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Original Novel Pochikun Presents



Bye〜rain〜


16.最後の日

by ポチくん





Feb 6 TUE




・・・目覚めの悪い朝だった。

昨日とは打って変わった黒い空。

そして空に舞う白い雪・・・

蒲団の外は既に極寒の世界が広がっているのが関の山だ。

まずはヒーターだな。

俺の足元の少し離れたところにヒーターはある。

こういうときは、こうして足を伸ばして・・・

ぐぐぐっっ・・・

ぐぐぐぐぐっっっ・・・

もう少し・・・

うごごごご・・・

あと・・・少し・・・

???ぐきっ?

聡人「うぐぐぐおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

聡人「ぐはあぁっ!!!」

あ・・・足が・・・

そう言っているうちに、俺の声に気がついたのか、足音が近づく音と、そのあとにドアが開く音が聞こえた。

声「な、何してるの?兄さん」

聡人「うおあっ・・・れ、麗奈か・・・」

麗奈「足、つったのね・・・んもう」

麗奈「最近兄さん、落ち着いてきたとおもったのに」

聡人「すまん・・・うご?!」

まだ足を少し動かしただけでびりびりと痛む。

麗奈「はいはい、ヒーターはもうつけたから、蒲団を上げて」

とは言っても蒲団を上げるとまだ寒いのは、いた仕方がない。

麗奈「んもう、兄さんたらいっつもこれじゃ、大変だよ・・・」

聡人「わりぃわりぃ」

俺は痛む足を引き摺りながら部屋を後にした。

・・・







聡人「おはようございます」

真由美さんがいつものように俺に挨拶を返す。

俺はその時、何かそこに違和感があることを察した。

聡人「あれ?茶碗が3つしかない・・・」

真由美「えっ?3つで・・・」

聡人「杏の分が無いんですけど?」

真由美「えっ?・・・あ!今用意しますね」

そう言うと、真由美さんは慌ててキッチンへと駆け込んで、もう一つの茶碗を持ってきた。

聡人「・・・」

杏はそのあとに、いつものように耳に残る足音を鳴らして部屋から降りてきた。

杏「おっはよ〜」

もう二度と来ることの無い朝が始まっていた。

この喧騒も、もう戻ることの無い記憶の世界へと回帰するはずなのだ。

・・・







俺たちは歩いていた。

雪の降る通学路を俺たちは歩いていた。

杏と初めて歩いた朝の通学路。

あの日、朝日が眩しかった。

いきなり現れた杏と一緒に歩いたあの日・・・

あの日から、もう2週間が経っていた。

いや・・・2週間しか経っていなかった。

なのに・・・杏は今日が最後の通学となるのだ。

そして俺たちの家にいるのも今日で最後なのだ。

あの日、朝空が赤かった。

あの日、杏と出会っていた・・・

なのに・・・

麗奈「お姉ちゃん・・・」

杏「なに?麗奈ちゃん」

麗奈「ううん。なんでもない」

雪の道をキュッキュッと鳴らしながら、三人並んで歩いていた。

初めて三人で歩いた通学路。

そして、最後に三人で歩く通学路。

これがいつからか不自然でなくなったのはいつからだろう?

たった二週間のうちで、いつからこうなったんだろう?

杏「またいつか、こうして歩きたいね・・・ねぇ、聡人、麗奈ちゃん♪」

麗奈「うん、そうだね。約束だよっ!」

杏「うん!約束したお〜!」

杏「その前に、麗奈ちゃんはわたしのこと忘れちゃダメだお〜」

麗奈「うふふ・・・お姉ちゃん、おかしな事言ってる〜」

麗奈「わたしがお姉ちゃんのこと忘れるわけないでしょ♪」

杏「うん!」

杏につかまりながら、麗奈はじたばたとしている。

聡人「ほらほら、またそんなことをしてい・・・」

杏「わ!」麗奈「わ!」

ばふっ!

いっている間から転んでいた。

しかも、杏まで巻き込んでいた。

麗奈「ぬ〜失敗・・・」

杏「つめた〜い」

ふたりはぽんぽんと膝についている雪をほろっていた。

あまりにもその仕草が重なっていて、まるで二人は本当の姉妹のようだ。

いや・・・血縁なんて関係ない。

二人は姉妹なのだ。

そんな中にいる俺・・・

もう恥ずかしいことは無かった。

俺は、あの日と同じ事をしてみたかった。

聡人「ダーッシュ!」

麗奈「どこ行くの〜!」

杏「聡人〜」

二人の声が遠ざかっていく・・・

走っていた。

風を切っていた。

気持ちが良かった。

過ぎ去っていく景色が、俺にはなぜか懐かしく、そして儚く思えた。

そしてこのままずっとはし・・・

ばふっ!

