Back/Index/Next
Original Novel Pochikun Presents



Bye〜snow〜


5.強く・・・輝きたい

by ポチくん





“第三病棟”

コンコン…
コンコン…

誰もいないわけじゃない。
だけど、ずっと私はノックを続ける。

コンコン…
コンコン…
コンコン…

「…誰?」

麗奈
「私、麗奈」

「え?麗奈ちゃん?」

「…入っていいよ」



ゆっくりと、重い戸を開けていった。



すぐに分かった。
前来たときよりも、ずっと点滴の量が多い。
もう…すぐなのかもね

麗奈
「こんにちは、瑠璃ちゃん」

瑠璃
「あ…うん、こんにちは」

そう、本当はこの子はこういう子なの。
寂しがりやで…内気で。

瑠璃
「あ…あたし…」

そこまで言って、瑠璃ちゃんは口を紡いでしまった。
ゴメンね…瑠璃ちゃん
下を俯き、黙っているだけの瑠璃ちゃん。

麗奈
「今日は、雪が降ってるね」

あはは、私って口ベタね

瑠璃
「う、うん…そうだね」

今にも消え入りそうな、瑠璃ちゃんの声。

麗奈
「くだもの、食べる?」

瑠璃
「え?買ってきてくれたの?」

麗奈
「うん。りんごとみかん、どっちがいい?」

瑠璃
「あ、あたしりんごがいいなぁ」

私は、うんと返事をすると、りんごを手にとった。
テーブルの上にりんごを乗せて、刻むようにりんごを切る。
とても不恰好なりんごで、皮も剥けていないけど、でもそのりんごを瑠璃ちゃんは美味しいと言ってくれた。
今日は学校が早く終わって、まだ外は明るかった。
ずっと私は瑠璃ちゃんと話しをしていた。
瑠璃ちゃんは、そのうちぐっすりと眠っていた。
可愛い寝顔…
雪が深々と降る外は、いつしかオレンジ色に染まっていった。





どのくらい時間が経っていたのだろう。
静か過ぎる病室は、時という感覚を私たちに与えることさえもなかった。

瑠璃
「あ、あたしね…」

ふと瑠璃ちゃんのほうを向くと、瑠璃ちゃんは目を覚ましていた。
瑠璃ちゃんは遠い空を眺めていた。
病院の窓からは、雪と僅かな山しか見えない。
でも、綺麗だった。

瑠璃
「明日から、病室かわるんだぁ」

麗奈
「病室が?」

瑠璃
「うん、今度からそっちに来てね」

麗奈
「うん、分かった」

麗奈
「で、どこ?」

瑠璃
「552病室…」

麗奈
「…!」

私は、はっとした。
55で始まる病室…
正確に言うと、病室ではないから。
そこは俗にホスピス棟と呼ばれる場所。
もう助からない人たちが、僅かな余命を過ごすための場所…

麗奈
「瑠璃ちゃん…」

瑠璃
「分かってる…分かてるよぉ…」

瑠璃
「でもね…もう、私の体はだめなんだって…そう言われたの」

私は、瑠璃ちゃんが愛惜しくてしょうがなかった。
生きたいのにも生きられない人々。
痛くて痛くてしょうがないのに…
瑠璃ちゃんは嗚咽もなく、涙を流していた…
でも、これからの短い余生、どのくらい涙を流すのだろう。

オレンジ色の空…
雪が舞い太陽を隠していても、もうすぐ太陽が沈むことを知らせていた。

瑠璃
「私ね、もう少し生きたかったなぁ」

瑠璃
「なんか、やり残したことが多すぎる感じ」

瑠璃
「学校にも行きたかった…」

瑠璃
「麗奈ちゃんや、そーちゃんや、杏さん…って、あはっ…杏さんはもう卒業してるかぁ」

瑠璃
「みんなと一緒に…行きたかったなぁ」

瑠璃
「あたしが分からないことがあったら、皆から教わったり…」

瑠璃
「友達と遊んだり…」

瑠璃
「みんなとお弁当食べたり…」

私は、何も言えなかった。
瑠璃ちゃんの涙は、いつしかシーツに大きな染みを残すくらいになっていた。
こんなことって…
私はこんな境遇を作った神様がいるとしたら、きっと恨んでいるだろう。

瑠璃
「ねぇ、麗奈ちゃ…」

瑠璃
「ううん、麗奈おねえちゃん…」

麗奈
「うん」

それはごく自然な流れだった。
嬉しかった…けど
苦しくて…つらくて…

瑠璃
「死ぬって…どういうことなのかなぁ」

瑠璃
「私が死んだら…私はどこに行っちゃうのかなぁ」

麗奈
「瑠璃ちゃん…」

瑠璃
「死んだら、ずっと夢の中にいるような感じになるのかなぁ…」

瑠璃
「ずっと…ずっと覚めない夢…」

瑠璃
「でもあたし…ずっと一人ぼっちだったから…」

瑠璃
「だから…あたし…これからも一人なのかなぁ…」

瑠璃ちゃんの声は、いつしか涙声に変わってきていた。
瑠璃ちゃんの一言一言が、私の心に響いて…ぎゅっと胸が締め付けられる。
今を精一杯生きているのに…誰よりも精一杯に生きているのに…でも…
こんな不公平なことがあっていいの?

