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Leaf Visual Novel Series Vol.1


沈み逝く月の光


Sizuku Another End Story

by 赤祭



あの時僕はあせっていた。

どうしようもなく瑠璃子さんが恋しくて、

そして瑠璃子さんの心の大部分を占める月島さんに嫉妬していたんだ。

あの時既に僕の心は月島さんと変わらなかった。

そして月島さんと戦いで僕の扉は開き始めてしまった。

憎かった、どうしようもなく憎かった、

月島先輩がこんな事を起こしても、

あんなに酷い事をされてさえ瑠璃子さんに想われつづける月島先輩が憎かった。

そうして僕は扉の向こう側からやってくる殺意に身を任せたんだ。



( ここは…… ここは、何処だろう。屋上かな? )

 ズキッ

 グッ… 酷く頭が痛む、僕は屋上のドアにもたれて眠っていたようだ。

 空には冷たく光る月がまだ浮かんでいる。

 何故かその月を眺めていると心が凍り付く様にきりきりと痛み、

 目から涙が浮かび上がって来る。

 もうこれ以上この月を観ていたくなかった。

「瑠璃子さん…」

 「そうだ、瑠璃子さん、瑠璃子さんは…?

 それにどうして僕はこんな所で寝てるんだろう… ?」 思い出せない。

 僕は生徒会室で月島さんと戦っていたはずだ。

 戦いはどうなったのだろう。…

 こんな所にいるって事は、僕は負けたのだろうか…… ?

「瑠璃子さん、大丈夫かな…… ? 」

 まああの月島さんだから瑠璃子さんに無茶はしないとは思うけど…

 僕はのろのろと身体を起こし、戦いで何があったのか考え始めた。

 が、結局戦いの途中からのことが思い出せない。

 沙織ちゃんや瑞穂ちゃんは無事なのだろうか?

 一瞬『今までの事が全て夢だったのだろうか? 』と思い頭の中に電波を流して見たりしたが…

 その結果は頭痛と現実以外の物をもたらしてはくれなかった。

 とにかく,僕は生徒会室に向かうことにした。

 何かが頭に引っかかっている気がするが、まあ大した事じゃないだろう、僕は1階へ身構えながら降りていった。

 生徒会室の札が見えるところまで近づくと何か変な違和感を覚える。

「おかしいな……」

(月島先輩が中にいるのなら例の乾いた電波が出てる筈なんだけど ?)

 そこでほんの少しだけ電波を出してなかの反応ををうかがってみた。

「やっぱりおかしい、何で何の反応もないんだろう」

 が、結局どうする事も出来ないので踏みこんでみることにした。

(どうせ先輩のことだ隠れる意味なんか無いさ… )

「どうしたんだろう……」

 踏みこんだ先には先輩と瑠璃子さんはいなかった。

 だがそのむせ返るような男と女の匂いと蹲って倒れている沙織ちゃん達だけがここであったことを物語っていた。

 その後、沙織ちゃん達の記憶を抜き取り

 シャワーで体にベットリとついた体液を洗い流して家に帰る様に命令した後

 散々学校中を探し回り、果ては電波まで使って探したのだが、何の収穫もなかった。

「そうだ!瑠璃子さんの家に行けば……」

 僕はそう呟くと、何も考えずに学校を飛び出した。

 瑠璃子さんの家はあの意識を覗かせてもらった時にどの辺りに在るかは大体見当は付いている。

 バスはもうとうに無くなっており、仕方なく運動不足の上傷ついた体を無理やり動かして瑠璃子さんの家へ走った。

 そうして瑠璃子さんの家の近くまできた時、

 先輩の乾いた、だが以前のように激しく荒んだ物ではない弱々しいが身を切り裂くような悲しみの電波が感じられてきた。

(何かいやな予感がする。)

 そしてドアを弾くようにして僕が見たものは

 完全に壊れてしまった瞳をした瑠璃子さんを抱き締めて 壊れた瞳に涙を浮かべながら何かを呟き続ける先輩の無惨な姿だった。

 そして僕の中で思い出したくも無い、

 が、決して無くしてはならない記憶、

 鍵をかけて閉じ込めようとしていた記憶が、その呟きを聴いた瞬間に暴れ出し、

 その鍵を吹き飛ばして僕の前に弾き出された


 

