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Original Novel Pochikun Presents



Bye〜rain〜


Epilogue.春(Spring)

by ポチくん









「兄さん・・・兄さん、起きてよ〜」

おいおい、今何時だと思ってるんだ・・・

「もう少し寝かせろよ・・・」

「ぬ〜何言ってるの〜」

「って言ったってなぁ〜」

「今日何の日だか知ってるの?」

「今日か?木曜日だ」

「それくらい知ってるよ」

「なら何なんだよ」

「今日は卒業式でしょ〜」

そうか・・・卒業式だっけな・・・

実際のところ、卒業式なんて暇なだけで出るつもりはなかった。

だが、今年は別だった。

「仕方ないなぁ・・・準備するから下で待ってろ」

「早くしてね」

もう蒲団から出ても寒い季節でなくなっていた。

春の息吹と言うにはまだ早いと言っても、目に見えて近づいているのが分かる頃となった。

・・・







「ふぁ・・・おはようございます・・・」

朝の食卓。

真由美さんの笑顔。

あれから殆ど時間が経っていないにも関わらず

「あら、お兄ちゃん。早くしないと遅刻ですよ」

テレビをつけると、既にスポーツコーナーが始まっていた。

もう着がえてきて正解だったな。

「あれ?麗奈はどこに行ったんですか?」

「もう行きましたよ。もう、お兄ちゃんが遅くて、椎名ちゃんと行くって言ってましたから」

「あれ?瑞穂が来たんですか?」

「ええ、そうよ」

そういえば、迎えに来るよって言ってたような・・・

「じゃ、いってきまーす」

「あらあら、気をつけてね」

俺はパンを一切れだけ口の中に押し込むと、急いで家を出ることにした。

・・・







くそっ、どこまで行ったんだ?

最近は麗奈も歩くのに慣れてきたらしく、学校に遅刻して行くことも少なくなっていた。

この頃はいい天気が続いていた。

しかも今日は絶好の卒業式日和となった。

ん?あれか?

「おーい、れなーみずほー」

「あ、兄さん遅いよ〜」

「おはよう、聡人くん」

「ああ、おはよう」

「おいおい、俺をおいて行くなんてひどいじゃないか」

「そう言ったって、兄さん遅いんだもん」

「そうそう」

「おかげで、俺はこんな朝っぱらから走る羽目になったんだぞ」

「聡人くんが悪いんじゃない」

「そうだよ〜兄さん」

一対二では分が悪いのは目に見えていた。

「すまんすまん。こう暖かくなってきたら起きるのがおっくうでな。」

「兄さんは寒くてもおっくうでしょ」

「そう言うなよ」

「まあまあ、麗奈ちゃんも聡人くんも」

「なんだよ、改まって」

「ほら、そこ見てみて」

「あっ」「あっ」

俺と麗奈は同時に声を上げた。

まだ雪の積もっている道端。

アスファルトの隙間から春の芽が見えていた。

「ふきのとうだね」

「ああ、春・・・だな・・・」

「もう、雪も溶けるだけなんだね・・・」

新しい季節が見えてきた瞬間だった。

気付かないうちに、こんなにも暖かくなっていたのか・・・

「ほらほら、遅れるよ聡人くん」

「おい、ちょっと待てよ〜おいて行くなんて卑怯だぞ〜」

「兄さんがぼーっとしてるんだよ〜」

・・・







(3年D組・・・40名)

(井川・・・)

(3年E組・・・39名)

(相沢・・・)

はい

・・・

(3年G組・・・40名)

(安部・・・)

はい

もう少しか・・・

名前を呼ばれた卒業生は返事をしてその場に立つ。

(山田・・・)

はい

(石田・・・)

はいっ

(伊藤・・・)

はい

(岩崎杏・・・)

・・・

返事のない卒業生。

誰も座っていない・・・椅子。

俺は、泣かなかったはずだ。

あの時に、もう泣くことは止めたはずだから。

泣いたら、杏が悲しむから・・・

でも・・・無理だった。

しばらくは気付かなかった。

でも、俺は声もなく泣いていることに気がついた。

こんな時は・・・泣いていいんだよな・・・

俺には杏の声が聞こえていたから・・・

杏の立つ姿が見えるから・・・

・・・

(岩崎杏・・・)

“・・・はいっ!”

