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Sentimental Graffiti Short Story



綾崎若菜 ―切なさの行方―




by 健太郎



 部屋に落ち着いた若菜が考えたのは、祖父に持ちかけられた見合いの話とそしてあの少年のことだった。
若菜は今現在誰か男性と交際しているわけではなく、心に決めた相手がいるわけでもない。
それでも見合いを受けることを迷っているのは、
いいかげんな気持ちで見合いをしたくないという若菜の性格と、何よりも少年のことが気になるからだ。
 若菜は思い出さないようにしていた少年の思い出を、見合いを持ちかけられてから頻繁に
思い出すようになった。そして切なさに胸を締め付けられ、会いたいという思いを募らせていく。
その為3月の終わり頃、少年に「会いたい」と書いた手紙を出した。
おかげで4月に少年と再開したのだが、まだ気持ちが決まらず見合いの話を今まで伸ばしてきた。
 (そろそろ本当にはっきりさせなくては・・・お見合いのことも、私の気持ちも・・・・)
『思いは言葉にしなければ伝わらない』という言葉が不意に若菜の頭に浮かんだ。
「思いは言葉にしなければ伝わらない・・・言葉に・・しなければ・・・・では、私の気持ちは?」
(あの・・・あのオルゴールがあれば分かるかもしれない・・・)
若菜は蔵の中で少年と見つけた思い出のオルゴールのことを思い出していた。
確かに思い出のオルゴールがあれば、少年とまたあのオルゴールを見つけることができれば、
今の気持ちが少女時代の淡い思い出なのか、少年自身への想いなのかはっきりするかもしれない。
しかし、少年にあのときの思い出を話すには、オルゴールのことを話すには、5年というブランクは長すぎた。
(やはり・・・・こうするしか・・・・)
 若菜は部屋を出て、受話器を取り一つ一つダイアルを押す。
若菜の片手にはアドレス帳とカレンダーが握られていた。
                   ―終わり―



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