 闇の中に光を切り裂くようにあの戦いの光景が浮かんでくる。

 僕はあの戦いの記憶を、全てを思い出した。

 あの時、生徒会室で僕達は月島先輩と向き合っていたんだ。

 先輩の前には操られた太田さんと二人の生徒会の女の子が下僕の様につき従い、

 その床には裸にされ陵辱された沙織ちゃんと瑞穂ちゃんが転がされている。

 僕らは最初、僕の提案で先輩をなんとか説得するつもりだった

 瑠璃子さんは僕にも月島先輩と同じかそれ以上の力があるので

その力で先輩を止めるべきだ。と言うが、

 今さっき電波を使える様になった僕と、一年近く前から使える月島先輩と戦って、勝つ自信なんかこれっぽっちも無かった。

 なにより、沙織ちゃん達がいる生徒会室で戦って、彼女達を巻き込みたくは無かった

「月島先輩もう止めてください !

 こんな事してなんになるんですか!」

「ふん、全ては瑠璃子の為なんだよ。僕と瑠璃子が一緒になるには全ての物が邪魔なんだ。」

「 お兄ちゃん……  」

 瑠璃子さんが悲しそうに月島先輩を見ている。

「そうさ僕と瑠璃子の愛を邪魔する奴はみんな壊してやる。

長瀬、なんなんだよ… おまえ何で瑠璃子の横に立ってるんだよ !! 」

「 お兄ちゃんもう止めよう…… 今のお兄ちゃん怖い… 」

「る、瑠璃子、違うんだ、違うんだよ。お兄ちゃんはお前の為を思って……、

 そうか お前か、 長瀬っ! お前瑠璃子に何か言ったんだな!そうなんだな!」

「お兄ちゃん…違うよ… 」

「僕の木偶ども、その男を殺せ!引き千切ってしまえ!」

 先輩は瑠璃子さんの否定の言葉にも聞く耳を持たずに言い放つと、

 さっきまでピクリとも動かなかった大田さん達が先輩の言葉に反応し、一斉に僕に襲いかかってくる。

 だが僕も何の考えもなしに突っ込んでいくほど馬鹿じゃない

 僕は必死に覚えたての電波を放ち

    ( 眠れ! )

 と命令する。

 すると、途端に彼女達は目の前で糸の切れた人形のように崩れ落ちる。

 普通なら優越感に浸れるようなこの光景だが、生憎、僕にそんな余裕はなかった。

 僕は先輩と同じ力を持っていれば何とか先輩を説得出来るんじゃないかと考えていたが

 どうやらそう簡単には行かなかった様だ

 部屋の奥で先輩は驚いた様に目を見開き、呆然として僕を見て、何かをぶつぶつ呟いている。

「瑠璃子さん危ないからちょっと向こうに行っててくれる?」

 なんだか今までより月島さんの狂気が一層強くなった気がして瑠璃子さんを下がらせる。「…うん、長瀬ちゃん、お兄ちゃんを助けてあげて… 」

 するとその瑠璃子さんの声に反応したかのように、先輩が我に帰り、

 僕と瑠璃子さんを驚くように見回し、そして何かを悟ったかのように怒りに顔を歪め

「おい!お前その電波の力を何処で手に入れた !? 

 瑠璃子に抱かれたのか… そうか…? そうなんだな!」

「……………… 」

 僕は何も言えなかった。

 僕は自分の考えの浅さを痛感していた。

 何を考えてるんだ僕は先輩も瑠璃子さんを抱く事で力を手に入れたのだから、僕の電波の力を先輩が見たらどうなるかぐらい少し考えれば解りそうなもんじゃないか!

