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Original Novel Pochikun Presents



Bye〜rain〜


12.ひと

by ポチくん





Feb 2 FRI




リリリリリリーーー

リリリリーー

リリー

・・・

ん?

俺は眠たい目をこじ開けた。

俺は、いつも同じ刻に起き、そして同じ朝を迎えた。

聡人
 「ンァ〜おはようございます〜」

真由美
 「あら、おはようございます」

いつもと変わらない真由美さんの挨拶。

麗奈
 「兄さん、おはよう」

聡人
 「ああ、おはよう、麗奈」


 「おっはよ〜聡人っ!」

聡人
 「おはよう」

既に朝食を取り始めていた杏が、口の中に蓄えた食べ物を飲み込んでから、最後に返事を返した。

これから、本当に毎日こういう朝が続けばいいのに・・・

俺はそう言った一物の不安を抱えながらも、この喧騒がまた返ってきたことを微笑ましく思った。

朝食を食べ終え、学校に行く準備に取りかかった。







聡人
 「そういえば久しぶりの三人での登校だな」

麗奈
 「そういえばそうだね」

俺たちは仲がよかったから。

三人靴を履き終わると、俺はドアのノブに手をかけた。

真由美
 「行ってらっしゃい」

聡人       杏        麗奈
 「行ってきます」 「行ってきま〜す☆」 「行ってくるね」

ゆっくりとノブを開けた。

ガコン・・・

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

・・・

バタン


 「どうかしたの?」

聡人
 「これじゃ、学校中止だな」


 「何で?」

聡人
 「見れば分かる」

ガコン・・・

・・・

バタン


 「あはは・・・」

麗奈は、また?と言った顔をしている。

聡人
 「お前も見るか」

麗奈は何かにおびえるようにしながらも、おそるおそる首を縦に振った。

そして麗奈のゴーサインを合図にもう一度ドアを開けた。

ガコン・・・

ゴゴゴゴゴゴ・・・・・

バタン

麗奈
 「なんで・・・きょうも」

まさか今日に限ってこれとは・・・

しかし、このまま学校に行かないのも躊躇われた。


 「やっぱやめようお〜」

聡人
 「どこに行くのをやめたんだ?」


 「学校にだお〜」

俺は無言とともに杏の額にチョップを食らわしてみる。


 「痛いお〜」

麗奈
 「まったく・・・兄さんったら、お姉ちゃんをいじめないで」

麗奈は杏の髪の毛を撫でるようにしている。


 「聡人のバカァ〜〜〜」

えぐえぐ、と無邪気に麗奈に泣きついている杏を見て、俺は気が滅入ってしまった。

どうやら泣きやみそうに無いので、俺は素直に謝っておく。

聡人
 「コーヒー一本つけてやるから泣き止め」


 「ほんと?」

聡人
 「ああ、ほんとだ」


 「わーいわーい!コーヒー一本得しちゃった〜♪」

まったく変わり身の早いやつだ。

聡人
 「それよりもこの吹雪何とかしろ」

・・・ふぅ

真由美
 「早く行かないと遅刻するわよ」

真由美さんも一緒に・・・といおうとしたがさすがにやめておいた。

聡人
 「また俺が先陣か?」

杏       麗奈   真由美
 「もっちろん♪」 「うん!」 「そうね」

そんな・・・真由美さんまで・・・

・・・







学校にたどり着いたときには、俺は雪だるまと化していた。

・・・

聡人
 「あれ?瑞穂はまだ来ていないのか?」

もう3時間目が始まるというのに、瑞穂はまだ学校に来ていなかった。

関口
 「今日もかなりのもんだからな」

そう言って俺たちは窓の外に目を向けた。

聡人
 「そうだな・・・」

今日は前の吹雪よりも、格別に吹雪いているような気がした。







キ〜ン・・・コ〜ン・・・カ〜ン・・・コ〜ン・・・

三時間目のチャイムが鳴り終わった。

隣の席が賑やかになったのはその直後だった。

・・・







今日は帰りの時間になっても、まともに晴れた時間はまったくなかった。

俺は雪の中、家路を急いだ。

・・・ん?