・・・

誰よりも元気な、杏の声が聞こえていたから・・・

勢いよく立ち上がって・・・そして転びそうになって・・・恥ずかしくて・・・

そんな姿が見えていたから・・・

俺は、笑い泣きしていたんだ・・・

・・・







教室に戻った俺たちには、なぜかホームルームが用意されていた。

卒業式なのになんでだよ。

「あー来年度は君たちも最上級生に・・・」

「自覚を持って・・・」

って言ってもなぁ・・・

「なぁ、瑞穂」

「なに?まだホームルーム中よ」

「あんな話、だれも聞いちゃいねーよ」

「まあね」

「確か、二年から三年に上がるときってクラス替えないんだよな」

「そうよ。でも、それって理系だけよ」

「なに?文型はクラス替えありか?」

「知らなかったの?」

「知らなかった・・・」

「こら、御住!静かにしろ」

クラス中からくすくすっと笑い声が聞こえる。

「なんで俺だけが怒られるんだ?」

「日頃の行いの違いよ」

「授業中に麻雀やっている人間の言うセリフじゃないぞ」

「・・・」

「おいおい!激しく無視するな」

「おい、御住!聞こえなかったのか?」

「すみません」

くっそ〜瑞穂のやつ・・・

このようなイベントのときは大量にプリントが渡される。

“三年生としての自覚”

“春休みの課題”

“学習計画表”

「あーこれも渡してくれ。前の三人、手伝ってくれ」

まだあるのか?

普段はオキベンをしている俺にとっては、このような日のほうが帰りのザックの中は重くなる。

“第55期生卒業文集”

俺はこれが渡るとぱらぱらと、ページを捲ってみる。

明らかに適当に、と周りからは見えるように。

だが、俺には目的があった。

確かこれは卒業式のずっと前に書いたやつだから・・・

・・・







―――G組―――

岩崎杏―――

“やっほー!もう卒業かぁ・・・

早いねー入学式から「あっ!」って言ったら卒業だったお〜

月日が流れるのって早いね☆

あ〜あ、これからの月日ってもっと短いのかなぁ?

気がついたら結婚していたりするのかなぁ・・・

子供なんかもいたりして?えへへっ♪

みんなっ!卒業してもよろしくねっ!”

・・・







杏らしいな・・・

本当は、このような日が続いているはずだったのに・・・なぜ杏は・・・

俺は、何気なくもっとページを捲ってみる。

ぱらぱらぱら―――

ん?

最後のページに文集としては不自然な字があった。

それは鉛筆で、丸っこい字で書かれていた。

瑞穂のそのページを見ても、どうやら何も書かれていないようだった。

ということは、俺のだけに書かれているのか?

俺は、その文字に目を通す。

それは・・・日記だった。

短い、一行日記だった。

それは、あの日から始まっていた・・・





1月23日火曜日
今日、変な男の子と出会ったんだ〜面白い子だったよ♪

1月24日水曜日
新しい家に始めて行ったけど、みんないい人ばっかりだったお〜

1月25日木曜日
いきなり遅刻しちゃって、先生に怒られちゃった〜

1月26日金曜日
もう吹雪は嫌だお〜でも、聡人や麗奈ちゃんがいたから大丈夫だった♪

1月27日土曜日
みんなと食事に行って楽しかった♪また行きたいな〜

1月28日日曜日
今日は、聡人の友達が遊びに来たお〜とっても楽しかった♪麻雀、負けたけど・・・

1月29日月曜日
スキー下手なのに、聡人にむりやり上級につれていかれた〜怖かったお〜

1月30日火曜日
聡人に勉強を教えたお〜ちゃんと分かったのかなぁ〜心配だお〜

1月31日水曜日
料理苦手なのに、むりやり作らされた〜泣いちゃうお〜










2月1日木曜日
聡人が、ずっと傍にいて看病してくれた。嬉しかったお〜

2月2日金曜日
聡人の雪かき手伝おうとしたらもう終わってたお〜残念・・・

2月3日土曜日
聡人とデートの約束しちゃった・・・でも早く風邪治してね♪

2月4日日曜日
聡人とデートした!と〜っても楽しかった!でも聡人、歌上手すぎ・・・立場ないお〜

2月5日月曜日
学校に行ったら、聡人とデートしていたのがばれていたお〜ま、いっか〜☆

2月6日火曜日
聡人にコーヒーおごってもらった♪お魚釣れなかった・・・でも楽しいからおっけ〜♪

2月7日水曜日
聡人と麗奈ちゃんと一緒に学校に行くのも慣れてきたお〜でも、もう卒業か〜寂しいね♪

2月8日木曜日
聡人ったらまた風邪ひいてる・・・ゆだんたいてき!わたしも気をつけよっと!

2月9日金曜日
もう〜聡人ったらまだ風邪治んない・・・明日、お祭りなのに・・・

2月10日土曜日
聡人の風邪が治ってお祭りに一緒に行った♪花火、綺麗だった♪







ごめんね

わたし、よわい子だね

だめだったの

やっぱり、だめだったの

あの日から、わたしずっと一人だった

寂しかった

もう、こんなに寂しいのは嫌なの

だから、わたし

おかあさん、おとうさん、かずと

そして、麗奈ちゃん、真由美さん

聡人

























もっと早く出会っていたかった

そうしたら後悔しなくてすんだのに


































ごめんなさい

ごめんなさい

ごめんなさい

































わたしのことわすれないでください



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