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Original Novel Pochikun Presents



Bye〜snow〜


6.裏切り

by ポチくん





ほころび始めるのは、いつも些細な出来事…
そう、ほんの僅かな…
いつ、それが起こるとも限らない…
ただ、いつ起こるか分からないだけ…
だから、人が作りしものは…必ずほころぶ…



雪の降る寒い日。
出来心…好奇心…
これもごく自然な出来事で、いつか起こる必然的なものだったはずなのに…
どうしてだったんだろう…

(開いてる…)

普段は閉じているはずの部屋、あの人の部屋だった。
自分の家とは思えない、そんな雰囲気さえも醸し出している不思議な部屋。

本の数は半端ではなかったけれど、きちんと整理されたこの部屋はあの人の性格を映し出しているような部屋だった。
部屋一面を覆い尽くす本。
使い古した机と椅子。
年季の入った万年筆。
三年、私がこの家に住んでいてはじめて入った部屋。
窓を背にして、机はそこの佇んでいる。
私は、その机の引出しを引いてみた。
心臓が高鳴る。
そう、ほんの出来心…好奇心…
手に取ったのは、手垢にまみれた母子手帳。






あかちゃん 元清水麗奈 ちゃん
おかあさん 元清水真由美 さん
おたんじょうび 1985 ねん 8 がつ 16 にち
たいじゅう 2983 ぐらむ
しんちょう 49.6 せんちめーとる
けつえきがた O がた (RH−)





これ…わたし…
あのひと…どうして…
母親?

母親って…誰?
これは、私のお母さん?
そしてこっちは…お父さん

私。

捨てた?私を…あの人が?お母さん?真由美?
どうして…どうしてなの?
分からない…私を捨てた…真由美…

憎い?

そう、私は母親が憎いのよ
だから、私は真由美が憎いのよ
そっか…私が憎かったのは真由美だったのね…
私をこういう体にしたのはあの人なのよ…

麗奈
「はは…ははは…」

私は、手にしていた母子手帳を放り投げた。
今までの…ありったけの恨みを込めて。
その衝撃で、私は尻餅をついた。
騙していた、あの人が憎い…
そう、みんな私を騙すのね…
私が気づかなかったら、私はずっと騙しつづけるつもりだったのね…

麗奈
「私って…なんだったの?」

麗奈
「バカみたいだね…私」

裏切り者は許さない。
たとえ私が壊れようと、私は絶対に許さない。
今まで…ずっと騙されてたんだもの…
これは当然だから…





真由美
「麗奈…朝ご飯…」

麗奈
「いらない」

真由美
「でも、食べないといけないわよ…」

麗奈
「いらないって、言ってるでしょう」

真由美
「…」



真由美
「あ、総人さん…」

総人
「真由美さん…」

また、私を騙そうとしているの?
やめなさい、みっともないから。






「麗奈ちゃーん」

お姉ちゃんが、後から走ってきた。
雪を駆ける音が、私にそのことを知らせてくれていた。
だけど、激しく降り積もる雪は、その音をかき消そうとしていた。
静かに、私は足を止めた。


「はぁ…はぁ…はぁ…うん、麗奈ちゃん」

麗奈
「なによ。お姉ちゃん」

もう、誰しもが私の敵。例外はいない。


「れな…ちゃん?」

麗奈
「悪いけど…ついてこないで」
お姉ちゃんは、その場に立ち尽くしているだけだった。
私は、お姉ちゃんに背を向け、そしてその場から去った。



雪の降りしきる中、お姉ちゃんはずっとその場にいたのだろう。
お姉ちゃんが学校に来ないで、そのまま家に戻ったのは昼過ぎのことだったらしい。





しばらくして、私は学校にも行かなくなった。
私はずっと部屋に閉じこもることが多くなっていた。
真由美とは、あれから口をきいていない。
兄さんとも、お姉ちゃんとも、私は話す機会がなくなっていた。
当然の結果だ。
私は、真由美の、兄さんの、お姉ちゃんの罪を…忘れないから
私の心を表すように、あの日からずっと雪が降りつづけていた。
この雪は、私の苦しみ…
この風は、私の悲しみ…





「麗奈ちゃん…」

誰?