まさか・・・

俺が橋の上を通りかかったとき、川の端に見慣れたものを見つけた。

それは、雪で霞むようにしか見えなかったものの、間違いなくそれだった。

いつもと同じところで・・・

聡人
 「杏!」

俺は思いっきり叫んだ。

聡人
 「あ・・・んね・・・」

俺は勢いよく、雪の降り積もった白い草原を駆けた。

聡人「あんね・・・」

まだ気づいていないのだろうか・・・振り向こうともしないでただじっと俯いている。

聡人
 「杏!」


 「ん?」

やっと振り向いた杏は、どうしたの?といった雰囲気で俺のほうを向いた。


 「やっときたねっ!聡人っ!」

そう言い返した杏に、俺は溜息しか出す余地は残されていなかった。

聡人
 「はぁ・・・杏、何もこんな日にやらなくてもいいだろ・・・」

聡人
 「まだやるのか?今日も・・・」


 「う〜ん・・・」


 「今日はもうやめよっかな」

聡人
 「そうしてくれ」

そうでもしないと、俺は体が持たない気がした。


 「じゃ、コーヒー買って!」

聡人
 「ああ、それく・・・」

しまった!


 「さっすが聡人っ!」

乗せられたか・・・


 「実は今日、新製品が三本も出るんだお〜」

一本じゃなかったのか・・・

ただでさえ金欠だというのに・・・

・・・







麗奈
 「凄い雪だね」

ソファーに座った麗奈が窓の外を眺めて言った。

テレビの天気予報では、明日も大雪になるらしい。

真由美
 「そうね・・・明日、困ったわ・・・」

そうか、真由美さんは毎朝、俺たちが起きる前に雪かきをしていたのだった。

そう思うと申し訳ないような気がしてきた。

聡人
 「あ、俺が今、雪かきしてきましょうか?朝に一遍にやると大変だと思いますから」

真由美
 「でも、悪いわ」

聡人
 「これくらい普通ですよ。気にしないでください」

真由美
 「じゃ、お願いしようかしら」

俺は自分の部屋に戻ると厚手のコートを羽織り、スキー用の靴下と手袋をつけた。

階段を降りた頃、杏はちょうど風呂から上がった所だった。


 「どこにいくの?」

聡人
 「いや、ただ雪かきしてくるだけだよ。どこにも行かないさ」


 「え?わたしも手伝っていい?」

そう言った杏を見ると、まだ首筋からは湯気が上がっていた。

俺はとっさに顔を背けた。

聡人
 「まだ風呂から上がったばっかりだろ・・・湯冷めするぞ!」


 「あ、そっか」


 「ならあとで行くね♪」

どうやら、杏はどうしても手伝いらしい。

無理に断ることもできなかったので好きにさせておく。

俺が玄関に指しかかった時、

真由美
 「私も手伝いますよ」

真由美さんも既に準備万端といった出で立ちで待ち構えていた。

・・・っていうかそれ、ぜんぶ麗奈のものじゃないですか?