 事実、僕は瑠璃子さんを抱く事で電波の力を手に入れたのだし、だからといってそれを言えば逆上するのは目に見えていた。

 しかし、こういう場合、言い淀むのはその事実の肯定でもあった。

 僕がそのことに思い至ったとき、

 その事を既に見て取っていた先輩は打ちのめされたような表情で2、3歩後ずさってから

 信じられないように周りを見回した後、

 何かにすがるような目で僕を見て

「お前が瑠璃子に迫ったんだな ? 僕の瑠璃子を押し倒したんだな!そうなんだな、瑠璃子!!」

「ちがうよ、私、長瀬ちゃんの事好きだから……」

「いやお前は、こいつに誑かされているんだ。それはお前の意思じゃない!」

 もう先輩は瑠璃子さんの言葉さえ受け取ろうとはしなくなっていた

「そんな事いうお兄ちゃんなんて嫌い」

 その瑠璃子さんのセリフに僕は少し胸が熱くなってきたが

 月島先輩は先輩の何時もの姿を知っている者にとって信じられないくらいに動揺して、

「ちがうっ! こいつだ! こいつがみんな悪いんだ。」

 そう叫ぶと

 僕の方に向き直って悪鬼のような顔で僕を睨み殺そうとするかのように言い放つ

「お前が瑠璃子を誑かしたんだ! そうだ、そうなんだ! そうだ… お前が瑠璃子を… お前が、お前が! お前が!!

 …お前さえ、お前さえいなかったら僕は瑠璃子と一緒にいられるんだ !!  みんなお前が悪いんだ!!」

その言葉と共に先輩の周りの大気が弾け、紫電が先輩の周りを駆け巡る。

 先輩の周りに大量の電波が集まっていくのが見える。

 先輩はまさに化け物だった。

 僕も慌てて集め始めるが誰の目が見てもその力の差は明らかだった。

(こんなのに勝てるのか !?)

 だが生きる為にやってみるしかないんだッ…!

 そう思って僕も本格的に集中し始める。

 僕の周りにもかなりの電波が集まってきているのだがやはりあちらの方が集まるのが早い 

 どうすればいい? どうすれば

 状況は最悪、僕に残された手は一つしかなかった。

「壊れろ,壊れてしまえ!僕と瑠璃子を引き裂こうとする天罰だ!」

 そう叫んで頭の前に浮かぶ、限界まで圧縮され、紫電を撒き散らしている電波をこちらに叩きつける。

 僕は中途半端に集めた電波を使い必死に制御して出来るだけ厚い壁を作リ始める。

 少し遅れて僕の壁も何とか出来あがり先輩の電波の塊は一瞬だけその壁にあたって押し留められた様に見えたが…

 すぐにその壁を突き破って、

 僕の心を切り裂くために僕へと迫り…

「長瀬ちゃん !!」

 と瑠璃子さんのその言葉が僕の耳に届くのを最後に、僕は意識を吹き飛ばされ、闇の中に落ちていった。




 僕は地獄の様な世界の中を彷徨っていた

 頭上の闇から炎を撒き散らす黒い巨大な爆弾が雨のように降り注ぐ中を

僕はかつての妄想の中の人々の様に必死になって逃げ惑っているのだ

 爆弾は僕を嬲るかのように周りからジワジワと迫ってくる。

 怖かった、怖くて仕方がなかった

 僕の体は炎に爛れ、

 僕の服は火の粉によって焼け焦げがされた。

 熱波の所為で服と皮膚とが解け混ざる。

 死ぬのは嫌だ、死ぬのは嫌だ!! せっかく生きる喜びを見つけたのに!!

 死んで堪るか! 瑠璃子さんの元へ帰るんだ!!

 僕の周りで嵐のような爆風が吹き荒れそんな望みも瞬く間に吹き飛ばしてしまう

 チクショウ ! ちくしょう ! 畜生 !!

 まるでアイスピックで何度も何度も突き刺されるように頭が痛む

 それでも僕は逃げつづけた、

 もうどのくらいの時間逃げ続けているのか解らない。

 永遠が一瞬のように感じられ、一瞬を永遠のように感じている様な気がする

 不意にだんだん爆音が近くなってきているのに気がついた

 僕は気が狂いそうだった!

 死にたくない。 死にたくない、死にたくない、死にたくない ……………

 そう呟き続け、僕は生に執着する亡者の様に死の予感から逃げ続ける。

 それでも爆弾は依然として後ろから迫ってくる。

 もう何がなんだかわからなくなってきた時

 すぐ後ろで光が弾け

 僕の左腕をもぎ取り、両足を打ち砕いた。

 理不尽だ!!

 なぜ僕がこんな目にあわなくちゃいけないんだ!

 もういい ! もうどうだって良い!、

 どうせ僕はここで死ぬんだ!!

 それならもう辛い目にはあいたくない!!

