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Original Novel Pochikun Presents



Bye〜rain〜


最終話.杏

by ポチくん





Feb 9 FRI




・・・

・・・頭が・・・重い・・・

俺の体はどうしてしまったのか・・・というくらい動かなくなっていた。

今日、学校に行くのは無理だな・・・

コンコン・・・

聡人
 「はい、空いてますよ」

麗奈ならばノック無しで入ってくるので、そこにいるのは真由美さんだというのが分かる。

真由美
 「聡人さん、気分はどうですか?」

聡人
 「さっきよりは良くなった様です」

真由美
 「なら良かったですね」

そう言うと、真由美さんは用意してあったタオルを俺の額に乗せる。

良くなったとは言ったが、実際全く良くなっている気がしてない。それどころか、悪くなっているようだった。

真由美
 「学校の方には連絡しておきましたから」

時計を見ると、10時を過ぎていた。

聡人
 「そうですか・・・度々すいません」

真由美
 「こんな体調で学校に行かれるよりは、よっぽどましですよ」

確かにそうかもしれない。

聡人
 「麗奈は、大丈夫ですか?」

真由美
 「大丈夫ですよ。椎名ちゃんが来てくれましたから」

聡人
 「瑞穂が?なら安心ですね」

俺はそれから、真由美さんと話をした。

こうして二人で話をするのも、いい機会かもしれない。

・・・

真由美
 「でも、しばらくは寝ていてくださいね」

聡人
 「ええ、分かりました」

最後にそれだけを言うと、真由美さんは部屋を出て行った。

俺は、そのまま睡魔に襲われていった。

・・・







・・・どこだ?

・・・どこだ、ここは?

夢?記憶?

・・・

「・・・のと〜り〜はまだ〜う〜まくとべない〜け〜ど〜♪

いつ〜かはかぜをき〜ってし〜る〜♭

とどか〜な〜いばしょがまだ〜とお〜くに〜あ〜る〜#
ねが〜いだけひめ〜て〜みつ〜め〜て〜る〜☆」

「わたし・・・聡人の後に歌いづらい・・・」

「なんでだ?」

「わたし・・・ヘタクソだから・・・」

「そんな事ないぞ!うまかったじゃないか、さっきの歌」

「そう?上手だった?」

「ああ、それにここにいるのは俺たちだけだ。恥ずかしがることなんてないぞ」

「あ〜それって誉めてるの〜?」

「誉めてるんだよ。気にするな。ほらほら、お前の番始まるぞ」

「あ!はいはいはいっ・・・」

・・・







「・・・うしよう、どうしよ・・・こわいよ・・・」

「わたし、もうダウン・・・」

「凄いぞ」

「う〜・・・でも怖かったお〜」

「それでも、よく頑張った」

「そうだね。わたし頑張った!」

「うんうん」

「あっ!」

「どうした?」

「お昼ご飯の時間だお・・・」

・・・







「・・・ん、今日は楽しかったなぁ〜」

「お姉ちゃん、よく食べたね」

「あれは食い過ぎというやつだ」

「うん!そうかもね」

「なに〜?そこでこそこそ言わないの!」

「でも、あれで『デザートは別腹っ!』はないだろ」

「うんうん!」

「あ〜麗奈ちゃんまで!」

「今日は楽しかった?」

「うん!とっても」

「またいつか来ましょうね」

「でも、毎日これじゃ疲れるぞ」

「いいじゃ〜ん!べつに〜!」

「うんうん、いいじゃ〜ん!べつに〜!」

「いいじゃないですか?べつに」

「ま・・・いいか、べつに・・・」

・・・







「・・・こんどはあれやろっ!」

「ね〜はやくぅ〜」

「はいはい、これですね」

(お金を入れてね!)

(きぼうする枠を選んでね!)

「あ!これがいいなぁ〜」

「おい、押すなよ!狭いんだから」

「じゃ、押すよ〜」

「分かった分かった」

「じゃぁ、ぴっと」

(じゃ、写真をとるね)

「は〜い♪」

「お前・・・それどうするんだ?」

「あ!そっか〜聡人にも分けなくちゃね」

「いや・・・そういうことじゃなくて・・・」

「はいっ!聡人っ!」

「え?ああ・・・貰っておく・・・」

・・・







「・・とずっと、聡人や、麗奈ちゃんや、真由美さんと一緒にいたいんだよ・・・」

「ああ、分かってる・・・俺だって離れたくない」

「でもね、行かなくちゃいけないんだよ・・・」

「聡人は私のこと忘れちゃダメだよ」

「何、バカなことを言っているんだ・・・忘れるわけないだろう」

「そう・・・だよね・・・そうだよね」

「私も聡人のこと絶対に忘れないからね」

「絶対に・・・忘れないから・・・」

・・・







「・・・って、わたし・・・」

「わたし・・・」

「こんなにも、聡人のこと好きになっちゃったんだもん・・・」

・・・







もどろう。

あそこはあたたかそうだ。

ここはさむすぎる。

・・・







「ずっと好きだよ・・・聡人・・・」

・・・







がばっ!

