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うわたれるもの Short Story



エルルゥとあそぼ??(かくれんぼ編)


by 怠惰な人




エルルゥとあそぼ??(かくれんぼ編)

トゥスクル・・・ここハクオロが治める国は、前皇の時よりはるかに民のことを考えた善政が行われていた。 隣国の皇クオンカスが倒れ、新たにギリヤギナによるカルラゥアツゥレイが建国された。 その事に一枚かんでいたハクオロだったが、皇である身での長期間の外出により内務が尋常ではないほどたまっていた。 そんな時に起こった一つの物語(?)である。
「これで10分の1です、聖上。 早く済ましていただくようお願いします。」と机の上にハクオロの投身の2倍もの書類を積み上げた。 午前から政務の処理を行っていて、この書類の山と同じぐらいの物を既に三つほど済ましたところである。 これを完遂してどうやらやっと10分の1が終わるというらしい。 そしてうなだれてハクオロは言った。
「もうちょっと、まけることはできないか?」
「できません。」と侍大将のベナウィは即答した。
「どれもこれも急を要するものばかりです。 できる限り急いでやってください。」と付け加えた。
ベナウィがそう言うもののハクオロとて既に連続して書類の処理を行っているために疲労はもう溜まりに溜まっている。 そんな時その部屋に一人の女の子が飛び込んできた。 ハクオロを救ってくれたエルルゥの妹アルルゥである。
「おとーさん。 遊ぼ。」と無邪気に話しかけてきた。
「そうは言ってもなー。 怖い人に睨まれていて・・・。」そこでハクオロはあまりにも無茶苦茶な考えを思いついた、ただ、自分の気分転換の為故に・・・。
「そうだ、かくれんぼでもするか?」
「うん、する。」と嬉しそうに無邪気に答えた。
「聖上、自分のお立場がわかっていらっしゃるのですか?」とこめかみにしわを寄せて険しい顔をして詰め寄った。
「ただのかくれんぼではない。 すぐに全員に連絡を取って正門前に集合。 これは命令だ。」と言い張った。
「・・・一体何を?」
「全員が正門に集まり次第説明をする。」と言ってハクオロは部屋を抜け出した。 ベナウィは訳がわからずとりあえず、その命令を実行した。

半刻後・・・正門前に主だった者が集まった。
「兄者は一体何の用だって?」
と急いで駆けつけたオボロがベナウィに問いにくってかかった。
「それはここで説明するそうです。」
「大将がまた何かやらかすんじゃねえですか?」
と考え込むようにあごに手を当てているクロウの姿があった。
「聖上は一体何の考えでここに呼び出したのだ?」
「まあ、政治のことではないのは確かですね。 貴方が呼ばれるはずはありませんもの。」
「それはそう。 ・・・何気にさらっと馬鹿にしなかったか?」
「気のせいでしょう。」
と相変わらずのエヴェンクルガのトウカとギリヤギナのカルラである。
「一体何でしょうか?」
と病弱なオボロの妹ユズハ・・・既にもうどれを基準にして呼び出されたか怪しい。
「ゆずっちも知らないの?」
「まあ、いいではないですか。 どうせすぐにわかることですし。」
とウルトリィとカミュの姉妹。
「そうですけど・・・。 この人の集め方は不自然ですよ。 ハクオロさんてば。」
そして最後に薬師トゥスクルの孫、アルルゥの姉であり、ハクオロの命の恩人であるエルルゥが集まっていた。 そこに、ハクオロが正門前に姿を現した。
「聖上、どういうことか説明願えますね?」とおでこに怒りの四つ角を浮かべたベナウィが詰め寄った。
「そうだな、では皆の者静粛に。 これより説明を行う。」そしてその場にいた者は静まった。 そこでハクオロは言葉をきりだした。
「これより穏行の訓練を実行する。 戦で危機に陥った時、敵を待ち伏せする時、敵に自分の位置を気取られないことは非常に重要である。 そこで、今回はその訓練を行う。」
「・・・・」一同沈黙に包まれた。
「それってかくれんぼの事だよね、おじさま。」と苦笑いを浮かべて聞いた。
「そうとも言うかもしれない。 一人が探索者で後は全員隠れる。 範囲はこの城周辺の常識の距離内だ。」
「主様、常識と言われますと?」と楽しそうにカルラが聞いた。
「歩いて3分以上かかるような所は禁止だ。 尚、探索者は全員見つけた時点で勝者。 隠れる者は日が沈むまで隠れ通せば勝者となる。」
「やっぱり、遊びではないのですか?」と更に怒りを顕著にするベナウィ。
「こんなに、大人数で・・・楽しそうです。」とユズハはうれしそうだった。
「尚、隠れている所を他の城の者や発見した者に聞く事は反則とする。 その判定人としてムント殿にきていただいた。」とムントを紹介した。
「何故このようなことに。」と何が何やら訳のわからない様子のムントであった。
「がんばってねーーー。」
「クーーー!」とカミュの元気な声に悔しそうな顔をするムントであった。
「尚、勝者には褒美を取らせる。 褒美は他の者に対し、生命、財政で極端に危険でない限り絶対的な命令権とする。」
その、ハクオロの提案に全員が色めき立った。 そしてその瞳には何らかの野望を持っていた。
「それではこれからくじを引いてもらう。 ここから赤い印を引いたものが鬼・・・じゃなくて探索者とする。」と右手かくじを取り出した。
「私が1番に引きます。」と勢いよく前に進み出たのはエルルゥだった。 
『勝者になればハクオロさんとあんなことやこんなこと二人でできる。』と頭の中で妄想を繰り広げポケーとしたままくじを引いた。 そのエルルゥが引いた白い紙の下の部分には赤く染めてある者がついていた。
「・・・というわけで探索者はエルルゥ、今から更に半刻後に開始する。 それまでに皆は隠れエルルゥはここで目を閉じていること。 ムント殿。 確認はよろしくお願いしました。」
「ひょっとして兄者も参加するのか?」とオボロが聞いた。
「無論だ。」と当然のようにうなずいた。
「わしも参加・・・」そう言いかけたムントの言葉をハクオロがさえぎった。 
「それではこれより訓練を開始する!」と宣言をし、正門前の広場から皆散った。 残ったのは目を隠したエルルゥとムントだけであった。

