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Original Novel Pochikun Presents



Bye〜rain〜


15.予兆

by ポチくん





Feb 5 MON




今日は不思議と温かい朝を迎えた。

目覚めも悪くなく、蒲団を剥ぎ取っても身が凍えることもなかった。

今日は麗奈に叩き起こされることもないな・・・

・・・

聡人
 「あれ?麗奈と杏はどうしたんですか?」

そういえば麗奈はともかく、杏も意外と朝に強いらしくいつも早起きをしていた。

でも今日はその二人の姿が無かった。

リビングでは真由美さんがTVを見ながらコーヒーを啜っていた。

真由美
 「麗奈はもう学校に行きましたよ」

そう言うと、真由美さんは時計に目を遣った。

俺もつられて目を時計に向けると短針が8近くを、長針は10を指していた。

そっか・・・麗奈のやつ・・・

ということは・・・

聡人
 「杏はまだ寝てるんですか?」

真由美
 「ええ、そうよ」

真由美さんは、たまには鋭いわね、といったような顔をしている。

真由美
 「聡人さん、起こしてきてくれます?朝食の準備しておきますから」

聡人
 「ええ、分かりました」

・・・







コンコン・・・コンコン・・・

まだ起きていないのか?

俺は一応「入るぞ」と言ってお姉ちゃんの部屋と書かれたドアプレートを押し開けた。

・・・って?


 「く―――」

・・・はぁ〜


 「く―――」

仕方ない・・・


 「く―――」

3・・・


 「みゅ―――」

2・・・みゅー?


 「ふみゅ―――」

1・・・ふみゅー???