っはぁはぁはぁ・・・

っはぁはぁはぁ・・・

っはぁはぁはぁ・・・

やけに時計の音がうるさい・・・

なんだったんだ・・・あれは・・・

俺の記憶?

本当に俺の記憶だったのか?

くそっ!

あれは確か・・・

俺はそう思うと、あの時に穿いていたジーパンを探した。

早くしないと、また記憶が・・・

くそっ、ここじゃないのか?

こんなことなら、ちゃんと整理しておくべきだったな・・・

違う、ならここか?

くそっ!

これか?

俺はそのジーパンのポケットに手を突っ込む。

・・・あった

俺は小さな紙が手に当たるのを感じると、それを取り出した。

・・・

あ・・・んね?

・・・そうか!杏だ!

俺はそう感じると、隣の部屋に駆け込んだ。

・・・







確かここは、杏の部屋だったはずだ・・・

真由美
 「あら、聡人さん、寝てなくちゃだめでしょ」

後ろから真由美さんの声が聞こえる。

聡人
 「すいません。今はそれどころじゃないんです」

何か・・・何か手がかりが・・・

真由美
 「確かこの部屋は・・・誰も使っていないはずですよ」

いや、そんなはずは無い。あの写真にも杏はいたんだから。

杏は確かに俺たちと知り合っていたはずだから。

聡人
 「本当に・・・誰も使っていなかったんですか?」

そう言うと、真由美さんは今までに見せたときがないくらいの哀しい顔を見せた。

聡人
 「何かあったんですか?」

真由美
 「聡人さんや、麗奈には黙っておこうと思ったんですけど・・・」

俺は真由美さんの話を聞きながら、何かないか探して歩いた。

真由美
 「この部屋には新しい家族が入るはずだったんです」

そこで俺の手が止まる。

“はず”

確かに、真由美さんは“はず”と言った。

聡人
 「その人の名前は『あんね』という名前じゃないですか?」

真由美
 「えっ?」

真由美
 「そ、そうですけど、なぜそれを聡人さんが?」

やっと、俺は分かった。

そして思い出した。

杏・・・

俺の大切な人・・・

ここから先は、恐らく辛い記憶になるだろう。

俺は、また部屋を探し始めた。







あった・・・

それは新聞紙の切れ端だった。

・・・

聡人
 「真由美さん・・・これは本当のことなんですか・・・」

真由美
 「ええ、そうよ」

俺が持っていたのは、あの日燃えたと思っていた新聞紙のかけらだった。

(1月24日水)

それは俺と杏が出会う“はず”の日だった。

真由美
 「杏ちゃんは、あの日に私たちの家族になるはずだったの」

真由美さんは今、確かに“杏ちゃん”と言った。

真由美
 「あの日、杏ちゃんは来なかった」

真由美
 「代わりに来たのが警察だったの」

真由美
 「そして、私にこう言ったわ」

「岩崎杏という少女を知りませんか?」

「彼女が行方不明という通報がありまして、もしかしたらと思ったのですが」

・・・

そこにあったのは哀しい現実だった。

一体、今まで俺の前にいたのは何だったのだろう?

俺が好きになった少女、岩崎杏は誰なのだろう・・・

本当にあれは記憶なのだろうか?

本当にこれは現実なのだろうか?

わからない・・・

何が俺の中で起こっているのか・・・

いや、いわさきあんねの中で起こっていたのは何だったのだろうか・・・

全てはあの場所に・・・

行かないと・・・

真由美
 「聡人さん、無理したらだめですよ」

真由美さん・・・俺はそれどころではないんだ・・・

しかし、俺にはそう言う力さえ残っていなかった。

目の前が反転する。

上と下から、黒いカーテンのようなものが、俺の視界を遮る。

頭が・・・重い・・・

まるで地面に吸いつけられているようだ。

「・・・さん・・・聡人・・・ん・・・てくだ・・・」

誰の声だ?