半刻後・・・エルルゥは目隠しをとった。 そして立ち尽くしているムントに告げた。
「はじめます。 よろしいでしょうか?」といつになく気合が入っている。
「・・・どうぞ。」とだけ言った。 既にエルルゥの目には炎が燃え盛っていた。
「まずは・・・。」と言って、城の中を探し始めた。 そしてあちこち一通り探してみたがちょっと見た所ではわからなかった。
『さすがに皆さん、できます。 しかし私だってだてに皆さんの面倒を見ているわけではないんですよ。 ハクオロさんとのデートの為に、全員必ず発見させていただきます!』と心の中で誓うとある所へ走り出した。

『特に大してお願いすることはないのですが、始めた以上は全力で取り組まねば失礼ですよね。』と謁見の部屋の一番上に張り付いて水の術法で姿を隠しているウルトリィが決意を決め始めていた。 そこへエルルゥが走りこんできた。
「あーーー! どうしましょう! ムントさんが! ムントさんが!」と険しい顔をして泣きそうな顔をしながらエルルゥが叫んでいるのであった。 それにウルトリィが反応し術法を解いて翼をはばたかせて謁見の部屋のエルルゥの前に着地した。
「ムントがどうかしたのですか?」と真剣にエルルゥにたずねた。
「おや、わしがどうかしましたか? いや監督をしなければいけないのに居眠りをしていたようじゃ、申し訳ない。」とムントが異常もなく歩いて来た。 その顔には滅茶苦茶な落書きが既に施されていたが特に何ということもなかった。
「ウルトリィさん、見つけました。」とエルルゥが笑って言った。
「・・・そういうのは止めておいた方がいいかもしれませんよ。」と言った。
「これも訓練のうちです。」とエルルゥはいいきった。 ウルトリィも納得したのかなるほどといった感じで顔の緊張感を解いていった。
『それにしてもムントさんのあの顔のいたずら書き。 間違いなくアルルゥかカミュの仕業。 私のいない隙に・・・侮りがたい。』と心に思いつつ次の作戦を実行すべくまたエルルゥは走り出した。

正門前・・・ある重たそうな瓶をエルルゥは苦労して運び出した。 その片手にはメガホンのような物まで握られている。
「これをどうするのですか?」とウルトリィが不思議そうな顔をして聞いた。
「まあ、見ていてください。 伊達に皆さんの世話をしていないという所を見せます。」とエルルゥは額の汗をぬぐった。 そして瓶のふたを取り外した。 中には縮こまって顔を下に向けているユズハがいた。
「先ほどから揺れると思っていましたが・・・やはり、見つかっていましたか。」と揺らされたせいかふらふらとした足取りで瓶から出てきた。
「はい、ユズハちゃん見つけました。 ・・・ちょっと協力してくださいね。」とエルルゥはユズハの手を引いた。
「あの、エルルゥさん?」そしてその後を聞く前に口にメガホンを当てて高らかに言葉を出し続けた。
「あーーーー、たった今よりユズハちゃんをひん剥きたいと思います!」

