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Original Novel T.Yokoshima Presents



DISTANCE


#06

騒々しい教室



 特に変わりばえのない、退屈な授業が流れるように続く。
 校内放送用のスピーカーからチャイムが流れ、教師が入ってきてその日のメニューがこなされる。掘り起こされる過去の産物たちを間接的な形で頭へと埋めこんでいき、50分という限られた時間が終了するとそれを知らせるチャイムが鳴り、一つの流れが終わっていく。
 「暇そうだな、俊哉」
 2時限目の授業が終わったところで、捺樹が身を乗り出すようにして話しかけてくる。席が隣なのだから、わざわざ体を窮屈にさせてまで話す必要はなかった。
 「そう見えるか?」
 「見える見える。こっちはあと1週間もすれば期末テスト週間に突入するんだぜ。そんな中、外眺めてため息ついてられんのはおまえぐらいだよ」
 どこの学校でも同じことだが、学期の中には中間テスト・期末テストという、学生にとっては難所ともいわれる総合テストが待ち構えている。総復習とその結果という点で今後の人生を左右されてしまうものも数少なくない。
 この学校も7月に入ってすぐに期末テストが待ち構えているあと2週間足らず、といったところだろうか。
 「なんだよ。俺も同じじゃねえか、それ」
 「・・・自覚ないんか、転校生。今週でこの学校とお別れする奴が、今後の学校行事心配してどうすんだよ。暇があるなら、海外行った後の自分の心配でもしとけ」
 「英語の勉強か?」 
 「ドイツ語だろ、あのへんは」
 「ドイツ語か。といっても、一週間やそこらで覚えられるようなもんでもないだろ。しばらくはアナクロな英語と身振りでのりきるしかないんかな」
 「でもさ、海外に住んでいれば3ヶ月そこらで現地の言葉がなんとなく解かりはじめるっていうぞ」
 「誰が言い出したんだよ、そんなこと」
 椅子に体を預けて小さく伸びをする。と、視界の中に席に座る美樹の姿が目に入った。昨日と同じように、席に座ってただ下を向いている。
 『昨日のがまだこたえてんのか? ・・・そういや、今日は挨拶すらしてなかったな』
 俊哉が屋上から戻ってきたときにはすでに美樹は席に座っていた。声ぐらいかけようと思ったが、丁度担任の佐方が入ってきたのでそのまま俊哉も席に着いた。それから2時限目の授業まで終わり、振りかえれば美樹の顔すらもまともに見ていないことに気がついた。
 俯いていた美樹の顔が上がる。視線をずらすと、クラスメイトの瀬戸静香が美樹に声をかけていた。何か話をしているようだが美樹のほうにはいつもの元気がない。笑っているようだが、どこかぎこちないように見えた。
 2,3声をかわしてその場を去ろうとした静香と俊哉の目が合う。すると、俊哉を睨み付けて小さく口を開く。声には出さず、口だけで何かを伝えていた。そして踵を返して自分の席へと戻っていく。
 「どうした?」
 違う方向に目を向けている俊哉に捺樹が声をかける。美樹のほうに目を向けたまま、捺樹の問いにそっけなく答える。
 「・・・睨まれた」
 「はっ? 誰に」
 「瀬戸」
 捺樹が俊哉の視線の先を追う。その先には俯いたままの美樹がいる。
 「いねえじゃねえか」
 「もういねえよ」
 俊哉の声と同時にチャイムが鳴る。教室のドアを開けて次の授業の教師が入ってきた。捺樹のほうも特に追求するわけでもなく席に座りなおす。

 昼休み。
 食べ終えた菓子パンの袋をくしゃくしゃに丸めて、教室の後ろドアのところに置かれたくず入れへと放り投げる。大きく弧を描いたそれは、くず入れの端で小さく跳ねてからその中に落ちる。
 「おっ、うめえ」 
 隣席の捺樹が弁当を平らげながら言う。俊哉の前の席では有川が食べ終わった弁当を片付けていた。
 昼食のときはいつのまにか俊哉の席の周りに集まって食べるようになっていた。そして今日も仲間は二人、捺樹と有川。相変わらず、いつもの刻が過ぎている。
 「牧丘って野球部だったっけ?」
 「中学んとき少しだけやってたかな。別にうまくもなかったけど」
 「さっきのは偶然だよ、有川。もっかいこいつに投げさせてみろ。見事に明後日の方向飛んでくから」
 箸で俊哉のほうを射しながら、けたけたと捺樹が笑う。その表情を見ながら、俊哉は菓子パンを入れたビニール袋を鞄から取り出した。
 「見ていろ、連続で入れてやっからな」
 「おう、期待しているぞ。入れたらこの卵焼き進呈してやる」
 「いらねーよ」
 前の席で呆れる有川をよそに、ビニール袋を持った手を大きく振りかぶった。くず入れに狙いをつけようとしたとき、俊哉のほうへ向かってくる静香に気づいて手を止める。ついさっき教室に戻ってきたらしい静香の足はそのまま俊哉の席へと近づいてきた。
 「どした?」
 捺樹が振り向くと同時に静香が俊哉の目の前で止まる。そして、振り上げた右手をそのまま机に叩きつけた。
 「ちょっとっ、あんた美樹に何したのよっ!」
 机を叩く音と、静香の張り上げた大声が昼休みの教室内を静まらせた。俊哉の振り上げたままの手から、ビニールの袋が床に落ちる。静香の後に見える捺樹が箸を咥えたまま俊哉を見ていた。
 「は・・・? な、なにか?」
 「昨日からずーっと抜け殻みたいになってるのよっ! いつもの美樹の元気もないし、聞いても何にも答えてくれないし・・・、あんた以外に美樹がああなった原因はないのよっ!」
 静香から目を離して教室の中央、美樹の席へと目を向ける。都合がいいのか、そこに美樹の姿はなかった。
 ふいに顔を掴まれる。そのまま力任せに移動された先には静香の顔があった。掴んでいる手もそうらしい。
 「あんた、人の話聞いてるの」
 「・・・はい、聞いてます」
 掴んだ手が離れる。軽く首を鳴らすと有川が訊いてくる。
 「おまえ、心当たりないのか? よく思い出してみろよ。確かに瀬戸の言うとおり、来橋さんの様子はおかしい」
 「んなこといわれてもな」
 「考えればありそうだぞ、有川。案外、他の女との密会を目撃されたとか、来橋に襲いかかったりとか・・・」
 「捺樹、おまえな〜」
 反論しようと顔を上げると下を向いて俯いている静香が視界に入った。下ろしていた手が小刻みに震えている。
 「どうした、瀬戸?」
 俊哉の問いに有川と捺樹も静香のほうを見る。
 次の瞬間、静香の手が机に掛けてある俊哉の鞄を掴み、勢いをつけて振り上げていた。そのまま俊哉の顔をめがけて思いっきり投げつける。避けることすらできずに鞄を顔で受け止め、椅子ごと後ろの窓に貼りついた。
 「ばかっー!!」
 捨て台詞とともに静香が教室を後にしてから、ずり落ちるかたちで顔に投げつけられた鞄が床に落ちる。教室内は再び静まり返っていた。
 「・・・大丈夫か、牧丘」
 「そう見えるか?」
 「とりあえず・・・、な」



《contd.》



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