・・・

目の前が真っ白になった。

麗奈「これだから兄さんは・・・」

杏はつんつんと、そんな俺の首筋をつついていた。

・・・

遅刻決定。







・・・

俺は昼休みになっても特にすることもなく、窓の外をぼーっと眺めていた。

聡人「・・・」

瑞穂「ねえ・・・」

聡人「・・・」

瑞穂「ねえ・・・」

聡人「・・・」

瑞穂「ねえってばあ」

聡人「・・・」

瑞穂「ねぇ、聡人くん」

聡人「・・・ん?なんだ?」

瑞穂「んもう・・・さっきからずっと、ぼーっとしちゃって・・・」

聡人「いや、わりぃな・・・」

瑞穂「何を考えていたのよ?」

聡人「いや、何でもない」

瑞穂「ホントにそう?」

聡人「ああ、なんでもない・・・」

瑞穂「何か悩みごとがあるんじゃない?」

聡人「何もないよ・・・」

瑞穂「そう・・・」

瑞穂「何かあったら何でも言ってね・・・私でよければ」

聡人「ああ、ごめんな・・・」

瑞穂「いいのよ・・・」

・・・

関口「今日の御住はなんか変だぞ?」

聡人「・・・」

関口「なーんか、覇気がないぞ。御住らしくねぇな」

瑞穂「関口くん・・・」

瑞穂が関口の腕を掴んで、関口の言葉を制する。

関口「ああ、でもな・・・一人で悩むことならばそうやっているのもいいかもな」

関口「俺たちはいつでも、お前の話を聞いてやるぜ」

聡人「・・・」

関口「ふぅ・・・」

瑞穂「はぁ・・・」

・・・

聡人「わりぃ、俺、午後の授業サボるわ」

瑞穂「え、ちょ、ちょっと・・・」

関口「黙っとけよ」

瑞穂「・・・」

俺はそのままコートを纏うと、教室を出た。

・・・







聡人「よう、杏」

杏「よう、聡人っ!」

聡人「今日もここで釣りか?」

杏「うん。最後、だから」

聡人「そっか、最後だもんな」

杏「聡人も一緒にやろうよっ」

聡人「そうだな・・・俺もやるか」

杏「でも、その前に聡人はコーヒー買ってきて〜」

聡人「あれ?お前まだ買ってなかったのか?」

杏「うん。だから買ってきてお〜」

聡人「な〜んか定石と外れてね〜か?」

杏「急いできたらついつい忘れちゃった♪」

聡人「お前でもそういうことってあるんだな」

杏「う〜ん。今日はたまたまかな?」

聡人「仕方ね〜な」

俺は堤防を乗り上げると、そのまま堀江商店の自動販売機にコーヒーを買いに行った。

杏のことだからな・・・

ブルーマウンテンに、モカキリマンジャロに、スムーステイストに、プレミアム・・・

ちょっと買いすぎたかな?まぁいいや。

俺はもう一度堤防に駆け上がった。

・・・あれ?

杏?・・・くそっ!