俺を連れて行ってくれ・・・あの場所に

明日は約束の日だから・・・

だから・・・

・・・







ちっ、ちっ、ちっ・・・

時を刻む音。

5時。

あれから、どのくらい眠ってたんだ?

よく分からない・・・

暗い・・・

だけど、体の調子は不思議なほど良くなっていた。

外は、雪が降っていた。

風のない雪。

舞い降りる、その白い粒は哀しさを帯びていた。

・・・







麗奈
 「あら、兄さん起きて大丈夫なの?」

リビングに下りると、麗奈がそう挨拶をした。

麗奈
 「兄さんたら、無茶して倒れたんだって?」

真由美さんから聞いたのだろう。

麗奈
 「あれから、もう1日以上経ったんだよ。もう心配だったんだから」

・・・なんだって?

聡人
 「今、なんて言った?」

麗奈
 「な、何?」

聡人
 「だから、今麗奈が言った言葉だよ!」

麗奈
 「え?心配だったって・・・」

聡人
 「違うよ!その前に!」

麗奈
 「兄さんは、1日以上寝てたって」

聡人
 「・・・と言うことは、今日は10日なのか?」

麗奈
 「え、そうだよ・・・それがどうかしたの?」

聡人
 「もうお祭りは始まっているのか?」

麗奈
 「うん、始まってるよ。そういえば兄さんお祭りに行くんだっけ?」

聡人
 「ああ、そうだ」

麗奈
 「無理しない方がいいよ。まだ完全に直っていないんだから」

聡人
 「そういう訳にはいかないんだ・・・」

聡人
 「大切な・・・約束だから・・・な」

俺は、玄関にかけてあったコートを手にした。

麗奈
 「ちょっと、兄さん無理だよっ!」

聡人
 「悪い、行かなくちゃいけないんだ」

麗奈
 「どうしても行くの?」

聡人
 「ああ」

麗奈
 「・・・気をつけてね。無理しないで」

聡人
 「すまん」

・・・







杏と歩いた道。

一緒に歩いた道。

杏は俺のそばにいてくれた。

だから、俺も杏のそばにいなければならないんだ・・・

空の雪はやみそうになかった。

見上げると、黒い空から雪がゆっくりと落ちてくる。

少しの風で揺られて落ちてくる。

雪が降っているのか?それとも、俺が上に落ちているのか?

分からない。

杏と一緒に釣りをした堤防。

結局、釣れたのは一匹だけ。

その魚も、家に帰ったら料理になってたっけな・・・

淡白な魚で、おいしくなかったけど、杏は構わず食べてたし・・・

魚拓にされかけたっけな・・・あの魚・・・

橋が見えてきた・・・







・・・?

あれは・・・人?

水銀灯が照らす橋の上で誰かが佇んでいた。

じっとして動かない。

頭の上には、既に雪がかなり積もっているようだ。

あれは?

