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Original Novel TAKA Presents




社長が・・・
多分一週間前から
妙に落ち着かない。

どう考えても
あの依頼に慌てふためいている。




Mr.Joeにお任せを。


『三件目:忘れ物探し』






一週間前。

割と確かに覚えている。
この事務所の扉を開けたのは中年の婦人、ってヤツだった。
多分社長とそう年は変わらない。
ただ、決して
社長が唯一苦手な「オバチャン」をしているわけではなく
なんて言うか・・・家柄が違う?って感じがしていた。
「貴婦人」って感じだ。

日本語で言うところの・・・「深窓の佳人」、なんだろーなぁ。
う〜ん、まだまだ日本語は奥が深い。



「あの・・・よろしいでしょうか?」
「?」
ちょっと戸惑ってしまったが
意味はすぐ分かった。
「ああ、大丈夫ですよ。」
扉を開けて客を中に通す。

社長はちょうど新聞を購読中だった。
「社長。」
「ああ、CLAIRE。」

と、お茶をすすりながらこっちの方を見たとたん



速攻で私は客を外に閉め出す。
「あの・・・ちょっとお待ち下さい(汗)。」
もちろん出来るだけ完成度の高い笑顔で。



そして社長にティッシュを手渡す。
「何やってんすか(汗)。
 いきなりむせて・・・」
「・・・ごほっ、こほっ・・・
 す、いません・・・ちょっと喉に詰まっちゃって・・・。」
社長が年甲斐にもなくお茶を喉に詰まらせた。
狙ってるんじゃないか、と言うくらいのタイミングで。
・・・老化現象の一つだろーか・・・?

せっかく読みかけの新聞誌が水漏れしてしまった。
そう言えば私まだ読んでないのに。

・・・

何とかテーブルも拭き終わった。
「ああ、ではあのご婦人を。」
「了解、っと。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そして事情聴取中。
今日は何か社長の調子が悪いので
私もそばで見ている。

先ずは依頼書の作成だ。
「あ、では・・・お名前を。」
「・・・ながさき はるか・・・。」
「永崎羽瑠香さん、ですか。
 では依頼の方は?」
「ええ、主人が・・・先日病で亡くなってしまいまして・・・。」
「ああ・・・それは・・・
 お悔やみ申し上げます・・・。」
「亡くなってしまいまして・・・心の慰めに
 私の・・・別荘でしばらく落ち着こうかと思っているんです。」
「ほうほう、それで?」
「ただ、その別荘が遠いところにありますので。」

ああ、多分海外だな、と思った。
私もこの探偵事務所をやってから結構観察力が付いた。

あの腕時計。
服は至って質素にまとめてあるが
時計だけはそうそう変えられるモノではない・・・と思う。
まあ多分かなりの家柄の人だろう。

「遠いところにありますので
 家で飼っている犬を・・・誰かに。」
「成る程。
 その犬の飼い主にふさわしい人物を捜して欲しい、と。」
「はい、そうです。
 丁重に扱ってくれる人よりも
 ・・・あの子を幸せにしてくれるような人を、お願いします。」





そして事情聴取もそこそこに
中年婦人は去っていってしまった。

その途端に
「じゃ、CLAIRE、行きますか?」
「えぁっ!?」
「何って、早速依頼者の犬を飼ってくれる人ですよ。」



今日の社長は一本弦が切れてる(汗)。



「CLAIRE・・・僕の人生で未だ見たことのない書面だ。」
「私だって見たことないって。
 家にはフツーのspitzしかいないよ・・・。」

受け取った依頼者の犬は血統書付きだった。
それを飼ってくれる家なんてあるんだろーか・・・?

「恐らく・・・皆が皆、敬遠して受け取ったりはしないでしょう・・・。
 CLAIRE、何かいい策はないでしょうか?」
もちろん私に策なんて有るはずがないんで
懐から「例のブツ」を取り出す。
「・・・携帯で指示を仰いでみるか・・・。」

ピピポパピポピッ、と。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「もしもし?
 燈子(とうこ)?

 ここいらで一番の子沢山家族知らない?」

「大家族」=「度胸家族」という方程式は
日本人として間違ってるんだろうか?



