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Original Novel 遊真 Presents



寂光堂


月輪の法則

7 事後会議



 
「って事でだ。一件落着と相成るわけよ」
いつ来ても陰気な、寂光堂店内で、俺は泰山兄妹に事の顛末を話してやった。
嵩穂の入れたコーヒーを一口飲む。
「おいっ、嵩穂、これ砂糖が入ってるぞ」
「あっ、ごめんなさい。夜月さんって無糖派……だったけ?」
「あの馬鹿はどうかは知らんが、俺は無糖、オッケー?」
「おー、おっけー、おっけー」 
嵩穂がOKサインを出して、俺からカップを取り上げる。
「だったら、自分で入れてよね、ふんっだ」
びっと舌を出して、そのまま流しの方へ持っていってしまう。
糞、ほんと生意気な女だよ、あいつは………。
「いいさっ、どうせインスタントのコーヒーなんか不味くて飲めたもんじゃねーし」
嵩穂の背中に向かってそう吐き捨てると、俺は、正面の鷹志に身体を向けた。
俺が事情を説明している間も、彼は手にした二つ折の新聞を片時も離さなかった。
加えていつものポーカーフェイス。
頭の後ろで手を組みながら、俺はだらしなく足をデスクの上に乗せる。
「なんか、興味ないって感じだね、鷹志さんは」
「……………」
返事が返ってこない。
妙に、むかつく。
「おーいっ、こらーっ………………聞いてんのか、この野郎」
語尾のWこの野郎Wに鷹志さんは、マイケルジョーダン並みの反射神経を発揮した。
「ん?……なんか言ったか……夜月」
視線が俺を呪い殺さんばかりに、冷たい。
「い、いえ、何も……全然」
「馬鹿」
いつのまに、給湯室から戻ってきたのか、うろたえる俺に、嵩穂が一言。
そうして、鷹志のデスクの上へ、湯気を湛えたコーヒーカップが置かれた。
「はい、御望みのようにブラック、どーぞ、夜月さん」
「ほう…」
「なんです?」
「いんや、なんでも…」
あーだこーだ言いつつ、結局は人の頼みを断れない奴なんだ、嵩穂は。
俺が視線を向けると、あらぬ方向へ顔を背ける。
入れられたコーヒーは有り難く貰う事にした。
「インスタントなんて飲めないじゃなかったのかなぁ、夜月さんは」
カップに手を伸ばすと、嵩穂はそれを制するように言葉を挟んだ。
「それ以上に、俺は人の好意を大事にするものだから」
さらりと返して、熱い液体を、口に含んだ。
ほんのりと苦みが口の中に広がる……これこそ、コーヒーと言えよう。
砂糖なんざ入れる奴は、ただの大馬鹿だ。
「ふむ……不味くはないが、美味くもない。俺様的インスタント評価55点って所だな」
俺はそう評して、カップをデスクの上に置いた。
俺がカップを皿の上に置くのを見計らって、嵩穂が質問を投げかけてくる。
「で、結局仕事は終わりって事なの?」
「だろ、俺の強烈な呪詛返しをまともに食らわせてやったんだぜ。死ぬ事はないだろうけど、しばらくは何もできんよ、相手は。なっ、鷹志さん」
話を振られた鷹志が、新聞から視線を離した。
すっと白く華奢な指が、丸縁の眼鏡を押し上げる。
「夜月の呪詛返しが、強烈かどうかは別として、確かに相手はただじゃすまないだろう…」
「じゃあ、もう終わり?」
やけにそこの所に嵩穂がこだわる。
仲間はずれにした事を拗ねているのだろうか、まさかな、そんなガキみたいな事………………ありえるか…。
「だが…」
逆接語が飛び出た。
鷹志さんの話はまだ終わっていなかったらしい。
改めて、俺と嵩穂が、鷹志さんへと注目する。
「気に食わない事も、夜月の話に多々あった…」
俺を一瞥して鷹志さんは三本指を立てる。
「三つほどな」
「何が?」
「第一に、なぜ呪いが翔子ではなく夜月に降りかかったのか…」
「それは俺が、鬼門封じをしてたからだろ?」
俺は鷹志さんの言葉を遮って反論した。
「だとしても、本格的に封じてたわけではない。お前は俺や嵩穂と違って結界を張る事ができないんだからな」
「型代にはなるさ」
型代とは、呪いの代行任の事である。