 「く―――」

聡人
 「おあきろおおおぉぉぉあああぁぁぁ―――――!!!!!」


 「うわっっっ!!!!!!!!」


 「な、な、な、なんなの〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」

いきなり跳ね上がった杏は何があったの〜といった顔で蒲団を抱えながら気を動転させている。


 「う〜まだドキドキいってるお〜」

涙目を浮かべながら固まっている。

聡人
 「8時だぞ」


 「そんなこと言って誤魔化さないで・・・って?」


 「えっ!8時!」

聡人
 「ああ、そうだ」


 「遅刻だお〜」

聡人
 「そんなこと言っているうちに着がえないとホントに遅刻するぞ」


 「わ、分かったお〜」

杏はまだ学校で居眠りをして、突然起きたときの「ビクッ!」によって机を蹴り上げたときのような顔をしていた。

・・・







俺たちは朝食をゆっくり食べる暇も無かったので、真由美さんが気を使ってくれたのだろう。

パンを咥えてまるでアニメのように登校している滑稽な姿になっていた。


 「あ、雪降ってきちゃったね」

聡人
 「急がないと大雪になるかもな。この様子じゃ」


 「そうだね・・・」

俺たちは時間がないというのも口実に学校へと急いだ。

聡人
 「しかしなぁ」


 「何?」

聡人
 「就職先って、一体どこで働くんだ?」


 「・・・」

俺がそう言うと杏は、しまったといった表情を見せた。

聡人
 「どうした?」


 「・・・ちょっと、ね」

聡人
 「ちょっと?」


 「うん。ちょっと遠いの」

聡人
 「そうか・・・遠いのか・・・」


 「うん・・・ちょっとじゃないかも・・・」

聡人
 「大丈夫さ。いくら遠くても俺はいつでも会いに行ってやるよ」


 「・・・」

聡人
 「どうした?嬉しくないのか?」


 「ううん・・・嬉しい」

俺はまだ知らなかった。杏がどこまで遠くに行くかなんて・・・

・・・







瑞穂
 「ねぇ、聡人君うまくいってる?」

聡人
 「い、いきなりなんだ?!」

瑞穂が古典の授業中に突然話してくる。

瑞穂
 「休み時間に言うよりも、安全確実でしょ」

確かにそうだが・・・

瑞穂
 「うまくいってるんでしょ」

聡人
 「もしかして、お前が張本人か?」

瑞穂
 「聞き捨て悪い事言わないでよ」

聡人
 「いつから気付いていたんだ?」

瑞穂
 「やっぱりスキー授業のときからよ」

聡人
 「スキー授業って?」

瑞穂
 「マンツーマンレッスンしてたでしょ」

聡人
 「・・・見てたのか?」

瑞穂
 「っていうか見えるのよ。上級コースは一段高い所にあるから」

それは盲点だったな・・・

瑞穂
 「私たち応援しているからねっ!」

聡人
 「あ、ああ・・・」

こうなったらもう隠す必要も無いだろう・・・

・・・







今日はたまたま緊急職員会議があり、午後の授業も1時間で終わった。

早く授業が終わったのもあってか、外はまだ朝のような明るさを保っていた。

関口
 「よう御住!今日一緒にって・・・野暮だったな」

聡人
 「お前もか・・・」

関口
 「承知していないのはお前だけかもな」

聡人
 「そうなのか?」

関口
 「まぁ、かろうじて俺と瑞穂の間で止めているつもりさ」

聡人
 「そうしてくれると嬉しいがな」

関口
 「そうしないと俺がもたないかもな」

聡人
 「???」

関口
 「いや、しっかし、お前羨ましいな〜」

聡人
 「そうか?」

関口
 「そうだ」

聡人
 「そうか?」

関口
 「そうだ」

聡人
 「そうか?」

関口
 「そうだ」

聡人
 「そっか・・・」

・・・







俺はいつものように橋の上に辿りついた。

・・・杏?

いつもあった杏の姿はそこには無かった。

今日は俺が早いだけかもしれないな・・・

そういえば3年生で進路が決まった者は学校に行くかどうかは任意なのだ。

杏は学校に行くのが好きだからという理由で毎日学校に行っていた。

とは言っても午前中で授業が終わるため、杏は早く家に帰ってきてはここで釣りをしていたのだ。

主を失ったその場所は哀しく寂しさを帯びていた。

杏は、まだここに来ていないだけなのかもしれない。

今日は、初めて一緒にここに来る事になるかも知れない・・・

・・・







・・・警察?

何でパトカーが俺の家に止まっているんだ?

警察がそこにいるだけで何か悪いことをしていると思い込んでしまうのは、あまりにも偏見というものだろう。

見ると、真由美さんが玄関で警官と何か話をしている。

ここで俺がしゃしゃり出るのも何か体裁が悪いのでちょっと離れたところで警官が去るのを待ってみた。

といっても気になるのは人間の性で、俺は悪いと思いながらも近くで聞き耳を立てた。

(そうですか・・・分かりませんか・・・)

(ええ・・・すみませんけど)

どうやら何かを真由美さんに尋ねているようだ。

(なら、何か分かったときはまたご協力お願いします)

(はい。わざわざすみません)

(いえ。それでは)

そう言うと、警官は挨拶をしてパトカーに乗った。

真由美さんはパトカーが十分に走り去ったのを確認すると、家の中に入っていった。

俺はすぐに家に入るのも躊躇われたので少し間を置いてから玄関の戸を開けた。

聡人
 「ただいまー」

そう言うと、真由美さんがいつものように奥から出てきた。

真由美
 「あら、聡人さん早かったのね」

聡人
 「ええ、今日は職員会議だったので早く終わったんですよ」

そうなの?と真由美さんは首を傾げた。

釣りをしている時、杏は私服なので一旦家に戻っているのは分かっていた。

俺はその事で真由美さんに訊いてみた。

聡人
 「そういえば、杏はまだ帰っていないんですか?」

その時真由美さんは・・・

真由美
 「杏・・・ちゃん?」

聡人
 「どうしたんですか?」

明らかに真由美さんの表情がおかしかった。

真由美
 「え・・・あ、お姉ちゃんね・・・」

真由美
 「お姉ちゃんならまだ帰ってないわよ」

聡人
 「そうですか・・・」

真由美
 「ええ。いつもはそろそろ帰ってくるはずなんですけど」

・・・







まるで俺がまずいことでも言ったような・・・

もしくは真由美さんがそれを押しとどめているような・・・

最後の口調に時はいつもの真由美さんはいつもの真由美さんに戻っていた。

しかし、真由美さんのあの言葉・・・

「杏・・・ちゃん?」

そのときの真由美さんには焦りの表情さえも感じられた。

そしてあの警官・・・

・・・







眠っていたのか?