が、あったんだな、これが。
そこそこなスペースの家庭で
家族団欒とした雰囲気だったので条件に合ってると思った。

今日は社長の新記録達成である。
まさかたった数時間で事件解決とは・・・。



社長が早速携帯で結果報告をする。
「あー・・・もしもし?
 あ、はい、先ほどの者です。
 あの件ですが良い引き取り手が見つかりました。
 ええ、非常に仲団欒とした家族で。
 ミカ(犬の名前だ。)ちゃんも喜んでくれるでしょう。

 ・・・
 あのー・・・、日本を発つのは?
 ええ、いや。
 あまりにも早く依頼が解決いたしましたので
 いわゆる「アフターケア」とでも言うヤツです。
 空港までお見送りいたしましょう。

 ああ、どうもどうも。
 では一週間後の・・・はい、18日に?
 はい解りました。

 ええ、大丈夫です。
 Mr.Joeにお任せを。」
ピッ。





そして一週間後。
怪しい怪しいと思った私は・・・
決死を覚悟で、今、高速を走行中の車の荷物入れの中で社長を盗聴している。

「いやいや・・・
 もうすっかり春めいてきましたね。」
「・・・そうですね・・・。」
「そんな落ち込まないで。
 米国でも桜の咲き乱れる場所も多いと聞きますよ。」

まあ別に当たり障りもない
いつもの社長のキザトークだった。



さて、空港に着いた。
私もそれについていく・・・



搭乗手続きも済ませ
出発待ち。
私は何気なく
観葉植物で作られた壁一つ隔てて二人の会話を盗聴している。



「お嬢さん。」
「気になっていたんですけど・・・・・・
 私はもうお嬢さんと呼ばれる年頃ではありませんよ。」
「いや、私は幼くても年老いていらっしゃっても
 女性の方にはそう呼び掛けることを心がけております。



 少し、昔話をしてもよろしいでしょうか?」
「ええ・・・「桃太郎」?それとも「浦島太郎」ですか?」
「いやいや・・・そんなに昔の話ではありません。
 ほんの・・・30年ほど前の話です。



 一人の、小学生がいました。
 少年の容姿容貌は非常に醜く・・・
 また、性格も良くなかった。
 これでは非常に周りの人達の評判が良くないのも当然。
 少年は・・・ひねくれていくだけでした。

 でも・・・んー・・・何でしょう
 捨てる神在れば、拾う神在り。
 とでも言ったところでしょうか。

 ある日、クラスの席替えがありました。
 班の長を決めて・・・
 わかりやすく言えばドラフト会議などを思い浮かべてくれれば。
 そういう・・・人の人気を顕著に示す会がありました。

 そこで少年と少女は出逢った。
 ある少女が真っ先に選んだのは・・・
 その醜い少年だった。

 少年は少女に問う。
 何故にこの醜い自分を選んだのか、と・・・。
 しかし少女は周りに人が居たので恥ずかしくなってしまい
 答えることが出来なかった。

 ・・・

 ま、山ほど話したいこともありますが
 飛行機はそう待ってくれる物でもありませんでしょうから
 手短に話しましょう。

 その少年は・・・。」
「その少年は・・・貴方のこと、ですね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 お嬢さん、貴女は非常に察しがよろしい。」
「続けて、下さいませんか。」
「それでいて残酷だ。
 それ故に美しい。



 それ以来
 貴女だけのことを想ってここまで来ています。
 愚かしい人生でしょう?

 それでもここまでやってこれたのは唯一の自慢なんですよ。」

「・・・何故、今になって?」
「想う故に、ですよ。
 想う故、貴女に触れることも大罪の一つだった。

 今頃、話し出したのは
 今この機会を逃すと
 もう僕の人生のうちでこの事をうち明けることは無いかも知れない。
 そんなことは・・・少々・・・かなしすぎる。
 そんな、寂しさがそうさせたんでしょうね。

 ・・・

 まあ、もう20年も言うのが早ければ
 熱い官能の夜などもあったんでしょうが(笑)。

 はははっ。
 それはきっとありえない。

 あの頃もそう10歳の頃からそう変わらない。
 手をふれるのも罪になったでしょうから。
 今だって・・・・・・もちろんそうですよ。



 もう少し、聞いてくれませんか?
 私が「お嬢さん」と呼ぶ理由です。

 貴女を想いつつも
 貴女を独占しようとするのは私は嫌った。

 なんででしょうかねぇ・・・説明しにくいんですよ・・・

 貴女に優しくしよう優しくしよう、と
 そうずっと想っていたら・・・



 自然と、・・・人に優しくなったんですよ。
 人が喜ぶのがたまらなく嬉しくなったんですよ。

 ええ。
 そういう生き方を、楽しいと思ってますよ。
 若い頃は若干経験が足りなくて
 悩んだ時期もありましたが。



 40手前まで来て一つ出た結論が
 「女性の喜ぶ顔は私にとっても嬉しい。」

 掛け値無しの言葉ですよ。」



・・・03便、12:03分発の・・・

「お嬢さん、そろそろ出発です。
 こんな老い先短い中年の話のご静聴、ありがとうございます。」





社長が、搭乗口前で最後の話をした。
私は・・・後ろから、その後ろ姿を見守っている。

「あの・・・城島さん。」
社長の本名だ。
「一年ほどしたら戻ってくると思います。
 その時はもっとお話しませんか?」
・・・
「いやいや、・・・・・・羽瑠香さん。
 それはありえない。」
「城島・・・さん?」

