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Sentimental Graffiti Short Story



綾崎若菜 ―切なさの行方―




by 健太郎



 会計を済まし、二人が外に出ると既に辺りは暗くなっていた。
「もうこんなに暗くなってしまいましたね。では西原さんまた明日。」
「はいっ先輩、お疲れ様でした。」
一人になった若菜は、祇園の街を門限がちかずいていたので早足で歩いていた。
(気持ちは言葉にしなければ伝わらない・・・・)
若菜は先ほど自分が西原に言ったことを心の中で反芻していた。
「そう、気持ちは言葉にしなければ伝わらない。・・・私もあの方に・・・・」
そう呟く若菜の心の中には無意識にまたあの少年の顔が浮かんでいた。
若菜はそのことに気付くと切なさを覚えると同時に何か気恥ずかしさを感じて頬を赤く染めた。

 若菜が少年のことを気にしだしたのは今に始まったことではない。
小学生の頃、例の蔵の事件よりも少し前、
箱入りだった若菜を初めて普通の女の子と同じように接してくれたときからだった。
最も少年は転校生だったからなのだが、若菜にはそれが嬉しかった。
しかし、若菜が少年に自分の気持ちを伝える前、
蔵の事件のすぐ後に引っ越してからは少年のことを思い出さないようにしていた。

 京都祇園のお屋敷街に綾崎邸はある。茶室、日本庭園、弓道場があるのでかなりの敷地だ。
若菜が門をくぐると、弓道場から祖父が稽古を終えて出てきた。
「あ、お爺様。ただいま帰りました。」
「うむ、ご苦労だった。ときに若菜、例の見合いの件だが決心はついたか?お前にとっても悪い話ではないのだが。どうだ?」
「あの、お爺様。良いお話だとは思うのですが、もう少し待っていただけませんか?」
「そうか、まぁ良かろう。じっくり考えるのだな。」
「はい。では失礼します。」
 祖父と別れた若菜は、食事をすませて自室に入った。
                  −続くー



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