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Memories Off



空からの手紙


by 高津 沙穂




覚えていますか?
智也さんと、初めてであった時のこと。
私、カバンが重くてなかなか電車から降りられなくて、智也さんに引っ張り出されて。
すっごい迷惑を掛けちゃいましたよね。
そんな恥ずかしい出会いでも、私にとっては、最高の出会いだった。

智也さんが最初に名乗ったとき、びっくりしたのを覚えていますか?
私、本当にびっくりして……
彩花ちゃんから聞いていた人と同じ、すっごく優しい人で。
私はすぐに惹かれていった。

その日の内に、また智也さんと出会ったことを覚えていますか?
絵を描いていて、偶然智也さんを見つけて。
その時に、私は運命だと思いました。
私と、智也さんは結ばれる運命だったんだなって。
くさい科白だって解ってたけど、それを信じたかった。

購買にパンを買いに行ったときに、先輩と会ったことを覚えていますか?
私、あの購買の人と先輩の関係が知りたかった。
結構親しげだったから……
私は、あの購買の人をうらんで……
ちょっぴり嫌な娘になった。

先輩の体育の授業中に、声を掛けたことを覚えていますか?
やっぱり、空振りしちゃって……邪魔でしたか?
その後で保健室に来たときは、私のせいかなって驚いたけど……
みなもちゃんに逢えるからここでさぼろうって言われた時は、本当に嬉しかった。

授業が早く終わって、先輩を誘ったときのことを覚えていますか?
あの時、本当に変なことばっかり言っちゃって。
智也さんに、変な娘と思われないか心配だった。

智也さんに、古文の勉強を見て貰ったことを覚えていますか?
私、智也さんにヒントを出して貰うのを拒んで……
智也さんに、褒めて貰いたかったから、絶対譲れなかった。
ちゃんと褒めてくれて、嬉しくて……
私のために、準備してくれたのが嬉しくて……
もっともっと、智也さんが好きになってしまった。

お休みの日に、いきなり智也さんから声を掛けられてたのを覚えていますか?
可愛いって言われて、とっても嬉しかった。
恥ずかしくても、気持ちのいい恥ずかしさだった。
あの時の三百円、いつ戻ってくるのかな。

雨の日に、ずっと外にいて、倒れちゃって、智也さんに迷惑を掛けたのを覚えていますか?
私、智也さんのことが好きだって、何かをするたびに、必ず失敗しちゃうみたい……
駄目だなぁ、私って。
いつ智也さんに見捨てられてもおかしくないのに……
それでも、智也さんは私を見捨てなかった。

智也さんが屋上で昼寝をしているとき、声を掛けたことを覚えていますか?
一番気にしているところを褒めて貰えて、嬉しかった。
でも、私の秘密にしていた絵を見たのは酷いです。
……もっともっと智也さんを知って、もっともっと上手く描きたかったから……

落ち葉見を一緒に見に行って欲しいって誘ったときのことを覚えていますか?
断られるんじゃないかって、凄く心配だった。
でも、やっぱり智也さんは優しくて……
その日のために、お料理とか、頑張ろうって誓った。

唯笑ちゃんと三人で、落ち葉見をしたことを覚えていますか?
唯笑ちゃんと、凄く親しげにしていて、悲しかった。
私も、智也さんと幼なじみだったら……
ううん、それじゃあ、こういう関係になれなかったのかも……

校庭に呼び出して、彩花ちゃんのことを話したことを覚えていますか?
彩花ちゃんに、本当に好かれていた智也さん。
そして、私が本当に大好きな智也さん。
やっぱり、辛いんだって感じた。
でも、その辛さを、私がまた、塩をぬっちゃう様な結果になるなんてね……

最初で最後のデートしたときのことを覚えてますか?
あの時、あの木に、夏にまた来るからって言いましたよね。
あの木さん、怒ってないかな?
だって、私はその約束を守れなかったから……

絵を描いていたとき、智也さんは涙を流していたのを覚えていますか?
横から見ていて、私も本当に辛かった。
でも、その後の智也さんの言葉は嬉しかった。
そして、ああ、やっぱり私、智也さんが大好きなんだって、再確認した。

入院しているときに、手を握ってって、迷惑かけたことを覚えてますか?
手を握りながらも、心配でした。
私がこんな体だから、智也さんが心配してくれるんじゃないかって。
自分の体の悪さを考えると、それが一番怖かった。

一度、私の写真を取ってくれたことを覚えてますか?
私、自分の体が悪くなって、やつれてるから見せてくれないって解ったけど。
それでも、やっぱり見たかったです。
私が、智也さんの想いを浮かべて、出した笑顔が見たかったから……

智也さんが、私の所に来てくれなくなったことを覚えていますか?
私、あの時、本当に不安だった。
私の心は変わらない。でも、智也さんの気持ちは、私には繋ぎ止めることが出来なかったから……
私は、何もしてあげられなかったから……
後悔しか、私の中には残らなかった。

智也さんの家に押し掛けて、おぶさって海に連れていって貰ったことを覚えていますか?
生まれてから、男の人のおぶさるなんて、お父さん以外では初めてだったけど。
なんだか、懐かしかった。嬉しかった。涙が出そうだった。
だって、ずっとずっと想ってきた人の背中なんだもん。

最後に、智也さんに抱かれて、夜の海を見たのを覚えていますか?
私、智也さんに抱かれて、幸せだった。
一日で、こんなに幸せになれたのは初めてだった。
智也さんの鼓動を感じて、息絶えて……
悲しかった……悲しかったけど……
こんなにも嬉しいことはなかった。
最後の一秒は、白い天井の下じゃなくて、智也さんの瞳の中って決めていたから。

たくさんの想い出が、有りましたよね。
本当に、たくさんの想い出が。
短い間だったけど……
私にとっては、それは一生と同じだった。
私は、忘れられません。
智也さんの想い出は、死んでからも忘れられません。

でも……
でも、智也さんは忘れて下さい。
絶対、忘れて下さい。
私の事なんて、忘れて下さい。

そして誰かと、幸せになって下さい。
私が、天国で智也さんを迎えた時に、その人のお話を聞いて、嫉妬してしまうぐらいに……

私は、そんなのとっても悲しいけど……
智也さんが、私への想いを抱えて生きていく方が辛いから……
私は、もう死んじゃってるから……

もし、智也さんが天国に来たときに、幸せじゃなかったら。
私、怒りますからね。
本気で、怒りますからね。

私、海の溶ける落ち葉のように、最後の最後に、一瞬だけ光り輝けた。
そのまま、ずっと光り続けて、黄金色の海を作ることは出来なかったけど……
これも全て、智也さんのおかげ。
これからも天国で、智也さんの幸せのために、頑張ります。

好きだから……
本当に大好きだから……
大好きだから……幸せになって欲しい……

幸せに……なって下さい……
私からの、最後のお願いです……

それでは……

天国より・伊吹みなも

P.S 辛い思いをさせてしまってごめんなさい……今、彩花ちゃんの気持ちがすっごく解ります……
  智也さん……愛しています……



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