見覚えのある姿だった。

古館真由美。

・・・







聡人
 「・・・真由美さん」

そう言うと、真由美さんは驚いた表情を見せた。

真由美
 「そ、聡人さん、何故こんな所に?」

聡人
 「それはこっちのセリフですよ、真由美さん。どうしてこんな所に?」

真由美
 「聡人さん・・・」

真由美
 「いえ、なんでもありません」

聡人
 「何もないわけがないでしょう」

真由美
 「・・・」

聡人
 「・・・なにか・・・あったんですね」

俺は、そう直感的に感じた。

真由美
 「麗奈は・・・家にいますか?」

聡人
 「ええ」

真由美
 「そうですか・・・」

聡人
 「ここで何があったか・・・教えてくれませんか・・・」

真由美
 「・・・」

聡人
 「真由美さん!」

真由美さんは、俺の横をすり抜けて家の方向に歩こうとしていた。

俺はそんな真由美さんを手で引き止める。

かじかんだ手にしては、自分でも信じられないほど力が入っているのに気がついた。

・・・







雪は果てしなく降りつづけている。

その中でライトを浴びた俺と、真由美さんと、雪がオレンジ色に染まっていた。

街は、祭りの明かりを帯びて明るく淀んでいる。

真由美
 「聡人・・・さん・・・」

今まで俺が知っている真由美さんじゃなかった。

真由美さんは目の下に光るものを溜めていた。

初めて見せた、真由美さんのこんな姿。

そうか・・・

真由美さんも、思い出していたんだ・・・杏との記憶を。

今の真由美さんが、それを表していた。

ふと、真由美さんを止める俺の力が抜けた。

真由美さんの肩にかかっている力も、もうなくなっていた。

真由美さんは、さっきいた場所に、そして俺の隣に並んだ。

・・・橋の下。

杏と一緒に釣りをした場所。

いっしょに話をした場所が、暗く、そして白く浮かび上がっていた。

真由美
 「あれが・・・何だか分かりますか?」

そう、真由美さんが話した。

真由美さんが目線にした場所、そこは俺たちがいつも釣りをしていた場所、そして杏がいつも座っていた場所だった。

そこには柵が立てられ、ロープが張られていた。

周りの雪も踏み固められているようだった。今降っている雪で分かりにくくなってはいるが、そこについさっきまで人がいたことを伺わせた。

聡人
 「あ・・・れは?」

真由美・・・さん?

真由美
 「お姉ちゃん・・・」

真由美さんが泣いていた。

堪えることなく、泣いていた。

あんなに聡明で、そして何よりも俺たちの上に立ってくれいた真由美さんが、こうして泣いている。

その事が、俺は堪えられなくなっていた。

真由美
 「おねえちゃんが・・・あの川岸に引っかかっているのが見つかったって・・・」

・・・

真由美
 「うっ、うう・・・おねえ・・・ちゃん・・・」

冷たく凍りついた橋の上。

真由美さんはその橋の上に膝をついて泣き崩れた。

真由美
 「おねえ・・・ひっ・・・ちゃんが・・・」

顔を両手で覆って嗚咽する真由美さん。

俺は・・・

俺は、真由美さんに上着をかけた。

聡人
 「真由美さん、その格好じゃ風邪・・・ひきますよ」

真由美
 「聡人さん・・・」

真由美さんに背を向けた。

俺は、上着を脱いだ格好のまま杏がいる場所へと向かった。

そのとき、走る横から赤や青、そして緑の光が俺を照らした。

杏は、いつもこの場所を俺に見つからないように隠していたんだな・・・

バカだなぁ・・・俺が怒るとでも思ったのか

悪戯をした子供が、それを隠すかのように・・・

どっ・・・

ひゅーーーーーーーーーーーーー・・・・・・・・・・・

ドン・・・・・ぱらぱらぱら・・・・

始まったか・・・

早くしないと・・・

杏が俺を待っている・・・

・・・







ここか・・・

“中央病院”

