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Original Novel Pochikun Presents



Bye〜snow〜


3.ずっとあたしは…

by ポチくん





柚姫
「いいなぁ〜、麗奈ちゃんはあんなお姉ちゃんやお兄さんがいて」

麗奈
「え、そんなことないよー」

放課後になって街中を柚ちゃんと歩いていた。
お姉ちゃんや兄さんを誉められる時、私はどんな顔をしているのだろう。
きっと嬉そうな顔になっていると思う。
私は、私を誉められることなんて、そんなのはきっとウソだ。
もしくは、それはきっと私が他人を騙しているからに他ならない。
だから私は、お姉ちゃんや兄さんを誉められるのがきっと好きなんだと思う。
柚ちゃんは私を羨ましそうに覗き込む。
でも、私自身はそんなに羨まれる立場になんて絶対にない。
だけど私に降りかかる境遇は、あの日以来、痛いけれども嬉しいことばかりとなっていることには、薄々感じていた。

(普通って…こういうことなの?)

柚姫
「ん?麗奈ちゃん?」

麗奈
「あ、え?なに?」

柚姫
「さっきから、ボーっとしちゃって、だから…」

麗奈
「あ、ごめん…でなんだっけ?」

 …なんでだろう

柚姫
「あそこにいるの麗奈ちゃんのお姉ちゃんとお兄さんじゃない?」

学校から直接来たのだろうか。
兄さんはお姉ちゃんと一緒に、私達がきた道を歩いていた。
遠くに見えるその影は、まだ馴れていないものの、そのぎこちなさが物凄く新鮮に感じた。

(お姉ちゃん…)

(…あ、わ…私ったら)

柚姫
「じゃあ、私これで行くね」

私は、さよならと挨拶をすると、柚ちゃんもそれに答えるようにさよならと挨拶を返した。
その柚ちゃんの笑顔に私も答えると、柚ちゃんは駆け足で商店街を駆け抜けていった。
その後ろ姿に、私は奇妙にも紫色の感情が沸いた。
それは、きっといつも感じていることなのだと思う。
多分これからも…これ以上に…





ガチャ…
擦りガラスのついたドアをゆっくりと開けていく。
アルコールの消毒臭が、私の鼻を突く。


「あっ!れっなちゃ〜〜〜ん、おっひさぁ〜〜〜!!!」

瑠璃ちゃんが私の顔を見るや否や声をかけてくる。

瑠璃
「最近、随分とおっひさぁ〜〜〜だったね〜〜〜だって、麗奈ちゃんったらこのところ顔を見せてなくて、あたし随分と寂しかったんだよ〜〜〜〜!そんなに引かないで、ほらほらっ!って、なんか“そーちゃん”の隣にいる子って誰?もしかして彼女?うっわ〜〜〜!そーちゃんの彼女か〜〜〜!なんかすんごく可愛いね〜〜〜!(ここまで5秒)」

いつになっても、瑠璃ちゃんのマシンガントークは衰えることを知らないなぁ…と、私は少し感心する。
私、普段あんまり喋んないから、むしろそれは尊敬に近いのかもしれないけど…私は少し笑って見せた。


「残念っ!私は総人の彼女じゃなくて、おねーちゃんの岩崎杏、よろしくねっ!」

瑠璃
「ええ〜〜〜っ!もしかして、さっき“そーちゃん”が言ってた新しい家族ってキミのこと?あたしてっきり…でも“そーちゃん”にはもったいないもんっ!あたしは新庄瑠璃ですっ!これからもよろしくねっ!あんねさん!(ここまで6秒)」