朝に学校に着ていっている麗奈のコートと、手袋・・・

そしてその帽子・・・

学校に登校しても、間違いなくばれずに授業を受けられるだろう。

っていうか、もしかしたら俺たちとあまり年なんて離れていないのかもしれない・・・

そんな一物の不安が頭をよぎった。

真由美
 「じゃ、いきましょう」

真由美さんは、もう張り切りモードだ。

・・・







真由美
 「私がこっちをやりますから、聡人さんはそっちをやってください」

聡人
 「分かりました」

通称ダンプと呼ばれる除雪器具で、俺は玄関に近いほうの雪を流雪口へと持っていく役目になった。

真由美さんは、スコップでその流雪口付近を除雪している。

辺りは既に雪の壁と化していて、途方もない作業だな、とそのとき自覚した。

もしこれが、俺たちが除雪しないで明日の朝まで積もり続けていたら・・・

真由美さんはいつも大変だなぁ

・・・

聡人
 「真由美さん」

真由美
 「なんですか?」

俺はちょっと休憩を入れる感じで真由美さんに話しかけた。

真由美さんもどうやら少し疲れたらしく、この極寒の中でも少し汗をかいては拭っていた。

聡人
 「ちょっと聞いていいですか」

真由美
 「ええ、いいわよ」

聡人
 「真由美さんは、杏のこと・・・知ってたんですか?」

真由美さんは、ビクッと少し反応を示した。

聡人
 「いえ、話したくないんならいいです」

真由美
 「ええ、知っていました」

聡人
 「そうですか・・・なら、俺のことも」

真由美
 「ええ、みんな引き取る前にはそういうのを聞かされるの」

真由美
 「私たちは、そういうのを知っておかなければ、聡人さんたちや杏ちゃん、そして麗奈のことを見てやれないでしょ」

真由美
 「全部理解して・・・そしてそれでもってあなたたちと向き合うように・・・」

真由美
 「ごめんなさい・・・全部理解なんて、偉そうなことを言って」

聡人
 「いや、いいんです」

俺は、それ以上の真由美さんの発言を制するように言った。

真由美
 「聡人さん・・・」

聡人
 「はい」

真由美
 「いえ、聡人さんにはこのことを言っておかなければいけないと思いまして」

聡人
 「なんですか?」

深刻そうな顔を真由美さんは見せた。

実は昨日の夜に、真由美さんが帰ってきたときから様子はおかしかった。

恐らく真由美さんが行って来たのは・・・あそこだろう・・・

真由美さんが出かける少し前、電話がかかってきたことを覚えている。

真由美
 「新庄さん・・・知っていますわね」

聡人
 「ええ、知ってます。でも・・・」

俺は、それ以上の真由美さんの言葉を止めさせた。

これから真由美さんが言おうとしたことは、検討がついたからだ。

そしてその言葉は、少なくとも俺を迷わせるだろう。

知っていた・・・でも、俺は敢えて聞かなかった。

俺の臆病はまだ直ってないらしい。

真由美
 「聡人さん・・・」

誰が見ても、真由美さんは立派な人間だ。

俺たちを受け入れて、そして俺たちのことも見てくれて・・・

もし俺がまだあのままの生活だったら、俺はただそこで消えるのみだったろう。

何も考えない・・・何も感じない・・・

そんな生きていない世界の中に、俺はまだいたのかもしれない。

俺はここに来て、この世界が好きになった。

それまではこの世界に感情さえも、持つことができなかったから・・・

俺は感情を抱いていない人間を何人も見てきた。

そう・・・だから今、その中にいる人間たちを哀れむことができるのだ。

彼女もその一人だった。

俺は、その彼女のことを今哀れんだ。

今も、彼女の口癖が心の中に残っている。

あんなに感情がないと思っていたのに・・・

あれは、やっぱり俺の強がりだったのか・・・

「わたし・・・生きるの」







俺たちは雪かきが終わって、玄関に入ったとき、やっと杏が出てくる所だった。


 「あれ?あれぇ〜?」

聡人
 「もう終わったぞ・・・」

俺がそう言うと杏はボーゼンとその場に立ち尽くしていた。

その姿に、俺は思わず笑いをこらえることができなかった。


 「笑わないでお〜」

俺たちがリビングに入った頃、麗奈はコーヒーを淹れていた。

そっか・・・麗奈は無理だもんな・・・

申し訳なさそうにリビングで座っている麗奈に俺は微笑んでみた。

麗奈はそれだけで俺に微笑み返してくれた。

・・・







天井を見上げている・・・

俺は・・・

その時、俺は真由美さんの言葉を思い出していた。

「新庄さん・・・知ってますわね」

ああ、知っている。

忘れたくても、忘れられない・・・

彼女は・・・

初めて、俺に勇気をくれた・・・

希望をくれた・・・

この雪は、まるで彼女の心を表していた。

いつまでもやまない雪・・・

いつまでも降り積もる雪・・・

現実は、いつも俺を苛んでいた。

そして俺は泣いた。


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