俺は、何も考えなかった。いや、考えられなかったのかもしれない。

ただ、漠然とした現実を受け止めなければならないという事に対する反発力を辿ってきたのだった。

聡人
 「杏・・・岩崎杏はどこにいるんですか・・・」

俺は看護婦にそう聞いた。

看護婦
 「え?いわさきさん?」

明らかに看護婦は戸惑っていた。

看護婦
 「階段を上がって・・・3階の・・・突き当たりの部屋です・・・」

俺は走った。

杏・・・

待ていてくれ・・・

やっと・・・やっと・・・

約束、やっぱり守れるよな・・・

一緒に、お祭りに行くんだもんな・・・

花火、一緒に見るんだもんな・・・

・・・







ここの突き当たり・・・

すぐにでも分かった。そこしかなかったから。

でも、その部屋は病室ではなかった。

・・・

部屋の中は、物静かな空間だった。

窓も何もない部屋だった。

ベッドの上には、誰かが寝かされていた。

あれは・・・誰だ・・・

俺は駆け寄った。

冷えた空気と、冷たい床。

そして真っ白いベッド。真っ白い壁。

そして、そこにいたのは。

杏・・・

いわさきあんね・・・

「おい、こんな所で何しているんだよ?」

だが、杏の返事がなかった。

ベッドの上で眠っている杏の頬に触れてみる。

俺が触れた杏の頬は、まるで雪のように白く、そして冷たかった。

「なぁ、杏。起きてもいいんだぞ・・・」

俺は杏の体を揺らしてみた。

「俺をおどかそうとしているんだろ・・・?」

もっと、もっと揺らしてみた。

「もういいんだよ・・・もう、俺はびっくりしないぞ・・・」

もっと、もっと、もっと揺らしてみた。

だが、杏は返事をしなかった。

「おい、お祭り終わってしまうぞ・・・」

「花火の音、聞こえるだろ・・・」

「目、つぶったままだと・・・花火・・・見えないだろう?」

「なぁ・・・目、開けてくれよ・・・」

もう、二度と開くことのない閉じた目。

「一緒に、約束しただろう・・・」

「お祭りに・・・一緒に行くんだろう・・・」

全身の力が抜けて膝から落ちた。

もう、立っていることもできなかった。

俺は、杏に抱きつく。

「なんだ杏・・・全身が冷たいぞ・・・」

抱きついた杏の体からは鼓動を感じなかった。

杏を抱きかかえた俺の目から、冷たいものが落ちる。

杏の頬の上に、冷たい水滴が落ちる。

「杏・・・なんだよ・・・」

「花火・・・見るんだろう・・・」

「行こう・・・花火を見に・・・一緒に・・・」

・・・







俺は杏を抱きかかえて、階段を上っていった。

「お前・・・こんなに軽かったのか?」

抱きかかえた杏は、重さを感じなかった。

抱きかかえた杏は、温かさを感じなかった。

「ほら、もう少しで花火が見えるぞ・・・」

階段を昇っていき、一番上の扉を開く。

雪は、一段と強さを増していた。

「ほら・・・見えるだろう・・・」

どっ・・・

ひゅーーーーーーーーーーーーー・・・・・・・・・・・

ドン・・・・・ぱらぱらぱら・・・・

花火の鳴る街に、哀しく、そして冷たい雪が降り積もっていた。

色とりどりの花火の光を受けて、綺麗な雪か光っていた。

「ほら・・・そんなに顔の上に雪を溜めて・・・」

俺は、杏の顔の上に積もった雪を手でほろってやる。

「綺麗だな・・・」

「約束・・・守れなかったけど・・・」

「お祭りには・・・行けなかったけど・・・」

「こんな綺麗な花火は・・・はじめて見たよ・・・」

あの日・・・姉さんと見た花火よりも、ずっと綺麗だ・・・

どっ・・・

ひゅーーーーーーーーーーーーー・・・・・・・・・・・

ドン・・・・・ぱらぱらぱら・・・・

「雪、積もってきたな・・・」

さっきまでの雪は、もう杏の膝の上まで積もっていた。

「ずっと、見ていような・・・花火が終わるまで・・・見ていような・・・」

「なぁ・・・俺との約束、忘れたわけじゃないだろうな・・・」

「ごめんな、杏・・・俺、ちょっと忘れかけた・・・」

「でもな、ちゃんと来ただろう・・・」

「ちゃんと・・・思い出しただろう・・・」

どっ・・・

ひゅーーーーーーーーーーーーー・・・・・・・・・・・

ドン・・・・・ぱらぱらぱら・・・・

「お前が・・・忘れるわけないか・・・」

「そうだよな・・・」

「忘れないって・・・約束したもんな・・・」

「だから・・・だからここにいるんだもんな・・・」

俺は、きゅっと杏の体を強く抱きしめる。

そのとき、少しだけ強い風が吹き、俺の目から流れる水滴が風に流された。

「なぁ・・・杏・・・」

「また・・・会えるよな・・・」

(うん)

「俺は・・・お前のことが・・・」

「杏のことが・・・」

「好きだから・・・」

(うん・・・わたしもだよ・・・)

頬と頬を合わせた、俺の頬に、冷たさが伝わる。

この俺の温もりを・・・

この俺の想いを・・・

この雪は、跡形もなく埋めてしまうのだろうか・・・

俺は、杏にこの温もりを分け与えたかった。

少しでも、この体温を杏に感じてもらいたかった。

なぜ、俺に降り積もる雪は溶けて消えるのに・・・

杏に降り積もる雪は溶けないんだ・・・消えないんだ・・・

俺は、杏に降り積もる雪を、俺の体温で消してやった。

手の温もりで・・・目から流れ落ちる雫で・・・頬から伝わる体温で・・・

「ほら・・・お前にも、この温かさが分かるだろう・・・」

「これはな・・・お前自身の温かさなんだぞ・・・」

「俺は・・・もうお前を離さないから・・・」

(うん・・・)

「うっ・・・うう・・・」

俺は、もう体を起こす力もなくなっていた。

雪の上に杏を置いて・・・

そして、雪の上に両手をついて・・・

「あんね・・・」

「あんねぇ〜〜〜〜〜〜・・・・・・」

今日は、冬のお祭りの日・・・

俺と杏の再会の日・・・

俺と杏が永遠を誓った日・・・

そんな俺たちを、雪と花火は迎えてくれた。

この雪は、俺と杏の想い・・・

この花火は・・・一瞬のきらめき・・・

そして・・・

どっ・・・

ひゅーーーーーーーーーーーーー・・・・・・・・・・・

ドン・・・・・ぱらぱらぱら・・・・

・・・

今、最後の花火が終わった。


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