ようは身代わり人形のようなもので、たぶん真帆という翔子の友人も、不本意にこの型代になってしまったのだろう。
「第二に」
鷹志さんは俺の発言を無視して立てた指を一つ折る。
「なぜ呪いが発動したのか。俺は間違いなく翔子の呪いを祓った。接触を試みない限りもう一度呪いは発動しないはずだ」
「真名だけでかけたのかもよ」
「言ったはずだ、敵は大した術者ではないと」
暗に自分に間違いなどないと言っている。
よくも自分にそこまで自信が持てるものだ。
まあ俺が呪詛返しをかけれたのだから、少なくとも俺よりは各下という事になるのだが。
「第三に……これがもっとも解せない」
「はいっ」
突然、嵩穂が手を挙げた。
「はいはいはいっ!私に言わせてお兄ちゃん」
鷹志さんが何を言いたいのか、嵩穂には解ったらしい。
ガキみたいにはしゃぎ出す。
「言ってみろよ」
「おっけー」
俺に促されて、嵩穂はブイサインをする。
……なんかむかつく。
コホンとわざとらしい咳を一つ。
「第三、それはいきなり最終段階の呪いが発動した事。呪いを練る事もせず、人を死に至らしめるには物凄い悪相念と能力ポテンシャルが必要である、えっへん」
だそうだ。
なるほど、それは俺も気になる。
鷹志さんが一度祓ったなら、呪いをかける側は振り出しに戻されるはずなのだ。
最初から呪いを練り始めなければならない。
だが俺が遭遇した呪いは、間違いなく、最終段階。
人を死に至らしめる段階であった。
…………なぜだ?
「まあ疑問は追々解き明かしていけば良い、ただそんな事より、気になる事がある。……夜月はこれを見て、どう思う」
鷹志が、手に持った新聞を放り投げてきた。
俺はそれを器用にキャッチする。
何を見ろだって?
「左下の、一番端のやつだ」
左隅というと、だいたい事件事故を取り扱った所だ。
「………ええっと、………今日未明、茜上市篠山公園で白骨死体を二体発見。……遺体はどちらも鋭利な刃物で首を切断されており……同県警は、身元の確認を急いでいる……」
これがどうかしたのか?
俺は、鷹志さんの言いたい事が分からず、首を捻る。
「これが……どうかしたわけ?」
「この事件をお前はどう考察するか…聞いてみたい」
「んなの、知りませんよ。まあどっかの狂った人間の仕業でしょ」
「狂った人間…、なぜそう思う」
「はあ?……当たり前じゃないですか。この犯人は首を切断して、遺棄してるんでしょうが」
「ああ、そうだ」
「普通、遺体を切断する場合の理由として、挙げられるのが、持ち運びを楽にするため……とか身元確認を遅らせる為」
「…………」
鷹志さんは黙して俺の説明を聞く。
いったいこの男は何を考えているのだろうか……。
「だが、この場合、首だけを切り落としてあるわけだから…前者の理由は除外される。そして後者も然り。捜査開始を遅らせたいなら、何故、日頃人気がある篠山公園に遺棄する。
俺なら、そんな馬鹿はしねえ。白骨化するまで見つからなかったのはほとんど僥倖だぜ」
遺棄した次の日、悪ければ遺棄する最中に見つかってしまっても文句は言えない。
「昨夜までは、絶対に見つからなかったと仮定すればどうだ?」
鷹志さんが初めて意見を返して来た。
俺は眉を潜める。
この男の真意を俺は掴みかねていた……もっとも、鷹志さん本人の心を読む事自体が到底無理な話だが。
「どういうわけ?」
「昨夜までは発見できず、今朝からなら発見できる。二つの遺体共に首が切断されている。遺体はこの周辺で発見された……これらの事を見てみると、ある符号が合致してこないか?」
理由と言われても俺にはさっぱり……。
……まてよ……もしかして……。
俺の瞳に理解の色が現われ、鷹志さんは軽く肯いた。
……つまり、鷹志さんが言いたい事はこうだ。人気のある公園で、遺体がまったく発見されなかった理由、それはW結界Wの成せる業。
結界は、鷹志さんが『寂光堂』にかけた反閇とは違い、常時術者の集中が必要になってくるのだ。
そうしてその効力が消えたのは、昨夜。
俺が、呪詛返しを、かけたあの瞬間。
翔子に呪いをかけた奴と、この事件で二人の人間を殺した奴はイコールで結ばれる?