城の天辺にある見晴らしのよい台座でハクオロは口からつばを吹き出していた。 最初からエルルゥの位置を逐一把握して出会わないように計算して行動していたためである。 そしてエルルゥの次の行動に注目していた。

「あの、エルルゥ様?」と少し怯えながらエルルゥに視線を向けた。 それにかまわず更にエルルゥは演説を続けた。
「かわいそうに。 嫁入り前の、しかも病弱な子がこんな目にあうなんて・・・。 あ、ムントさんそんなに鼻を垂らさないでください。 そこの人たちももっとこっち寄って。 よく見えないよ。」と一息ついて更に続けた。
「まあ、これも真剣勝負の世界だと思ってあきらめてね。 それではただいまより・・・」と演説がいいところに差し掛かった所で、制止の声がかかった。 そのまま塀の向こうから人間離れした跳躍をしてオボロが飛び出した。 そして・・・
「ユズハーーーー!!!」と目を血ばらせてユズハに走りこんできた。 まさに、鬼気迫るとはこういうことを言うのであろう。 そして、エルルゥが走りこんでくるオボロを指差した。
「はい、オボロさん見つけました。 ・・・え!?」とエルルゥは全くスピードを落とす気配のないオボロの気迫をその身で実感した。 そして反射的にユズハを抱えて真横に飛び込んで伏せた。 その直後オボロはユズハに飛びつこうとしたが目標を失い、そのまま瓶に頭を豪快にぶつけてしまった。 亀は非常に響きのいい音で割れた。
「ガァァァーー!!」そのまま頭を抱えたまま勢いよく正門の横の壁に衝突してオボロの暴走はようやく停止した。 
「大丈夫でしょうか?」とウルトリィが側によってオボロの様子を見た。 その額からはいまだにドクドクと血が流れ続けている。 
「にいさま、私のために・・・。 ユズハはとっても幸せです。」と嬉しそうに言った。
「一歩間違えれば第惨事だったんですけど・・・。 それにそんなこと言ってる場合じゃないと思うんだけど。 とりあえず部屋に運びましょう。」とエルルゥが言ってオボロを運ぶために人を呼ぼうとした。 そこへ木の上から飛び降りて駆け寄ってきた双子がオボロの足と手をつかんだ。
「若、大丈夫ですか?」
「しっかりしてください!」と言ってエルルゥの部屋に運び込み始めた。 オボロの部下である双子のグラァとドリィである。
「グラァさんにドリィさん・・・こんな時になんだけど取り合えずお二人とも見つけましたので・・・。」と苦笑いをしながらいった。

更に半刻後・・・オボロはエルルゥの部屋で目を覚ました。 額には薬が塗られており、その上に包帯が巻かれていた。 それに気がついたエルルゥが駆け寄った。
「あ、オボロさん気が付きましたか?」
「ここは・・・。」と辺りを見回した。 オボロには訳のわからない薬ビンが棚にいっぱい置いてあった。 それで自分がどこにいるのか自覚した。
「そうか、俺は見つかったのか?」
「はい、あれだけ堂々と出てこれば・・・。」と苦笑いをするエルルゥだった。
「お前らも見つかったのか?」とグラァとドリィの方に視線を向けた。
「若様のことが心配だったので・・・。」
「つい・・・。」
「そういや、お前らは勝ったら何を要求するつもりだったんだ?」と笑顔になって二人に尋ねた。
「僕達は若様と・・・。」
「酌を共にしたいと・・・。」と少し照れながら答えた。
「そんな事か。 だったらまた遠くない内に相手をしてやるよ。」と笑いながら言った。
「いいのですか?」
「ああ、かまわんさ。」
「そう言えば、若様は何を頼むつもりだったのですか。」
「俺か? 俺は、・・・なんと言ったけ? アルルゥの飼っているガチャタラ・・・霊獣ミキュームだったけ。 それを兄者に頼んでロンキチに探させてもらおうと思っていたんだがな。」と笑いながら言った。
「・・・そしてそれからどうするつもりだったんでしょうか?」とオボロの背中の方から棒読みのせりふが流れて来た。
「決まっているだろ。 チキナロに持ってきてさえもらえば後はそれを買ってユズハにミキュームの肝を食わせ・・・」オボロは途中で話しかけてきた相手の顔を見るために振り向き、その相手を見たとたんに凍りついた。 その後ろに立っていたのは無論ユズハであった。
「兄様・・・。」
「ユズハ、落ち着けこれはな・・・。」と言うオボロの言い訳が始まる前にユズハはオボロにとどめの一言をさらっと言った。
「そんな、兄様・・・嫌いです。」その言葉を聞いたオボロは精神が完全に凍り付いた、まるで動かない彫像になってしまった。
「とりあえずやるべきことは終わりましたので私はまた探索者に戻りますが・・・。」とエルルゥは言って部屋を出て行った。 その後をウルトリィとユズハとムントが追いかけていった。 ドリィとグラァはその場で脱け殻となったオボロの介抱を全力で行っていた。

