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21 -Two One- Story



ずっと待ってる


by 高津 沙穂



「ただいま……」

 玄関を開け、元気なく挨拶をする
 今は、元気に挨拶なんてしている余裕なんて、ない
 仕事帰りって言うのもあるんだけど
 一番の原因は……
 拓哉とあんまり過ごせないっていうこと

 拓哉は、美魚ちゃんの病気を治してから、とっても忙しくなってしまった
 難病すら治せる優秀な先生として、患者さんからは引っ張りだこ
 色々な病院から、うちに来てくれって引き抜き工作もされてるらしいし
 うちで本を書いてくれとか、そんな依頼も来ているみたい
 一番困っているのは、周りにきゃーきゃー言う女の人が増えたことだけど

 人がいいから、拓哉は色々と苦労しているみたい
 女の子からのお誘いは、全部断ってくれているみたいだけどね

 病院にいても、いつも忙しくて、ゆっくり話している時間なんて取れないし
 例え二人になっても、医者と看護婦、の会話ぐらいしかできない
 今日も、残業みたい
 他の先生と一緒に、難しい会議をしていた

 淋しいなぁ……
 付き合うようになってから、何十日も一緒にいられないんだもん
 なんだか、拓哉が遠いところにいるような気がして……
 ボク、どうすればいいのかな……

 自分の部屋に入って、バッグを放り投げて、ベッドの上にうつぶせに倒れ込む

「はぁぁぁ……」

 おっきい溜め息を一つ
 それでも、淋しさが拭えることなんてない
 解ってるんだけどね……

「芹、ごはんまだだから、先にお風呂に入ってらっしゃい」

 キッチンの方から、お母さんの声が聞こえる
 そうね、お風呂に入って気を紛らわそう……

 寝間着を取って、脱衣場に行って、ゆっくり一糸纏わぬ姿になる
 おふろ場に入って、体にお湯を掛けた
 今日は少し、熱いお湯だった

 まず髪の毛を洗い、トリートメントを馴染ませる間に、体を洗う
 拓哉にいつ触れられてもいいように
 いつも、今まで以上に綺麗にしてる
 そんな機会なんて、今のところないけど
 それでも、ボクは拓哉のために、一生懸命に体を綺麗にする

 トリートメントを洗い流し、髪の毛にタオルを巻く
 それから、ゆっくりと湯船に体を沈めた
 少し熱いお湯は、体の疲れだけをとるには、ボクには最適

「ふぅぅぅ……」

 でも、心の疲れは拭えない
 目を閉じると、浮かんで来るのは拓哉の笑顔
 会いたいな……
 会って話したいな……
 拓哉に何かを望まれたなら、なんでもしてあげたい

 片思いが叶った後には、こんなに切ない想いなんて、するはず無いって思ってたのにな
 想いが叶えば叶ったで、こんなに切ないだなんて……
 辛いな……
 思わず、涙が溢れ出る

「芹、電話よ」

「えっ? 誰から?」

 硝子の向こうの、お母さんからの声で、ふっと我に返る
 どうしたのかな……
 患者さんに、何かあったのかな

「彼氏からよ」

 心なしか嬉しそうなお母さんの声に、一瞬耳を疑った
 彼氏ってことは、紛れもなく、拓哉だよね
 ボクの大好きな、拓哉だよね
 今は重要な会議中のはずなのに、なんで……

 でも、今はそれが嘘でも良かった
 嬉しくて……
 ただ、嬉しくて……

「うん、すぐ行くから」

「はいはい」

 お母さんが脱衣場から出ていくのを確認してから、湯船から上がる
 手早くバスタオルで体を拭いてから、胸の上で巻き付ける
 そのまま、足早に電話の子機が置いてある居間まで走る

「芹、服ぐらい着なさい」

「ん、わかった」

 適当にお母さんに返事をしてから、子機を取って、素早く耳に当てた

「もしもし……拓哉?」

 だけど、拓哉の声は受話器からは聞こえて来なかった
 耳を澄ましてみても、駄目
 どうしたんだろう……?
 ボクはとっても、心配になる

「もしもし……拓哉? 拓哉?」

 何度も呼びかける
 すると、その内に、雑音混じりだけど、拓哉の声が聞こえてきた
 ほっと安心する

「もしもし、芹か?」

「あ、うん、そう」

「ごめんな、なんか電波の調子が悪くって」

「あはは、ちゃんと繋がったからいいよ」

 良かった……
 ただ、携帯電話がなんかおかしかったんだね……
 あれ……?
 じゃあ、今病院にいないのかな?