杏はそこにいた。

どうしたんだ?おれは・・・

聡人「おーい!あんねー!」

俺はそう叫びながら雪の積もった堤防を降りていった。

そんな俺に、手袋をした杏が手を振っていた。

杏「聡人っ!聡人っ!」

左手に釣り竿を持って右手で俺を手招きしていた。

杏「はいっ!聡人はこの竿ねっ!」

俺は杏の準備していた竿を手に取った。

聡人「ほら、その前にコーヒーでも飲んだらどうだ?」

杏「うん。そうだねっ!」

そう言うと、俺は適当に杏にコーヒーを渡した。

まだ熱いくらいのコーヒー缶は、手袋越しだと心地よいくらいだ。

手袋で蓋を開けにくそうにしているが、しばらく奮闘していると、かきょっ!という音とともに湯気が上がり、コーヒーの独特の匂いが鼻についた。

杏「そういえば、聡人は学校どうしたの?」

聡人「あ?いや、俺だけ午前授業だったんだよ」

杏「はぃ?そういうのってあるの?」

聡人「俺が作った」

杏「んもう〜聡人ったらいい加減なんだから〜」

聡人「俺は昔っからいい加減なんだよ」

杏「わたし、聡人の昔知らないお〜」

聡人「そうだったな・・・」

そういえば、俺も杏の昔を知らない。

俺は見たときもない杏の過去を知っている人間に嫉妬してみたりした。

・・・







聡人「やっぱり釣れないな・・・」

杏「うん、釣れないね」

聡人「最後の最後にこれとはな・・・」

杏「うん・・・残念」

聡人「帰るか?真由美さんや麗奈も待ってるしな」

杏「うん」

俺たちはその場所を後にした。

オレンジ色に染まった空。

杏と最後に見る空。

今までの中で最も印象的だった。

空気がピンと張って、息苦しかった。

だが、竿はいつもの所に置いてきた。

本当にこれが最後にならないことを願って。

・・・







俺たちはいつもの所で、いつものように食事をした。

特に気取らない食事。

いつも食べているメニュー。

俺もこのような営みを望んでいたのかもしれない。

麗奈も、真由美さんも・・・

そして、杏も・・・

俺たちは、一つになっていた。

俺たちには、哀しみなんて無いはずだった。

・・・







聡人「なぁ、杏」

杏「なに?」

聡人「約束、守れそうもないな」

杏「約束?」

聡人「おい、忘れるなよ」

俺は杏の額をどついてやる。

杏「うそうそ。忘れてないお〜」

杏「お祭り・・・行けなかったね」

聡人「そういえば、杏はこのお祭りに行ったときないのか?」

杏「うん。行ったときないお〜」

聡人「楽しいぞ。犬の雪像があちこちに並んでさぁ」

聡人「その雪の中で、ろうそくの火が揺れて、甘酒を飲んで・・・」

聡人「そうそう、なぜかお祭りになると、くず湯が配られているんだけどさ、そのくず湯がめちゃくちゃ熱いんだよ」

聡人「それで、瑠璃なんてさぁ、くず湯で口の中をやけどしてたよ」

聡人「例年のことなんだけどな・・・姉さんも笑ってたよ」

杏「瑠璃って?」

聡人「俺の友人さ」

杏「へ〜聡人の友人か〜」

聡人「ああ、いい奴だったよ。姉さんがいないときなんて、いつも俺の世話ばっかり焼いてな・・・」

聡人「年下なのに、なぜかあいつにだけは頭が上がらなかった」

杏「わたし、会ってみたいなぁ・・・瑠璃ちゃんと」

聡人「やめておけ、幻滅するぞ」

聡人「それに・・・」

俺は、一つ溜息をついて間をおいた。

その間は、俺にとって永遠の間にも思えた。

杏「それに?」

聡人「瑠璃はもういないからな」

そうだ・・・

こうして、俺は幾人との別れを経験してきたはずなのだ。

なのに・・・なのに杏は・・・

杏「・・・そっか、ごめんね」

聡人「なに謝ってるんだよ」

杏「うん・・・一緒に、お祭りにいけなくて・・・」

聡人「仕方ないさ、もうどうしようもないんだろ」

杏「うん」

杏「でもね、わたし本当は行きたくないんだよ・・・」

杏「ずっとずっと、聡人や、麗奈ちゃんや、真由美さんと一緒にいたいんだよ・・・」

杏・・・

聡人「ああ、分かってる・・・俺だって杏とは離れたくない」

杏「でもね、行かなくちゃいけないんだよ・・・」

杏「聡人は私のこと忘れちゃダメだよ」

聡人「何、バカなことを言っているんだ・・・忘れるわけないだろう」

杏「そう・・・だよね・・・そうだよね」

杏「私も聡人のこと絶対に忘れないからね」

杏「絶対に・・・忘れないから」

杏は、俺にはばかることなく泣いていた。

ずっと、ずっと嗚咽していた。

まるで、これが最後の別れかのように・・・

そんなことは、ないはずなのに・・・それを信じていいはずなのに・・・

杏の涙には、深い哀しみと儚さが混じっていた。

今、俺はどういう顔をしているのだろう?

俺は今、泣いているのだろうか?

だが、俺は杏を抱くことしかできなかった。それ以上のことができなかった。

外には、冷たい雪が降りしきっていた。

まるで、俺の心を埋めるかのように、過去の雪の上に現在の雪が積もっていた。

杏「うわぁぁぁぁぁあああああ〜〜〜〜〜ん・・・・・」

杏「みんなと別れたくないおおおおぉぉぉぉ〜〜〜〜〜・・・・」

杏「もう・・・一人ぼっちはいやだぉぉぉぉおおおお〜〜〜〜・・・・」

雪はやまなかった。

まるで、やむことを忘れてしまったかのように・・・

杏の泣き声は、雪の中に溶けて消えていった。

俺は、杏の小さく軽い体を強く抱きしめた。

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


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