 僕はその場で全てを諦めて目を閉じ今までの出来事を振り返っていた。

 ああ、瑠璃子さん、どうしてるかな…… 

 僕のこと心配してくれるかな ?

 瑠璃子さんは僕が死んだらどうするんだろう ?

 また僕のようにお兄さんを助けてくれるかも知れない人を探すのだろうか?

 そのくらいなら、先輩に、せめて一矢報いてやりたかった、

 瑠璃子さんの心を独り占めしようとする月島先輩がどうしようもないくらい憎くて堪らなかった。

 そして『僕にもっと大きな力があれば先輩に勝てたかもしれないのに。』

 などと、また下らない事を考え始める。

 そして何時の間にか僕は爆音も体を焦がす炎も痛みも全てを拒絶して、

 僕が先輩を倒して、瑠璃子さんが僕だけを見ていてくれるというあり得るとは思えない妄想に

次第に心を飲み込まれていった。

 そして心の全てを破壊されるだろう僕の耳に

 一度は閉じかけた扉が重い音を立て、少しずつだが確実に開かれていく音が、僅かだが届いていた。




 その妄想はその時の僕にはとてつもなく甘美な物に思えた。

 そのなかには

 殺意に燃え、悪魔のような力を振るい、

 完全に壊れたはずの僕を見て慌てふためく月島先輩を見下し、

 罵倒することのできるもう一人の僕がいるのだ!!

「ふっ… ふふっ 情けないんですね先輩、そんなにうろたえることなんてないんですよ?

どうせ何をしようと何の意味もないんですから。分かってるんでしょう、先輩 ? 」

 最初、目を覚ましたとき、先輩は瑠璃子さんの腕を掴み何か言い争っていたようだが、もう僕には関係の無い事だった

 もうこの世界に僕に敵う奴なんか存在しないのだ。

 そして僕の周りをすべて覆い尽くしている電波は極限にまで圧縮され、もう紫電どころか完全な紫の球体となって僕を守っている。

 まさに完璧だ!!

 化物のように思っていた先輩が無力で馬鹿な子供の様に見えてくる。

「嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だーー!! 

 僕が一番強いんだ! 僕は選ばれたんだ! そんな訳がない! そんなことあるはずがないっ !! 」

 諦めの悪い先輩が、僕の10分の1程もない、小さく情けない電波を半狂乱になりながら、何回も何回も僕を倒そうとして放ちつづけてくる。

 最初、絶対者の気分で平然として好きな様にさせていたが、

 依然として現実を見ようとしない先輩に少々僕は苛立ってきた。

 そして、ちょっとだけ電波の圧縮を低くしてやる。

 途端に先輩は頭を押さえて動かなくなるのだ

 この程度の電波の余波にも耐える事もできないだなんて

 僕はあまりの殺意に周りがみえなくなっていた。

彼の傍らには瑠璃子さんも倒れていたのだ。

 僕は電波の余波のせいで倒れている瑠璃子さんの姿を見つけると、

蒼くなって慌てて電波を戻して瑠璃子さんの側に駆け寄ろうとする。

 と、その瞬間に、先輩が飛び出してきて

「瑠璃子に触れるな!!」

 その言葉と共に僕は殴り飛ばされていた。

 僕は先輩が慌てて逃げ出すと思っていたのに!

 期待を裏切った先輩の行動が、とても疎ましく、僕を激しく苛立たせる。

 こいつはただのやられ役の筈だ!

 こんな奴にやられるなんて! 

 こいつは僕の瑠璃子さんを奪おうとゆうつもりなのか?

 本当は僕のことを愛している瑠璃子さんをまた自分だけに縛りつけようと言うのか?

 そんなことは僕が絶対に許さない !! 

 いつも僕の邪魔ばかりしやっがって!

 僕の憧れだった人達、

 太田さん…

頭がよくて、気さくで、狂気になんか縁のなさそうな人を、こんな狂気の世界に引きずり込みやがって!

 沙織ちゃん… 

 あんなに暗くて情けなかった僕なんかにも、分け隔てなく笑いかけてくれた。あの優しい娘の心を引き裂きやがって!

 瑞穂ちゃん…

 あの僕に無い心の強さを持っている、友達想いで一途な娘の友情を弄びやがって!