しかし……。
「ちょっと、待ってくれ。だとしたら犯人は、無差別に呪いをかけているという事か?翔子が狙われたのも偶然?」
翔子は、真帆が殺されたとしか言っていない。
他に二人、呪いの餌食になったとは一度も……。
「俺はこの二つの事件が、まったく別ターゲットを狙ったものだとは思っていない」
「でも翔子の奴は…」
俺の反論は、鷹志さんの笑みで遮られた。
「ふふふっ……どうした?夜月。彼女の言った事をすべて丸呑みしたのか?そんなに日和見主義者だったか、お前」
前髪を指で弄びながら、彼は俺を上目遣いで射抜いてくる。
「……翔子が、嘘をついてるといっているのか、鷹志さんは」
「嘘……とまではいかないが、何か隠しているのかもな。もっともこの考え自体が憶測の域を出ていない。むしろただの取り越し苦労である可能性の方が高い…………夜月、昨日彼女の家を訪問して、何か変わった事を感じなかったか?」
「……そういえば」
例の空き部屋の強烈な瘴気。
俺は、その部屋についてを鷹志さんに語る。
すると、何の前触れもなく鷹志さんが椅子から立ち上がった。
デスクの引き出しから黒の手袋と色の濃い眼鏡を取り出す。
「あれ?どこ行くの、お兄ちゃん」
頭のてっぺんから爪先まで、黒一色でまとめるのが、鷹志さんが外出する時の姿。
本人曰く、己の異質さを、おさえるためのアイテムという事だ。
それは建前で、ただの趣味という所が、俺の見解である。
「県警」
たった一言。
ああ、なるほど県警ね……って警察だあぁっ!
「ちょっ、鷹志さん、何考えてんだ、あんた」
「二つの遺体を見せて貰いに行く……あそこには知人がいるんでね」
「知人?」
なぜ、古本屋の店主が、県警に知人などいなきゃならん。
「じゃあな。夜月はアパートに戻って寝ていろ。嵩穂は、受験勉強へ専念する事。努力しなければ良い結果は生まれないよ」
そう言うと、振り返りもせずに、片手を軽く挙げると、鷹志さんは寂光堂を出ていった。
後に残されたのは、俺と、嵩穂。
「どうしよっか、夜月さん」
「どうしようって…、さあ…」
まだ半分程残されているカップの中のコーヒーを飲み干すと、俺は、立ち上がった。
「取りあえず、鷹志さん言う通りにするか」

 
 
 
雲の切れ間から見える太陽光がそろそろ赤味を帯びてくる…そんな時間帯。
密集した住宅街の中を俺は歩く。
歩きながら俺は背後を見やった。
「おい」
少し吊り目がち瞳、漆黒の髪は肩に届かない程度のショートカットで、シャギーがかかっている為か、兄に似た繊細過ぎる顔立ちが妙に愛らしく見える。
もっともそんな事を言えば、この女が調子に乗るので俺は一度だって言ってやった試しはない。
鷹志さんの妹で、泰山家の一人娘、嵩穂。
「お前、なんでついてくるわけ?」
「なんで? ……激しい激しい受験戦争の間隙を縫って駆けつけた可愛い恋人にそんな冷たい台詞を吐くなんて…」
「だーれが恋人だ。大方、模試の成績が悪かったんじゃないか?」
「ぎくっ」
嵩穂が身を引いて驚きのポーズを取る。
妙に芝居臭い動きだ。
「もーやってられない。そうだ気分転換に兄さんとこ行こうっと……そんな所だろ?」
「ぎくぎくぎくぅ」
よろよろと嵩穂は地べたに座り込んでしまう。
身体を張ったリアクションだ、それだけは認めよう。
「あんたの兄さんの台詞じゃなねえけど、そんなんじゃ、志望校は夢のまた夢だね」
「夜月さんは入れたじゃない……」
「実力だ」
「そうね……もう一人の夜月さんは頭いいものね」
「いい度胸してんなお前…」
「あたぼうよ」
……どこのどいつの台詞だ、それは。
鷹志さんというブレーキがなくなると、途端に嵩穂はアクセルをかけるのだ。