そしてエルルゥは再び正門の前に陣取っていた。 その前に少しトウカの部屋に寄って・・・。 そしてまた片手にはメガホンが握られていた。
「次は、どうなされるのですか?」とウルトリィが尋ねてきた。
「今度はこれを使います。」と木彫りの人形を取り出した。
「その人形はどうなされたのですか?」とユズハが頭を少し傾けて聞いてきた。
「使い方はこうします。 ・・・トウカさん聞こえますか? 今すぐに出て来ないと貴方の人形を粉々にします。 期限は5分間です。 よい答えを期待しています。 私としても手荒なまねをしたくないので。」と三回繰り返してメガホンを口から離した。
「・・・はたしてこんな人形でトウカさんが出てくるでしょうか?」
「この人形とっても大切にされているとよくわかりますよ。 木材からして古い品であることは間違いないですし・・・」
「持ち主が余程丁寧に扱ってきた証拠ですね。」とウルトリィが感心して人形を眺めた。
「本当ですね・・・。 もっとよく見せてもらえますか?」とユズハが人形を引っ張った。 すると人形の首がもげてしまった。
「・・・大変です! 人形の首が取れてしまいました。」とウルトリィ驚いて大きな声をあげた。
「駄目ですよ。 そんな大きな声を出したらまた・・・。」と、その時何かが地面を踏みしめる爆音がした。 その方角にその場の4人が視線を向けてみると、とても正常とは言いがたい表情のトウカが30メートル先に立っていた。 そして荒い息をしながら重たい足取りでエルルゥ達に近づき始めた。 その速度は次第に速くなって行った。
「キケーー!」奇怪な叫びつきで・・・。
「えーーと。 ウルトリィさん、はい。」と言って狂ったトウカの顔を見ながらウルトリィに壊れた人形を手渡した。
「え、あの? エルルゥさん?」と咄嗟にエルルゥに手渡した。
「ひゃい!? そんな、えっと・・・。」とトウカを見た。 既に常識で考えるよりも速い速度でエルルゥに・・・人形に向かって来ていた。 その気迫にのまれてエルルゥはわらにもすがる思いで打開策を探した。 そして視界に茫然と立ち尽くしているムントを見つけ唯一つの策を実行した。
「ムントさん! パス!」と人形をムントに投げ渡した。 何も状況をつかめていないムントは不幸にもその人形をキャッチしてしまった。 その直後ムントの顔面に激しい衝撃が走った。 しかし、それは序章に過ぎずみぞおち、えんずい、顔面等に猛烈な連撃が加えられた。 30秒もしないうちにムントの全身は原形をとどめていなかった。
『こ、このままでは殺される。』とただその意識だけがムントの頭を支配していた。 その時、正門を通ってふらふらした足取りでオボロがドリィとグラァと共に力なく現れた。 それがムントの視界にかすかに入って最後の力を振り絞った。 
「オボロ殿! 頼みます!」と叫んで人形をオボロに向かって投げ渡した。 その人形をトウカは視線で追い、やがて走り始めた。
「ん? 何だ?」とオボロは飛んできた物をキャッチした。 その直後オボロの首に何かが引っかかりそのまま地面に倒された。 
「げ、ゲハ! 何が?」とオボロは辺りを見た。 すると目の前に正気の沙汰ではない表情を浮かべたトウカがマウントを取っていた。 オボロの首に腕をかけて全体重をかけて床に叩きつけた後のマウントを取るまでの速さは、常人の者ではない。 と、傍に怯えて尻餅をついているグラァとドリィは後日語った。 そしてその後言うまでもなくトウカはしばらくの間オボロをたこ殴りにした。 横では既にムントが力尽きており、オボロガその屍の仲間入りをするのに長くはかからない様子であった。