「うん、よろしく〜…ってさっきから気になってたけど“そーちゃん”って誰の事だお〜?」

総人
「だから…その呼び方はやめろ。何回も言ってるだろ」

瑠璃
「え〜〜〜、だって“そーちゃん”は“そーちゃん”だよ〜〜〜“そーちゃん”が“そーちゃん”じゃなかったら、だれが“そーちゃん”なんだよっ!」

総人
「やめてくれぇ…連呼するのだけは、やめてくれぇ…」

麗奈
「あはは…」

私はそうすることができる瑠璃ちゃんが羨ましかったのかもしれない。
瑠璃ちゃんが話をする度に、吊るしてある点滴溶液が激しく揺れる。
そういえば私が以前訪れた時から比べて、随分と量が多くなった気がする。
こうすることでしか今を得ることができない、そんな子もここに存在していた。
お姉ちゃんは、もう瑠璃ちゃんと打ち解けたのか、一緒に話をしている。
私は、そんなお姉ちゃんが羨ましいのかもしれない…
でもそれはただ、私がお姉ちゃんを、お姉ちゃんが私を知らな過ぎるだけなのだと思う。
なぜなら、そうでもなければ、お姉ちゃんは私のお姉ちゃんになっていなかったから。






「元気な子だったね、瑠璃ちゃんって」

総人
「ああ、それだけが取り柄なんて、ふっ…」


「あっ!その『ふっ』ってなんだお〜」

総人
「ああ、お前みたいだな…杏」

麗奈
「あははっ」


「あ〜〜〜麗奈ちゃんまで〜〜〜」

総人
「あ、杏には大食いという特技もあったな…」

麗奈
「ぬ〜、それって取り柄って言えるの?」


「そ、そうだお〜」

真由美
「仲が良くていいですね、三人とも」

うん、そうだね…
きっとこれからも…
ずっとずっと…これからも…



その夜、兄さんはお姉ちゃんをリビングに呼んだ。
きっと、これからは私は兄さんとお姉ちゃんを、兄さんとお姉ちゃんと呼ぶことができると思う。
だから、兄さんはお姉ちゃんに本当のことを話しておかなければならなかった。
でも、お姉ちゃんは瑠璃ちゃんの代わりなんかじゃないから…
お姉ちゃんは、私のお姉ちゃん。
だけど、それは酷くもの哀しく私の目に映るものでもあるから…
きっと、お姉ちゃんはこのことをすんなりと受け入れてくれると思う。
私達は似た者同士。
それは他人か比べれば驚くほどすんなりと通る…いや、ちがうかな…受け流してしまうものなのだろうと…私はそう思う。





私は…誰?

(貴女の名前は麗奈よ)

麗奈?私の名前は麗奈っていうの?

(そう。古館麗奈っていうのよ…貴女の名前は)

ぬ〜、変なこと言わないでよ。私はそんな名前じゃないよ…
私の名前は…
あれ?なんだっけ…
私の名前が思い出せないの…
私の名前って何だっけ…
どういう名前だっけ…

(だから、古館麗奈よ…)

違う…
そんなんじゃない…
そう、貴女なら分かるはず…
どうして本当のことを言わないの?
あなたは私を生んだんじゃないの?

(そうよ…麗奈…)

なら、私の本当の名前を言ってみて…
言えるはずだよ…私を生んだのなら。

(分かっているはずよ…元清水麗奈…)

もとしみず…れな
そっか…分かってたような気がするね。
私知ってたのかもね…
わざわざありがとう。私を生んでくれた人。
名前を付けてくれてありがとう。私なんかに無意味なものを与えてくれた人。
名前という名の、最も不確かな肩書き…
命という名の、苦しみのカタチ…





麗奈
「…」

外では少しずつ雪がちらついてきていた。
時計を見ると、もうほんの少し前が昨日という肩書きを持っていた。
人が作った、不確かな原理。

麗奈
「…私って」

毎日呟いてるね。
私…

麗奈
「…やらしい子ね」

こんな事を考えていても…
手足の痛みは絶対に癒されることはなかったから…
痛みなんて、慣れるもんじゃないから…
痛いのは、いつまでたっても痛いから…

麗奈
「…もうこんな時間だ」

今夜は星が見えないね…
時計の音が、妙に高く聞こえるの。
静かすぎて…怖い。
体が重くて…ずしっと地面に引き付けられて…
私だけがここにいる…
誰だっけ?
これって、どこかのエライ人の言葉だったような…
まぁいいか。
今日は寝よう。
明日も早いのだから…

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