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Sister Princess



卒業


ことばをください

by 高津 沙穂




 ワタクシ、ドイツにいた頃、ずっと兄君さまを想っていました。

 ドイツの冬はとても寒いです。
 吐く息がすぐに凍り付くようで、特に夜など、芯まで冷えてしまいます。

 そんな中でも、ワタクシは、窓際に出て月を眺めるのが好きでした。
 兄君さまも、遠い空の向こうで、同じ月を眺めているのかと想うと、それは楽しく……そして哀しかったのです。
 それはまるで、ヴァイオリンの調べのように、高く透き通った……
 そんな、哀しみでした。

 兄君さま……
 こんなに想っているのに、ワタクシのそばに本物の兄君さまが来ることはないのですから。

 想像で思い描く兄君さまを、何度も胸に抱きました。
 その兄君さまは、胸の中に入ってきて、ワタクシの心を突き上げるのです。

 その時、こみ上げるのは郷愁。
 覚えのない、故郷への想い。

 何度も、兄君さまがこちらに来てくれればと想いました。
 兄君さまがワタクシの元に来たら、迷わないようにと、バルコニーに何日も出ていた時もあるぐらいです。

 その時の熱い想いは、今でもワタクシの中から消え去ってはおりません。
 逢えないでいることに、疲れ、涙すらかれてしまった時もありましたが、いつか逢えると信じていましたから。

 今はこうして、兄君さまのそばに居続けることが出来て、大変幸せな思いでいっぱいです。

 ですが、それが続くことに自信が持てないのです。
 ワタクシと兄君さまは、兄妹……です。
 年が少し、離れています。

 兄君さまが学校を卒業される日は、もうすぐやってきます。
 後一年、と思っていても、すぐそばにやってきているようです。

 そうしたら兄君さまは、この街を離れてしまうのでしょうか。
 ワタクシを……置いて行かれてしまうのでしょうか。
 再び、兄君さまを月を通して想う日が、来てしまうのでしょうか。

 兄君さま、どうか言葉をください。

「ずっと、これからも、一緒だよ」

 と……

 ワタクシ、今は勇気が持てないのです。
 とても些細なことに、敏感になってしまって……
 心が揺れ動いてしまい、とても恥ずかしいのですが、それが今のワタクシなのです……

 そんなに先に、大人になってしまわないで……
 時には立ち止まって、ワタクシに笑顔を見せてください。
 そして、抱き寄せてください。
 それだけで、ワタクシは安心出来るのです。

 どうか……お願いします……兄君さま……




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