「・・・終わりました。」とエルルゥはムントとオボロの手当てを終えて立ち上がった。 現在、またもやエルルゥの部屋である。 再び入院したオボロにはグラァとドリィが、ムントにはウルトリィがついていた。 そしてエルルゥは再び死合に戻って行った。
「トウカさんももう少し落ち着いて考えてくださいね。 いくらなんでも他人の大事にしている物を使いませんよ。 本物は部屋においてありますよ。」と落ち込んでいるトウカに言った。
「・・・面目ない。」
「しかし、かくれんぼと違ってむしろ我慢大会の様になっているのは気のせいでしょうか?」とユズハはエルルゥに聞いた。
「今までのところそんな感じですね。 しかし、次はそうはいきそうにはありませんね。」と言っているエルルゥの片手に今度は丸められた大きな紙が握られていた。
「エルルゥ殿・・・それは?」とトウカは当たり前の質問をぶつけた。
「これですか? この城の見取り図ですよ。」
「見取り図? 何故そのようなものを?」
「さてと、この辺りをよく見てもらえますか?」と正門の辺りに出ると地面を指差した。
「この辺り・・・ですか?」
「特に変わった・・・ア!」とユズハが何かに気が付いて答えた。
「ここだけ規則正しくウォプタルの足跡があるんですよ。」とエルルゥは詳しく指をさして言った。
「よく、見てみれば・・・ここだけ規則正しくしかも新しい。」とトウカがじっとよく見つめていた。
「とすると?」
「はい、ユズハちゃん。 約一名ウォプタルに乗って逃走を繰り返しているみたいなんですよ。 それもこちらの気配を手繰って逆に、城内にいる時は壁によって見えないようにとですね。」とユズハに笑って答えた。
「・・・とすれば。」
「はい、そうです。 おそらく相手の気配を精神集中して感じ取ると言う芸当ができてウォプタルに乗っていると考えるとベナウィさんに間違いがありません。 そこで。」と区切ってエルルゥはおでこの辺りに鉢巻をしめた。 そして見取り図を開きながら走る体制を取った。
「さきほど、仕掛けも完成したので全力でしとめてきます!」と言ってエルルゥは駆け出した。 それを呆然とトウカとユズハは見送っていた。

ベナウィはウォプタルにまたがりちょうど正門とは裏手にいた。 微動だにせずただ精神を集中して相手の気配を読むことに専念していた。 そして正門から一つの気配が動いた。 それは城内の中に一目散に走りこんで他の城内の者の気配とごっちゃになり途中で見失った。 そのため念を押して壁によりそり城内から見えないように自分の身を隠した。 そしてしばらくしてベナウィは違和感を感じた。 城内を何か一つの気配が猛烈なスピードで駆け抜けている気配を感じ取っていたのである。 その気配は城内を最短の道のりで縦断し、間もなく裏門にまで到達しようというところだった。
「・・・なるほど、考えましたね。」と短く言うとウォプタルをゆっくりと壁際に沿って走り出させた。
「急いで走り去れば城内から発見されてしまう、かと言っても留まるわけには行きませんし・・・なかなかよい作戦でした。」と言って一つ目の城壁の角の部分を曲がった時に異変が起きた。 ベナウィは角を曲がって3,4歩かけさせたところで不意に重力を失ったのである。 そのままなす術もなく今度は重力に従って大きな穴にウォプタルごと落ちてしまった。 大きな落とし穴が掘られていたようでありベナウィが地面の感触を感じた時には木の葉のクッションに背中をぶつけていた時だった。 その直後真上から網がかぶさってきて、更にそのすぐ横にあった物が煙を噴いて上空に飛び立ち乾いた破裂音を出したのであった。
「やられましたね。」とあきらめたむっすり顔のベナウィがエルルゥに見つかったのは数分後のことであった。

「・・・しかし、私がこの道を通らなかったらどうしていたのですか?」とベナウィはエルルゥに聞いた。
「大丈夫ですよ。 もう片方の道にも仕掛けておきましたので、後で埋めておかないといけませんね。」とさらっと答えた。
「さすがですね。 では、他にも仕掛けを作っているのでござるか?」とトウカは感心してエルルゥに聞いてきた。
「はい、それはもう・・・」と答えた矢先に何か鈴のような音が聞こえた。
「私の部屋からですね。」とユズハは奥にある自分の部屋に視線を向けた。 そしてその時にはエルルゥはもう既に走り出していた。

城の奥にあるユズハの部屋・・・そこにはカミュが隠れていた。 最初はじっと音も立てないようにしてじっと我慢して座っていたのだが時間がたつにつれて次第に退屈になり、我慢できなくなり部屋の扉に手をかけた時だった。 少し扉を開いてみると何故か鈴の音が盛大に鳴り響いたのである。 カミュはその音により心臓へ多大な衝撃を与えられ、勢いよく後ずさりをして、壁に後頭部をぶつけてしまった。
「あいたたたた。」と後頭部を押さえてうずくまった。 そして考えた。 なぜ鈴の音が鳴ったのか? そして落ち着いて結論を出したカミュの行動は思いっきり扉を開けて逃げ出すということだった。 カミュが扉を開けたとき盛大に鈴の音が鳴ったが、少しびくびくしただけでそのまま羽を広げてどこかへ飛び立とうとした。 しかし、その行動はわずかに遅かった。 カミュの右手の側の廊下からあわただしい足音が響いてきてそれが廊下の分岐点ですべる音と共に急ブレーキで停止した。
「カミュちゃん。 見つけました。」と肩で息をしているエルルゥが立っていた。