「お前さえいなければ! 

お前さえいなければッ! 瑠璃子さんは こんな… こんな辛い目に遭わずに済んだんだ !! 」

「お前がいなくなれば瑠璃子さんは僕だけを見つづけていてくれる。ずっと側に居てくれるんだ!!」

 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺してしまえ!!!

 こんな奴が瑠璃子さんの側に居る資格なんか無い!!

 僕は今までに感じた事の無いほどの殺意を編み込みながら、

 瑠璃子さんに影響を与えずに、先輩ただ一人を殺すことのできる、

僕だからできる、限界を遥かに超えて圧縮された電波を渾身の力で織り上げていく。

 この世界では僕が神なんだ! 

 先輩は、前に僕が作った奴より小さくて厚い電波の壁を造ろうとしている様だが

 僕の狂気をそんな物で受け止められると思っているのか!。

 先輩が電波を幾ら集めようが、この世界で僕に敵うわけが無い。

「……死んでしまえ!! 」

 僕は短くそう告げると、

 そのビーチボール大の、殺意の塊を先輩に叩き付けた!そして

 その壁をまるで石がガラスを突き破るように

 粉々に粉砕して、

僕は殺意の意思を、先輩の精神に食い込ませた。




 先輩の心の暗闇の中、

 僕はこの空間を一撃で消滅させるのに十分な力を持った小型の爆弾を手に、

 先輩の心の中心を探して辺りを見回していた

「あれか…?」

 かなり離れたところに蒼く光るベッドがあり、その中で小さな子供がガタガタと震えながら

「死にたくない、死にたくない…」

 と呟き、
「瑠璃子ぉ 助けてくれょぉ、瑠璃子ぉ!!」

 そう瑠璃子さんに助けを求めながら

 悪魔を見るような目で僕を見上げて蹲っていた。

 先輩の心の中心がこんなに脆くて弱いかったなんて

 このベッドは先輩が叔父さんの暴力から逃れられる唯一の場所だったのだろう

「うるさい!!瑠璃子さん達にした事を忘れたのか!そんな自分勝手なことがあるか!!」

 こいつがもう少しでも強かったら! こんな事は起きなかったんだ!!

 この爆弾を投げつければ全てが終わる。

 この先輩に防ぐ方法はない

先輩には、ほんの少しの哀れみを感じつつ、僕は、それ以上の先輩への憎しみに駆られて

 躊躇すること無く、それをその子供の先輩に叩き付けた

 そしてその爆弾が全てを消し去るために、その力、黒い光を解放し

 泣き叫ぶ先輩の体を飲み込んでいく

 だが次の瞬間、虚空から急に沸いて出た白い光が先輩を包みこみ

 その白い光が僕の殺意の電波の塊、黒い光を吸収し始めていた。 

 光が収まった時

 先輩は後ろの方まで吹き飛ばされ

 先輩がいた場所は空間ごと綻び崩壊しかかっていた

 そしてその中心には白い光を発している、まるで天使のような瑠璃子さんが倒れていた。

「そんな、瑠璃子さんがどうして…?」

 すぐに瑠璃子さんの元に駆け寄ろうとするが、足が震えて思う通りに動かない。

 あの黒い光はこの空間をも消し去る事が出来たはずなのだ。

 いくら電波を受け入れ受け流す力に秀でている瑠璃子さんでも、ただで済む訳がない!

 瑠璃子さんを失うのは僕にとって何よりも恐ろしかった。

 重い足を引きずり、やっとのことで瑠璃子さんの元にたどり着いたとき、

 僕は心が張り裂け、気が狂いそうになった。

 彼女の姿は霞みこの世界から消えて行こうとしていたのだ!!

 月島先輩も瑠璃子さん程ではないが体の大部分が霞み、ある所では完全に消滅している所さえあった

「瑠璃子さんどうして どうして ? そんなに月島さんを庇うの?どうして?」

 震える声で僕は瑠璃子さんに話し掛けるが

 瑠璃子さんには僕の声さえ聞こえていない様子で、

 僕に無理した様に笑い掛けると

「長瀬ちゃん、酷いよ、……

お兄ちゃんを助けてって言ったのに……、」

 そしてすぐに月島先輩のほうに向き直って本当に済まなさそうに
だが僕に今見せた物とはまったく種類の違う心からの微笑を見せた後

「…お兄ちゃんごめんね…… バイバイ…」

 そう最期に言って、瑠璃子さんは光が闇に吸い込まれる様に霞んでいき

 やがてこの闇から全ての光が消え、瑠璃子さんの意思が消滅した事を僕に示した

 一度壊れた精神は元に戻すことができない

 そんなことは分かっている!分かっているが!!

