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御國冴綺 Original Novel



神の力


by 御國冴綺




 ああ 神様……
 私に 力をください……

 少しだけでも いいんです
 世界を変えるほどの力でなくて いいんです

 ただ
 私は
 自分の髪の毛を切りたいだけなのです
 この手の中にあるナイフでは
 どうしても切れないのです

 私の長く伸びた髪の毛は
 私の想いを吸っているのです

 とてもとても重くて
 新しい世界に旅立つはずの私を
 この世界にとどめようとするのです

 私の心を見てください
 神様になら 見えるはずです
 私の心の奥底に くすぶっているものが

 私という名の爆弾に
 何度も火を付けた この想いが

 それは あの人
 遠くで微笑む あの人の笑顔

 想うたびに 心の中で燃えていくのです
 そして その想いを この髪が吸っていくのです

 ですから 私は
 この髪の毛を切らなくてはならないのです

 ああ とうとう列車が動き始めました
 新しい世界へと続く列車が
 私に 少しだけ力をください
 この髪の毛を どうか切らせてください

 あの人がいない 真っ暗な世界へと旅立つために
 この髪の毛を どうか切らせてください

 運命 なんていう言葉で誤魔化さないでください
 私は断ち切りたいのです
 私自身の手で 断ち切りたいのです

 この願いが叶わぬのならば
 私はこのナイフで 胸を突くでしょう

 この髪の重さに支配されるぐらいならば
 いっそ自分の命を絶つでしょう

 どうか お願いです 神様
 私に少しだけ力をください

 私自身の手で
 言わなくてはならないのです

 あの人に さよならと

 あの人の指にはめられている指輪を
 恐れる前に

 あの人の机の上にある写真を
 恐れる前に

 ああ 神様
 どうか……
 どうか……
 私に……





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