その頃ハクオロは奇怪な鈴の音にふと疑問を感じて辺りをくまなく調べてみた。 すると見晴らし台と城との出入り口のところに紐がついているのがわかった。 そしてハクオロがそれを目線で追っていくと、その先には大きなたらいとその上に大量の小豆が入って紐と連動しているマスが置いてあることを確認した。 この引き戸を引いたら小豆が大量にたらいに落ちて響く音をさぞかしたてることだろう。 そしてハクオロは考えていた。『さっきのユズハの件といい、トウカの件といいエルルゥめ・・・手段を選ばないな。 おやっさん、辺境の女というのはここまでたくましいものなんでしょうか?』と今は亡きテオロに話しかけていた。

「見つかっちゃったか。」とカミュが少し残念そうな顔をしてエルルゥの後をついて歩いていた。 そこに、トウカとベナウィとユズハが合流した。
「カミュっちも見つかってしまいましたか・・・。」
「ゆずっちも見つかったの? 勝ったらおじ様にもっと遊んでもらおうと思っていたのにな。」
「私もです。 ベナウィ様とトウカ様は?」と歩きながら後ろにいるベナウイとトウカに聞いた。
「私は聖上様に死ぬ気で政務に取り組んでもらおうと思ったのですが。」と顔をしかめてベナウィが答えた。
「え? 某は・・・? すまぬ! 内緒だ。」とトウカは顔を赤らめて少し顔をそらして答えた。
「しかし、どうするつもりなのだったのですか? あれだけの罠・・・城の者がかかると迷惑をしますよ。」とベナウィが当然のような質問をした。
「城の方には既に罠の場所は説明しておいたので大丈夫だと思いますよ。 それに仕掛けたのは城の端の方と後は本命用の罠ですから。」とエルルゥは顔をしかめながら答えた。
「本命用?」とカミュは聞き返した。
「そういわれれば、今向かっている所は・・・。」とトウカは少し考えた。
「はい、このゲームの強敵と言えばカルラさんしかいません。」とエルルゥが言い放つと早足でカルラの部屋に向かった。

そして一同がカルラの部屋の前に辿り着くとエルルゥが意を決して扉を開いた。 その後エルルゥ以外のものはあっけにとられてしまった。 カルラの部屋にあったものは天井にまで届きそうな酒樽の山と大量の酒のつまみであった。
「エル姉さま・・・これって?」とカミュが聞いた。
「全部眠り薬入りです。 しかし、本命はかからなかったようですね。」とエルルゥは酒樽の周りを見回しながら答えた。
「これ全部に仕込んだのですか?」
「さすがにもったいないのでそんなことはしませんよ。 表に出ている分だけですよ、ベナウィさん。」
『それでも無駄ではないのか?』とべナウィは心の中で突っ込んでいた。
「引っかかりそうな気はするのですが・・・。」とトウカも辺りをきょろきょろして探してみた。 すると足に何かが引っかかった。 そこにエルルゥが傍に寄った。
「どうやら、おまけが引っかかったみたいですね・・・。」と眠りこけているクロウを見てあきれた顔をして言った。 その後ろには更にあきれて怒っている顔をしたべナウィが立っていた。
「しかし、聖上も結構こういうことに関しては上手なのではないでしょうか?」とトウカがエルルゥに聞いてきた。
「大丈夫ですよ。 予定通りだとすれば・・・。」そこへ女中が一人慌てて走りこんできた。 そして急いだ様子でエルルゥたちに尋ねた。
「あの、カルラゥアツゥレイから使者がいらしているのですが? 皆様、聖上様がどこにいらっしゃるかご存じないでしょうか?」とおろおろした様子で、
「では、皆様ハクオロさんを探してきてください。 謁見をまさかさぼらせるわけにはいきませんので。」と言ってエルルゥは満足げに微笑んでいた。

・・・結局ハクオロは謁見に赴いた。 確かに上から見たところ皆が言っているとおり使者が来ているのも確認したし、皇としてこれを突っぱねるわけには行かない。 しかしこれに負けるわけにはいかないというつまらない自尊心が沸いたためしばらく考えていたが、結局ため息と共に意を決し、小豆のこぼれる音と共に皆の前に姿を現し謁見に出向いた。 謁見の間ではべナウィはいつも通りであったが、エルルゥに関して言えば笑いをかみ殺すように横に立っていた。 結局、使者の自国復興の為の援助願いを聞き届けると使者に下がらせてハクオロもため息と共に下がっていった。