だんだん頭が痛くなる。
こいつと付き合っていると、神経に失調をきたしそうだ。
俺はお手上げのポーズをして、視線を前方に向けた。
地面を蹴る靴音と共に、嵩穂が横隣まで走ってきて、俺の腕をからめ取る。
「うわっ、こら、やめろっ」
「へへっ、いーやだ」
押し手も引いても離れない。
いい加減、呆れて俺は、その体勢のまま、歩く事に決めた。
「勝利っ」
嵩穂が一人、空いた片腕でガッツポーズを作る。
「勝手に勝利してろ…」
それだけ言うと、こんどこそ無視して家路に就く事にする。
「久しぶりだもんね、夜月さん」
ちょうど夕焼けに向かって歩きながら、嵩穂が脈絡なく話し始める。
無視、無視。
「表夜月さんとは二ヶ月前からでしょ、裏夜月さんはもう一年ぶりだものね」
表とは奴の事で、裏とは俺の事らしい。
どうやら素行の善し悪しで裏、表を決めたようだが、裏にされた方は堪ったもんじゃ――はっ!……いかん、無視だ無視っ!
俺は念仏を唱えるように、無視を連呼して嵩穂の隣を歩いていく。
「やっぱり、どっちの夜月さんも良いなあ、改めて再認識」
ふう、無視無視。
「ねえ、夜月さん」
呼びかけてくるが、俺は視線を黄昏る空に彷徨せる。
「恋人とかっているのかな」
無視!無視!無視!
「いないの?」
冗談っぽく聞いてくるが、ちらりと横目で嵩穂の方を見ると……目がマジだ。
鷹志さんの冷えた眼差しが脳裏に浮かんで、俺は目元を抑えて唸った。
「受験を控えた中学生が色ボケしてて、どうすんだ」
「すっごい興味あるの」
「野次馬根性旺盛な奴……」
「これが解らないと、勉強にも手がつけられなーい、夜も眠れない」
「では落ちてしまえ」
「ガーーン、そんな事言うんだ夜月さんって………。W落ちてしまえWなんて酷いっ、お兄ちゃんに言いつけて――」
聞き捨てならない。
「ええーいっ、止めろっ、それだけは止めろっ」
「だったら、教えて」
語尾に四分音符がつきそうな物言いに俺は、またもため息を吐いた。
俺は、遊ばれているのか?
「………いないよ、誰もいない。俺にも、あいつにもいない。それでいいだろ」
「ほんと?やったーっ!」
何が嬉しいんだ、畜生。
俺がローになって、嵩穂がハイになった所で、俺は自分のアパートに辿り着いた。
二階建ての、ごく普通のアパートだ。
外付けの階段を上って直ぐが俺の部屋である。
「それじゃあな」
俺は嵩穂の腕を引き剥がして、階段へと向かう。
「ええっ、御部屋に招待してくれないの」
「誰がするかっ、それだけはならん、まかりとおらんぞっ!」
………いかん、俺まで壊れてきた。
一度、首をぶるぶると振ってから俺は、唯一こいつに有効なカードを示した。
「鷹志さんに言いつけてやる」
「ううっ」
この言葉に、嵩穂も唸る。
「受験勉強の最中に、遊び狂おうとする妹に、鷹志さん、どうするかね。一ヶ月謹慎とか……」
初めて優位に立った俺は、階段の手摺に身体を預け、嵩穂を見下ろす。
「夜月さんの、いけずっ!」
だから、そんな言葉をどこで覚えてくるんだこの女は……。
「いけずで結構。ほらっ、さっさと帰った帰った」
小犬を追い払うように、ひらひらと手を振る。
ううっ、唸りながら、何度も振り返る様は本当に小犬である。
そうして、やっと嵩穂の姿が角を曲がって見えなくなると、俺は階段を上り始めた。
―――プルルル――
貧乏大学生の安アパートである。
―――プルルル――
階段の壁隣から、微かに音が漏れてきていた。
壁隣といえば、俺の部屋である。
たぶんこれは電話のコール音。
俺の電話には留守電機能は無い。
俺は慌てて階段を駆け上がった。
カンカンと耳障りな足音が響く。
