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Tactics ONE Short Story



ねこみみ☆ふぁんたじあ


by 高津 沙穂




「なんで、俺こんな所に居るんだろ……」

 公園の噴水近くのベンチに座りながら、折原はうめいていた。
 気温はかなり高めで、うだるような暑さだ。
 折原の隣では、七瀬が涼しい顔で座っていた。

「折原が奢るから来いって言ったんでしょう?」

「はぁ? なんで俺がそんなことを言わにゃならんのだ」

「折原がっ! 私に肘打ちして保健室送りにしたお詫びに奢るって言ったんでしょう!?」

「痛いぞ」

 七瀬の左拳が、折原の横っ腹に何度も決まっていた。
 座った状態だから腰が入って無くて良かった、と折原はしみじみと思った。

「で、何が喰いたいんだ? キムチラーメンか? それともキムチラーメンか?」

「キムチラーメンしか選択肢ないの!?」

「なんだ、不満か?」

「大不満よ!」

 そう叫ぶ七瀬を折原は見ていたが、視界の端に、知った姿があったのに気がついた。
 これ幸いと、折原は噴水前へと続く階段の方を指差して叫ぶ。

「あ、あんなところに澪が!」

「えっ?」

 七瀬は完璧につられて折原が指差した方を見る。
 そこには確かに、上月の姿があった。

「って、本当に上月さん?」

「ん? なんでだ?」

「ほら、あれ、みみとしっぽ……」

 その七瀬の言葉に、折原は今度はまじまじと上月を見る。
 夏服のセーラー服のようなワンピース。
 いつものチェックのリボン。
 緑色のスケッチブック。
 そして、髪と同じ色のネコミミと、しっぽ。

「ネコミミとしっぽ!?」

「折原、いくら上月さんが素直だからって、ああいうのは良くないわね」

「は? なんのことだ」

「折原の趣味でしょ、じゃなきゃ上月さんが自分であんな格好する訳ないじゃない」

「そんな趣味無いぞ……澪呼んで聞けば解るだろう。
 おーい、澪!」

 折原は立ち上がり、上月を大声で呼んだ。
 すぐに気付いた上月は、満面の笑みを浮かべて、走って階段を下りてくる。

 その時、一陣の風が吹いた。
 ふわっとワンピースが風にあおられる。

「うーん、ピンクにワンポイントでリボンか……」

「何見てるのよっ」

「澪のパンツだ」

 七瀬は折原につかみかかりそうになるが、上月の面前だということでぐっと我慢した。
 程なくして、上月が息を切らせて辿り着き、スケッチブックを広げ、文字を書く。

『先輩も七瀬さんも、こんにちはなの』

「おう、澪。そんなに息切らせて走ってこなくても。大丈夫か?」

『大丈夫なの』

 満面の笑みを浮かべ、上月はスケッチブックを掲げる。

「こんにちは、上月さん。
 でさ、一つ聞きたいんだけど……そのネコミミ、折原の趣味?」

「違うって言っているだろう。澪、それどうしたんだ?」

『これはね、家から出てくる時に、近くを歩いていた人に貰ったの』

 七瀬と折原は、その答えに顔を見合わせた。
 貰ったにしては、あまりにも物が悪すぎる。
 二人は最悪の想像すら浮かべながら、重ねて上月に聞いた。

「って、それ、どんな人だったの?」

『結構太ってて、メガネかけてて、紙袋持ってる人だったの』

「ぐあ……ベタだが真性か……」

「そ、それで、なにかされなかった?」

『何かって、どんなことなの?』

 上月は、一瞬不思議そうな顔をしてから答えた。
 その答えに、二人は安心する。
 解らないなら、何もされなかったのだろう、と。
 二人が顔を合わせて頷いていると、上月はまた新たに文字を書いていった。

『これをつけていると、可愛いって言われたの。先輩はどう?』

 少し顔を赤らめ、視線を外してスケッチブックを掲げる。
 そんな上月に感動したのか、折原は体を振るわせてから、上月を抱きしめた。

「澪、なんて可愛いやつめ。今日は絶対離さないぞ!」

 折原は、そのまま上月を抱え、走り出した。
 驚いた澪がなんとか、その状況についていけていなかった七瀬に向けてスケッチブックを掲げる。

『よく解らないけど、さようならなの』

 折原と上月はそのまま、階段をのぼって七瀬の視界から消えていった。
 後に残された七瀬は、少しの間茫然自失状態だったが、最後の折原の意図に気がつき、大声を上げた。

「って折原! ちゃんと奢りなさいよ!」




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