「まさか、そこまで計算に入れていたとは・・・。」とハクオロが落ち込んで言った。
「当然です。 予定は全てこちらにも知らせていただいておりますので。」と含み笑いをして言った。
「ところで、その装備はどうした?」とエルルゥに尋ねた。 エルルゥは長い丈夫そうなロープと手袋、それに灯りになりそうなろうそくを持っている。
「一応城の中(全屋根裏含む)と周りの草むら等は探したのですが、なかなか見つからないんですよ。」と言って井戸のそばにある丈夫そうな木にロープをしっかりくくりつけた。
「まさか・・・井戸の中に?」とユズハがエルルゥに少し引きながら聞いた。
「はい、しかし残った隠れられそうな場所はここだけですから。」と言って火打石を袋に入れて準備を終えた。
「確かに、カルラ殿ならここにいてもおかしくない・・・。」とトウカは既にエルルゥの意見を肯定しているようだった。
「そう言う訳で行って来ます。」と言ってロープを井戸にたらし井戸の底へと降りていった。
「・・・おじ様? どうするつもりですか?」とカミュが無邪気に聞いた。
「行くしかあるまい・・・。」と言ってしばらくたった後にハクオロもロープを下り始めた。

「やけに深いな・・・。」降り始めて1分ぐらい経ったが未だに底が見えてこない。
「・・・これでは水汲みも大変だな。 いや、もしかしたら古い水を使っているのかもしれんな。」とハクオロは途中で水を汲んだままロープにつながって宙で揺れている桶を見た。
「しかし、ここは飲み水にも使うんだぞ。 エルルゥには後で・・・。」その時ハクオロの下から声が上がった。
「おじ様。 ここの所に横穴がありますよ。」とカミュがはばたきながら元気よく言った。 そしてハクオロがその場所までするすると降りて行った。
「本当だな・・・。 こんな所があるとは。」
「おじ様。 行ってみましょ。」と言ってカミュが先行して横穴に入っていった。
「・・・。」と無言で後を追うハクオロであった。

しばらく横穴を進んでいったハクオロとカミュであるが途中から壁が石造りのものに変わり、床も石床に変わっていた。 そしてところどころに灯りをつるす場所もあった痕跡がある。 今はカミュの火の法術で灯りを作りながら進んでいた。 そしてしばらく行った所で大きな灯りに気がついた。 そこにいたのは、エルルゥとカルラであった。
話を少しさかのぼる。 エルルゥがこの横穴を見つけるとすぐさま蝋燭に火打石で火をつけてそのまま穴の中を進み始めた。 そしてしばらく行くと酒を飲んで布団に転がっているカルラを見つけたのである。
「・・・まさか本当にこんな所にいるとは・・・。 ここは、座敷牢か?」と木の折で囲まれた畳の敷いてある部屋を見た。
「おじ様。 それにしては畳が腐っていないよ。」とカミュが言った。
「そう言われてみればコウモリはいたのに蜘蛛の巣はありませんね。」
「当然です。 たまに私が使いますから手入れはきちんとしていますわ。」とカルラが当然のように言った。
「と言うことは、都合のいいときにいつもいなくなると思ったらここにいたのか?」
「そうですわね・・・。 主様、その時の気分で決めていますわ。」
「それは他にも隠れ場所があるといっているのか?」
「主様の想像にお任せしますわ。」
「いつも井戸を通ってこんな所まで来てたの?」とカミュが普通の質問をした。
「井戸? ここは井戸につながっていたのでしょうか?」となるほどと言った顔をしてカルラは答えた。
「と言うことはどうやってここまで来ていたんですか?」
「どこって・・・ここからですわエルルゥ様。」と言って部屋の隅を指差した。 よく見てみると牢の中に穴のようなものができている事がわかった。

