそう言いながらキッチンへと入っていった。

奥からはカレーのいい匂いが漂っている。

真由美
 「今日は麗奈が好きなカレーにしたんですけど、残念ですね」

聡人
 「麗奈なら瑞穂の家でおいしいの食べてますよ」

真由美
 「うふふ・・・それもそうですよね」

俺は、真由美さんの料理よりは劣りますが、と付け加えるのを忘れていた。

真由美
 「早く着がえてきてください。ご飯にしましょう」

聡人
 「分かりました」

そう言うと、俺は階段を駆け上っていった。

・・・







聡人
 「あれ?杏はどこに行ったんですか?」

着替えが終わって、リビングに入ってきても、杏の姿はそこにはなかった。

真由美
 「あら、まだ帰ってきていないのかしら」

聡人
 「そうかもしれませんね」

真由美さんは、困ったわという顔を覗かせていた。

聡人
 「俺、ちょっと見てきます」

真由美
 「ええ、お願いするわ」

・・・

全く、杏のやつどこに行ったんだ・・・

といえども、俺の行く先は決まっていた。

あたりは既に暗くなっていて、泣きそうだった空からはもう白いものがちらついていた。

聡人
 「杏!」

俺は川岸で、見慣れた竿を見つけた。


 「うにゅ?どうしたの?聡人」

聡人
 「うにゅ?じゃねーだろ!もう真っ暗なんだから、かえってこいよ」


 「だって・・・」

聡人
 「だってじゃ、ねーよ!」


 「だって・・・」

だって・・・


 「だって・・・聡人がまだ来なかったから、待ってたんだよっ!」

・・・

暗くてよく分からなかったが、杏の顔には悲壮感が浮かんでいるようだった。

聡人
 「バカだなぁ・・・今日はまっすぐ家に帰るって言っただろ・・・」


 「あれ?そうだっけ?」

聡人
 「そうだよ・・・朝に言ったろ・・・」

そう言うと、杏はえへっ♪と微笑み返し、いつもの顔に戻っていた。

聡人
 「雪・・・降ってきたな・・・」

聡人
 「早く帰ろう・・・真由美さんも待ってる」


 「うん!そうだねっ!」

俺たちはいつものように竿を橋の下に置いた。

そしてこれが俺たちの恒例行事となっていることも分かった。







聡人
 「今日の晩飯はカレーだぞ」


 「え!私、カレーだい好きっ!」

聡人
 「バーカ!お前は何でもだい好きっ!なんだろ」


 「それはいいっこなしだお〜」

聡人
 「じゃ、何か嫌いなのはあるのか?」


 「だって、なんでも好きだもん」

聡人
 「ピーマンは?」


 「大好き!」

聡人
 「豚足は?」


 「好きだお〜」

聡人
 「やっぱお前、なんでも好きだな・・・」


 「好き嫌いないもん!」

聡人
 「いい事だな」


 「聡人、コーヒー飲む?・・・」

聡人
 「お前、またコーヒー買って・・・」

「だってコーヒー好きだもん・・・」

「だからお前は・・・」

「コーヒーす・・・」

だからお前は・・・

す・・・

・・・

すきだもん

・・・







俺たちは、麗奈のいない晩飯を済ませ、さっさとテスト勉強へと移った。


 「今日は何の勉強するの?」

聡人
 「今日は、学校で国語を終わらせてきたから、英語にしようと思う」


 「え!もう国語終わらせたの?!」

聡人
 「何か不満か?」


 「聡人にしては、なんか気合入ってるな〜って思って」

聡人
 「なんか嫌な言い方だなぁ・・・」


 「そんなことないよっ!」


 「まずは、さっさと勉強!」

聡人
 「ああ、そうだな」

杏が昨日と同じように眼鏡ケースから取り出し、かけた時点で勉強モードに突入した。

・・・







ぷしっ!

杏が、ストローをコーヒーパックに突き立てていた。

聡人
 「またコーヒー飲んでるのか?」


 「さっき買いだめしておいたからね〜」


 「ほらほら、聡人は勉強に集中集中!」

聡人
 「へいへい・・・」

・・・







聡人
 「腹・・・減ったな・・・」


 「そうだね〜」

聡人
 「勉強とか、頭使ってるときとかってさ、妙に腹が減るんだよな〜」


 「確かにね〜」

聡人
 「そう言えばさ、カレーまだ残ってるよな」


 「多分、麗奈ちゃんの分はあるだろうね〜」

聡人
 「そろそろカレーも熟成されておいしくなってるんじゃないか?」


 「あ!次の日のカレーっておいしいから!」

ってまだ今日になったばかりだがな。

聡人
 「杏〜作ってくれよ」


 「え〜私が〜」

聡人
 「俺、勉強してるからさ!頼む!」

俺は、手を合わせて杏に頼み込んだ。


 「仕方ないな〜」

杏はしぶしぶ承知し、冷たい空気の流れている廊下に向かうドアを開けた。

・・・っ!

・・・

何気ない行為だったはずだ。

部屋の暖かい空気が、廊下の冷たい空気に侵食されていくのが分かる。

杏がその闇に静まり返った廊下に身を投げ出し、小走りに消えていった。

杏が部屋のドアを閉めたときには、既に相当な寒さがあたりを包んでいた。

その瞬間、部屋の温もりが消え去っていくのが分かった。

鍵をかけ忘れた窓の隙間から、白い結晶が漏れてくる。

ふと、窓の外に目を放り投げた。

外の闇は、冷たい色に侵されきっていた。

俺が吐く息も、冷たく染まっていく。

そこに、ほんの一瞬の温もりを感じる。

まさかそれが俺の感じた最後の温もりになるとは、思ってもいなかった。

・・・







遅いな・・・

杏が作りに行ってから既に30分が経とうとしていた。

なんだ?この胸の高鳴りは・・・

この焦燥感・・・

なにかが・・・

なにかが・・・

胸が苦しい・・・

なんだ・・・この締めつけは・・・

痛い・・・

痛い!

くそっ!

俺は冷たい廊下を、靴下も履かずに駆け出していた。

勢いよく階段を駆け下りる。

キッチンには、明るい蛍光灯が灯っていた。

勢いよく煮立っているカレー・・・

既に焦げついているような匂い・・・

綺麗に準備された二枚の皿・・・

そこには、それ以外何も無かった・・・はずだ

ただ、冷たい床に横たわる・・・杏を除いては・・・



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