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Cocktail Soft Adventure Game With You



走るアイツを見つめて・・・


[菜織SIDE](6月9日火曜日)

by PEACE



「おーい、いつまで休んでるんだ!100Mダッシュ追加五本!」
陸上部の先輩の声が、夕日を受けているグラウンドに響いた。
そこでは陸上部だけではなく、さまざまな部のメンバーが汗を流している。
ごく日常の一コマ。

そして、そこには「アイツ」がいる・・・


―――――数日前
「・・・・という訳で、100Mの正選手は一人になったんだ・・・」
「それで、どうするつもり?」
「もちろん勝負をして決めるさ。」
あいつはごく普通にそう言ってたけど・・・


私は保健室を開けて、しばらくアイツの様子を遠くから見ていた。
大会に出場するだけあって、100Mのダッシュは先輩を除いたどの部員より群を抜いていた。


「アンタは何のために走るの?」
アイツにそれとなく、走る理由を何度か聞いた事があった。
「そうだな・・・追いつけなかったものに追いつくためかな?」
それは、その何度かの問い掛けすべての答えだった。


でも私は、その本当の答えを知っていた。
その「追いつけなかったもの」の事も・・・


―――――6年前
アイツは真奈美が出発した日、なぜか泥と傷だらけだった。
「どうしたの、そのけが?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
回答がなくても、涙で濡れた顔で、私はすべてが分かった。
「ねえ・・・元気だして・・・」

アイツが走り始めたのはそれからだった。
私は、アイツにどう接していいか分からなかった。
だから・・・せめて私に出来る事を今までしてきたつもりだ。


今は少し状況が変わって、「追いつけなかったもの」がそばにいるようになった。
それでも、アイツはまだそれに追いつくために走っている。


・・・・・・やっぱり私は・・・・


他の部員が引き上げた後も、アイツは練習を続けていた。
明日はレギュラー選抜の日だから、練習にも熱の入れ様が違っているのにも気づいていた。

「精が出るわね」
私はいつものように、スポーツドリンクとタオルを手渡した。
「ああ、明日が勝負の日だからな。あ、悪いけど、タイム計ってくれないか?」

そのタイムはかなりの好タイムだった。
明日の勝負も、おそらく負ける事はないだろう。

「じゃ、部室で着替えてくる。」
アイツが背を向けて、部室に向かっていった。
その背中は、やっぱりまだ迷いが残っているように見えた。

私は衝動に駆られ、その背中に手を回した。
「お、おい、汗臭いからよせよ・・・」
私は首を振った。
「・・・・・私はこんな事しか出来ないけど・・・」
「・・・・」
「頑張ろうよ・・・」
「・・・・・・」
「がんばれ、正樹・・・」


私は見守る事しか出来ない。なら、それだけしか出来ないなら、 あの日から穴の空いた、アイツの心を埋めるのを手伝いたい。

―――自分の気持ちにブレーキをかけて・・・・・・



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