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Sentimental Graffiti Short Story



綾崎若菜 ―切なさの行方―




by 健太郎



 日ごととに暖かくなる5月、今日の京都は汗ばむはどの陽気だ。
京都市左京区にある紫雲女子高校の弓道場では少女達が一心に弓を引いていた。
そのなかで弓道部の主将綾崎若菜は一心に弓を引けずにいた。
若菜が矢をつがえ弓を引き矢を放つ。が矢は的に当たらず、ほんの少し手前に落ちてしまう。
「はぁ、またはずしてしまいました。最近はいつもこんな調子ばかり・・・」
気を取り直して若菜はまた矢を放つ。今度は的にぎりぎり当たるが、若菜は納得していない。
「もう今日はこれぐらいにしておきましょう。」
若菜がかたずけを始めると、後輩の西原が駆け寄ってくる。
「あっ、先輩今日はもう上がりですか?」
「ええ、調子がすぐれないので今日はお先に失礼します。」
「でしたらちょっと相談に乗ってもらいたいことがあるんですけど、いいですか?」
「相談ですか?いいですよ。では西原さん校門の前で待ってますから。」
「はいっ、お願いします。」

 若菜が外に出ると、空は夕焼けに染まっていた。
校門の周りにはすでに緑色の葉をつけた桜の木がある。
桜を見上げると、若菜は感慨深げにつぶやく。
「もうあれから1ヶ月たつんですね。」
1ヶ月前、4月になったばかりのころ、京都は桜が満開だった。
そのころ若菜は忘れることのできない出会い・・というか再開を果たしていた。
「再開してから連絡はしていませんが、あの方はお元気でしょうか?」
小学生の頃、お仕置きのために閉じ込められた暗い倉で一晩中付き添ってくれた、
初めて友達だと胸を張って言えた少年の事を思い出していた。
その少年の事を思い出すと、若菜はいつも切ない表情になる。
「先輩!先輩!どうしたんですか?呼んでも返事がないし、なんだか上の空でしたよ?」
「あっ、ごっごめんなさい西原さん。」
「いいえ構いませんけど、それより先輩、歩きながらじゃなんですからどこかお店に入りましょう。」
 二人は学校から歩いて10分ほどの喫茶店に入った。その店は紫雲の生徒の中では評判の店で、
店内はわりと賑わっていた。
                ―続く―



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