「遅いですね、聖上は。」と言ってべナウィがため息をついていた。
「カミュっちも遅いです。 もうすぐ日が暮れてしまいます。」とユズハも同意した。
「まあいざとなれば某が行って参りますゆえ、どのような化け物がいようと・・・。」その時、トウカが腰をかけていた大きな石が少し揺れた。
「地震か?」とトウカが首をかしげて辺りを見たが特に他の場所は揺れていない。 そして次の瞬間何かの音がきっかけと共にその石ごとトウカは浮いた。
「な、何事?」とトウカは慌てふためいたが、他の者はその下にその大きな石を持ち上げているカルラの姿を見て落ち着ききっていた。 そして、持ち上げた石をカルラはゆっくりと横に置いた。 その時にようやくお互いがどこにいたかはっきりと自覚したらしい。
「あら、そのような所にいらしたのですか?」
「何故そのような所から出てくるのでござるか?」とトウカはくってかかって聞いた。 その後ハクオロとエルルゥとカミュも地上に姿を現した。
「まさかこんな所に続いているとは・・。」とハクオロは声を漏らした。
「聖上まで・・・。」
「トウカか。 さっきの井戸とここがつながっていたんだよ。」
「ここと・・・でしょうか?」
「しかし、こんな場所よく見つけましたね。」とベナウイが感心したように話しに入った。
「偶然ですわ。 たまたまどかした石の下に通路があっただけですわ。」と何事もないように言うカルラ。 その後ろから包帯を巻いてよろよろと歩いてくるムントの姿があった。 傍には、ウルトリィが心配そうに付き添っている。
「・・・何その顔。」とカミュはムントの顔を見たとたんに腹を抱えて笑い出した。
「面白いですね。 カミュっちの仕業ですか?」とユズハもくすくす笑いながら聞いた。
「私じゃないからアルちゃんの仕業だね。 うん、よくできてる。」と尚も笑い続けている。
「はて、私が何か?」とムントが不可解そうな顔をして一同を見回した。 ムントがどう言おうが包帯が巻かれ、それ以外の場所もトウカの連撃により腫れあがり、さらにいたずら書きが加えられている。 どう見てもおかしいのは必然である。
「そう言われてみれば、アルルゥはまだ見つかっていないのか?」とハクオロが辺りを見回した。 その一言でエルルゥがハッと何かに気がついたようにびっくりした顔になりそしてアルルゥを急いで探し始めた。 既に日は沈みかけていた。
「もしかして・・・。」
「妹君の事を忘れになっていたとか?」とユズハとトウカが聞いたがどうやら図星であったようだ。 

結局、アルルゥは見つからなかった。 その後ムックルに精神的な拷問をしたりして一生懸命探したエルルゥであったが日が落ちた頃には、正門の前に立ち尽くしていた。 そこへ参加者が皆集まって来た、がアルルゥの姿はなかった。 その後半刻ほど待ったがあるルゥは姿を表す気配がまるでなかった、もうすぐ晩飯時にもかかわらず。 そして少し心配になって来たハクオロが皆に探させるように命じさせた。 そして更に半刻後・・・トウカがハクオロに慌てて話しかけた。
「聖上、アルルゥ殿を発見しました。」と報告した。
「アルルゥはどこですか!?」とその報告をしに来た投下にエルルゥが気迫を伴い詰め寄った。
「いや、あのそれが・・・とりあえずこちらに。」と言って案内を始めた。

そしてトウカが案内した先は、
「ここは私の部屋だが?」とハクオロは首を傾げて言った。
「それなんですが・・・。」と少し苦笑いを浮かべながら扉を引いて開けた。 既に鳴子の仕掛けははずしてあるため音は鳴らずに静かに開いた。 そこには、布団を敷いて静かに寝息をたてているアルルゥとガチャタラがいた。 その光景にエルルゥが安堵のため息をついた。
「全く、この子は皆に心配をかけて。」と安心したようで落ち着いた様子で言った。
「アルルゥ、起きろ。」とハクオロが布団の傍により、アルルゥを少しゆすって目を覚まさせた。
「ん、おとーさん?」と寝ぼけ眼で聞いた。
「かくれんぼは?」とハクオロの目をみつめて聞いた。
「お前の勝ちだ。」と言ってアルルゥの頭を優しくなでた。 アルルゥが気持ちよさそうな顔になってそれに浸っている。
「さてと、何か願い事でもあるか?」
「願い事?」
「そうだ。」
「・・・また、遊んでほしい。」とアルルゥが少し照れたように言った。
「わかった。」とハクオロは口に笑みを浮かべて答えた。
「さてと、これにて一件落着ですね。」とトウカは少し気を落ち着けて大きく息を吐いた。
「そうですね、もう大分遅くなってしまったのでとりあえずアルルゥをつれて今日はお休みさせていただきます。 アルルゥ、行きますよ。」そのエルルゥの声に反応してアルルゥはエルルゥの後をついて行き部屋に戻った。
「では、私も休ませてもらおうか。」と言って布団に向かおうとしたハクオロは何者かに手を引っ張られた。 そしてハクオロが振り返るとそこには困った顔をして立っているベナウィの姿があった。
「聖上、気分転換はもういいでしょう。 仕事はまた増えてしまいましたので今から少しでも片付けましょう。」と言って無常にもハクオロを引っ張り始めた。
「ベナウィ?」とハクオロは血の気がうせていくような感覚にみまわれた。
「御安心ください。 邪魔が入らないようにクロウにも見張らせますゆえ。」そうしてハクオロ飛べナウィは暗闇の廊下へと消えていった。
まだ皆が暖かく賑やかだった日。 そんな賑やかな1日のお話。


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