「今、どこにいるの?」

「ん? どこかな?」

「会議中じゃなかったの?」

「うん、今は休憩中なんだけどね」

「そうなんだ……お疲れさま」

 わざわざ、休憩時間中に外に出て、電話してくれたんだ……
 嬉しいな……

「あのさ、芹」

「なに?」

「芹、愛してるよ……」

「へっ?」

 な、何いってるんだろう……
 いきなりの拓哉の声に、驚く
 いきなり何を言い出すんだろう

「イヤ?」

「そ、そんなんじゃないけど、突然だったから……」

「じゃあ、もう一度言うよ 芹、愛してる……」

「う、うん……」

 拓哉の言葉が、心の中に染みわたる
 こうやって愛してるって言われたのは、いつぶりだろう
 考えてみたけど、かなり前過ぎて、思い出すのをやめた

「芹は?」

「え?」

「芹は、どうなの? 俺のこと」

「えっ……ボクは……ボクも拓哉のこと、愛してるよ……」

 そう言ったら、顔が熱くなった
 本当のことだけど……
 ボクの、拓哉のことを思う気持ちはホントだけど……
 やっぱり、はずかしいや……

「ありがとう……」

「えへへ、だってホントの事だもん」

「俺なんか、全然芹のこと、省みてなかったからさ」

「ううん、いいの……拓哉はちゃんとお仕事頑張ってね ボクで良かったら、一生懸命手伝うから」

「うん、ありがとう……」

 今日の拓哉は、なんか違う
 でも、嬉しい……
 お互いのことが好きだって、再認識できただけで……
 すっごく嬉しい……

「いいの だって、これがボクの選んだ道だもん」

「そうか、そうだよな」

「うん、だから拓哉も気にしないで」

 良く思い起こせば、拓哉に出会ってから数年間も、待ち続けたんだよね
 これくらい……我慢しなきゃ……

「うん、解った それでさ、芹にプレゼントがあるんだけど……」

「え……? プレゼント?」

 ボクにプレゼントか……
 そういえば、あんまり拓哉からプレゼント、貰ったことないな……
 何をくれるんだろう……
 ちょっと、期待

「今、どの部屋にいる?」

「へっ? 居間……だけど」

「そうか、じゃあ、カーテン開けて、外見てくれよ」

「え……うん……」

 なんだろう……
 庭に、何かあるのかな……
 不思議と、期待が入り交じった気持ちで、居間のカーテンを開けた

 すると……そこには……
 笑顔で手を振る、拓哉の姿があった

「う、嘘……」

「嘘じゃないさ、俺は今、ここにいる」

 電話の向こうから、拓哉の優しい声が聞こえる
 電話の向こうって言っても、拓哉は、目の前にいるんだけど

 その姿を見て、ボクは思わず涙を流してしまう
 嬉しくて……びっくりして……
 こみ上げてくる物が、止まらない……

「拓哉……ボク、すぐそっちに行くよ、待ってて」

「ああ、玄関まで行くよ」

「うん……」

 すぐ近くに拓哉がいると思うと、ボクは居てもたってもいられなくなる
 すぐに電話を切って、子機を置いて、玄関に飛び出した

 笑顔で立っている拓哉
 ボクは、思いっきり抱きついた

「わっ とと……」

「拓哉、会いたかったよ……ボク、会いたかったよ……」

「ああ、俺もだ……でも、危ないだろ」

「ごめんね……」

 とっさに抱きしめてくれた拓哉の体は、少しタバコの匂いがした
 優しく抱きしめられて、ボクはさらに嬉しくなる

「なんで……会議中だったんじゃ……」

「最近会ってないだろ? つまんない会議だったし、芹のために抜けてきたんだ」

「そうなんだ……ありがとう」

「ははは、さっきと立場が別だな」

 拓哉の手が、私の顎を持ち、優しく上を向かせてくれる
 なにをされるかは、解っていた
 だから、黙って目を閉じた

「ん……」

 ボクにとっては、すっごく長い時間
 ボクは拓哉と、久しぶりのキスをした

「拓哉……」

「芹……今夜だけになっちゃうけど……次は、いつこうして恋人として会えるか解らないけど、一緒にいないか?」

「うん……」

 今夜だけでもいい……
 拓哉と一緒にいたい……
 いつまでも抱かれていたい……

「じゃあ、俺の家に行こう 今日は、誰もいないから……」

「うん、解った……」

 ボクは、うんと背伸びをして……
 もう一回、拓哉とキスをした
 そのまま、拓哉の腕に抱きつく
 お母さんの許可なんていらない……
 一分一秒でも、拓哉と一緒にいたかった……

「でもさ、芹」

「何……?」

「その格好で、俺の家まで行くつもりか?」

「へっ……?」

 自分の体を見返してみる
 ……
 バスタオルを巻いただけ……

「ご、ごめんっ 拓哉、ボクすぐ着替えてくるっ」

「ははは、ゆっくり、な」

「うん、解ったっ じゃねっ」

 うー、恥ずかしいよ……
 全然、考えてなかった……
 拓哉と会えるって事で、一杯になっちゃったから……

 ごめんね、拓哉
 ボク、すぐに行くから……
 待っててね、拓哉……




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