眼鏡をかけ直し
帽子を目深に伏せ
コートの襟元を少し直し
そして、きっと、きっと、澄んだ瞳で









「ここで
 今生の別れです。

 では・・・・・・・・・・・・さようなら。」









社長は、いつまでも見守っていた。







・・・ったく・・・なんだから(笑)。
私の頬がニヤッと笑う。

そして残った影も見送り終わった隙だらけの社長の背中をドンッ、とする。



「しゃーちょーおっ!」「!!」
ドンッ、っとな。
タックルをくらわすのだ。

・・・

「CL・・・・・・AI・・・RE?」「お迎えに来ましたよっ!」
何が起こったか、全然理解できてない。
口が開けっ放し。
ヨダレが出てきそうだ。

「社長の行き場所ぐらいわかってますって。
 だって社長18日、って電話で言ってたし
 ここらへんで国際線は成田で乗り継ぎしないと行けないし・・・

 とーぜん、ここだってわかったわけですよっ。

 まったく・・・タクシー代払ってくれますよね?」
そう言うとやっと社長が正気を取り戻した。
コラコラ、目元押さえるなっつの。

「ああ・・・・・・・・・ご苦労でした。

 まったく・・・あたかも盗聴されているようだ。
 推理力、洞察力、行動力に満ちた臨時職員・・・その名はCLAIRE。

 君は素晴らしい。」

ほんとーに気づいてないんだろーか・・・?
もしかしたらこれ、芝居なんじゃ・・・?
それはないか。

「じゃ、依頼も終了。
 帰りましょっかーっ♪」
「そうですね・・・帰りましょうっ。」
 







帰りの高速。
社長が前、私にウンチクをたれた曲を流したのが聞こえた。
たしか
「歳を取ってからこんなに自分にぴったり合うような曲は珍しい。」
とか
「波打ち際を楽しむお姫様が見える。」
ってとか言ってたっけ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

たしか
最後のサビのphrase。
「人を好きになって、一番浅いところの想い。

 ・・・
 「優しくしてあげたい。」
 とか
 「喜んでもらいたい」
 とか。
 ・・・
 
 そういうのが僕の中では一番キレイで、一番好きな感情だ。」
そう言って説明してた気がする。



社長の、初恋の、終わりか・・・・・・。

いや
きっと社長はまだあの人のこと想ってるんだろうな。

死ぬまで、想うんだろうな。

窓の外を100km/hで熔ける高速の景色を眺めながら

そう思った日だった。







それから社長に別段変わったところはない。



「CLAIRE、今日の仕事は少し大変だ。」
「?」



いつも通り女性を「お嬢さん」と呼び
おちゃらけた様な毎日をenjoyしてる。



「向こうのマンションの明日香ちゃんに自転車を教えなければならない。」
「何でそんな仕事受けたんですかー(汗)。」



ただ私の中で若干評価が変わっただけだ。

カッコつけで妙に紳士。
それでいて時々小学生な中年が



「まず忘れてはいけないのは
 中指と薬指を決してブレーキから外さないこと。

 まあ、まだまだありますが早速乗ってみましょう。
 お嬢さん?」
「うん、わかったよ、みすたーじょー♪」
「そう、非常に冴えていますよ。」



「死ぬまで」
カッコつけで妙に紳士。
それでいて時々小学生な



「ね、ね、ちゃんともってる!?」
「はい、ちゃんと、しっかり両の手で押さえてますよ。
 では・・・そろそろ離しますよ。」



それでいて・・・・・・実は
どんなHollywoodのactressも敵わない、たった一人のPRINCESSと
誰の耳にも届くことのない、世界一優しいLOVESONGを
胸の中にしまってる



「え、ヤダ、はなしちゃダメっ!!」
「さ、勇気を出して、ペダルを踏むんですよ。」
「がんばれー♪」



そんな、事務所唯一の探偵だ。

って事に変わっただけだ。



「そうそう、その調子!」
「の、ののれてるぅ〜〜〜!?」
「(はぁ〜・・・みんなして何やってんだか(笑)。)」



のんのんとした麗らかな春の日差しの中。
自転車と小学一年生と40寸前の探偵とバイトの私、ってわけだ。





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