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Sister Princess



お正月


兄君さまのぬくもり

by 高津 沙穂




 お正月。
 日本では、神社に一年で一番最初のお参り、初詣をする日です。
 ワタクシ、今日は兄君さまに無理を言って、本当は他の妹たちと一緒にお参りする予定なのでしたが、それに先んじて、 兄君さまと二人きりでお参りさせてもらうことにしました。

 その理由は、他の方々が聞いたら、仕様もない事柄なのかもしれません。
 ですが、ワタクシにとってはとても重要なことなのです。

 昨年末、ワタクシはお母様に連れられて呉服店に行ったのです。
 色取り取りの反物が並べられ、まるで夢の中に居る気分でした。
 ワタクシがそう感激していると、お母様がにっこりしてワタクシに言ってきました。

「好きな反物を選んでいいのよ。日本に戻ってきてまだばたばたしていて、新しいのを仕立てている暇がなかったから……奮発しちゃうわ」

 ワタクシはその言葉に飛び跳ねて喜びました。
 それから、ワタクシはたくさんある反物を一つずつ見ていったのです。

 一時間ほど経っても、どうもしっくりする反物が見つからず、お母様もくたびれている様子でした。
 ワタクシ、申し訳なく思い、今日の所は諦めて家に帰ろうとしました。
 そしたら、お店の一番奥にいたおじいさまがワタクシのそばにゆっくりと歩いてきて、こう聞いてきたのです。

「お嬢さん、今、心から好きな人はおるかね」

 その言葉を聞いて、ワタクシの頭の中には、一人の男性の姿がすぐに思い浮かびました。
 ワタクシが心から愛している……背の君……兄君さま……

「はい」

 力強く答えたワタクシに、おじいさまは、笑顔でアドバイスをしてくれました。

「その人の事を想いながら選ぶといい。きっと、すぐに見つかるよ」

 兄君さまのことを思い浮かべて反物を選ぶ……
 そうです、ワタクシは、とても大切なことを忘れていたのです。
 すぐさまおじいさまにありがとうございますとお礼を言い、再び反物を選び始めました。
 すると……ワタクシの頭に、電気が走ったような感じがしました。

 桜の花の模様の反物。そんなにいい生地を使っているわけでもなく、名のある染めでもない、素朴な感じの反物。
 普段ならば、見逃してしまったかもしれません。
 ですが、ワタクシの心を、ぎゅっとつかんで放しませんでした。

 すぐにお母様に、これにします、と差し出しました。
 お母様はびっくりされて……もっといい物にしていいのよ、と何度も念を押されましたが、ワタクシはこれ以外は考えられませんでした。

 そして、仕立て上がったのが30日の午後。
 大切にしまい込み、今日、初めてお披露目になるのです。

 足袋、肌着、裾よけ、長襦袢、お着物、帯。
 兄君さまのことを強く想いながら、一つ一つ身にまとうたびに、ワタクシは兄君さまに包まれているような感じがして……
 その一枚一枚から、兄君さまの温かみが伝わってくる感じがして……
 兄君さまに優しく抱き留めていただいたら、このような気分になるのでしょうか……ポポポッ

 今、こうして神社の入り口の脇に立って、寒風に吹かれていても、今でも兄君さまを思ったぬくもりが伝わってくるようです。
 全く寒くなくて……兄君さまは、離れていても、ワタクシを暖かくしてくれるのですね。

「お待たせ、春歌」

 そのお声に、ワタクシはすぐに顔を上げました。
 目の前には、ワタクシ服姿の兄君さまが、春歌のかの時の口のまま、ぽかんとワタクシを見ていました。
 ウフフフフ……兄君さま、そんなに見つめられたら、ワタクシ、恥ずかしいですわっ!

「兄君さま、あけましておめでとうございます」

「うん、あけましておめでとう、春歌」

「兄君さま……あの、このお着物……どうですか? この日のために、新調したのですが……」

 自分でこれしかないと選んだお着物。
 ですが、兄君さまにどう思われるかは、正直不安でした。
 でも、兄君さまは、少し恥ずかしそうな顔をした後、ワタクシに耳元でこう、囁いたのです。

「よく、似合ってるよ……」

 きゃあああああっ ワタクシ、嬉しさでどうにかなってしまいそうですっ!
 その言葉の嬉しさと、耳にかかった兄君さまの吐息の熱さが、体の芯にまで、じーんと伝わってきました。

 ワタクシ、兄君さまのそんなお声をもっと聞きたいです。
 ですから、そのお声をもっともっといただけるように、精進いたしますね。




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