気が付いてみると、時計は7時指していた。

俺は下からにおってくるいい匂いに誘われて夕食へと向かった。

・・・

聡人
 「今日は随分と豪華ですね」

リビングに下りてみると、そこにはいつもと違って物凄く豪華な食事が用意されていた。

聡人
 「何かいいことがあったんですか?」

俺はまだ準備中の真由美さんに尋ねてみた。

真由美
 「ええ・・・お姉ちゃんがね・・・」

そう言うと真由美さんは俯き、そして呟くように言った。

真由美
 「お姉ちゃんが、明後日もう出かけるって・・・」

聡人
 「出かけるって・・・どういう事ですか?」

なんとなくは分かった。

しかし、それを俺の中で認めたくないといったふうな抑制力が働いた。

真由美
 「お姉ちゃんがこの家にいるのもあと明日までですから・・・」

聡人
 「・・・本当ですか?」

真由美
 「ええ・・・本当です」

・・・どういう事だ?

ウソだろう?

俺は・・・







俺は、向かっていた。

杏の部屋に・・・

・・・

ドンドンドン!!!ドンドンドン!!!

俺は、朝叩いたドアと同じドアを叩いていた。

ドンドンドン!!!ドンドンドン!!!

聡人
 「杏!いるのか!」

ドンドンドン!!!ドンドンドン!!!

聡人
 「おい!いるのか!」

そういうと、ドアが少し開いた。


 「もう〜いるってさっきから言っているのに〜」

聡人
 「聞いてないぞ」


 「聡人がうるさくするから聞こえなかっただけでしょ〜」

そんなことはどうでも良かった。

俺は杏の部屋に強引に入ると、ドアを閉めた。

俺の心臓はまだ聞こえるくらいに高鳴っていた。

聡人
 「どういう事だ?」


 「いきなり『どういう事だ?』って言われても分かんないお〜」

聡人
 「明後日にここを出るって事だよ」

杏はその一言にはっと振り返った。


 「そのままの・・・意味だお・・・」

聡人
 「そのまま・・・って」


 「わたし、進学しないって言ってたでしょ。それで、明後日に行くことになったんだよ」

聡人
 「しかし・・・それじゃあ、あまりにも・・・」


 「うん・・・急に決まったから」

聡人
 「俺・・・杏に・・・どうすればいいんだよ・・・」


 「わたしも・・・つらいんだよ」


 「聡人がそんな顔していたら、わたしだって心残りになるじゃない・・・」

聡人
 「俺は、杏に心残りになってもらいたい」


 「聡人・・・」

俺は杏をぐっと引き寄せた。

哀しかった。

俺と杏の哀しい体が震えていた。

聡人
 「俺はいつまでもお前のそばにいてやるからな・・・だから」

・・・







よく思い出してみろ・・・

よく考えてみろ・・・

俺は初めて、あの警官を見た。

しかし警官ははっきりと言っていた。

(なら、何か分かったときはまたご協力お願いします)

“また”

また?ということは警察がここに来たのは一度や二度ではないということか・・・

そして真由美さんの言葉・・・

(杏・・・ちゃん?)

そして突然の杏の出立・・・

普段はあるはずの無い緊急な職員会議・・・

どうして・・・?

何かが・・・

俺はこれらの中にどうしても因果関係を見出すことができ無かった。

だが偶然とは思えない・・・

俺にはそれは目には見えない歯車が崩れ始める予兆というものを感じられるのだった。

・・・


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