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Original Novel T.Yokoshima Presents



DISTANCE


#02

屋上の尋問



 SHRが終わり、1時限目の開始。黒板中央に「自習」と書かれた2年6組の教室内では、延長された休み時間を有意義に使う生徒の姿があった。
 その教室から離れた同校舎の屋上。2mほどのフェンスに囲まれた、誰もいない広々とした世界に俊哉と美樹がいた。フェンスに寄りかかる俊哉と、その前方5mほど距離をとって立ちつくす美樹。互いに向き合うことなく沈黙の時が流れていた。
 先ほど俊哉の転校が担任の佐方から告げられた後、SHRは続けられたものの釈然としない空気が流れていた。担任は俊哉が引っ越すという事実だけを知らせ、当の俊哉はそれに対してなんの発言もしなかった。
 そしてSHR終了後、納得のいかない美樹が俊哉を屋上まで引っ張ってきた。それから15分、屋上に着いたときの状態のまま2人はそこにいる。
 やがて風がやみ、なびいていた美樹の髪がゆっくりと背中に落ちる。
 「どうして・・・言ってくれなかったの?」
 最初に口を開いたのは美樹だった。俊哉のほうを振り返らず、淡々とした口調で言う。
 「なにが?」
 「転校するって、引っ越すって、どうしてもっと早く言ってくれなかったの?」
 「ああ、それね。今週をもって・・・って言っていたから、残り1週間ないんだな」
 まるで他人事のように俊哉は言う。そして吸い込まれそうな青い空を見上げた。朝と同じ、雲もほとんどない空。その空を鳥が舞う。
 「そんなこと聞いてるんじゃないっ!」
 俊哉の答えに美樹が声を荒らげて否定した。背中が微かに震えていた。そしてゆっくりと俊哉のほうを向く。
 「なんで、一番最初に教えてくれなかったのっ!? 知っていたんなら、もっと早くわたしに言うことくらいできたでしょっ!? いつも側にいたのに、一緒にいたのに・・・」
 少しずつ、美樹の声が大きくなっていった。涙目で訴える美樹が俊哉を見つめる。
 俊哉はまだ空を見ていた。背を預け、視線は上空へ。
 「・・・俺も初めて知った」
 「えっ・・・」
 言葉が止まった。
 「俺もあの場で初めて知ったんだよ、引っ越すって。しかも日本じゃなくて海外。・・・聞いてないんだよ、何一つ」
 空に吐く言葉が美樹にも伝わる。俊哉の返事は美樹の予想を超えていた。驚きの表情を隠せない美樹に俊哉が続ける。
 「だからこんなとこ連れてきて尋問しても、納得のいく答えなんか出ないよ。当人が知らないんだから」
 「でも・・・それ・・・じゃあ・・・・・・」
 言葉にならない言葉を美樹が発する。それだけの声を絞り出すのがやっとだった。
 ただ刻が過ぎた。見えないくらいの長い時間が。
 「さて、いつまでもここにいても仕方ないな。一応授業中でもあることだし・・・教室、戻るか」
 フェンスから体を離して俊哉が歩き出す。美樹の横を通り抜け、屋上の出入口へと。
 「俊哉っ!」
 ドアに手を伸ばしたところで振り返った美樹が俊哉を呼ぶ。俊哉はその顔を見ることなく、そのままドアのノブに手を預ける。
 「・・・俊哉は、どうなの? やっぱり・・・行くの?」
 「さぁな。でも、担任に直に引っ越すと伝えている以上、連れて行くつもりなんだろうな」
 「俊哉は・・・」
 美樹の声が小さくなり、そのまま俯いた。
 「今の状態じゃ、解らないよ」
 ドアをゆっくりと開いて校舎の中に戻る。そして屋上には俯いたままの美樹が残った。

 話し声と笑い声が小さく洩れる教室。後ろの扉をゆっくりと開けて俊哉は教室に入った。突然開いた扉の音に何人かが俊哉の方を見たが先生ではないと解ったところで再び会話に戻る。
 後ろ手で戸を閉めて席に戻る。
 「どこ行ってたんだ? 来橋と2人で」
 席に着くなり、隣に座る捺樹が身を乗り出して聞いてくる。
 「屋上。職質された」
 「職質? んなこと聞いてどうすんだよ。引っ越しのこと、問いつめられたんだろ?」
 「・・・そうだよ。納得いかない・・・って」
 「で、どうなった?」
 思った以上にしつこい友人・捺樹裕史の顔が迫ってくる。なるべく顔を見ないようにしながら俊哉は渋々といった具合に答えた。
 再び教室の後ろ戸が横に開く。ゆっくりとした歩調で美樹が入ってきた。俯いたまま戸を閉め、自分の席へと戻っていく。
 その姿を見ながら捺樹が呟いた。
 「なるほど、ふったって訳か」
 「どこをどう見たらそんな風に解釈できるんだ? おまえの頭は」
 「なんとなく。・・・別にオレが見なくたってみんなそう思うぞ、あの様子見たら。よほどショックを受けた、そんな感じだ」
 それだけ言うと椅子に座り直して次の授業の準備を始めた。いつも机の中に置いてあるらしい教科書とノートが出てくる。そして席を立って前列に座る友人のもとへと歩いていった。
 その姿を目で追ってから俊哉は美樹の方を見る。席に座ったまま、ただ俯いて・・・後ろから見ると考え込んでいるようにしか見えない体勢だった。今の俊哉には、なぜかその姿がいつもより小さく見えた。

 そして1時限目終了のチャイムが校舎内に鳴り響いた。

 
《contd.》



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