「私…柚よ…」

柚ちゃん?
あはは…

「麗奈ちゃん、最近学校来てないでしょ?どーしたのかなーって」

麗奈
「柚ちゃん…」

「うん?私に力になれることがあったら…」

麗奈
「帰って」

「え?」

麗奈
「帰って!」

「ど、どうして…麗奈ちゃん」

「でてきて…話しをして…私たち親友でしょ?」

麗奈
「はははっ…あははははっ…」

麗奈
「柚ちゃん、あなたも裏切り者のくせに私に指示する訳?」

麗奈
「くだらない冗談はやめて!」

「麗奈ちゃん!」

麗奈
「私、知ってるのよ…私への裏切り…」

「麗奈ちゃん…?」

麗奈
「私を尻目に、彼氏なんか作って…私をのけ者にして…」

麗奈
「バカバカしいわね…私とあなたが親友?」

「そうでしょ?私は…」

麗奈
「あはは、彼氏といて楽しい?私よりもずっと楽しいでしょ?」

「私っ!」

麗奈
「気持ちいいでしょ?彼氏の上に乗って、嬉しそうに喘いで…」

麗奈
「面白いでしょ…楽しいでしょ?」

「れな…ちゃん…」

「うっ…どうして…れなちゃん…」

麗奈
「私は、あなたの顔なんて見たくないよ」

麗奈
「うす汚い、あなたの顔なんて…考えるだけでもヘドが出るわ」

「うううっ…どうして…」

「れなちゃーーーーーん、どうしてなのぉーーーー…・」

 それが、あなたの犯した罪の重さなのよ
私を裏切ること…
それがどんなことか…思い知りなさい…





あの日から、私の傷口は大きくなっていくようだった。
痛みが増し、そこから溢れ出てくるような悲しみは、私には耐え切れるものではなかった。
どす黒い、苦しみ…憎しみ…悲しみ…
私の傷口はパンドラの箱。
あらゆる感情が、そこから噴き出した。
声を出し、私は泣いた。

「う、うわあああああああああぁぁぁぁぁっ………」

「だ、誰か…誰か助けて…」

「し、死にたくない…死にたくないよ…」

「わたし…まだ死にたくない…」

「殺さないで…まだ生きたいから…殺さないで…」

「助けて…た、助けて…」
死にたくない…死にたくない…死にたくない…
死にたくない…死にたくない…死にたくない…
死にたくない…死にたくない…死にたくない…
死にたくない…死にたくない…死にたくない…
死にたくない…死にたくない…死にたくない…
死にたくない…死にたくない…死にたくない…
死にたくない…死にたくない…死にたくない…
死にたくない…死にたくない…死にたくない…
死にたくない…死にたくない…死にたくない…
死にたくない…死にたくない…死にたくない…
死にたくない…死にたくない…死にたくない…
死にたくない…死にたくない…死にたくない…
死にたくない…死にたくない…死にたくない…
死にたくない…死にたくない…死にたくない…
死にたくない…死にたくない…死にたくない…
死にたくない…死にたくない…死にたくない…
……
…・
・・






麗奈
「はぁ…はぁ…はぁ…」

麗奈
「また…あの夢…」

三年前の夢…
一度消えかけた…私の命。
裏切られたと分かった…あの日。
…コンコン

麗奈
「!…だ、誰?!」

「わたし…杏…」

麗奈
「お、お姉ちゃん?!」

麗奈
「も、もしかして…聞いてたの?」

「麗奈ちゃんが苦しそうにしてて…だからわたし…来てみたんだお…」

麗奈
「い、いやぁ!き、聞かないで…忘れて…このこと…」

「わたし、麗奈ちゃんの力になってあげたいから…」

「うん、忘れるよ…」

「麗奈ちゃん…おやすみ…」

あれだけ降っていた雪は、いつしかやみかけていた。
だけど、雪はまた降ってくるだろう。
暗い空が、それを物語っていた。
眺める空もなかった。

(きもちわるい…)

お腹がすいていることに、今私は気がついた。


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