鍵を開け、カーテンの閉められた薄暗い部屋に入ると、電話の音ははっきりと俺の鼓膜を打った。
「ちょっと待ってろって」
電話に悪態を吐きつつ、スニーカーを無造作に脱ぐ。
七畳の部屋で自己主張し続ける、受話器を取り上げると、俺は、少し語義を荒げて受け答えた。
「はいはいっ、布椎ですがっ」
別に掛けた人間が悪いのではない、電話如きに翻弄された事での、これは八つ当たりだ。
「やっほー、嵩穂ちゃんでーす」
切る。
幻聴だな、うん。
そう片づけて納得しようとした所に。
またも電話のコール音が、狭い部屋に響き出した。
二度、三度、四度………十度……。
コール音は鳴り止まない。
いいかげんにしろよ……あいつ……。
ふつふつと怒りが込み上げ、その感情のままに受話器を取る。
そのまま……。
「うるさいっ、黙れっ、消えろっ。俺は疲れてんだとっとと――」
怒鳴る。
「……あの…」
俺の勢いに押されるようにか細い声が、受話器越しに届いてきた。
ん?
この声には聞き覚えがある。
確か…。
「川崎翔子です…」
そうだ川崎翔子。
昨夜までの『寂光堂』クライアントだ。
………しかし、なんで俺に?
電話番号は、連絡先として告げてあるが……。
「ああっ、僕です、夜月。す、すいませんちょっとしつこい勧誘の電話があったものだから……」
俺はあいつの口調で、しどろもどろに応対した。
嵩穂の奴は後で私刑決定である。
「そ、そうなんですか。……ちょっとびっくりしたかも…」
本当に驚いたらしく、ほっとしたため息が、受話器に吹き付けられる。
「すいません、本当に」
「いいえ。間違いだったなら別にいいです。……本気だったら嫌ですけど…」
どこかしら彼女の口調が砕けている気がするのは気のせいかだろうか…。
「は、はあ…。あの……それで、どうかしましたか?」
なんとか取り繕って、俺は彼女の用件へと移っていった。
まさかまた呪いがかけられたとか言い出すんじゃないだろうな…。
そう思ったが、話はまったく別の方向へ向いていた。
やや思案するような沈黙の後。
「あの………明日、御暇ですか?唐突ですけど」
「は?……ま、まあ暇ですけど、それが?」
「では…あの、明日、私と会ってくれないかと……」
質問ばかり飛んでくる。
「どうしてです」
「昨夜、仕事は終わったと言って、夜月さん、帰ってしまいましたよね…」
「ええ…。それについての説明はしたと思いますが」
「でも…」
でもなんだ?
俺は嵩穂と違った歯切れの悪い翔子の会話運びに、やや閉口してきた。
良い所のお嬢さん、といった気を発している。
「本当に私は助かったのか……まだ不安なんです。相手の事もまだ全然解っていないし……。その点についてちょっと……」
つまり犯人をはっきりさせろという事か。
さて……どうしよう……。
俺は続く彼女の話を聞き流しながら、考える。
そうして一つの答えを導き出した。
「解りました、別に構いません。で、どこで?」
彼女が待ち合わせ場所を決める。
「では、そこで、……だいたいこの時間に、という事で良いですね? はい、それでは」
俺は受話器を下ろすと、どかっと畳の上に寝転がった。
「まっ、事後のアフターケアーも大事だって鷹志さん言ってたしな」
そう天井に向かって独り言を言う。
言ったと同時に、欠伸が俺の口からでた。
昨夜からあまり寝ていない、しかも一年ぶりの反転をして身体の疲れもピーク近かくなっている。
「一眠りするか……」
俺はゆっくりと瞼を閉じると。
意識を落下させていった。



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