瑠璃
「あたし…どうしたらいいの…」

瑠璃
「今まで、ずっと病院の壁と天井を見つめて…いつか…なのに…」

瑠璃
「あたし…あた…うぐっ…」

瑠璃
「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」

瑠璃
「おねえちゃん…麗奈おねえちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」

瑠璃
「あと少ししたら…あたし…もう…麗奈おねえちゃんとも会えなくなるんだね…」

瑠璃
「誰もいない…寂しい一人ぼっちの夢の世界…」

瑠璃
「どうして…ねぇ…なんでなのぉ〜〜〜〜…」

瑠璃
「そんなところに…そんなところになんかいきたくないよぉ〜〜〜…」

麗奈
「瑠璃ちゃん…私…」

私は、もう瑠璃ちゃんの顔を見ることさえもできなくなっていた。
悪い夢なら…覚めて…
今からどっかに瑠璃ちゃんを連れて行って…気が付いたら病気なんて直っていて…
現実って、どうしてこんなにも残酷なの?
私って…どうしてこんなにも無力なの…

麗奈
「私、瑠璃ちゃんのお姉ちゃんになることしか出来ないけど…」

麗奈
「でもね、私がついてるから…だから…」

私は、瑠璃ちゃんに頬擦りをして…そして、一緒に泣いた。

麗奈
「ごめんね…なにもしてあげられなくて…ごめんね…」

瑠璃
「麗奈…おねえちゃん…ひっ…」

瑠璃
「ううん…麗奈おねえちゃんは…優しいね…」

この消えゆく命…
もう誰にも助けられない…命。
命って、儚いっていうけれども…どうしてこんなにも儚すぎるの?
人の夢って…どうして儚いっていうの…?
悲しいね…
悲しすぎるよぉ…

私は、気休めになる言葉さえもかけてやれなかった。
誰かが嘘だって言ってくれれば…このことは嘘じゃないのかなって…
全部全部…嘘なんだって
そんなことさえも、現実という時のカタチは無常にも否定しているんだね…

瑠璃
「あたしね…人の短い命…みんなよりちょっとだけ早く終わるだけなんだって…」

瑠璃
「でも…どうしてこんなにも悲しいのかなぁ…」

現実という、目の前にある波は、大きく、そして揺るぎないものだから…
つらいのは、分かっているから…

瑠璃
「あああっ…!ううっ…麗奈おねえちゃん…おねえちゃん!」

瑠璃
「くるしいよぉ…はぁはぁ…くる…」

麗奈
「え、瑠璃ちゃん!しっかりして!瑠璃ちゃん!」

私は急いでナースコールのボタンを押した。
何度も、何度も押した。

麗奈
「はやく…早く来て!早く来て!」

カチカチカチカチ…


瑠璃ちゃんが苦しんでるのに…
私には、もう助けられない。
私は、瑠璃ちゃんにしてあげられることは…もう何もない。
今、こうしてボタンを押すことしか出来ない自分が悔しい…
私は…私自身の無力さに嘆くしかないんだろうか。
人って、一人じゃあ…こんなにも無力なんだって…
息が詰まって…声も出ない。
つらすぎて…動けない…





“一瞬の命”
“弾ける光”
“光るその中に身を投げ出し、そして音と共に消えた”
“求める光は、儚すぎて…そして淡い”
“誰にも知られずに消えていく命は、最期に知られることを望んで…そして叶わなかった”
“光を求め戯れる姿は、あまりにも惨めなサガ”
“誰でも、それを手に入れようとしている”
“小さい命は、叶わない”
“でも、本能は知っている”
“光っていたい…と”



お姉ちゃんの作ったお話の一小節。
今なら分かる気がする。
光っていたい…そう思う気持ち。
人は、少なからず望む生き物だから…ねぇ、瑠璃ちゃん





おかぁ…さん?
違う…
違うわ!

(麗奈…私はあなたを…)

勘違いしてない?
私は貴女を許していないわ。
貴女のような愚かな人に、私の事なんか分かる訳ないわ。

(ごめんなさい…苦しい思いをさせて)

ごめんなさい?
それは乞い?それとも、私に対する冒涜?
つくづく思うけど、貴女って愚かね。
私を捨てたくせに、何故、今頃私を求めるの?

(それは…)

言えないの?
やっぱり貴女は私を弄んでいるのね…
そして要らなくなったら捨てる…
そうなのね…
ねぇ、そうなのね!

(違うわ…私は麗奈が…)

うるさい!
うるさい!うるさい!
うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!!
言い訳なんかもういいの!
裏切り者はもう消えて!
私の前から今すぐ!

(麗奈…)


Back/Top/Next