「瑠璃子さん消えないで!瑠璃子さん!瑠璃子さん!瑠璃子さん!!」

 僕は何度も必死で瑠璃子さんの心の光の欠片をかき集め

 元の形に戻そうとする

 僕は神の筈なのに、それなのに、それなのに!

 光の欠片は、瑠璃子さんの意識の欠片は、すぐに崩れて闇に消えていってしまう!!

「こんな事あるわけない 瑠璃子さんが僕を置いていなくなってしまうわけ無いじゃないか!!

 この瑠璃子さんは先輩の妄想の中の瑠璃子さんなんだ!

 そうだ! 元の世界に戻れば瑠璃子さんは僕を出迎えてくれる筈だ!

 戻ろう先輩の心の中なんかじゃなく、

 僕の瑠璃子さんの居る現実に!

 月島先輩のいない!瑠璃子さんが僕だけを見てくれる世界に!!」




「うそだよね…、瑠璃子さん 」

 先輩の世界から帰ってきた僕の目の前には

 あの太田さんの様な目に涙を浮かべ壁にもたれている先輩と息をするのも忘れた様な、

 完全に壊れた目で月島先輩を

 僕から庇う様に抱き締め続けている瑠璃子さんが居るだけだった。

「嘘だよね? 瑠璃子さん

何時かみたいに僕を驚かそうとしてるだけなんだよね?

 もうそんな事したって驚いたりしないよ。

 だから起きてよ!起きてよ!瑠璃子さん!!」

 僕は瑠璃子さんの肩を揺さぶりつづけ

 先輩から引き剥がそうとするのに

  瑠璃子さんは決してその先輩を抱いた手を放そうとはしてくれないんだ!!

 認めたくなかった

  どうしても認める訳にはいかなかった

 これから先、瑠璃子さんが居てくれなかったら、

 瑠璃子さんが僕に笑いかけてくれなかったら

 僕は……

「そんなの嘘だ!!  瑠璃子さんは生きてるんだ!!

 そうだ! ははっ そうだった!!

 ここは僕の世界だったんだ!! 

 なら現実の瑠璃子さんが死ぬなんて事あるわけないじゃないか!!」

 もうこれ以上僕はこの場所に、この妄想の世界にいたくなかった。

 月島さんが何も考えていないドロッとした目を僕に向け、

 こっちに瑠璃子さんを抱えて歩いてくる。

「やめてよ、そんな目で僕を見ないでよ!、その瑠璃子さんを僕に近づけないでよ!。

瑠璃子さんは壊れてなんかいないんだ。その瑠璃子さんは偽者なんだ。

近づくなって言ってるだろう!!」

 そう言って月島さんに電波を放とうとした時、

 先輩の腕の中の瑠璃子さんが僕を見たような気がした

 そして『やめてよ、長瀬ちゃんお兄ちゃんに酷い事しないで』って言って僕を睨むんだ!!

「あっああああぁぁぁ、ああああっ、ああああああああ!!!

 僕は何も聞こえない!聞えないんだ!!

そ の瑠璃子さんは瑠璃子さんじゃないんだ!!

声 なんか聞えない、絶対に聞えたりしないんだ!!!」

 僕はそこから、瑠璃子さんの声から逃げ出す為に、

 目を閉じ耳を塞いで夜の廊下を壁にぶつかるのにも構わず、ただ逃げ続けた

 そして何時の間にか瑠璃子さんの声は聞えなくなり、

 かわりに瑠璃子さんの電波が僕を呼んでる様な気がして、

 僕はある場所をめざして走っていた。

そこに瑠璃子さんが居る!!、

 僕を電波で呼ぶ、本物の瑠璃子さんが居るんだ!!

 そう思い、疲れ震える脚さえ構いもせずに、

 廊下を駆けぬけ、階段を上り

 何度か躓いて派手にこけたりもしたが、

 それでも、僕はがむしゃらに走り続けた。

 そして上り詰めた階段の、鉄の壁の向こうに確かに瑠璃子さんが居る。

 瑠璃子さんの僕を呼ぶ電波を確かに感じるんだ!!。

「瑠璃子さん、ここに居るんだね、瑠璃子さん 」

 そして僕は鉄の屋上へ通じる扉を開いた

「瑠璃子さん……? 」

 そこに瑠璃子さんは居なかった。

 そして夜空に浮かぶ、冷たく白い月と瑠璃子さんの電波の名残だけが、僕を待ちつづけていた。

 僕にはどうしてもその月がここで僕を待ち続けていた瑠璃子さんの姿に見えて、

 何時の間にか、僕の瞳から涙が止めど無く溢れ出して、止まらなかった。

『いけない いけない驚かしちゃったよ。 』

 一年間ここでぼくをまっていたと言う瑠璃子さん

『長瀬ちゃんもできるんでしょ、電波の受信、』

 あの時はまだその意味も分からなかった。

『おはよう、長瀬ちゃん、』

 月の光の中で焦点の定まらない瞳を僕に向け仄かに微笑む瑠璃子さんは

 僕にとって失われたかつての女神の様に見えたんだ

『長瀬ちゃん、酷いよ…』

 失いたくなかった、

 僕だけの物になってほしかった

 僕だけの女神になってもらいたかった

 でもその最期の瞳には僕じゃなく先輩の姿だけしか写っていなかったんだ

 もう僕にはこれが現実なのか僕の妄想なのか解らなかった。

 全てを忘れたかった。

 これは夢だとおもいたかった

 僕は夜空から降り注ぐ、

 冷たくそして何処か仄かに温かい、瑠璃子さんの様な電波に抱かれ癒されて

 全てが夢である事だけを心の中で願いながら

 月の電波の命じるままに眠りの中に落ちていった。




忘れたかったのに、

 全てを夢にしてしまいたかったのに

 たとえ僕の中の全ての物が色と音をなくしても、

この事だけは忘れたままで居たかったのに

 それにも関わらず

 今となってはその全てが、僕の妄想なんかじゃなく、現実だったっとはっきり解る。

「ルリコ、オウチニカエロウ…、ルリコ、オウチニカエロウ… ルリコ、オウチニカエロウ…ルリコ…」

 そして目の前にいる先輩の、その呟きが僕の心に届きぼくの心を切り刻む

『長瀬ちゃん…酷いよ…』『長瀬ちゃん…酷いよ…』『長瀬ちゃん…酷いよ…』『長瀬ちゃん…酷いよ…』『長瀬ちゃん…酷いよ…』『長瀬ちゃん…酷いよ…』『長瀬ちゃん…酷いよ…』『長瀬ちゃん…酷いよ…』『長瀬ちゃん…酷いよ…』『長瀬ちゃん…酷いよ…』 ……………

 心の底から瑠璃子さんの最期の言葉が浮かび上がっては、

 僕を再び追い詰めていく、

 そして瑠璃子さんの瞳の中に一粒の涙の雫を見た時に

 僕は最後の一歩… 

 ほとんど開かれてしまっている僕の狂気の扉を

 自らの手で完全に開け放ってしまった。




朝、全ての生徒が登校してくる時間

沙織ちゃんも瑞穂ちゃんも昨日の出来事に関わった人は皆壊してやった。

生徒たちはみんな確実に現実に色を音を失い始めている。

僕は皆を救ってやるんだ。

瑠璃子さんの居ない世界なんて僕は認めない!

僕が傍らに感じている瑠璃子さんが、

いつも泣きながら寂しい寂しいと僕に訴えてくる

瑠璃子さん待っていてね。

今みんなそっちに送ってあげるから。

月島さん、あなたを瑠璃子さんと二人だけになんかさせてあげない。

全てを終える事が出来たなら、

僕もすぐそっちに行くんだからね

僕の狂気はもう誰にも止めることはできないだろう。

そして僕はいつも考えていた妄想を現実にするために動き始めるつもりだ。

僕はいったい何処まで出来るのだろうか?

朝の瑠璃色の空からその悪夢の始まりを

沈み逝く月だけが静かに見守っていた。


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